20話 「発見」
ここは不快な場所だ。
懐中電灯の僅かな光だけが頼りだ。
この為視界が限界され足や手で周りを探りながらでないと前に進めない。
しかし手で壁などを探るたび壁に滴る水分を手袋が吸い込み湿り気を帯びてより不快感を増す。
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「おいもう少し前を照らしてくれ」
「分かった」
久我が懐中電灯で前を照らしてくれる。しかしその先は大量の拳程の大きさのヒル達が蠢いていた。
「うえ、気持ちわりぃここにも居やがる……しかたねえ、行くぞ」
「おい凌駕、またアレをするのか?」
「そうだ、いい加減に慣れろ」
アオコがウンザリして項垂れる。
懐中電灯で前進目標を照らしてヒル以外に何も障害物が無いことを確認する。
良し、まだ道は続いているな。
大きく呼吸をして軽く跳びながら準備運動をする。
「……走れ!」
俺達がこれからやる事は至って簡単だ、唯このヒルの群れに突っ込み駆け抜ける。
「うおおおおおっ!」
身体にヒルが次々と張り付いて血を吸って来るが構わす気合を入れてさらに大きな雄叫びを上げながら駆け抜ける。
あぁ、新隊員の時の突撃訓練を思い出す。
別の事を思い浮かべる事で何とかこの気持ち悪い奴らの感触を忘れようとした。
後ろを確認すると久我とアオコも身体にヒルを着けながら必死な顔で俺に着いて来ている。
……。
ヒル達がいない場所にやっとの事でたどり着き一息つく。
丁度ここは壁や天井に穴が開いている箇所が何箇所もあり不気味だ。
キキキ。
身体に着いたヒルを引っ張ろうとすると抵抗しているつもりなのか金切り声をあげる。
それを無視して銃剣でヒルを突き刺す。
ヒルはブヨブヨとして伸縮性を持った身体をしているので刃が通り難い、しかし何度も突き刺す事によりヒルがボロボロになっていきやがて離れていった。
「ちっ、やっと取れやがった」
ヒルが吸い付いた跡から血が流れ出る。
血はヒルの溶解液により通常より固まるのが遅かったが暫くすると溶解液が流れ出て普通に血が固まってくるので大した問題はなかった。
俺達はこれを何度も繰り返し移動してきたので身体中が自分の血で染まっている。
「うわああぁん、もうやだぁ!」
着ているポンチョの中にヒルが入ったようでアオコが身体をもぞもぞさせながら泣きべそをかく。
「アオコちゃん泣かないで、ほら今ヒルを取ってあげるから……ちょっとポンチョを上げてお腹を見せようか、ふひひひ」
「うん、分かった」
久我は鼻の下を伸ばしながらアオコに迫る。アオコは純粋なので久我がヒルを取ってくれると思ってポンチョを際どい位置まであげて肌を見せる。
ヒルはちょうどアオコの鳩尾に吸い付いていた。
「ふひひひ、いいね、いいねぇ、もうちょっと裾をあげようか」
「わかった……早く取ってくれ、小太郎ぉ」
アオコは目を潤ませて甘えるような声を出す。
「ふんっ!」
「きゃっ!?」
俺は無理矢理アオコに着いたヒルを掴んで引っ張る。そして伸び切った所を銃剣でぶった切って殺した。
「おい、これでいいだろ? 早くいくぞ」
「うわああぁん凌駕、もう少し優しくしろぉ!」
アオコは泣き顔で俺に抗議する。
「そうだよ須賀、ほらお前が無理矢理取ったからアオコちゃんの肌に跡が着いたじゃないか」
久我はそう言ってペットのメディカルゼリーをアオコの傷跡に当てて処置しようとするがゼリーは嫌そうにノロノロした動きで応じる。
ふんっ、久我の野郎調子に乗りやがって、アオコもアオコだ、あいつ急に色気づきやがって馬鹿じゃねぇのか?
無性に腹が立ってくる。
「くくく、須賀の奴嫉妬してるよ」
「嫉妬? ほう、そうなのか凌駕」
久我とアオコがニヤニヤしながら俺を見る。
「誰が嫉妬してるだと? ったく呑気な奴らめ、ヒル供が来る前にさっさと行くぞ」
前進するが頭を悩ませる事がある。
それは先程から俺達の行く先々に必ずと言っていいほどビッグリーチの手下のヒル達がいる。
それが何故なのか分からない。
「……畜生、何で俺達のいる場所がわかるんだ?」
「ん? そんなの簡単だろ、私達に着いている血の匂いを嗅いで居場所を探り当ててるからだ」
「は?」
俺の独り言にアオコがあっけらかんと答える。
「おい貴様、なぜそれを早く言わない?」
「いひゃい、いひゃい!」
アオコの頬をつねる。
そうか、匂いで居場所が分かるのか……ならこれからどうすれば。
今後の対策を考える前に突然周りが暗くなる。
「あっ、懐中電灯の電池が切れた、わりぃ直ぐに取り替える」
久我が急いて背嚢から予備の電池を探すが中々見つからないようだ。
まずい事になった。
「……凌駕」
「……何だアオコ?」
「上だ!」
バンッバンッバンッ。
めくら撃ちで天井を射撃する。
「ウワアアアッ!!」
気の抜けた声と射撃による火花の光で天井の穴から巨大なヒルがぶら下がっている姿が映し出された。
「ビッグリーチ!?」
「須賀、離れろ!」
電池を見つけられなかった久我が代わりに発炎筒を取り出し火を着けて投げる。
シュボオオオオ。
赤い炎が出て辺りを照らすとともに化学薬品の焼ける匂いが辺りに満ちる。
ドシャ。
「ウワッ、ナンダコノ光ハ?」
ビッグリーチが天井から落ちて来たが発炎筒を始めて見たらしく警戒して俺達に近づけないでいる。
「今だ、撃て!」
「おうっ!」
俺と久我でビッグリーチに射撃する。
「グウォオオオオ! イタイィ……クソォ!!」
ビッグリーチが身体を縮ませてボール状になる。
何かまずい!
