表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/161

怒りの暴君(メルツ王国)

暴虐非道な暴君ベルセルクの話となります。

「ふん。それで? お前はどうしてそこにいる?」

俺は玉座にすわり、目の前でかしこまっている男を眺めていた。


「はっ。いえ、私は陛下にご報告を……」

その騎士は、ただただ頭を下げていた。


「聞こえなかったのか? 俺はどうしてそこにいるんだと聞いている。我が国の騎士はいつからそんな頭の悪い者たちになったのだ?」

周囲の騎士を見回していた。

だが、誰も、何も答えなかった。

本当に使えない奴らばかりだ。


「仕方ないな。俺が代わりに答えてやろう」

俺は、立ち上がり、その騎士を見下ろしていた。

小さく震えるその姿に、騎士という誇りは消え失せている。


「お前は、お前たちは、敵の攻勢から、おめおめと逃げ帰ったからそこにいる。報告などという、もっともらしい言い訳をしても、その事実は変わらない」

一歩ずつ、玉座の階段を下りていく。


「報告というなら、何故そうなったのか調べてから帰ってくるのが当たり前だろう? その姿見たら、負けたことぐらいすぐにわかる。お前、俺をバカにしてんだろ」

目の前で片膝をつき、頭を下げている騎士の頭を素手で殴り下ろした。


騎士はそのまま、床に顔を打ち付け、小刻みに手足をけいれんさせている。


やっちまった……。


あたりには異臭が漂い始めていた。

頭を破壊すると、もらすんだった……。

玉座の前でするんじゃなかったな……。


「あーあ。またですか、ベルセルク様。掃除する身にもなってくださいよ。といっても、私はしませんけどね」

可憐な少女が玉座の後ろから顔を覗かしていた。


「トティラか。何用だ」

この少女がこの国に来てから、嫌な記憶しかない。

しかし、武術の達人を調達したり、物資を届けたりしてくるあたり、俺にとって利用価値はある違いない。

ただ、見た目の可憐さとは裏腹に、相当の実力者でもある。


そして、かなりの人殺しだ。

目を見ればわかる。

こいつは、楽しんで人を殺す眼をしている。


しかし、こいつの黒幕の存在も気になる。

俺を利用して何かをたくらんでいるのは明らかだ。


楽しければ、踊ってやってもいい。

だが、理由も分からずに踊らされるのは極めて不愉快だ。

この女を半ば自由にさせて、その動向を探っていたのだが、無駄だったようだな……。


「ベルセルク王も、私に気があるからって、変な人をよこさないでほしいかも」

やはりトティラは感づいていたようだった。

当然そいつは死んでいるだろう。

惜しくはないが、どこまで調べたのかが気になった。


「んとね。城を出たあたりまでかな」

全く役に立たない奴らばかりだ……。

俺の心を読んだかのごとく、当たり前のようにそう話しているこの少女と比べるのが間違いかもしれん。

こいつは、まさしく別格だ。


「お前のことが気になったんでな、仕方がないな。今度はもっと違う手で迫ろう」

笑うしかない。

この国には、使える奴らがいなさすぎる。


「こわいわー」

あくまで少女のふりをするこの女に、俺は本気の殺意を向けそうになる。


それも感知したのだろう、大きく後ろに飛びのいていた。

そして敵意がないことを示すように、両手を上げている。

舌を出しているのは、自分の容姿を最大限に利用した行為だろう。

ただ、それは逆効果だがな……。


「報告するね。ローランが魔導機甲部隊を全滅させたのは、地雷というものらしいよ。国境付近に多数埋めてあるらしいから、次も同じ手で来るだろうね。まずはそれを破壊しないといけないだろうね」

