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三顧の礼(イエール共和国)

改稿にて入れ替えました。

「ほんまに、ヘリオスさんの言うとおりでしたわ」

わしは心底、感心しとった。

というよりも、恐ろしうてかなわんかったわ。


「なんでわかりましたんや?」

議長だけやない。

護衛の騎士の反応までも、ヘリオスさんの言うとおりやった。


「いえ、彼が知っていると思われる知識を試しただけです。今回のことで、伏龍といったということは、もう確定的ですね。僕が議長の味方になりますと言ってると思ったのでしょう。これで、三度目に来るかどうかですが……。来ない方がありがたいのですが、おそらく来るでしょうね。しかも、私が昼寝をしていることを知っています。そして店の前に立っていると思いますよ」

楽しそうに笑ろうてはる……。


「本当に、愉快なのは、議長のほうですよ。たぶん彼は、僕のことを異世界人と認識したでしょう。そして、自分もそうだと教えています。しかも、イングラム帝国が強くなりすぎたことに多少なりとも焦っている彼に、僕が何かしらをもたらすと思ってますからね」

わしの顔見て、わしの心まで読んできはった。


「そして、実際そうなります。その時、彼は僕を信頼するでしょうね。そこまでは、まだ化かしあいです。とにかく、彼がこの戦乱の黒幕であることはまちがいありません。この国に来ていろいろ調べましたが、結構な額が帝国に流れていますね」

とんでもないことをさらりと言いはった。


「そっ、それは、どういう……」

声が震えてしまうのは、しかたないやろう。


「人の営みには必ず。流れがあります。モノの流れ、金の流れ、情報の流れ、それぞれを単独で見るとわかりにくいですが、結び付けてみると、意外にちゃんと一つのところに集まります」

どこからか持ってきたかわからん数冊の帳簿の写し。

しかも、ところどころに丸がつけてあった。

そして、記録魔道具の映像は、荷物の行方を鮮明に映してあった。


「これは、トラバキへの食糧の帳簿ですね。しかし、この商店が同じ時刻に輸出しているのは海路です。しかもこの船はメルツ王国のものです。そして、武具。これはアプリル王国になっていますが、これもさっきと同じ船に乗っています。つまり、これだけ見てもアウグスト王国、アプリル王国へそれぞれ輸出しているものがすべて、メルツ王国に流れているということです」

あいた口がふさがらんかった。

これをこんな短時間に見つけてはった。


しかも、記録用魔道具の映像は、この街の至る所に設置されてるあの魔道具から取ってはるんやろう。

あん時、道を探してはったのも、この魔道具を設置したのも、本当の目的はこれやったんか……。


「わしはてっきり新作の魔道具を作ってはるのかと思ってましたわ……」

昨日からヘリオスさんは部屋にこもったきり出てこんかった。

食事を運ばせたときも、でてこうへん。

あとで食べると言ってたから置いといたものも、全く手を付けてへんかった。


「まあ、それもありますけどね」

その瞬間、なんや雰囲気が変わりはった。

おもむろに取り出したそれは、ところどころ穴の開いた丸い球やった。


「何ですかそれは?」

そう聞かなあかん気がする。

ヘリオスさんの眼がそういっとる。


この人が、魔道具説明するときの眼や。

見たことないけど、ヘリオスさんの言う学長先生がゴーレムの話をするときは、こんな眼してはるんやろうな……。


「これは、お掃除用魔道具です。名前はまだ付けていません。これをモニターしてくれる人を探しています。対象は、ある程度広い家に住んでいて、最近子供が生まれたような夫婦がいいですね」

