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八面六臂(アプリル王国)

アポロン登場です。しばらくまたアポロンが頑張ります。

「いやー疲れたね! でも頑張った」

自分自身を褒めてやりたい。


まず、オヤジから任されていた撤退拠点の掃除は片づけた。

オヤジの予想通り、各拠点にはブービートラップが仕掛けられていた。

しかもそれはどこ拠点も同じものじゃなかったが、発見にはそう手間取らなかった。

不思議なことに、まだ発見撤去されてなかったので、結局拠点の人間は、それがあったことすら知らないはずだ。

そして、拠点に侵入しての捜査なので発見される心配したけど、姿隠しを使った俺たちを見破れるほどの人間はいなかった。


「あれって有効なんですかね。ボス」

ヒアキントスはあの罠を見て、誰も引っかからないのではないかと思ったようだ。


「ぷぷ、おバカなヒアキントス。あれはそれ自体が意味を持つものよ。罠があったということが、守る側に多大な疲労をもたらすのよ。それが証拠に、どこもちょっと探せばあるところにあったでしょ」

ダプネはややもすると、ヒアキントスをからかって楽しむ癖があるようだ。


「なんでだよ。そんなの撤去したら終わりじゃね?」

そのたびに、ヒアキントスは馬鹿にするなと食いついている。

それをダプネは楽しんでいるのに……。


「まあ、十個あります。そうやって書いてあったら別よ? 仮に書いてあったとして、十一個目がない保証は? 結局人間は疑心にとらわれると、際限なく疑うわ。それを利用したものよ。ひょっとすると、これ自体も実は囮ということもあり得るわね」

ダプネは肩をすくめて説明していた。

思ったより、ヒアキントスの納得が早かったからかもしれない。


「おお、なるほど!」

ヒアキントスは目を輝かせて納得していた。


「でも、王は極秘に回収って申されたようですが、これどうするんですか?」

ダプネは回収した発火装置、起爆魔法陣を持て余していた。


「必ず、監視する場所がある。回収した場所とそれがよくわかる場所があるからそこに隠すように設置しておくように……。だったっけ……?」

そう言えば、オヤジから直接この話を聞いていたのは俺だけのような気がする。

だから、尋ねても返事なんて返ってこない。


「ボス、それってまさか……」

ヒアキントスは露骨に嫌そうな顔で見ている。


「ヒアキントス。日が暮れます。マスター、さっさと行動しますよ」

ダプネに至っては、俺と目を合わせてもくれなかった。


「……」

何も言えずに、それに従う。

二人の背中が、やけに疲れて見えるのは気のせいだろう。

さっきまでの達成感は、風と共に去って行った。



***



すべての拠点に対応したブービートラップの逆設置を終え、ようやく一息つけそうなとき、俺たちの前を物々しい集団が通り過ぎようとしていた。

無用な争いを避ける意味で、街道わきの林の中に身を潜めることにした。



「ボス、あれってアプリル王家の正規軍だと思うんだけど……」

ヒアキントスは軍装、旗を見てそうつぶやいていた。


「ヒアキントスもたまにはいいことを言います。本当に、たまたま当たったのでしょうが、正解です。あれは中央騎士団。先頭を行くのが団長のデュランダル将軍。たまたまあたったのだから、この際覚えておくといいです。もう、たまたま当たるなんてことは、金輪際ないでしょうから、そのたまたまに感謝するといいです」

ダプネはヒアキントスのことをなんだと思っているのだろう。

そして、ヒアキントスも当たったことに満足して、ひどいことを言われている自覚がない。


「詳しいね、ダプネ」

まあ、ヒアキントスが気付いてないならいいか……。

それにしても、いつの間にそんな知識を身に着けていたのだろう。


「マスター、当然です。私は氷の精霊。ベリンダと同じことができます。そして王から直接重要人物の講義は受けています。マスターがメレナさんと遊んでいる間。私は王に拉致監禁の上、その深遠なる知恵と知識のご教授というご褒美をいただきましたので」

