組織加入
今回もよろしくお願いします!
「クラウス、クレトから伝言だ」
アレクは、部屋の中に入ると同時に報告を始める。
「”交渉は成功。だが、裏があるように思われる。念のため準備を進めておいてくれ”
だそうだ」
「細かいことは、近いうちに報告するそうだ」
「そうか、分かった」
アレクは報告が終わると近くの椅子に腰をかける。
「・・・なぜ座る。報告は終わっただろ?」
「ああ。だが、お前の興味を持ったガキがどんな奴か見ておきたいんだよ。
別に良いだろ?」
「・・・出てけと言ってもお前は聞かないしな。勝手にしろ」
諦めたようにクラウスは言う。
「さて、ラウラも俺に何か用があるのか?」
「いえ、ありません。私は夜白ちゃんをここまで連れてきただけです」
「・・・?俺はリアンに頼んだはずだが」
「はい、ですがリアンだけでは心配だったので、私も同行しました」
「違うだろ!お前が勝手に・・・」
ラウラはリアンの脇腹に肘打ちを食らわす。
「ぐふっ・・・」
リアンは呻く。
「そうだったのか、二人共、ありがとう。俺自身が出向けば良かったんだが、
この頃忙しくてな。自由に出歩ける時間もかなり減っちまった」
クラウスは、疲れたように言う。
「いえ、このくらいいつでも頼んでください!此処にいる奴らはみんなリーダーの
役に立ちたいと思ってるんですから!」
いつの間にか復活したリアンが言う。
「俺達はリーダーに感謝してもしきれない位の恩があるんですから!」
「・・・そんな事思われる程俺は出来た人間じゃねぇ。・・・まぁでも、少しは
気が楽になった。サンキューな。」
笑顔でクラウスは答える。
この時点で、クラウスはかなりの信頼を得てることが分かる。リアンとラウラが、
リーダーに拾われたって言ってたけど、それ以外にもリーダーに拾われた人が
いるんだと思う。現に私がいた部屋でリアンとラウラはこう言ってた。
”ここで育てる””その発言のせいでどれだけうちに人がいると思ってんだ”
この言葉から、スラムの子供を見つけては育てるみたいに聞こえる。
そうでなくても、安全に過ごせるとこに案内してるんだと思う。憶測に過ぎないけど。
リアンがこの話を持ち出した時、クラウスとアレクが申し訳なさそうな顔をしてたけど、
多少負い目を感じてるのかな。
これも、憶測になるけど、クラウスが子供を集めて育ててるのは、戦力増加を
図るためだと思う。安全な地域に案内されてる子供には、勉学に力を入れて、
リーダー側の子供には、戦い方を教える。
どっちに転がってもリーダー達に得になる。それに、子供のうちにこういった事を
しておけば裏切られる心配が減るし、覚えも早いから出来るだけ子供を
集めてるんだと思う。
ここで私は、安全な地域行きかリーダー側か、どっちかになる。私としてはどっちでも構わないけど。
「さて、と。早速だが、そこにいる子供がこの間保護出来たやつか?」
クラウスが話を切り出す。
「そうです。自分を囮にして、仲間を逃した子です」
ラウラが答える。別に囮になったつもりはないけど。
あそこにいたメンバーは私を除いて全員顔見知りだったみたいだし、あの戦闘力、策略の巡らせ方から、他の大きい組織に入ってると思ったほうが良い。
だからここに連れてきてたら逆に危なかった。
「お前が前に話してた子だな。名前は何ていうんだ?」
「ほら、夜白ちゃん、リーダーに自己紹介して」
ラウラが言う。私はそれに頷く。
「・・・夜白・・・よろしく・・・」
「夜白か。俺はこの反乱組織を纏めあげてるクラウスだ。よろしくな」
クラウスは手を差し出してくる。私はそれに応じる。
「リーダー、反乱組織と言っても夜白には何のことか分からないんじゃないですか?
