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異界迷宮を歩むもの  作者: 戸美丸
3/23

03話

 朝起きるとともに呟く。


「ステータス」


 ------


 名前:内田千秋

 位階:1

 技能:

 特性:自己修復C


 ------


 目の前に現れる半透明の板。書かれている内容は昨日見たものと変わっていない。

 

「おぉ……、やっぱ夢じゃなかった……」


 昨日のことすら夢だったというオチも警戒していたので、無事にステータスが現れたことに安堵する。


 夢でないのならばと、学校に行くまでの間、ステータスについて検証をおこなった。

 その結果、次のことが判明した。


 まず、ステータスボードは他人には見えない。

 同じく触ることも出来ず、脳が見せている幻覚のようなものと考えられる。

 そして、特性の欄にある『自己修復C』。

 これはいわゆるパッシブスキルというものだろう。

 基本的には常に働いているが、オンとオフを切り替えることも出来る。

 性能としては、カッターで手の甲を軽くを切ると、2分もたたないうちに完全に治ることが確認できた。

 しかし治ったときに体が少しだるくなったので、RPGで言う魔力や体力のようなものを消費するものと考えられる。

 足の骨が治っていた時に丸一日以上寝ていたことから、使用には注意は必要であろう。




 学校が終わり、家に帰ってきた。


 暇でやることもないので、昨日に続き洞窟を探索することにする。

 今日は分かれ道を進んで、地図を作っていこうと思う。


 昨日と同じようにジャージにバットを持って地下室の扉を開ける。

 歩いた距離を紙に書き込みながらゆっくり進んで行く。

 大した時間もたたないうちに、最初の分かれ道のあるところに着いた。

 分かれ道の中をのぞくと、道はドアの正面の続く道よりも細く、人が4人横に並べるかといった程度の幅だった。さらに激しく曲がりくねっていており、先が見えない。


 意を決して分かれ道に入り、3分ほど進んだとき、俺はこの洞窟内で二匹目となる生物?を発見した。

 それはニュースで流されていた動画にいた緑色の肌の子供。ボロ布を腰に巻き付けただけの粗末な格好に、手には50センチほどの木の棒を持っている。おそらくゴブリンという名称で間違っていないはずだ。

 あちらは俺に気づいていないようで、こっちに背を向けている。

 攻撃のチャンスだ、と思ったが思いとどまる。


(これ殴りかかってもいいのか? もしかしたら友好的っていう可能性もあるんじゃ……?)


 まあまずないであろうが、万が一のことを考え声をかける。


「おーい、こんにちは!」


 声に気づいたようで、ゴブリンがこちらを振り返る。

 その醜悪な顔に思わず笑顔が引きつりそうになるが、なんとかニコニコ顔を保つ。

 ゴブリンは警戒したようにゆっくりと近づいてきた。

 そして俺のあいさつに返ってきた返事は、フルスイングされた木の棒だった。


「うおっ! あぶねっ!!」


 後ろに下がることでなんとか木の棒のを避ける。


(こええぇぇぇ!!)


 顔のすぐ前を通った木の棒にビビってしまう。

 あいさつなんて舐め腐ったマネをせず背後から叩くべきだった。


(やべえやべえ、正直、所詮ゴブリンとかって舐めてたわ……)


 それからも何度も何度もゴブリンは木の棒を振り回しながら襲ってくる。

 そして、それを避けることを繰り返しているうちに気づいた。


(あれ、なんか、弱い……?)


 ゴブリンは馬鹿の一つ覚えのようにひたすら木の棒を振り回しているだけだ。

 最初のように急に襲われると危ないかもしれないが、ただそれだけ。

 リーチも短いし、軌道も読みやすい。

 幸い俺のバットは長く、リーチにはかなりの有利がある。


(これは、……いけるか?)


 一度、先ほどまでより大きく後ろに下がり、距離を取る。

 そして近づいてくるゴブリンを正面に金属バットを構える。

 ゴブリンの振り切った木の棒を避け、頭に目掛けて金属バットを振り下ろす。


「グゲギャアッ!!」

「っがぁっ!! いってええっ!!」


 金属バットから返ってきた衝撃に顔をしかめる。

 悲鳴をあげたゴブリンは石畳の上に倒れた後、数回痙攣し動かなくなった。


(ゴブリンの頭固すぎんだろ……うっ……)


 少しの吐き気を感じながら倒れ伏しているゴブリンを見る。

 ゴブリンのあまりに醜悪な容姿から、罪悪感といったものは浮かんでこない。

 しかし、頭をつぶした時の感触、最後にあげた悲鳴に非常に気分が悪くなる。


(死んでるよな……?)


