13話
壁が崩れ去ったことで見えるようになったボス部屋の中はやはり空で、なにもいないようだった。
ここもおそらく、中心まで進んで初めてボスが現れるのだろう。
そして出口は消え、ボスとのデスマッチが始まると。
一瞬入るか悩んだがここはいくべきだろう。位階を上げてからとなると、次に来れるのはおそらく夏休みだ。それでは流石に遅いし、間を置くと尻込みしそうで怖い。
というわけで、部屋の中に入っていく。
赤ゴブリンのときと部屋は大きさは然程変わらないので、超大型モンスターなどの可能性はないだろう。
そんなことを考えながら部屋の中心まで進むと、崩れた壁が逆再生するかのように塞がっていき、地面からボスがわき上がってくる。
(……オーク、か?)
現れたのは土色の肌に、豚と人間の間のこのような顔をしたヒト型。
その体躯は170センチほどで、全身が筋肉でおおわれている。さらに、どこかの蛮族が着ていそうな服を着こみ、右手にはごつごつとした棍棒を持っていた。
赤ゴブリンのことから、ボスでは前の階層で出てきたモンスターの強化種が出てくるものだと思っていたが、どうやら違ったようだ。
(しかしまずいな……あの棍棒、もろにくらったら死ぬまではないにしても負けは確定だ……)
俺の胴ほどの太さの棍棒。まともにくらえば無事ではすむまい。
幸い、足はそこまで速くないようだから——といっても50メートル7秒程度はある——逃げに徹して相手を分析することはできる。
早速、俺に向かって突っ込んできていたオークを余裕をもって躱す。
その後も棍棒の射程に入らないように気を付けながら避け続けていくと、オークが棍棒を持っていない手の方向に避けた時に、少し動きが遅れることに気づく。
関節の可動域が狭いようで、体ごと向きを変えているのだ。
(なるほど……これならいけるか……?)
オークの弱点を見つけたことで、避けの一手をとっていた俺はついに攻勢に出ることを決める。
持っていたバットを空間収納にしまい、代わりにワンドを取り出す。
左手にワンド、右手は徒手のままオークに対峙し、オークが棍棒を振り切ったタイミングでオークに突っ込む。
オークは棍棒を持ち上げ妨害しようとするが、オークの手首にワンドで衝撃弾を撃ち込み妨害する。
その隙にオークの懐に入り、豚面に拳を叩きこんでいく。
二発殴ったところでオークが左腕で俺を振り払おうとするも、たいして広がらない肩から放たれる拳など避けるのは容易だ。しかも左側へ避ければオークは棍棒をすぐには振ることもできない。そしてオークがちんたらと体の向きを変えるころには、俺はワンドで衝撃弾を放ちながら再び懐に潜り込んでいる。
この流れをオークはなかなか変えることができずに一方的に殴られ続ける。
時間が経ち、ようやく自分がこのままでは負けると気づいたのか、オークは棍棒を捨てて両手で俺を捕まえようとしたが、棍棒のないオークにわざわざ接近戦を挑む必要もなく、バットを取り出して殴りつけることで戦闘は終了した。
「ふぅ……馬鹿で助かった」
よく考えての戦闘は初めてだったが、うまくいったようだ。とはいえ、オークの頭の悪さゆえ成功なのだろうが。
事実、オークは棍棒で殴り、手で振り払う、の二つばかりで、ギリギリになるまでは他の行動をとろうともしなかった。
棍棒を避けられるだけの身体能力がある人にとっては、同じボスである赤ゴブリンとは比べ物にならないほどのザコだろう。まあ、位階が10もあれば一人で余裕だと思う。
というか、
「ステータス」
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名前:内田千秋
位階:13
技能:空間収納E、魔力感知F
特性:自己修復C,不眠D、高速処理F
称号:階層ボス単独撃破者
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「やっぱ上がってないじゃん……」
位階が上がったとき特有の、体に力が漲る感覚がなかったのでまさかとは思ったが、どうやら本当に位階が上がっていないようだ。
「赤ゴブリンのときは2つあがったのになぁ……」
流石に2つも上がるとは期待していなかったが、1つも上がらないのは予想外だ。
まあオークの弱さを考えると納得もできるので、そこまでがっかりしているわけではない。
位階に関してはそこそこにドロップアイテムの確認に移る。
正直かなり気になっていたのだ。
「これ、肉、だよな……?」
そう、オークが落としたのは肉。
まさかの生ものである。
(……食えってこと? いやまあなんか、葉っぱが下に敷かれてるし、汚れないようにしてあるからそういうことなんだろうけどさ……)
葉っぱの上に乗っかった状態で出現するという気の使いよう。
完全に食えということなのだろうが今火は持っていないし、まだ家に帰るつもりもないので困る。
生で食うつもりもないし、空間収納にしまっておいても確実に腐るだろうから、放置するほかない。
他にドロップしたものもなかったので、オーク肉を背に第6層への階段があるであろう扉に向かったが、扉を開けた先にあったのは階段ではなく、普通の道だった。
一瞬、まさかボスとの連戦か、とも思ったが道は先細りになり大きな扉も見当たらなかったので、それはないと判断し、奥へ進んで行った。
奥は大きな部屋のようになっていて、中央には縦長の菱形のような形をした大きな水晶が浮かんでいた。
(……セーブポイント……?)
