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異界迷宮を歩むもの  作者: 戸美丸
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05話

 目の前のゴブリンをよく観察する。


 黒い肌に第1層のゴブリンよりも一回り大きい体躯、頭には金属の兜を被り、レザアーマーを着こんでいる。

 さらに、左手には鈍く光る剣。


(剣かよ……。あぁ、やべえ、怖ぇ)


 じりじりと迫りくる黒ゴブリンに思わずあとずさる。

 第1層のゴブリンとは違う。

 黒ゴブリンははっきりとこちらの様子をうかがい、隙を狙っている。


(どうするどうするどうする!!??)


 今まではこちらが先に見つけたゴブリンを倒していた。

 それゆえに突発的な出来事に激しく動揺し、思考がまとまらない。


(剣を吹き飛ばすか!? いや待て緑のゴブリンよりでかいし力負けするんじゃ……? じゃあどうする!? 頭狙っても兜あるじゃん! それに頭よさそうだから避けられそうだし……!!)


 そんなふうに考えている間にも黒ゴブリンは近づいてくる。

 黒ゴブリンとの距離が縮まれば縮まるほど焦り、余計に混乱していく。

 黒ゴブリンはそんな俺の焦燥や恐怖を感じ取ったのか、剣を振りかぶり襲い掛かってきた。


(あああああぁぁぁぁっっ!!)


 何も考えず反射的にバットを振り回す。

 運よくバットは黒ゴブリンの兜へと吸い込まれた。

 しかし、同時に勢いのついた黒ゴブリンの振り下ろしが俺の肩を深く切りつける。


「っっっ!!! ああああああああッッ!?」


 肩にはしる鋭い痛みにバットを落としてしまう。

 立っていることもままならず、膝をつき、右肩を押さえながら地面にうずくまる。


(血っ、血がっ! ヤバいこれ死ぬっ!!)


 溢れでる血に動揺してしまう。

 第1層のゴブリンはバットで殴ってもほとんど血を流さなかったため、血など見慣れていないのだ。



 カランッ


 アドレナリンでも分泌されたのか、痛みが少しおさまってきたころ、小部屋に甲高い音が響く。


(ッ!? なんだ……? …………あ)


 その音で、痛みで頭から抜け落ちていた黒ゴブリンの存在を思い出す。

 このままでは危険だと、すぐさま床に落ちているバットを左手で拾い、立ち上がる。

 右肩にはしる激痛に歯を食いしばりながら前を睨みつけた。


(あれ……、え……?)


 しかし、そこには剣を構える黒ゴブリンはおらず、床に剣が一本と少し大きな赤い石が一つ、さらには消えたはずの宝箱があるだけだった。


(もしかして、あの一撃だけで倒せたのか……?)


 そう思うと急に力が抜け、床にへたり込んでしまう。


「あああああっ!! ぃよっしゃああああぁぁぁぁぁぁ…ぁぁ…ぁ……!」


 恐怖からの反動か、普段ならあげないような叫び声を上げる。

 小部屋に反響する自分の声を聴きながら、俺は意識を失った。



 ◆◆◆



 目が覚めたとき、腕時計を見ると最後に見た時から12時間以上経っていた。最後に見たのは洞窟に入る前。探索は2時間程度だったので10時間も気を失っていたようだ。


「いっ……!」


 立ち上がろうと少し動くと肩の傷が痛む。

 あれだけ血がでていたのだ、かなり深い傷だろう。


(……ってあれ? でていた……?)


 自然と思ったその言葉に疑問を覚え、傷口を確認する。

 すると、傷が治りきっているわけではないが、もう血は出ていないように見える。

 おそらく、というか確実に『自己修復C』のおかげだろう。


(自己修復様、ありがとうございます!)


 自己修復のおかげでとりあえず命の危機はなさそうだ。


 自らの危険が去ったと気づくと、急に鎮座する宝箱の中が気になりだした。

 痛みを堪えながら進んでいき、宝箱のところへたどり着く。

 なにが入っているんだろう。そんな期待とともに宝箱を開けようとし、だが触れる直前に思いとどまる。


(この小部屋ってたぶん、宝箱開けたら元に戻るよな……?)


