暴君ベルセルク(メルツ王国)
攻め入る方、メルツ王国のお話です。一応残虐シーンとなります。
「……必ずや、弟の仇を取ってまいります。油断さえしなければあのような若造にわが弟が敗れたりは致しませんでした」
馬鹿か、こいつは。
油断しようがしまいが、弱いやつは死ぬ。
ただ、それだけだ。
「あのような姑息な手をつかう、英雄気取りの若造に……」
もう、うんざりだ……。
なんでこんな奴の話を聞いているんだっけ……。
「もういい……」
いい加減飽き飽きしてきた。
「此度は帝国の助力もある。これでお前が失敗したら、俺もいい笑いものだ。皇帝に申し訳が立たん。御託はいいから成果を見せろ、ベイリン」
そうか、出陣式だからだ。
士気高揚のために催すのだと大臣どもはいっていたが、俺にとっては退屈以外の何者でもなかった。
「せいぜいお前の実力とやらを見せてみろ。お前たち兄弟が無能でないことを祈るだけだ」
心からそう願っておこう。
少しこの場がざわついている。
まあ、こういう場にふさわしくないのはわかるよ。
でも、この俺がそういったものに従う理由はない。
俺は、俺の思うままにやるだけだ。
「ベルセルク王の深遠なるお心に気が付かぬ、愚かなわれわれをお許しください。必ずや、ご満足いただけるよう精進いたします」
それでもベイリンは、保身のためか俺を敬って宣誓していた。
もういい。
いい加減にウザい。
俺は鷹揚にうなづくと、片手をあげて退場していた。
「おい。おまえ」
俺は通路を守る兵士の一人に声をかけた。
自分に声がかかるとは思っていなかったのだろう、やはり兵士は反応しなかった。
「おまえだ。おまえ」
近づき、声を荒げる。
これで気が付かなかったらバカだ。
「はっ」
やはり、返事がおくれていた。
瞬間に首をはねたから、ちゃんと返事もできていない。
「遅いんだよ。それに、ちゃんと返事しろ。お前の罪は、返事が遅い罪だ。ちゃんと返事しない罪は免除してやる。感謝するんだな」
他兵士にそう告げると、それをそのまま放置して歩いていく。
背後でどよめきが起きていたが、俺には関係ないことだ。
「まあ、俺が出陣してもよいがな」
俺は正直退屈していた。
退屈か……。
この世界に来て、退屈はなくなるかと思ったけど、やっぱりなくならなかったな……。
前の世界でもそうだった。
高校生活も一年たつと新鮮さがなくなっていた。
親のカードを使いたい放題の俺にとって、部活もバイトも興味なかった。
俺は、王様気分で遊びあるいていた。
将来なんて、特に考えなかった。
そんな時、近くのコンビニで雨宿りしているとき、それは俺の前に突然現れていた。
黒い球体。
そいつは一瞬で俺を飲み込んでいた。
わけのわからないまま赤ん坊になっていた。
そして、この世界にうまれても、俺は王になるべく生まれたようだった。
意識はしっかりしているのに、体が動かないのは正直退屈で、死にそうだった。
それも一年我慢すると、動けるようになり、三年我慢すると、かなり自由になっていた。
俺は、五年我慢した。
正直もう我慢は限界だった。
まず手始めに俺の強さを知らしめるため、メイドの一人を殺していた。
そして執事。
そして衛士。
そして騎士。
だんだんエスカレートして、俺はこっそりと気に食わない奴を闇討ちにした。
六歳の時、やたらうるさい大臣を殺した。
七歳の時、これもうるさかった母親を殺した。
俺はもう、楽しくて仕方がなかった。
俺は何も教わっていないが、この国の誰よりも強かった。
そして十歳の時、騎士団長と国王を殺した。
俺は目実共に王になっていた。
逆らうものは容赦しなかった。
わが世の春を謳歌していた時、奴は突然やってきた。
皇太子ジークフリード・クラウディウス・アウレリウス
俺は奴に簡単に抑え込まれてしまっていた。
屈辱だった。
しかし奴は俺に自分の野望に力を貸せとささやいてきた。
俺はその提案に乗っていた。
最後の最後で勝つのは俺だ。
それまでは力を蓄えてやる。
俺は奴に打ち勝つべく、修行を開始した。
さまざまな達人を招き、俺を鍛え上げた。
こんなにも真剣に取り組んだの初めてだった。
そんなとき、隣国に攻めろと奴は命令してきた。
それまでも、具体的なことは言ってこなかった。
皇帝になってからも指示してこなかった奴が、いきなりだった。
めんどくさい。
今の俺は、自分を鍛えること以外興味ない。
でも、奴の指示を守らなければ、まためんどくさいことにもなる。
まだまだ俺は強くなる。
それまでは、いいなりになってやろう。
しかたなく、近くにいた適当な兄弟将軍の弟の方に出陣させておくことにした。
意外に能力はあったようで、どんどん攻めこんでいた。
けど、それも一瞬で崩されていた。
意外にやると思っていたが、単なる馬鹿だった。
補給をしっかりせずに、いたずらに戦線を拡大したために、補給線を断たれ、挙句の果てには自分の首も断たれていた。
自業自得だと思ったが、俺の敗北になると気分が悪かった。
しかし、皇帝は英雄ローランが出現したことを喜んでいるようだった。
なんだかとてもムカついていた。
異様なほど、イライラしていた。
この俺よりも先に、奴に認められたその存在が憎かった。
何としても奴と戦いたかったが、それは皇帝に止められてしまった。
もうちょっとまて。
たったそれだけの言葉で、俺の行動が妨げられていた。
はっきり言って不愉快だ。
しかし、まだ俺では皇帝には勝てない。
修行して初めて、その事に気づいた。
だから、修行に専念した。
この俺が、これほど打ち込んだのも初めてだろう。
とにかく、修行だ。
だから今度は兄の方を送りだすことにしたのだが……。
さっきの話を聞いていた限り、これもやっぱり使えない奴だろう……。
ただ、今度は帝国から戦車を借りている。
皇帝が戦車を作っていたことにも驚いたが、俺のほかにも向こうの世界からきていたことに驚いた。
皇帝の強さは、それがあるからだろう。
しかし、奴の強さはそれだけじゃなかった。
忌々しいから破壊してやろうかとも思ったが、せっかく作ったものだ。
活用してから壊してみよう。
なにより、俺自身がそれに乗ったあとだ。
戦車なんて、元の世界でも乗ったことない。
「すべてが終わったら君には特別のものをあげるよ」
笑顔でそう言う皇帝の言葉を、俺は信じることにした。
「せいぜい暴れ回れよ」
俺は出陣するベイリンに心の中でつぶやいていた。
そして一方で、俺は奴の失敗も見越していた。
それは単なる感にすぎなかったが、俺は俺自身の感を一番信頼している。
「よし、第二陣を編成する。戦車大隊は四百台だ。国民からもっと徴兵しろ。アプリル王家を追い落とす」
後ろで慌ただしく動き出す気配がする。
俺の命令を実行するために急いでいるのだろう。
後は景気づけだな。
ふと、目の前に不動の姿勢を貫く衛士が二人見えた。
そのうちの片方の首を刎ねる。
噴水のように血をまき散らしながら、衛士は倒れていく。
「意外に地味な花火だな」
次の出陣にはもっと用意しておこう。
さて、どんなものを用意しようか……。
暴君は認められたいのかもしれません。