トティラは戦場を見ていたかのように、戦況をこと細かく俺に伝えてきた。

さっきの騎士が分からないことも、トティラにはわかっているようだった。


まあ、報告というからにはこうでないとだめだな。


「ほう、ローランもやるな」

ただ、ローランを見くびっていたことを素直に反省しておこう。

敵の実力を見誤ると、痛い目を見るのは皇帝の件でわかっている。


あの皇帝が認めただけあって、ローランも只者ではないということか……。

仕方がない、認めてやろう。


「どうやら、ローランの問題ではないようですよ」

トティラの情報力には感心する。

本当に知りたいことを持ってくるこの女には、本当に役に立つ。


可愛い奴だ。


「アポロンというデルバー門下の魔術師が接触したようです。どうやら、デルバーが考案したようですね。それもマルスの遺産らしいですよ」

そんなことまで調べられるのか……。

トティラをますます欲しくなる。


野獣のような気配を察したのだろう、トティラは再度距離を取った。

いかんな……。

どうも殺気を読まれてしまう。

どうにかしないとな……。


「ベルセルク王。お戯れを」

トティラは演技ではない表情を見せていた。

まあ、今は情報だけでもいい。


再び玉座に腰を落ち着け、改めてトティラのことを考える。

どうにか俺の物に……。

目の前では、頭のつぶれた騎士が痙攣を繰り返している。


なんだ、お前も役に立つじゃないか……。


「おい、それを片づけておけ」

玉座の間を後にするべく、歩きはじめる。


周囲の騎士から、安堵のため息が漏れ聞こえた。

役に立たない者どもだが、まあ、役に立たせてやろう。

扉の前では、ティトラがかしこまっている。


「トティラ。重い鉄の板を用意してくれ。できるだけ多くを頼む。それと、それを引ける馬かそれに近いものを五百ほどだ。鉄の板も同数必要だ」

すれ違いざま、そう指示していた。


「仰せのままに」

トティラは突如として消えていた。

恐らく黒幕に相談するだろう。


返事は数日かかるかもしれないな。

まあ、ゆっくり準備して確実にしてから行動だ。


こんどこそ、俺が出る。

皇帝には何も言わないでおこう。

後でうるさいかもしれんが、仕方がない。

まさか緒戦で躓くとは、俺も想定していなかった。


「クックック。待っていろ。ローラン。俺が行くまで、せいぜい勝利の余韻に浸っていろよ」

私室へと向かう廊下を歩きながら、その時の様子を思い浮かべる。

そうだ、どうせなら派手がいい。


今度は全軍で出撃だ。


「よし、第二陣の出撃だ。準備の鉄板が届き次第出撃する。全騎士団。歩兵隊を集めろ。王城の守備を少数配置して、イングラム帝国国境部隊も呼び集めろ。メルツ王国全軍で蹂躙してやる」

廊下にいる衛士に命令する。


俺にはもう、ローランとの一騎打ちしか興味がなかった。


あとは、出陣前の花火も準備しなくてはな。


「あとでいいから、宮廷魔術師を俺の部屋に来るように言え」

もう一人いた衛士にそう命令する。


逃げ去るように向かう様は、全く滑稽だった。



***


「大変長らくお待たせしました。ベルセルク王」

トティラが鉄板の準備を終えて戻ってきたのは、それから一か月たった後だった。


全く長いことまたせよって……。


そう思いつつも、俺はこの一か月を有意義に過ごしていた。


「ご苦労だったな。トティラ。これは褒美だ」

物資の手配が終了したという報告をしに来たトティラに、いつもどおりの殺気を贈る。


「お戯れを」

いつも通り、トティラは俺の殺気をよんで、後方に退避する。

いつも通りの動き。

そう、それは何度となく繰り返されたことだった。


「くっ。ベルセルク、貴様!」

トティラは自分の体の異変に気が付いたようだった。


退避した先の床に仕掛けていた魔法陣。

その効果は麻痺。

意識はあっても体の自由は効かない。


俺はこの時をずっと待っていた。


「さあ、トティラ。今日でお前は俺ものだ。死ぬ瞬間に味わう快楽を、その体で味わうがいい」

とびきりの残忍な笑みでトティラを見つめる。

トティラは動かぬ体で必死に対抗している。

しかし、その魔法陣は特別製だ。


そのことが分かったのだろう、いい顔をするようになってきた。

怯えと恐れの入り混じった表情。

今まで決して見せなかった表情だ。


「いい表情だ。お前もそんな顔ができるんだな」

今まで、自分はつかまらないと思っていたのだろう。

そんな慢心が今日をよんだのだ。


「ふっふっふ」

麻痺したトティラを小脇に抱え、私室への廊下を歩いていく。


トティラは懸命に逃れようとしても、麻痺した体では暴れることもできずにいた。


「トティラ。いままで本当にありがとう。俺は本当に感謝している」

憎しげに俺を見るトティラの眼には、うっすらと涙が浮かんでいる。

本当にいい表情だ。


俺は笑いが止まらなかった。


「トティラで出陣の花火としよう。まずは、褒美を与えてからだがな」

高笑いをしながら、俺は私室に入っていた。



***



「よし、行ってくるぞ、トティラ。それまでそこにおとなしく座っていろ」

裸のトティラを玉座に座らせた。


俺以外が座ることを許されぬ席だ。

そうだな、これはささやかなお礼だよ。


「おっと、ちゃんとこっちを向いてくれないと困る。ああ、悪い、悪い。もう自分ではできなかったな」

やり直しだ。

再びトティラの顔を俺の方に向けてから、座らせた。

しかし、どうも安定しない。


「俺が戻るまで、そこにちゃんと座ってるんだぞ」

俺の言葉に頷くように、トティラの頭が動いていた。


「ふっ、ははは。いい子じゃないか、トティラ」

やはりトティラは有能だった。


玉座の階段を下りながら、騎士たちに出陣を告げる。


「よし、全軍出撃だ!」

俺の号令のもと、騎士たちが一斉に動き出す。

メルツ王国全軍で、アプリル王国を蹂躙するために。


強すぎる力は、時に人を人でなくすという例ですね。ベルセルク王の物語はほとんど語られませんので、彼の個性、考え方を出すための話です。この後のローランとの生き方があまりに違うということを出したかったというものでもあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