 もし消えた道が再び現れれば、そこから敵が入ってくるかもしれない。

 利き腕を怪我している状態で先ほどの黒ゴブリンのようなやつと戦う可能性は少ないほうがいいだろう。

 俺には自己修復様いるのだから、もう少し待てば完治する可能性も充分にある。


(今は変に動くべきじゃない、か。少なくとも傷が治るか、空腹に耐えられなくなるまでは待とう)


 そう考えると宝箱から離れ、壁際の石畳の上に寝転がる。宝箱の近くでは我慢できなくなるかもしれないからだ。



 さらに5時間ほど経ったころに傷が完治した。


(血もかなり失ったはずなのに……)


 自己修復についていろいろと疑問も沸いたが、ひとまずは家へ帰りたい。

 腹が減ったし、喉もカラカラだ。

 ズカズカと宝箱に近づき、無造作に開ける。

 5時間ほど前にあったワクワクはすでに空腹に飲み込まれている。


 宝箱の中には2つのものが入っていた。

 黒いガラス玉とカラフルに編み込まれた紐だ。

 感想もなしに両方とも空間収納に放り込む。


(お、やっぱりか)


 後ろを向くと消えていた道が再び現れていた。予想は正しかったようだ。

 地面に落ちているバットを拾い、黒ゴブリンの残していった剣は空間収納に入れる。

 空腹がいい加減につらいので、小走りで第2層を進んでいく。

 途中でドロドロした動く液体———たぶんスライム———に遭遇したが、無視して急ぐ。

 第1層に関しては全力で走り抜けた。



「はあぁぁぁ、帰ってきたぁぁぁ……!」


 洞窟を抜け家へと戻ると、すぐにキッチンへと向かう。

 冷蔵庫の中を漁り、すぐに食べれそうなものをその場で開けて食べ始めた。




「ふぅ、うまかったぁ……」


 空腹を満たすと急に眠くなってくる。

 洞窟の中での緊張感はいったいどこへいってしまったのだろう。


(ふわぁぁぁーぁ、ねむ。……もう寝るかぁ。あ、ダメだ、そういや血だらけだった……)


 自分の格好を見てため息をつく。


(はぁ……ジャージダメになっちゃったよ……)


 右肩のところを大きく切り裂かれたジャージを脱ぎ、シャワーを浴びに浴室に入る。

 シャワーを浴びてがちがちに固まった血を落としていく。

 血の匂いを落とすために長く浴びていたからか、シャワーから出るころには完全に目が覚めてしまっていた。

 折角なので何かすることはないかと考え、空間収納にいろいろ入っていることを思い出した。


 リビングにブルシートを持ってきて、その上に空間収納の中身をすべて出していく。


 パン×2

 赤い石×16個(黒ゴブリンのものも含む)

 黒いガラス玉

 カラフルなミサンガ×1

 黒ゴブリンの剣×1


「あ、パン……」


 パンの存在を完全に忘れていたことにショックを受ける。

 忘れていなければ空腹を紛らわせることができていただろう。


(うん……次からは気をつけよう……)


 食べ損ねたパンから意識を切り替え、洞窟内で手に入れたものを確かめる。

 赤い石はいつもと変わらない。黒ゴブリンのものが他のものより少し大きいが、たぶん強いからとかそんな理由だろう。

 そして黒いガラス玉。今までのことから考えるに、これに触れればおそらくなにかの能力が手に入るのだろう。

 かなり緊張する。

 意を決して玉に触れると、空間収納のときと同じく頭に知識が流れ込んできた。


 ------


 不眠D

 10日に一度の睡眠でも体に支障がでない。


 ------


「おおぉー……おぉ? まあすごい、のか……?」


 自己修復や空間収納に比べるとだいぶ地味な能力だが、役には立つだろう。

 定期テストの時とか。

 しかし、学校に通う都合上、連続で洞窟に潜り続けることはないだろうし、探索での使いどころは少なさそうだ。

 少々ブラックな香りもしてくるし、できれば使いたくないものだ。


 いったん能力についての考察はやめて、次へいく。

 小学生が編んだようなカラフルなミサンガだ。

 正直反応に困る。

 もしかしたらマジックアイテムのような物なのかもしれないが、鑑定とか便利な能力を持っているわけではないので、判断できないのだ。

 これについては保留するしかなかろう。


(流石に、何の効果もない小学生みたいなミサンガは恥ずいしな……)


 最後に、黒ゴブリンの落としていった剣だ。

 これは反応というか、扱いに困る。

 鞘もない抜身の剣なんて危なすぎる。

 他のゴブリンに拾われたらとまずい、と思わず回収してきたが、どうしよう。


(武器をバットから剣に変えるか……? でも刃物は危ないって理由でバットにしたしなぁ……)


 1時間ほど悩んだ結果、空間収納に入れておくことに決めた。

 ゴブリンが使っていた剣なので大きくなく、重さも2キロ程度だったので予備の武器にちょうどいいと思ったのだ。

 黒ゴブリンの剣、新しいパンを2個、500mlのお茶を二本を空間収納に入れ直し、作業を終える。


 時計を見ると時間は朝だったが、このまま起きていても他にすることはないだろう。

 寝ることにしよう。


 手に入れた不眠の効果なのか眠気は一切なかったが、ベッドに入ると自然と眠りへ落ちていった。



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