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異界迷宮を歩むもの  作者: 戸美丸
2/23

02話

2018/09/01 (修正)ステータスの名前の欄を修正しました

 目が覚めた時、俺は石畳の上にうつ伏せに倒れていた。

 初めはぼーっとしていたが、意識を失う前の状況を思い出すと飛び跳ねるように起き上がった。


「いッ……!?」


 右足から伝わる激痛に顔をしかめる。よくみると右足は曲がってはいけない方に曲がっており、明らかに折れていることが分かった。

 しかし今はそれどころではない。あの化け物がどうなったかを知らなくてはならないのだ。そう洞窟内を見回すが化け物の姿は見えず、代わりに薄暗い中にぼんやりと光を放つものが一つ、ポツンと落ちていた。


(とりあえずは今は化け物はいないか……でも、なんだこれ……?)


 痛む足を引きずりながら、光を放っているものへと近づいていく。


(鍵、か……? なんでこんなところに……あれ、他にもなんか落っこちてる……)


 近くによると、鍵のほかにも黒色のガラス玉のようなものが落ちているのに気づく。

 なにかはわからないが、とりあえず拾おうとしたとき、それは起こった。


「うおっ!?」


 俺の手が鍵にふれた瞬間、鍵は光の粒子となり、俺の心臓あたりに飛び込んで消えたのだ。


「え、なになになになにっ!!??」


 慌てて光の飛び込んだあたりを確かめるが特に異常はない。

 しかし、それが逆に気味の悪いことに思える。


(どうなってんだよ……この洞窟。マジでやべえ……)


 今起きたことが現実なのか、もしかしたら洞窟を見つけたところからずっと夢を見てるのではないか。もしかしたらここはファンタジーな異世界なのか。

 色んなことが頭の中を駆け巡り、混乱する。


(いや、もう何でもいいや……足痛いし帰ろ)


 考えてもわからないことを考えても仕方がない、と思考を放棄し、黒いガラス玉を拾い地下室の扉へと歩いていく。


(骨折ってどんくらいで治るんだろ? てかこれ、治るよね……?)


 そのとき、痛みのはしる足に意識を向けていた俺は、黒いガラス玉が鍵と同じように消えていくのに気づくことができなかった。


 そして地下室から帰った俺は、病院や警察への連絡などすることも出来ぬまま、すぐに深い眠りにおちてしまった。



 ◆◆◆



 目が覚めたとき、置いてある時計の文字を見たときは驚いた。

 2月16日、午前6時24分。

 何時に寝たかは覚えていないが、それでも丸一日以上は寝ている。

 そしてベッドから立ち上がったとき、それ以上の驚きをおぼえた。


 足が折れていない。


 眠りにつく前、洞窟で見た時には確かにおかしい方向に曲がっていたはずだ。

 骨折が寝ただけで治るはずもなく、混乱する。

 やはり洞窟など夢だったのか、そう考えてしまう。

 しかしそれもすぐに否定される。転んだ時に破れたのか、着ていた服はボロボロになっていたのだ。


(どうなってる……? マジでファンタジーか……?)


 肯定する材料はある。あるが、決定的なものかと言われると違う。

 まだ俺が幻覚を見たとかの方が信ぴょう性がある。


(洞窟に確かめに行くか……? いや待て、今日面接だ。帰ってからにするか……)


 ゲームや漫画は大好きな中学生、洞窟への恐怖もあるが、ファンタジーな展開に期待もしてしまう。


(……とりあえず、着替えるか……)


 ファンタジーから面接へと意識を切り替える。

 ボロボロの服を脱ぎ、シャワーを浴びてから朝食を食べる。

 その最中、いつも見ている朝のニュース番組で、気になる報道があった。


『UMA発見か!? 洞窟の中に現れた未確認生命体』


 報道の内容は、土でできた洞窟の中で立っている薄汚れた緑色の肌をした子どもがいたというものだ。その面は醜悪でとても人間と思えるようなものではないらしく、それらが襲い掛かってくる映像も流していた。