ダプネはそう言って照れていた。


「おお、すげー。俺なんか王とフレイから魔術師と戦士の戦い方を教えてもらってたぜ! しかも王からこんなスゲーもんもらってるんだぜ」

ヒアキントスは自分の腕輪を見せると、その力を解放し、巨大な盾を出現させていた。

巨大な盾は、周りの木々をなぎ倒していく。



「なあ、ヒアキントス……。一応おれたち隠れてるんだけどね……」

案の定、騎士団が物々しい警戒態勢に入っていた。

一刻も早く退散した方がいい。

無用な争いは避けるのが一番だ。

俺たちは姿隠しを使って、前線へと向かっていった。


なんとか追手も来ないことを確認して、俺はさっき気になったことを問い直していた。


「じゃあ、ダプネも何かもらったのか?」

ヒアキントスに魔道具を渡して、ダプネには知識だけ渡していたとは思えなかった。


「イエス、マスター。わたしはこれをいただきました」

ダプネは自分の腕輪から、自分の手に乗るサイズの、小さな粘性生物スライムを出していた。


「それだけ?」

ヒアキントスは間抜けな声を出していた。

なんだかかわいそうな子を見るように、ダプネを見ている。


実は俺もそう思った。


「ぷぷ、おバカなヒアキントス。王がそんな貧相なものを下賜されるはずがないでしょう。こんなところで本体を出したら、どこかのお馬鹿さんのようになってしまいますよ。そうですね、どこかのお馬鹿さんのようになりたくはないですからね」

二回言ったよね?

何で二回も言ったのかな?


「いったいそれはどのくらいの一部なんだい?」

ごまかすために、知っている風な口ぶりで尋ねていた。

たぶん、ばれてないはずだ……。


「どのくらいなんでしょう? 王は学士院アカデミーがすっぽり入る大きさだとおっしゃっていましたが……」

ダプネはその小さな粘性生物スライムを戻すと、そう説明していた。

それ、大きいなんてもんじゃないだろ?


「ちょっとまて、じゃあヒアキントス。君の盾も大きくなったりするのかい?」

少し焦ってしまった。

さっきでも、相当でかかったぞ?


「ああ、ボス。やって見せようか?」

得意げなヒアキントスはすぐにやろうと行動したが、それが完了することはなかった。


パーン


小気味よい打撃音がヒアキントスの後頭部から発せられていた。


「お馬鹿なヒアキントス。これ以上マスターに迷惑かけない」

ダプネは扇状の武器を手にしていた。


「ダプネ。それは?」

俺は思わず聞いていた。

それはオヤジの知識にある。

あれだった。


「これも王から下賜されたものです。対ヒアキントス決戦兵器だそうです」

ダプネは、王から色々もらったという優越感に浸っている。


「ハリセンか……」

オヤジ……。

あんた、遊んでるよな……。


「イエス。マスター。この効果は(つっこみ)という鎮静効果らしいです」

オヤジの考えが見えてきた。


「ふっふっふ。お前だけが王からの寵愛をもらっていると思うなよ!」

【はりせん】の突っ込みをいれられたヒアキントスは、うつむきながらそうつぶやいていた。

そして、素早く取り出したものを頭に巻いていた。


「さらに、これもある!」

ヒアキントスはさらにもう一つ取り出すと、肩からそれをかけていた。

堂々とそれを見せるヒアキントス。

誇らしげな態度だけど、ちょっとカッコ悪い。


「あー。大体わかるんだけど、ヒアキントス。それは?」

オヤジ……。

いくら精霊に装備させることができるようになったからって、こんなもの二人に渡してどうするんだよ……。


「オッケー、ボス。特別に教えてあげましょう。王からもらったこの頭のものは【不屈のハチマキ】だ。これは俺の気合を何十倍にも高めてくれるすぐれものだ。そしてこの肩のものは【注目のタスキ】と呼ばれるもので、これをつけて名乗り上げれば、俺の視界中の注目を浴びる効果があるようです」

