06話
2018/09/04 誤字修正
昼ごろに目が覚めた。
軽く昼食を済ませると、地下室の扉へ向かう。
そこで、当然のように洞窟探索に行こうとしている自分に気づいた。
(周りから見ればかなり頭おかしいやつなんだろうなぁ……、俺)
確かに、2回も殺されかけたというのに嬉々として洞窟へ入るその姿は奇人そのものだろう。
だからといってやめる気は当然ないのだが。
(理由は、なんだろ……? ……まあ、なんとなくか)
そんなことを考えながら、新しいジャージとバットとともに洞窟へと入っていった。
ゴブリンを倒しながら第1層を抜け、第2層へと踏み入る。
地図を作りながら黒ゴブリンと戦闘した場所まで向かうと、小部屋はきれいさっぱりなくなっていた。
(やっぱ宝箱マラソンは無理か……)
少し肩を落としつつも探索を再開する。
迷わないように慎重に進んで行くと、どろどろの液体――スライムに遭遇した。
昨日はよく見れなかったその姿を観察する。
パッと見は30センチ程度の少し盛り上がった薄水色の水たまりだ。
中心付近に黒色の球体があり、おそらくこれが核なのだろう。
移動速度は人が歩く速度ほど。
RPGの設定のように核を砕くことで倒せるのならば、これほど弱い敵もいないように思える。
(とりあえず一回やってみるか……)
バットを勢いよく振り下ろす。
ガラスが割れた時のような甲高い音が響き、核が砕ける。
するとすぐに液体は縮んでいき、やがて消えた。
(よっわ……。核が超硬いとかでもないのね……)
それからも何度かスライムと遭遇し、軽く撃破していく。
(これ大丈夫か……? 経験知的なやつちゃんとあるよな……?)
初めに戦った個体が特別弱いということでもなく、あまりに弱すぎるスライムたちにそんな心配がわいてくる。
地図を埋めながらスライムを撃破。そんな作業を5時間ほど繰り返し、今日は引き上げることに決めた。
そして、第1層をゴブリンを倒しながら戻っているとき、それは起きた。
「あっ……」
ゴブリンの頭にバットがぶつかった瞬間、バットが折れたのだ。
寿命か、そう判断しバットをゴブリンに向けて投げつける。
その隙に空間収納から黒ゴブリンの剣を取り出し、剣の側面を使ってゴブリンの頭を殴打した。
鈍い音とともにゴブリンは倒れ、空気へ消えていく。
「ふぅ、危なかったぁ……」
剣を使ったのは初めてだったので、殴打といえども緊張した。
ゴブリンの落とした赤い石とバットの持ち手の部分を回収し、少し遠くへ飛んでいったバットの先端を拾う。
「あれ……?」
持ち上げたバットの先端は異常に軽かった。
おかしい、と思いバットをよく確認すると、極小の穴がいたるところに開いていたのだ。
今までこんなことがなかったことから考えると、
(スライム……か……)
今日初めて戦ったスライム。
その異常なほどの弱さの原因はここにあったのだろうか、と推測する。
明日洞窟へ潜るときに確認しようと決め、家へと戻っていった。
そして翌日、朝一でホームセンターに行きバットを2本買った後、俺は再び洞窟へと来ていた。
目の前にいるスライムにバットを一本漬ける。
昨日、バットがスライムに触れたのは一瞬だ。
何度か繰り返したとはいえ、10分も漬けていれば効果はわかるだろう。
そう考えていたのだが、
(おかしい、もう1時間は経つぞ……?)
いくら待っても、バットは解け始めないのだ。
よく見ると小さな穴が開いているのはわかるが、それだけだ。
(塩酸とかとは違うのか……?)