 万が一生きていて再び襲われたらたまったものではないので、バットでつつき反応がないかを確かめる。

 すると何度かつついているうちに、ゴブリンの体は空気に溶けるようにして消えていった。

 そしてその代わりなのか、ゴブリンがいたはずの場所には1センチほどの赤い石が落ちていた。


(これは、……あれか? 魔石てきなやつか……?)


 石畳の上から石を拾い上げ、掌の上で転がす。

 特別に綺麗というわけでもないのですぐにポケットにしまい、細い洞窟の道を再び歩き出した。



 時計の針が6を過ぎたころに探索を切り上げた。

 今日遭遇したゴブリンの数は8。どれも知能が高くなく、単調な攻撃しかしてこなかったので怪我を負うこともなく倒すことができた。

 リビングの机の上に赤い石を8個並べる。今日の戦利品だ。

 今日はゴブリンたちは形の違いはあれど、赤い石以外を落とすことはなかった。

 しかし初めて洞窟に入ったときに遭遇した化け物が鍵と黒いガラス玉を落としたことから、赤い石以外も落とす可能性もあるだろう。


(あれ……? そういえば黒いガラス玉どこやったっけ……?)


 ジャージの右ポケットに入れていたはずだが、先ほど赤い石を取り出したときにはなかった。

 逆側のポケット、上着のポケットと確認するも見当たらない。

 洗濯するときに落としたかと思い洗面所を探すも、結局見つからなかった。

 とはいえ、今すぐ必要というわけでもないし、探し物は探していないときにふと見つかるものだと思い、探すのは諦めて夕飯の準備をはじめた。

 準備といっても、米は時間指定で炊いてあるので総菜を温めるだけなのですぐに終わるのだが。



「いただきます」


 机の上に並べた料理の中から、初めに好物の唐揚げを食べようとする。


「うぇ……」


 肉を噛んだ瞬間にゴブリンの頭を叩き潰したときの感触を思い出し、吐き気がこみあげてきた。


 硬い骨にとどく前の、ぶにっとしたやわらかい肉を潰した感触。


 思わず肉を吐き出しそうになるが、なんとか堪え無理やり飲み込んだ。

 一口食べただけの食事。しかし、これ以上食事を続ける気にはなれず、料理を片づけた。


(もう寝るか……)


 何もする気になれず、部屋に戻りベッドに倒れこむ。

 そしてベッドの上で今日のことを思い出す。


(まあ、そうだよなぁ……生き物か分からないようなものとはいえ、殺したんだよな……。そりゃ肉なんて食えねえわ……)


 普段なら寝つきがいい俺も、この日はなかなか寝付けなかった。



 ◆◆◆



 窓から差し込む朝日に目が覚める。

 一度寝ることで頭が整理できたのか、ゴブリンを殺すことはわりきった。


(まあちょっと気持ち悪いけど、まともな生き物でもないしゲームの敵キャラみたいなもんだ)


 少し軽い考えかもしれないが、こうでも考えなければやってられない。


 昨日は何もせずに寝てしまったため風呂に入る。

 朝食を適当に済ませると、服を着替えて近所のジムに向かった。

 そのジムでは中高生は土曜日のみ無料で施設を利用できるので、行くなら土曜の今日がチャンスなのだ。



 なぜ急にジムに行くことにしたのかというと、実は風呂に入っているときにステータスを確認したのだ。

 そのときの表示は、


 ------


 名前:内田千秋

 位階:2

 技能:

 特性:自己修復C


 ------


 となっており、位階が上がっていることに気づいたのである。



 俺はゲームが好きかと聞かれれば、そこそこ好きと答える。だが、ゲームの中で何が好きかと聞かれれば、ジャンルでもタイトルでもなく、レベル上げと答えるくらいにはレベル上げが大好きだ。

 能力の上昇値まで細かく確認してしまうほどに。


 俺は位階とはレベルのようなものだと思っている。

 それゆえに、今の俺はレベルの上がったであろう自分の能力が非常に気になっているのだ。



 自転車をとばしていつもなら15分のところを、今日は10分でジムに着いた。


(5分も早くなってる……! ふっふっふっ、これは期待できるぞ……!!)




 なんて調子に乗っていた俺は測定結果に対する言葉が見つからない。

 その結果は非常に微妙なものだったのだ。


 握力 43.2kg→44.3kg

 50m走 7.20秒→7.09秒

 立幅跳び 221cm→222cm

 ソフトボール投げ 26m→25m


(うん、誤差! ……つらい)


 中3の春に測った体力テストの結果と比べても、ほとんど変わっていなかったのだ。


 ただし、受験期間に運動をしていなかったことを考えると、これは決して悪くない結果だ。

 つまりレベルアップによる身体能力の上昇が存在する可能性はまだ残っている。確かめるにはもっと高い位階になる必要がある。


 ならば俺はどうするべきか?

 当然、答えは一つだろう。


 レベル上げだ。



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