結束(アプリル王国)
ローランの仲間たちは合流して今後のことを話しあう予定でした。
オルランドとアポロンは連れ立ってその場所に向かいました。
「ずいぶんと楽しそうだな……」
いつの間にかそばに来ていたオルランドが、俺にそう話しかけていた。
「ああ、ここには俺の家族がいるからな」
自然とそう答えていた。
オヤジとその精霊たち、そしてその仲間、先生、教え子、その他オヤジの友人を含め、俺はひとくくりにして家族と呼んでいた。
「家族か……。皆、いい笑顔だ」
オルランドは周囲を眺めて、そうつぶやいていた。
オルランドが顔を向けたその先には、夕日の沈む空がある。
その視線は何を見ているのかわからない。
そもそも俺に言ったのかもわからない。
だから、それには返事をしなかった。
返事をしてほしいとも思えなかった。
ただ、その言葉には礼を言うべきかもしれないな……。
「そうかい。それはありがとうと言うべきなのかな、オルランド」
そう思った時に突然現れ、その言葉に礼を言うオヤジ。
まあ、それについては、オヤジ以上の適任者はいないだろう。
ただ、俺もオヤジと同じくらい誇らしいと感じているのは後で言っておこう。
オヤジの言葉に、オルランドは一瞬体を固くしていた。
おそらく気が付いていなかったのだろう。
歴戦の聖騎士の背後を取るオヤジはさすがだった。
「驚かせたのなら、申し訳ない。とくに意識してないんだけど、ほら、僕って存在感薄そうだしね」
そう言って笑うオヤジ。
その頬を思いっきり広げてやりたい気分になった。
自失呆然とした感じのオルランドだったが、急に我に返り、片膝をついていた。
俺もびっくりしたが、周囲はもっと驚いていた。
鎧こそ装備していないが、帯剣しているオルランドは、どこからどう見ても立派な騎士だった。
そんな男が、見た目少女に片膝をついたのだ。
誰だってびっくりするだろう。
「ご無礼を承知でお尋ねします。ヘリオス様とお見受けしました。我が剣はすでに主に預けておりますが、せめてわが名だけでも……」
俺もさすがに唖然となった。
あのオルランドが?
しかも、相当焦っているのだろう。
さっき、オルランドって呼んでたよな。
「オルランド。もちろん君のことは知っているとも。高潔なる君の剣が誰に捧げられているのかも知っている。いずれ、彼女にも会いに行くけど、その時は案内をお願いしてもいいかな? それと、真なる騎士は二君に仕えない。君の出自を考えると微妙だけど、それは鉄則だ。だから君の判断は間違っていないとも。そして君の主同様、僕からもお願いするよ、ローランのことを頼んだよ」
にこやかにそう告げるオヤジに対して、オルランドはますます体を固くしている。
しかし、オヤジはオルランドにはローランのことを頼んでいる。
なんだかちょっとわからなくなってきた。
「あと、アポロンの面倒を見てくれてありがとう。騎士である君の目にどう映ったかわからないけど、自慢の息子だからね」
オヤジは俺の横に並び、似ていることを強調するかのように俺の肩に手を置いていた。
出会って初めて、オルランドの顔が変化するのを見た。
その滑稽さは俺の記憶にいつまでも残っているに違いない。
そして、それを表に出さないように頑張った俺。
何かご褒美が欲しいところだ。
「はっ」
オヤジのいたずらともいえる行動に対して、オルランドは短くそう答えていた。
もう一度、俺の顔とオヤジの顔を見比べて、納得したように頷いていた。
「アポロン殿、知らぬこととはいえ、数々の無礼。お許し願いたい」
出会って初めて、オルランドに謝られた。
しかし、銀髪の少年少女に頭を下げる偉丈夫は、さぞ周囲から好奇のまなざしを受けることだろう。
「オルランド、もういいよ。ところで休めたのかい?」
オヤジはオルランドの肩に触れて、気分を変えようとしていたが、それはかえって逆効果だった。
オルランドはますます緊張している。
そのまま小さくなって消えていきそうに感じるほどだった。
「……! アポロン。僕は少し用事が出来たみたいだから、あとはよろしく」
遠くでオヤジを呼ぶルナさんの姿がみえた。
それ、渡りに船って言うよね、たぶん。
こんな状態のオルランドを放置していくのはどうかと思う。
ちょっとオヤジを非難したかった。
「うん、いい出会いだった」
しかし、オルランドの復活は早かった。
「はやっ」
俺は思わず小さく叫んでいた。
「オルランド、オヤジを知っていたのか……」
顔を知っているのなら、俺の顔を見た時にわかるはずだろう。
どこまで知っている?