学校の理科の授業で実験したときのように全て溶けるかと思ったのだが、どうやら強い酸というわけではないらしい。
これ以上やっても無駄だな、とバットを持ち上げる。
すると昨日の折れたバットの先端のように、少し軽くなっていた。
(やっぱ軽くはなるのか……)
軽くなったバットを振り下ろし、スライムにとどめを刺す。
「あ……」
今度は一度で折れてしまった。
折れたバットを確認すると、金属部分は厚紙くらいの厚さになっていた。
(うわぁ……いやらしいなぁ……)
見た目は極小の穴が開くだけで気づかず、重さも少し軽くなったかな? という程度。
なので意図しないタイミングで武器が壊れ、殺されてしまうと。
初めから武器が壊れていれば戦闘にならないように警戒するが、この場合は戦闘の途中で壊れることになる。
予備の武器を持っていなければかなり危険だろう。
(こりゃダメだな……第2層はとっとと抜けよう)
宝箱の罠といいスライムといい、第2層は随分と意地が悪いようだ。
その後はスライムとの戦闘は避けながら地図を作り、第3層への階段を見つけることに集中した。
分かれ道も多いのでどのくらい探索できたかはわからないが、第1層の規模を考えればあと4日もあれば第2層の地図は完成するだろう。
6日後。
俺はリビングで手に持った地図を見ながら唸っていた。
「おかしい……階段が見つからない……」
第2層の地図は持っているもので完璧なはずだ。
一度地図が完成したときに第3層への階段がなかったので、2日間もかけて確認して回ったのだから。
唯一きちんと確認していないのは3つほどあった小部屋だ。
しかし、それも黒ゴブリンのでてきた部屋を考えると、罠の可能性が高い。第2層は性格悪いからね。
(こういうときはあれだな、ヤッホイ知恵袋にでも聞こう)
質問:サウザンドフォール
ゲームで次のマップへ行くポイントが見つかりません。
何周かしたのですが、罠部屋と思われる小部屋以外にはただ曲がりくねった道しかありません。
どこにありそうか意見があったらください。
「こんなもんかな……」
具体的なゲーム名とか聞かれたらやべえなぁ、なんて考えつつも返答を待っていると、1時間もせずに最初の回答が来た。
回答:非公開
その小部屋がボス部屋になっている可能性があります。
小部屋には入りましたか?
入って初めてイベントが始まるもの可能性もありますよ。
他には、そのマップに限らずに言うのならば、ひとつ前のマップで見落としていて、それが鍵となっている可能性でしょうか。
ちなみになんというタイトルですか?
タイトルが分かればもっと的確なアドバイスができる可能性があります。
「可能性大好きかよ……。……まあでも、さすがはヤッホイ知恵袋だな!」
とりあえず適当に誤魔化しながら返答をし、質問に対する回答を締め切っておく。
早速とばかりに着替えを済ませ、地下へと向かった。
第2層へ着くと、まず一つ目の小部屋へ向かう。
今回も黒ゴブリンが出てくる可能性があるので、警戒は怠らない。
ゆっくりと中へ入っていく。
部屋の真ん中まで進んだころだろうか、宝箱のあった部屋と同じように道が消える。
(落ち着け落ち着け)
そう自分に言い聞かせながら、床からわき上がってくる何かを正面に構える。
それはこの前の黒ゴブリンとは対照的な白い肌をしたゴブリン。
黒色のローブをまとい、右手には木の杖。
そのいかにも魔法使いといった容貌にテンションが上がる。
「おぉぉぉ!! やっぱ魔法もあるのか!! かっこィグェッ!?」
突然顔面に衝撃がはしり、痛みとともに後ろへ吹き飛ぶ。
「いってぇ……。常識的に考えて最初は火だろうがよ……、それに無詠唱とか、せこすぎ……」
小声でぶつぶつと呟きながら立ち上がる。
もう魔法をくらうのはごめんだと、位階の上昇によって強化された身体能力で小部屋の中を動き回る。
壁に当たった魔法がドンッと音を響かせるのを聞きながら避けていく。
やがて白ゴブリンは魔力でも使い果たしたのか、苦しそうに息をしながら膝をついた。
「お疲れさん」
後ろからゴブリンの頭をバットで殴る。
悲鳴を上げながら床に倒れた白ゴブリンは、赤い石と杖を残して消えていった。
「あぁー、杖なのね。……魔法、ほしかったなぁ……」