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猜疑心(アプリル王国)

場面は変わってアプリル王国になります。時期的にはヘリオスがイエール共和国に入る前にあたります。

遠見の魔法と物見の水晶球の共演で映し出された映像は、見事なほどにアプリル王城を映し出していた。

ベリンダの力はもはやアウグスト王国だけでなく、その範囲を大きく拡大できていた。

水のあるところなら、そこを通してみることができる。

ただ、その水の特定に時間がかかるので、今回は物見の水晶球で特定していた。

精霊同士のネットワークを形成できれば、ベリンダの遠見の魔法は、おそらくその範囲は無限に広がるだろう。

大気中の水分だって、利用できるかもしれない。


しかし、今はそれを検証している場合ではない。

俺は、さっそく各地を観測するべく、最初の目的の場所である、アプリル王国王城の謁見の間を見ることにした。


***


「王よ。ローランの名声はとどまることを知りませんな」

謁見の間にて、大臣はそう王に進言していた。


「ブランカン、何が言いたいのじゃ」

王はその問いに自らの解答を求めているようだった。


「おうさまー。おうさまとえいゆうどっちがにんきものなのかな?」

道化がわらいながら、その場の答えを告げていた。


「マルシル、おぬしはわしがこう苦心しても、いつも台無しにしてくれるな」

ブランカンは苦虫をかみつぶしたような表情で道化を見ていた。


「はて、どうけのおいらにはなんのことか?」

マルシルは飛び跳ねて、ころんでいた。


「どうけはわらいにびんかんなのさ。おうさまはにんきにびんかんなのさ」

そういってマルシルは立ち去っていた。


「王よ、マルシルが申すことは一理あります。先の戦いにおいて、ローランは勝ちすぎました。王国騎士団がとどめを刺したにもかかわらず、民の間では、ローランのことでもちきりです」

ブランカンは自分の聞いたことをそのまま王に伝えていた。


「民は英雄を求めるものよ。王は英雄を認めるものよ」

王は自分に言い聞かせているようだった。


「ただ、少しお耳に入れておかねばならないことがありました」

ブランカンは王から視線を少しはずしていた。

その態度から、自分自身でも評価しきれていないのだろう。


「その方にしては珍しい言い方じゃな。申してみよ」

王は続きを聞くために命令していた。


「はい。どうも、ローランの勝利に疑問がございまして。あれだけ優位に戦っていたメルツ王国が、指揮官を倒されたとはいえ、拠点を丸ごと放棄して帰るのはあまりに不自然かと申すものがございます」

ブランカンは可能性にすぎないことを強調していた。

事実として、王国はローランの功績は認めなければならない。

それまで、王国軍は撤退の一途だった。

ローランとその仲間の活躍がなければ、ひょっとすると王都まで攻めてきていたかもしれないのだ。


「あのものはデュランダルの教え子じゃぞ、そのようなことはあるまい」

王はその可能性を否定していた。


聖剣デュランダルを持つ者は、その圧倒的な力を得る代わりに、潔癖を要求される。

もし、不義、不忠を働けば、その剣により自身が殺されるというものだ。

それ故、それを持つ者は代々デュランダル一族に決められていた。

その中から最もふさわしいものを選ぶというものだ。


そして代々その所有者は、その時に聖剣の名前を自分の名前にして王家に忠誠を誓うのだった。


「そうです。聖剣デュランダル、そしてデュランダル将軍は間違いないでしょう。しかし、ローランは魔剣ソウルプロフィティアの保持者です。かの魔剣は魂を貪り食うものです。ローランはその力を敵に対して使うと宣言していました」

ブランカンは出陣する前のローランの宣誓を話している。


「ならば、問題あるまい」

王もその宣誓を承認していた。


「はい、それはアプリル王家に対する敵ではなく、ローランの敵という意味にもなります。たしかに、あの時ローランは自身の敵を滅ぼすためといいました」

ブランカンは宣誓でのローランを思い出しながらそう告げていた。


「なにがいいたいのじゃ」

王はブランカンに結論をせかした。

それは、王としてもそう認識できると判断したからだろう。


「もし、ローランが敵に内通したらどうなりましょう。ローランのもとに主力を置くのは危険かと思います。一度、デュランダル将軍を呼び戻し、ローランの真意を探るべきかと」

ブランカンの提案。

それは、最終的に判断しかねるにせよ、現状無難なものを選んだ感じをうける。


「それは、かえって逆効果にはなるまいか?」

そのことで、かえってローランが不満を抱き、裏切る可能性を王は考えたのだろう。


「仮にそうなったとしたら、それは時間の問題だったということです。いずれは裏切ったでしょう。大事なことは、デュランダル将軍とその指揮下にある騎士団をローランのもとに置くと、そのまま英雄の軍になる可能性があるということです」

ブランカンは基本的にローランを信用していないような口ぶりだった。


「そうだな……。デュランダルを呼び戻せ。あの者の口からローランのことを聞こう。そうすれば、納得もできよう」

王はまだ、判断できないようだった。


「仰せのままに」

ブランカンは恭しくお辞儀をしたのち、謁見の間から退出していた。



「王は英雄を承認する。しかし、王は誰が認める?」

アプリル王国国王、ガヌロン・ド・マルシリウス。

彼は反対派をすべて毒殺したことから、毒殺王の異名を持つ。

猜疑心の強い彼は、いったん疑うと、とことん疑う方だ。


それにしても、予想通りローランを危険視してきたか……。

英雄と王の関係は、やはり難しいものだ……。


アポロン、後は頼んだからね。


さて、イエール共和国に行く前に、メルツ王国を確認しておこう。

噂の暴君がどうしているのかを見ておかないと……。


しばらくアプリル王国の話になります。

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