不屈のハチマキの効果なのか、気合が入っているヒアキントス。

面倒なことに、注目のタスキの効果で、俺すら視線を外すことができないでいる。


「暑苦しいのがさらに暑苦しくなった」

ダプネの感想は俺の感想でもあった。

しかし、ダプネは氷の鎌倉に入っているからいいじゃないか。

俺もそこに入れてくれ。


「ヒアキントス、わかったから、それをなおしてくれ」

オヤジの考えは読めた。


盾を装備させたヒアキントスに【不屈のハチマキ】をかけさせて、【注目のタスキ】でヘイトを取るというものだろう。

その盾にダプネの粘性生物スライムを付与すれば、あの兵器にこの世界のもので対抗できると言いたいのだろう。

そして、あまりに暑苦しくなったら、【はりせん】で対応させる気のようだ。

遊んでいるようで遊んでいない。

そんな感じだが、俺には遊んでいるとしか思えなかった。


オヤジにとっては、そうなのかもしれない。

この最初の戦い、帝国はおそらく本気で来ないことが分かっているのだろう。


イングラム帝国皇帝とオヤジの間で何かしらの取引をしているのではないかと思えるほど、両者はお互いを読んでいるように思える。


第一段階

これはメルツ王国に魔導機甲部隊の一部を貸し出して、攻め込ませる。

対して、オヤジはこれを撃退させる。


第二段階

イングラム帝国皇帝がメルツ王国の暴君ベルセルク=ニコラス=ウル=メルツを本気にさせて、メルツ全軍と帝国軍で戦い、帝国は王国をそのまま支配する予定だろう。

イングラム帝国皇帝はメルツ国王と英雄ローランをぶつけるつもりだろう。


なぜかオヤジは、それについては妨害しないつもりみたいだ。

民衆の避難のためにローランと協力しろとはいったが、ローランを助けろとは一言も言わなかった。


皇帝もオヤジもメルツ国王と英雄ローランのつぶしあいを狙っているとしか思えない。


「いや、ちょっと違うな」

自分で考えておきながら、即座に否定する。

俺の発言に、訝しむ二人をあいまいな笑みでごまかしておく。



たしかに、皇帝の狙いはそこだろう。

そうして次はアプリル王国に迫るつもりだ。

しかし、オヤジは単にベルセルクとローランという存在を消そうとしているんだ。


異世界人の排除。


何となく理解しているオヤジの目的。

それはオヤジが精霊王としてやらなければならないことなのだろう。

この世界の理として機能するためにいる存在としては、その役目を果たさなければならない。


「だとしたら……」

俺はオヤジのことを考えていた。


オヤジの魂は元々こちらの世界のものだ。

しかし、オヤジの魂自体は精霊女王の手によって一度異世界に飛んでいる。


そこから帰ってきたオヤジは、いったいどういうものになるのか……。

そして精霊王として同化している魂でもあるオヤジは、このまま人間として生きていけるのか?


俺自身は人造生命体ホムンクルスであるので、オヤジから一年程度と以前宣告をされている。

この体になってからは言われていないが、もう一度言う必要がないからだろう。

だから、限りある命を精一杯使おうと思っている。


しかし、オヤジは?

この動乱が片付いた時、オヤジはどうするつもりなのだろう……。


俺は精霊王としてのオヤジの目的を何となく理解しているつもりだが、改めて聞いたことは無かった。


そのためにはあと何人いるのかも理解できた。

オヤジは精霊石の破壊と異世界人の数は同じとみているはずだ。


英雄マルスによってもたらされた時空のゆがみは、精霊石の破壊という事象で異世界人という特異な存在を招くに至った。


土精霊の暴走はひょっとすると英雄マルスに関係があるのかもしれないが、それはオヤジにもわからない。

その時に一人。

そのあと四つ破壊され、最後に風の精霊石として。

合計六人。


イングラム帝国の若き皇帝:ジークフリード・クラウディウス・アウレリウス

アプリル王国の若き英雄 :ローラン・オリファン

メルツ王国の暴君    :ベルセルク=ニコラス=ウル=メルツ

これを考えると、あとジュアン王国とイエール共和国に一人ずついるはずだった。

これで五人。


あと一人は?


国と人を考えるとアウグスト王国にその人は出現しているはずだった。


いや、まさか……。

俺はその考えを即座に否定した。

そんなことはない。


俺はこのことをこれ以上考えないようにした。

それはみんなが悲しむ未来しかない気がする。


ヘリオスとしてのオヤジはどう考えているのだろう。


もし、ヘリオスとしてのオヤジがそう思っているのなら、俺が全力で阻止する。

それが息子として生み出された俺の役割の思えてきた。


「オヤジ、あんたは一人じゃないぜ」

俺はそう言葉に出していた。


ダプネもヒアキントスも神妙な顔で俺を見守っていた。

俺の雰囲気の変化を、敏感に感じていたのだろう。


「ああ、悪い。親子の会話の一種だ」

確証がない以上、言葉に出すわけにはいかない。

二人には悪いが、あいまいにして、ごまかすしかないだろう。


今は、確定できない。

しかし、もしそうだとしたら……。

その時は、俺の行動を通して、オヤジにわかってもらう必要がある。

オヤジが考えていたいことを、そのまま返すのが一番だ。


「よし、行こう」

決意を新たにしてそう宣言する。

二人はその場で片膝をつき、俺に従属の意志を示していた。


目の前のことを、まだ何もできていない。

しかし、俺にはその先の先を考える力が宿っている。

俺は俺で考えて、その答えをオヤジにぶつけて見せる。


道は見つけた。

あとは楽しくも頼もしい精霊と共に一つ一つ片付けていこう。


「よし、まずはローランに会おう」

俺は宣言し、前線への道を歩いていく。


「オーケー、ボス」

「イエス・マスター」

二人は気合の声を上げてついてくる。


心強い。

俺は背中に大きな安心を背負っている気がしていた。


ヘリオスの考えていること、それを認識したアポロンはどういう行動をとって行くのでしょうか?

いよいよアポロン初の異世界人との交流になります。

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