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混乱するアプリル王(アプリル王国)

アプリル王都でのお話です。

「あれはいったいなんなのだ。誰か説明しろ」

アプリル王は物見の塔より見える群衆を指さしていた。

その表情から、混乱している様子が手に取るようだった。


「王よ、あれは民衆です」

そばに控えているもののうち、一際目につく立派な騎士が、簡単にそう答えていた。


「デュランダル将軍、王はそのようなことを聞いているのではありません。なぜ、あのように民衆が大挙してこちらに向けっているのかを問うているのです」

同じように控えている大臣の口調は、当然のことを言うなという非難に満ちていた。


「ブランカン大臣、さりとてそれ以外には答えようがありますまい。物見の話によれば、あの者たちはローランに逃げるように言われたとのことです。ローランが国境付近の民を逃がしているのでしょう。それ以外の何があるというのですか?」

デュランダル将軍も当たり前のことを聞くなというあきれた調子で返していた。


「デュランダル将軍、よもやローランが扇動したとは考えられまいか?」

もう一人の将軍が自身の危惧を伝えていた。


「バリガンエ将軍、貴公何を考えておるのか。そのようなこと、あるわけあるまい」

デュランダル将軍は不愉快そうに顔をしかめていた。


「もし仮にそうだとしても、ローランにそう言う選択を取らせた道化に責任を取ってもらえばよい」

デュランダル将軍はブランカン大臣をにらみながらも静かにそう告げていた。


「おいらしらなかった。おうさまも、おいらとおなじどうけだったんだ」

道化のマルシルはすべてをさらけ出していた。

そして階段を転げ落ちるようにして去って行った。


「まさか、王よ。それはまことですか……」

デュランダル将軍は絶句していた。


「道化のたわごとを真に受けるな。それよりも、デュランダル。これはローランの策ではないのだな」

ひと時も群衆から目を離さない王の口調は、かなり強いものだった。




王はローランを疑っている。

しかし、デュランダル将軍を信頼していた。

いや、聖剣デュランダルを持つものを信頼しているという事だろう。




「ローランは民衆に国外へ行くように指示しています。ここはおそらく通過してジュアン王国か、アウグスト王国に行くものと考えます。そのようなものを扇動とは申しますまい」

デュランダル将軍は、かなり群衆から内情を聞きだしていたのだろう。

その表情は疲れているが、厳しくはなかった。


「そうか。ならば王都の城門を閉じよ。すぐにだ。一人たりとも入れることを許してはならぬ」

顔色一つ変えることなく、王は無表情に告げていた。


「王よ、それでは問題が起こりますぞ。すべての民が国外へと逃れるわけではありますまい。王が受け入れてくれると信じている者も中にはおるかと」

デュランダル将軍は、群衆が閉じた門を見た時の感情を考えているようだった。


「これは王が意志を示すのですぞ。将軍」

しかし、ブランカン大臣は強気だった。


「拒否という意思ですな。それはどれほどのことを引き起こす可能性があるのか、大臣はわかって話しているのか?」

デュランダル将軍はいらだちを隠しきれていなかった。


「愚問ですな」

大臣はデュランダル将軍の言葉をそう言って切り捨てていた。

肩をすくめたその態度は、デュランダル将軍の感情を逆なでするものだった。


「ここまでくるにしても、ローランの言葉を信じてやってきたのだ。その不安はかなりのものだ。しかし、王に見放されたと考えた時、どうなるかわかるか?」

デュランダル将軍は右手を一閃させて、大臣の言葉を切り捨てた。


「暴動だ。あの数、不安が不安を呼び、何かを求めて騒ぎ出すぞ。今はローランによって抑えられているだけにすぎん。それでも良いのか!」

デュランダル将軍はブランカン大臣の鼻先まで詰め寄っていた。


「その時はわが騎士団で対応いたしましょう」

バリガンエ将軍は胸を張っていた。


「バリガンエ将軍。わしは貴公に何を教えたのか不安になってきたわ……」

デュランダル将軍は頭を振って力なくそう告げていた。


「貴公、敵をみまちがえるなよ。あれは、我が国の民。守るべき民だ。それに、今はメルツ王国が侵攻してくるのだ。その状況で避難してくる民衆を騎士団が蹴散らしたのでは、もはや王家に正統性はなくなるぞ」

デュランダル将軍は諭すようにバリガンエ将軍に話している。

教師と教え子。

二人の関係はそうなのだろう。



「城門を閉じよ。そしてあの群衆に告げるのじゃ。おぬしらの英雄が守ってくれるから、安心して引き返すがよかろうと」

王はデュランダル将軍を見ずに、後ろで控える衛士にそう告げていた。


「すぐにかかれ、これは厳命である」

それだけ告げると、王はまた群衆の方を見ていた。


「デュランダルよ。王家の正統性は民が決めるものではない。わしが示すものだ。国を捨てて逃げようとしている者どもに、わが民を名乗る資格はない。ローランに踊らされた結果じゃ。わしは知らん」

王は、背中でデュランダル将軍に話している。


「王よ。場外にいる者たちの声を城下の者どもは聞きますぞ。原因はどうであれ、結果として王は民衆を見捨てたということになります。それどころか見殺しにしたとなった場合、城下にまでその不安は伝染しますぞ」

デュランダル将軍は最後のつもりなのだろう、片膝をついて王に進言していた。


「くどい。いくぞ!ブランカン」

王はもはやデュランダル将軍を見ようとはしなかった。


「もはやこの国もおわりか……」

聖剣デュランダルが、その言葉に反応するかのように、かすかに震えていた。



***



王都まで来た群衆は、その前に掲げられた文書と固く閉ざされた王都の門をみて、口々に不満を叫んでいた。


「王は我々を見捨てた!」

群衆は王都の門を前に、そう叫んでいた。


その叫びは、群衆に広く知れ渡り、また、王都に住む人にも知れ渡っていく。


やがて群衆は、国外へと進むもの。王都の前でまつもの、あきらめて引き返すものに分かれていた。

しかし、皆一様に不安な表情をしていた。


そして、王都の中の住人にもその不安は広がっていく。

いつの間にか、王都内では一つの噂がささやかれはじめていた。


英雄ローランは勝てないとわかり、民衆を逃した。

王家はそのことを知り、自分たちの安寧のため。デュランダル将軍を呼び戻した。


不安は不安をよび、大きな不安へと進化するのに、そう時間はかからなかった。


混迷する王都でした。

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