「お名前だけだ。しかし、いくら隠匿していても分かる。これだけ近くになると、その力見まごうことはない。世界の一柱たるその存在、わが主より聞き及んでいる」
見事なまでに、いつものオルランドだった。
さっきまでのオルランドが夢なのかと思うほど、オルランドは態度から何から元のままだった。
「そうか……。まあ、よろしく」
オルランドにそう告げたものの、またややこしいことになりそうだと思う。
オルランドにはわからないだろう、向こうの方では見知った顔がこちらを見ていた。
一体どこからどこまでを見ていたのやら……。
ため息をつきながら、何と話せばいいのかを考える。
「承知した。アポロン殿」
何となく、オルランドの評価は、数段間上がったような気がしていた。
***
「オルランド、正直見損ないました」
ボルドウィナは、開口一番そう告げていた。
オルランドと共に集合場所に来た俺は、さまざまな意見の猛襲にあっていた。
いや、実際に俺ではないのだが、横にいると俺に言われている気分になった。
「ああ、あんたは俺たちのために、あえてこっちに来たんだと思ってたのによ」
ワルターは悔しそうだった。
「ええ、わたしもそう思ってたわ」
アヴィナは残念そうに下を向いた。
「何かわけがあるんですよね……」
リッチャルデットはそう信じたい様だった。
アストルフォとベンリンゲリは黙っていた。
やっぱり思った通りだった。
彼らはあの場面を見ていた者たちだ。
後の2人は直接見ていないのだろう。
だから意見を言わなかったのだろう。
「なんのことだ?」
オルランドは当然のようにそう尋ねていた。
それもそうだろう。
オルランドにとっては寝耳に水の話だ。
「しらばっくれんじゃねーよ。俺たちは見たんだよ。あんたが、アポロンにそっくりな美少女に跪くのをよ」
ワルターは自分で見たことをそのまま説明していた。
確かにその通りだが、それは誤解だ。
しかし、今俺が発言するべきではない。
「美少女?」
オルランドは少しとぼけているようにも見えた。
オルランドは、そのままその意味を考えているだけだろう。
しかし、疑念を持っているものにすれば、それはとぼけているように見えるに違いない。
「とぼけたって無駄よ。あんな美少女ほかにいないじゃない」
ボルドウィナは声を荒げていた。
いや、いると思うが……。
というよりも、問題はそこなのか?