戦場の感と言うのだろうか、何か良くないものを感じ取ったので一旦射撃を辞めて久我とアオコを下がらせる。
「グォオッ!」
ビッグリーチが身体を伸ばし口から透明な液体を吐き出す。
俺達は直ぐに後へ下がっていたので液体は目の前に落ちるだけで降りかかることはなかった。しかし液体が落ちた箇所から異臭を放つ煙が出ている。
溶けてる!?
どうやらビックリーチが吐き出した液体は強力な溶解液のようだ。
「ここは狭くて場所が悪い移動するぞ!」
「須賀、移動するってどこにだよ!?」
「こっちだ、ここの穴から外の匂いがする!」
俺と久我が言い合っているとアオコが人がぎりぎり入れるぐらいの横穴を示して叫ぶ。
一瞬迷ったがビッグリーチが再び溶解液を飛ばす態勢に移っているのを見て一気に迷いが無くなった。
アオコと久我を穴へ押し込む。
穴は通路になっていてそこを肩を壁にこすらせさらに銃口に注意しながら無理矢理前進する。
後ではシュワシュワと音を立てて物が溶ける音がした。
「待テェ!」
穴の入り口をビッグリーチが身体を無理矢理押し込めて塞いでいる。しかし軟体な身体を持っているが流石に大きすぎてここは通れないようだ。
「行くぞ」
アオコを先頭にして先に進む。
アオコはさすが元蛇だけあって狭い通路をスルスルと難なく進んで行く。
ふぅ、今回はアオコのおかげで助かった、きっと野生で暮らしていたから俺達より嗅覚があるんだな、だから奴が上にいることも外に続く道がある事も分かったんだ。
俺は今後夜間の行動中はアオコを先頭にして行こうと考えた。
きっと嗅覚を使って敵を見つけてくれるだろう。
「あっ! 凌駕、小太郎、何か広い場所に出たぞ、しかも周りが緑に光っている」
通路の先はアオコが行った通り広くさらに懐中電灯等の明かりが要らない程辺りが緑に光って明るかった。
「キノコが光ってる」
光の発生源は周りに生えているキノコだ。
「うわ珍しいキノコだな、ケミカルライトみたいに光ってる、良しケミカルキノコと名付けて持って帰ろう」
「久我ぁ、お前まだそんなアホな事言ってんのか? 大体光るキノコなんざ元の世界にもあるだろ、さっさと行くぞ」
「はぁ、分かったよ」
立ち去ろうとした時久我の胸元からゼリーが飛び出した。
ぷるぷるぷるぷる!
ゼリーは美味しそうに光るキノコを食べ始めた。
食べた際にケミカルキノコの光る因子でも取り込んだのか身体を緑に発光させた。
「ゼリーちゃんお腹減ってたのかな?」
久我は呑気にそう言ってゼリーを眺めている。
もしかしてゼリー傷を治せるだけでなく食べた物の因子を取り込んで自分の能力にできるのか?
俺達はもしかしたらこの世界でとんでもない生物を仲間にしたのかもしれない。
ゼリーが食事をしている間に広場を軽く散策する。
コツン。
ん、なんだ?
足元で何か硬いものに当たったので確認する。
うおっ……やばい。
俺は足に当たった物を見て震えた。
「おい、どうしたんだ凌駕?」
「来るな!」
近づいて来るアオコを叫んで止める。
「おい須賀どうしたんだよ? 大声なんかだして……えっ?」
騒ぎを気がつけた久我も俺に近づいて来たが直ぐに俺が叫んだ理由が分かったようだ。
「おい、須賀……お前の足元に落ちてるそれってもしかして」
「……そのもしかしてだ」
俺の足元に落ちていた物……それは大きな筒状の鉄錆の固まりだったが俺は一瞬で何か分かった。
「……『砲弾』だ」
俺の言葉に須賀は震えてアオコ何か分かっていないようで呆然とした。
俺はというとあまりの衝撃的な発見に周りに生えているケミカルキノコの緑の光が怪しく『砲弾』を照らしているのを眺めることしかできなかった。