まだ、子供ですし」
リアンがクラウスに言う。
「そうか、そうだな。」
「反乱組織っていうのは、独裁派と呼ばれている政治家と戦う為の組織だ。
正確には独裁派の過激派とだな。」
「独裁派は今、二つに割れている。位の低い人間は切り捨て位の高い人間を優遇
しようと考えている過激派。位なんか関係なく、平等に接するべきだと考える、
穏便派。」
「今のところ立場的に強いのは過激派だ。そう考えている政治家も多いからな。」
「過激派は位の低い人間、つまり俺達のような奴に対しては税を高く設定している。
払えなければ、労働施設に連れて行かれる。」
「そんなクソみたいな政治家を潰すためにこの反乱組織は作られた。今は穏便派と
協力して、過激派を潰す為の計画をしている。」
なるほど、だいたい理解した。つまりは、過激派のやっていることが気に入らないから潰そうと考えてるのがこの反乱組織。
反乱組織に協力してる穏便派は利害が一致してるから協力してるだけで、過激派
が潰れたら何をするかわからない。こんな感じかな。リーダーは穏便派を信じてる
みたいだけど、頭の回る人は警戒してるはず。
「なんか、余計に難しくなったような気がするんですが・・・」
リアンが言う。
「そ、そうか?」
「はい、俺らなんかは分かるけど、夜白には難しいと思います」
「ふむ、簡単に説明するといってもな、何も思いつかないぞ?」
「じゃあ、俺が説明しよう」
アレクが言う。
「俺達と過激派は敵同士、ここは大丈夫だよな?」
私は頷く。
「俺達が過激派と戦うのは、このスラム街の人々を助けるためだ。そのために、
過激派を潰す必要がある。」
「だが、潰すといっても、過激派の連中を全員殺すという訳じゃない。
穏便派の考えが反映出来るようになるまで、過激派の立場を弱くするんだ」
「俺達と穏便派は今、協力関係にある。つまりは仲間って訳だ」
「で、過激派の立場を弱くするための計画を穏便派と一緒に進めてる。」
「今の所、過激派の立場を弱くするのに有力な案は、重要人物を暗殺することだ」
「だが、重要人物なだけあって警護が厳しい。その警護を切り抜けて、暗殺できる
人材がここにはない」
「だから、それ以外の案を模索中って訳だ。分かったか?」
私は頷く。
リーダーの説明よりも詳しくて助かる。疑問に思ってた所も、今の説明で
だいたい分かった。
「え、今の分かったの?俺にはさっぱりなんだけど」
「それは、あなたの理解力が足りないだけよ」
「リーダーの最初の説明だけで反乱組織については分かったし、アレクさんの
説明で反乱組織の現状が分かったわ」
「まじで?」
「まじで。」
ラウラとリアンはコントをするように話している。
「夜白が理解できたんなら問題ない、ここからが本題だ」
クラウスがラウラとリアンの会話を止めるように話し始める
「夜白、今の話を聞いてどう思った?」
・・・ああ、そういうこと。私が過激派に対してどういう考えを持っているか
知りたいのか。私の考えを聞いた上で、どちらに配置するか決めるんだろうな。
私が「過激派のしていることは許せない、私の手で終わらせたい」なんて答えればリーダー側に配置。
逆に「過激派のしていることは、確かに間違っていると思うけど、殺すのはいけない」
と答えれば安全な地域に案内される。
これは、過激派に対して好戦的な考えを持ってるかそうでないかを
見極める為の問い。
・・・今の話を聞いて特別何か思ったりはしてない。けど、返答によっては
私はここで戦い方を学ぶことが出来る。
私は、自分の身を自分で守る術を知らない。いくら本の内容を覚えてるからって、
それで強くなれるわけじゃない。
戦い方を知っておくのは、今後の私の生死に関わる。なら、もう、考える必要もない。
「・・・過激派のしていることは許せない。・・・私に何か出来ることがあるなら・・・
遠慮なく使ってほしい・・・」
クラウスにそう答える。質問の答えになったかは分からないけど、一応、過激派に
対する考えは伝えられた。
「・・・そうか。なら、今日からお前を反乱組織の一員とする」
クラウスは私に向かい言う。
「明日からお前は此処で生活し、訓練を受けてもらう。」
「細かい説明はラウラとリアンに任せる。二人共頼まれてくれるか?」
「もちろんです!」
「分かりました!」
ラウラとリアンは答える。心做しか嬉しそうだ。
「俺から此処でのきまりを説明しておく。まず、目上の者には敬意を払うこと。
次に訓練所以外での武器の使用の禁止だ。」
「器物破壊もダメだ。これらが守れなかった場合、罰を受けてもらう」
「分かったか?」
私は黙って頷く。
「それと、裏切り者には容赦しない。殺すまで追いかけ続ける。」
