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 俺の名前は黄泉瓜よみうり 戦人ばとら、17歳。


 『瘴気にでも頭が蝕まれたのか……』と正気を疑いたくなるような輝く名前キラキラネームを産まれたときに親から授けられた俺だったが、現在そんな彼らの期待に反して陰鬱とした気分で険しい顔つきをしていた。


 その原因は目前のパソコンの画面に表示されている『小説家になろう!』という小説投稿サイトにあった。


 俺は空いた時間を使い、この『小説家になろう!』を巡回しながら良質の作品を発見スコップする、という作業を日課としていた。


 ところがここ最近、このサイト内で“創作”ともいえぬくだらぬ駄文を“エッセイ”などと称して投稿する底辺ユーザーが幅を利かせ始めたのだ。


 奴等の主張などを記憶するために脳の容量を使うような真似など微塵もしたくないのだが要約すると、『自分達が一生懸命書いた作品が全く読まれないのは、異世界テンプレチーレムばかり持て囃すこのサイトの読者や運営が悪い!!』という事らしい。





 ……何の面白みもないかもしれんが、正直に言うと最初に出た感想は『何だそれは……』という凡庸な駄文に相応しい下らぬモノだった。



 だが、それは当然だろう?


 面白い作品だったら、テンプレだろうとそうでなかろうとどんなジャンルであれ必ず人に評価されるはずだ。


 そうでないのなら、自分が投稿したその作品がただ単につまらなかった、というだけの話なのだから、こんな“エッセイ”などという形でくだらん現実逃避をする前に今度は絶対に『面白い!』と人にいってもらえるようにするために、少しでも多くの文章を書いて次の捜索活動に取り掛かるべきだ。


 なのに、この“エッセイ”とやらを書いている連中は、自作の連載が伸び悩んでいる合間に『自分の作品が受けないのはなろうのユーザーが幼稚で低レベルだから』『テンプレばかりが持て囃される風潮に何の対応もしない運営が悪い』などと泣き言を繰り返しておきながら、挙句の果てに『小説はこうすれば上手く書ける!』『このようにすればPVが伸びるかも!?』などと何故か自身が講師か何かのつもりで読者に教授を始める始末。





 何様だ、このゴミめらが。





 誰がお前等如きの諫言など聞き入れるモノか。


 貴様等など所詮何の実力も影響力もないくせに吠える事しか能がないノイジーマイノリティ、醜悪な全体主義者に過ぎん。


 小難しい単語を使い物事を複雑にしたところで、突き詰めればお前らの主張など『僕ちんや私達が通用しないのは、時代や社会や親の教育が悪いんだい!!』程度のモノだろう。


 阿呆らしい。


 そのふざけた精神のまま現実を生きていけば、お前らはニートやらブラック企業の社畜とやらに落ちぶれていくのが関の山だ。


 だが、そんな底辺の落伍者共によって多忙なる俺の数少ない癒しのひと時が邪魔されるのは我慢ならない、この報いをどのように味わわせてやるべきか……と考えていたそのときだった。



「ちょっと、アンタ起きてるー?母さんは今いないしアタシもこれから出かけるから、腹減ったなら下降りて母さんが作ってくれたメシ適当に食えばいいから!」



 扉一枚隔てた部屋の外から、俺の姉貴が姦しい声で何か喚いている。


 ……そんな大声で叫ぶ必要があるのか、煩わしい。


 そんな感情を込めながら、俺も怒鳴るように奴へと返事をする。


「うるせぇ、聞こえとるんじゃボケ!!大体今何時やと思っとるねん!」


 裂帛の気迫を込めた俺に気圧されたのか、押し黙る姉貴。


 ……ふぅ、これで在るべき静寂の時間が取り戻せた。


 そう心の中で安堵していた――そのときである!!



「……引きこもりの分際で何一丁前に姉に口叩いとるんじゃ、オラァッ!!」



 刹那、轟音と共に俺の部屋の扉がこじ開けられる――!!


 目前に現れた怒気を迸らせるガサツさ全開の女、通称・姉貴を前に俺は短く悲鳴を漏らす――!!