無性に突っ込みをいれたかった。
でも、ここは我慢だ。
この場の雰囲気は望ましい方向に向かっている。
誰かが必ずその言葉を言うはずだ。
そこまでは俺も見守ろう。
突っ込みは、心の中だけで入れておこう。
「オルランド、私たちはローランのことで自分たちの心に自信が持てなくなったわ。あの気持ちは、本当に私たちのものだったのかと。だから、この任務に、あなたの近くでもう一度あの頃のように考えたかった。そして、私たちは結論を得たわ。あの頃、ローランがたとえどんな子であったとしても、私たちはローランと共にあると自分たちで選んだのよ」
アヴィナは涙目で訴えた。
「ああ、だから俺ももう一度ローランとやり直そうと思った。また、同じ目標に向かって進もうと思ったさ。俺は、俺の意志でローランの仲間になったと確信している」
ワルターの言葉は強かった。
「そうだね。僕もそう思った。この旅で僕らはまた、心を一つにできた。それはローランが何者だとしても変わらないよ」
リッチャルデットも同じ結論だった。
「アストルフォとベンリンゲリだって同じなの。何も言わないのは、彼らはあなたの姿を見ていないから。だから信じられないんだって。でも、私たちは見てしまったの。あなたが美少女に跪き、その子が何かを言ってあなたに触れた後、あなたが感激しているのをね」
ボルドウィナたちは一部始終を見ていたようだった。
オルランドはそれで納得していた。
「何か誤解をしているようだが、ヘリオス様は男だぞ」
「オルランド!」
思わずそう叫んでいた。
それ、問題点じゃないだろ。
「そうなの?」
ボルドウィナが目を丸くして驚いていた。
「おまえもか!?」
手が届くなら、ボルドウィナの頭を小突いてやりたかった。
オヤジ……。
髪を短く切れないなら、せめて人前に出るときくらい帽子かぶってくれ……。
「今、そこじゃないと思うんだけど……」
論点を正そう。
その上で、全員に真実を話そう。
しかし、全員の顔つきが、もはや先ほどとは違って見えた。
「アポロン、もうわかったからいいのよ」
アヴィナが俺に優しい笑顔で話しかけてきた。
皆、納得したような顔つきになっている。
俺だけが、よくわからない人になっていた。
そんな俺の様子を悟ったのか、リッチャルデットがそっと話しかけてきた。
「オルランドは下手な言い訳をしない。間違いがあれば訂正する。そして、正しければ、肯定するんだ。今、オルランドは少女のことを誤解だと言った。そして少女が男だと訂正したけど、それ以外は肯定も否定もしなかった」
その後をワルターが続けていた。
「だから、おれたちにはわかった。俺たちの見たものは事実だが、それだけだと。それ以上の意味はないって事をな!」
そうやってニヤリと笑うワルターを俺はあきれた顔でみていた。
お前さっきまで疑ってただろ……。
のど元まで出てきたその言葉を、ぐっとこらえて飲み込んだ。
こいつらは、こいつらの方法で分かり合えている。
それは今までの付き合いから導き出した答えだろう。
それで納得できたのなら、俺が口をはさむものではない。
仲間と認められた気がしたが、やはり俺は部外者だった。
今俺は、こいつらが一塊の強固な関係を持っていることを確信していた。
仲間か……。
正直羨ましい。
確かに俺の居場所はオヤジのそばにある。
でもそれはオヤジが用意してくれていた場所だった。
いつか俺もそんな場所を作れるようになるのだろうか……。
自分で考えておかしくなってきた。
一年しかない寿命で何ができる。
そんなこと望む方がおかしい。
こいつらやオヤジは、長い時間をかけてその関係を築いてきた。
俺には時間がなさ過ぎた。
この場にあって、俺一人が取り残されているように感じていた。
そんな時、オルランドと目があった。
オルランドはニコリともせず、俺を手招きしていた。
そうだ、俺にはこれでいい。
俺が新しく居場所を作れなくてもいいんだ。
こうゆう繋がりの中で、俺の居場所を作っていけばいい。
誰かに居てもいいと言われた場所を、俺の居場所にすればいい。
オヤジたちも、最初はきっとそうしてきたはずだ。
そしてそれを増やして、つなげていったのだろう。
そうだ、人は生まれた時には一人なんだ。
そのつながりは親から分けてもらい、そこから繋がりを自分で探し出していく。
幸い俺には居場所がある。
そして、新たなつながりもできている。
だから、これからも色々なつながりで自分の居場所を見つけていけば、いつか俺にもできる気がする。
やらないうちからあきらめるのではなく、やるだけやってみる。
俺はそう誓ったはずだった。
オルランドの手招きに、俺は不敵な笑みで答えていた。
ローランの仲間たちは、再びローランのもとに集結することを確認しました。
その中に一人、オルランドは、主をいただく騎士でした。
はたして、その主人とは?
次回は少しさかのぼって、ブロッケンの戦い後のメルツ王国の様子を予定しています。