 普通ならそれだけでは合成画像だ、と言われて終わりだったろう。

 しかし、その映像を撮影した男性のもとに警察が訪れ、危険地域として封鎖。土地を異常なほどの高額で買い取ったということが分かると、一気に疑念がわいたそうだ。

『本物のUMAでは!?』、『あれはゴブリンだ!!』、『もしかしてダンジョン・・・?』。

 昨日の不可解な地震と合わせて、ファンタジーなことを想像し始める日本人が多く現れた。


(もしかして、地下にあるやつもこれか……? じゃあやっぱ警察に連絡しといたほうがいいのか? でも、土地取られるのか……ないな……)


 洞窟の危険性は改めてわかったが、家族で過ごした家を売る気にはなれない。いつかは手放すんだろうが、せめて高校卒業までは住んでいたい。

 それにたぶん、化け物たちは出てこない。人の管理してないところにも洞窟はできてるだろうし、洞窟外で一匹も発見例がないことを考えるとこの予想は間違っていないだろう。


「ダンジョン、ね……」


 帰ってきたら国外のニュースも見てみよう、そう心にとめておく。



 準備を終えて家を出る。

 ニュースで再びファンタジーな方向に引っ張られた意識も面接へと戻した。


 家から近い高校を選んだので、自転車で30分ほどの距離で高校へは着く。

 とはいっても面接試験に自転車は使えないので1時間少し歩くことになるのだが。



 ◆◆◆



 面接は可もなく不可もなく終わった。

 志望理由だとか中学で頑張ったことだとか、クソつまらないことに愛想笑いしながら答えるのは中々ツラかった。

 帰り道、一昨日とは違い今日はホームセンターに寄る。

 またあの化け物が出てきたときに対抗する手段を得るためだ。

 工具コーナーに向かい、どれを買おうかと悩む。


(うーん、刃物は危ないしなぁ……やっぱバットでいいか)


 ノコギリを振り回す自分を想像したら、危険な気がしたのだ。

 他の刃物も振り回すと自分が怪我をしそうなので、結局一番安い金属バットを買った。


(5000円かぁ、これで何もなかったらもったいねえなぁ……。高校、野球部でも入るか……?)


 などと考えながらホームセンターを出た。

 そして一昨日と同じようにスーパーで総菜を買い、家へと着いた。



 洞窟へ入る準備を済ませ、地下室の扉の前に立つ。

 ジャージがいささか心もとないが化け物は刃物を使うわけでもないし構わないだろう。

 いざ金属バットを構え、扉を開ける。


「おぉ……よかった……」


 目の前に広がるのは薄暗い洞窟。少なくとも昨日のことが夢ではなかったと分かっただけでも安心する。ファンタジーな可能性はまだ残っているのだ。


 一昨日とは違い、分かれ道にも注意を払いながら慎重に進んでいく。

 30分ほど歩いたころだろうか、ようやく行き止まりの壁にぶつかった。


「なんもないな……。化け物は一匹だけだったのか……?」


 疑問は浮かぶが、これ以上の探索は難しい。

 分かれ道に入り迷ってしまうと困るので、まっすぐ入口へと戻っていく。

 結局、戻るときにも何も起こらず、今回の洞窟探索は何の異常もなく終わってしまった。



 その日の夜、海外の動画サイトを見ていると1本の動画を見つけた。

 タイトルは、クレイジーなんちゃらかんちゃら、英語の意味はちょっと……。

 その動画では一人の男性がこう叫んでいるのだ、「status!! status!!」と。

 ただ叫んでいるだけの動画なのに再生回数が異常に高いことが気になった。

 さらに気になったのは、コメント欄の中にあった『key』の文字。


 まさか、と思い呟く。


「ステータス……」


 ------


 名前:内田うちだ千秋ちあき

 位階:1

 技能:

 特性:自己修復C


 ------



 目の前に現れた半透明の板に呆然とする。


「……おいおい、マジでかよ……」


 どうやら昨日の出来事は夢ではなく、本気でファンタジーだったようだ。


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