最初に浮かんだ言葉はそれだ。
それほどにゲームでよく見るような水晶にそっくりだったのだ。
興味本位だが、悪いものではなさそうなので触れてみる。
(特に何もないか……?)
そう思った瞬間、頭の中に文字が浮かぶ。
『1 or 5 or 6』
「うおっ」
ステータスとも能力を得た時とも違う、なんとも言えない感覚だ。
びっくりして手を離すと、その文字はすぐに頭から消えた。
(1か5か6? 階層のことか……?)
5と6という数字に階層のことが頭に浮かぶ。
わからないことが多いので、もう一度触れて確かめてみた。
『1 or 5 or 6』
やはり頭に浮かぶ文字は変わらない。どれかを選べということだろうか。
適当に、1を選ぶと念じる。
しかし何も変わらない。選べていなかったのか、そう思ってもう一度触れようと思った瞬間に、変化に気づいた。
地面が石畳になっていたのだ。3~5層は自然の土でできた地面だったので、今いるこの部屋は先ほどの部屋とは別物の可能性が高い。表示に現れていた文字を信じるのならば第1層なのだろうが、こんな部屋があった記憶はないのだが……。
確かめるために部屋からでると、家へ続く扉のすぐ近くにある壁から飛び出した。
「え……っ!?」
通り抜ける前は壁など見えなかったが、急に背後に壁ができていたので驚く。
あまりの衝撃に固まってしまったが、すぐに自分が飛び出してきたあたりの壁に近づく。すると、まるで壁などないようにすり抜けて部屋へ続く道に戻ることができた。
(なるほど、セーブポイントって言えばセーブポイントか……)
水晶のある部屋へと戻りながらそう考える。
洞窟探索を始めれば、すぐに下の階層へ移動できる水晶。それっぽく言うなら転移結晶とかだろうか。
まあ名前はさておき、再び中央に浮かんでいる水晶に触れ、頭の中に浮かんだ数字の中から5を選んで第5層へと戻ってきた。
そして、
(6を選べば、第6層に行けるってことでいいんだよな……?)
先ほど第1層に移動したことから間違いないだろう。
第5層でさんざん足止めを食らったのだ。行けるのなら今すぐにでも行きたい。その可能性があったから家に帰るのは我慢したのだ。
鼓動が速くなるのを感じながら、期待とともに水晶に触れ、6を選ぶ。
「あれ……?」
今回は第1層のときのように目に見える変化はなかった。
しかし、6という数字があるのだから移動できていないはずもないと、小部屋を出て先へと進んで行く。
だいぶ進んでいくと、第5層にあったボス部屋に続く扉は見えず、そのうち分かれ道ができているのを見つけたので、きちんと第6層に移動できていることが分かり安堵した。
(残りは2日間しかないからな……ボス戦でも上がらなかったし急がないと……)
いつのまにか日付も変わっており残りは2日。
目標にした17とまでは言わないがせめて15までは上げたい。
こうやって妥協して人はダメになってくんだろうな、なんて思考がわき道に逸れたりもしたが、ようやく目的だった位階上げを再開することができた。