「……ヒッ!?」


「ついでに言えば、今は祝日でも何でもない金曜日の正午真っ只中でございますよ、内弁慶の戦人くぅん?勇ましいのは名前だけですかぁ~~~!!」


 舐め腐った態度で俺を挑発するクソ・オブ・ザ・クソの姉貴。


 だが、こんな事でビビッていると思われるのは癪なので、この高校出てから何の進路も選ばずフリーターをダラダラやっているような人生ノープランな低学歴を、俺は気丈に睨み返す。


「くっ……勝手に人の部屋に入ってんじゃねーよ……!」


 出てきた言葉は反抗と呼ぶにはあまりにも陳腐な捻りのない代物だった。


 だが、それでも必死に絞り出した俺の言葉を無視しながら、コイツは俺の部屋をぐるりと見回す。


「うひゃ~……ペットボトルに菓子袋やら段ボールだの典型的なクズ人間のすくつじゃん。お前、もう学校行かなくても良いからせめて部屋の掃除くらいは出来るようにしろよ?」


「……う、うるさい!!そんなの俺の自由だろ!言いたい事言ったなら、さっさと出てけよ!」


 今度こそ俺の気迫に圧倒されたのか、遂に姉貴が頭を掻きながら「あ~……」とかバツが悪そうな声を出しながら、戦意を喪失させていく。


「何も涙目になる事ないだろ……分かった分かった。じゃあ、さっきも言った通りアタシは出かけてくるから、食い終わった食器くらいはちゃんと冷やかしておけよ?」


「うっさい!!分かったから、さっさと出てけ!」


 姉貴はひらひらと手を振りながら、ようやく部屋から退出していった。


 ……くっ、あんなロクに本も読まなさそうな馬鹿に高尚な俺の心理など分かるはずがない。


 下に降りていく足音を聞きながら悪態をついていた俺だったが、それでも怒りは収まらなかったため、この気持ちを直前に感じていた昨今の『小説家になろう!』の風潮への不満へとぶつけることにした。


「……見てろよ、エッセイスト気取りの馬鹿共に最も効果的な方法は……これしかない!!」





 俺が考えついたなろう界隈を乱す痴愚蒙昧共に最も有効な方法――それは奴らに事実を突きつけ、自分達が如何に底辺であるか、という事を想い知らせる事だった。


 という風に思いつく事自体は簡単だったのだが、如何せん俺はソシャゲやアニメ観賞などでこれまでの日々は大変忙しく、執筆活動をした事など皆無だったので実行に移すのは非常に難航した。


 だが、それでも自分の中で理論を組み立て、2日間という月日を掛けながらようやく2000文字ほどのエッセイを書き上げた。


 これでこのなろう界隈に蔓延るくだらんエッセイスト共が阿鼻叫喚の地獄に堕ちていく事を想うと心苦しくはあるのだが、如何せん、全ては彼ら彼女ら自身が蒔いた種である。


 その結果は自分達自身で刈り取らなければならない、といい加減自覚するべき段階なのだ。


 そう確信しながら、俺は渾身のエッセイをサイトに投稿した――。





 結果として、感想は大荒れそのものだった。


 その批判の内容は大抵『エッセイ批判しているお前自身がエッセイ書いてるじゃん?』とか『人に偉そうに言っているくせに、御自身はエッセイ以外の作品で勝負しないんすねwww』などと愚にもつかない揚げ足取りばかりだった。


 だが、こんなものはブーメランでも何でもない。


 俺のエッセイはそれこそ神話やフィクションにありがちな『神殺しの神』や『異能を無効化する能力』といった類のモノであり、断じて奴らが喚くような人のせいにすることしか能がないエッセイ気取りの駄文などではない。


 それにコイツ等自身のページを確認したわけではないが、感想での特に見る価値なさそうな自己紹介()とやらを見るに、やはりこの『小説家になろう』でエッセイを書いているようなくだらん輩が大半のようだ。


 まるで話にならない。


 俺は呆れてモノも言えなかったが、それでも感想欄の中にはいくつか好意的な意見があったため、幾何か溜飲を下げる事が出来た。


 どうやら、俺の正当性が揺らぐことは微塵もないらしい。


 そう確信した俺は優越感に浸りながら、いつも通りの日課に勤しむ事にした。





 ……そして、こんな日々がこれからもずっと続いていくと、このときはそう思っていた。


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