クラウスは声を低くして言う。
「何か質問はあるか?」
「・・・ない・・」
「それじゃあ、明日から頑張ってくれ。以上だ」
クラウスは立ち上がり、部屋から出ていこうとする。そこに、
「おい、クラウス、こいつもこの組織の一員になったんだ。組織の名前を
教えても良いんじゃないか?」
アレクがクラウスに発言する。
「そうだな、うっかりしていた」
部屋から出ようとしていたクラウスは足を止め、こちらを見る。
「俺達は、”べフライア”、ドイツ語で”解放者”って意味だ。」
クラウスはどこか遠い目をしていた。まるで、昔を思い出すかのように。
「組織として活動するときのみ使用している。個人での使用は一切禁止だ。」
「いいな?」
私は頷く。
少し深呼吸をする。さすがに、リーダーとアレクを前にして話すのは、
緊張する。私は話してるときもフードを被って目が合わないようにしていた。
さすがに失礼か?と一瞬思ったけど、向こうが何も言ってこないなら別にいいか。
なんとか、リーダー側につくことが出来た。これで、戦い方を学ぶことが出来る。
しばらくは戦い方を学ぶのに力を入れよう。余裕が出てきたら、この国に
ついて色々調べてみよう。そういった本はリーダーの言う、安全な地域に
あるはずだから。
「・・・さっきから気になってたんだが、夜白。お前、俺らと話すときにフードを
外さないどころか、目も合わせようとしなかったな」
アレクは突然言い放つ。
「・・・・」
「そういや、俺達とあった時もフードを被ってて、目も合わせてくれなかったな」
リアンは追い打ちをかける。
「そういえば、そうね。目を合わせてくれないから、どんな顔かも分からないし」
ラウラがさらに追い打ちをかける。
「・・・・」
私にこの場全員の視線が集まる。自分から外してもいいけど、わざわざ自分から
外す必要もないか。言われたら外そう。
「・・・夜白、組織に入ったからには、此処にいる全員と信頼関係を築いてもらう
必要がある。」
「お前がその状態でいたら、信頼を得るどころか逆に不信感を与えてしまう。」
クラウスは私に言う。
「・・・・」
「ここで生活をする以上、顔は常に見せろ。それが、信頼を得る第一歩だ。」
クラウスは諭すように話す。
「フードを外せ」
クラウスは命令する。私はそれに素直に応じる。
「なっ」
みんなそれぞれ度合いは違うが、驚いているのが分かる。
私のこの容姿はあまり人に見せたことはない。母さん達と一緒に暮らしてた頃は
家の外にはあまり出なかったし。
でも、ある日ガラの悪い人達が乗り込んできて、私を見たときに言った。
”バケモノ”って。
後から聞いた話だけどその村では白髪、赤眼は悪魔の象徴とされてたらしい。
その二つを持った私は、その村の人にとってバケモノ以外の何者でもなかった
んだろうね。
私たちは元々、住処を転々としていたから、その村には長くいなかったけど、
バケモノっていわれたのは結構心に響いたかな。今はもう平気だけど。
私以外の人は髪・目は黒か茶髪で私は他の人とは違うという事がわかった。
母さんの髪色はアッシュグレーで父さんは黒髪だった。瞳も他の人達と同じ
色をしてた。
だから私は、外に出るときは無意識にフードを被るようになった。さすがに目
までは隠せないから、ずっと下を向いていたけど。
あの暗殺の本を読んでからは、相手に自分の目を見せずに見るなんてことが
出来るようになった。でも、本当はそんな事しなくてもいい。
この容姿見せた所で私はなんとも思わない。ただ、癖で自然とそうしてしまうだけで。
この癖も直さないといけないか。
私は、クラウスを見る。
「・・・これでいい?」
「・・・・ああ、今日から、それで過ごしてくれ」
「・・・分かった」
クラウスは顔には出さないけど内心驚いてるんだと思う。アレクはよく分からないけど。
ラウラとリアンは面白いくらい顔に出てる。
「それじゃあ、解散だ。夜白は明日に備えて早めに休め。」
「部屋は、今まで使っていた所を使ってくれ」
それらを言い終わると、クラウスは部屋を出ていった。
私も部屋を出て、自分の部屋に向かう。ラウラ達と一緒に行こうと思ったが、
体が固まっていて動きそうになかったので、一人で向かう。
・・・少しは期待したんだけどね。やっぱりダメか。
私は部屋に着くとベットに倒れ込むようにして寝転んだ。
私はまだ生まれてから3年ちょっとしか経ってない。時間はたっぷりある。
ここで、戦い方を学んで、使いこなせるようになるまでに色々考えよう。
読んでくださってありがとうございました!
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