めずらしく、やけに具体的やった。


「しかし、名前がないと不便というか……。せめて仮の名前でもいただけませんか?」

名前なかったら説明しにくいやんか……。


「クリンQ」

やけに自信たっぷりな表情に、わしは微妙な笑みしか返せんかった……。


デルバー一門は優秀な魔道具をつくりはるけど、その名前だけは、あかんわな。

リライノート作だけやで、ほんま……。


「では、そのクリンQの使い方を教えてくれまへんか」

まあ、とりあえずそれは置いとこう。


「そうですね、これはその動きに特徴があるんです。球体ですからコロコロ転がるんですが、覚えこませたエリアで清浄化ピュリファイの魔法を発動できるというものです。大気中の魔力マナを集めるのに、一日はかかるでしょうが、それでも、男爵家の屋敷ぐらいは毎日かけれます。魔力マナを扱える人がやれば、すきなだけ使えます。ただ、一年に一回コアを入れ替える必要があるでしょうが、それも今後の課題です。段差があると、この穴から空気を射出して飛び越えます。階段は一気に駆け上がるので、人がいると注意ですね」

淡々と説明するヘリオスさん。

わしはあいた口がふさがらなかった。


清浄化ピュリファイの魔法


これはご婦人が望んでやまない魔法やで。

なんてもんを作るんや。

この人は、まさに主婦の味方や。


しかも、男爵家の屋敷やて?

これがあるだけで、街は一瞬できれいになるし、家は塵ひとつないものに変わる。

子供がどれだけ汚しても、まったく問題ないやないか。


「なるほど、それで子供が生まれたばかりなんですな」

手が震える。

こんだけのもん、いったいどんだけの価値が付くんやろか……。


人々の暮らしに役立つものをつくる。

一貫してこの人の魔道具はそうやった。

魔術が使えない世間の人たちのために開発し続けるこの人は、まさに世間をよくする魔導師やわ。


「ヘリオスさんの魔道具は、みんなを笑顔しますわ」

感じたままの言葉が、自然と口をついて出た。


「魔法は人を殺せるんですよ」

けど、ヘリオスさんは悲しそうな顔してはる……。


「だから、魔術師は自分の力を戒めています。人々はそんな彼らを恐れ、敬い、そして、距離を置いています。僕は魔術師たちに自分たちから一歩踏み出してほしいんですよ。人々に歩み寄り、魔法という学問を、魔術という技術を人々の役に立つものにすることを目的にしてほしいんです。都市を破壊することを目的に、一生懸命魔術を磨くより、街をきれいにする魔法を使った方が気持ちいいじゃないですか。みんなが笑顔になるには、まず自分も笑顔にならないとね」

さっきとは違い、照れた笑いをうかべてはる。

きっと話しすぎたと思ってはるんやろ。


ホンマにこの人は……。

わしはますますこの人のために働きたくなっとった。


「では、そろそろ会いましょうか……」

一転して、ヘリオスさんは話を元に戻してきはった。

なんや、照れくさいんやろな……。



それからはヘリオスさんの言うとおりになっとった。

議長はわしの店の前で、ずいぶん長い間待っとるにもかかわらず、楽しそうやった。


けど、お供の二人はというと……。

それはもう、こっちが見とっても分かるくらい、怒りを隠そうとはしてへんかった。

そんな中、ヘリオスさんがホンマに昼寝から起きてきはって、議長に挨拶をしにいきはった。


ホンマ、この人は大物やで……。


「これは、ナルセス・ベリサリウス議長様、いままでお訪ねいただいて申し訳ございません、あまつさえ、本日のようにお待ちいただくことになるとは、重ね重ね、申し訳ございません」

そう言って頭を下げるヘリオスさん。

その物腰に、お供の二人は面くらっとった。


「いいえ、ヘリオス様。私があなたに会いにきただけです。会えるということにおいて、私はどこまでも待ちましょう」

議長のそれは、まさに演劇や。

自分によっとる。

そんな感じや。


わしはヘリオスさんの偉大さを、またみたような気がした。


この交渉劇において、すでに議長は役割を演じとる。

議長が書いとるシナリオは、すでにヘリオスさんによって用意されているもんや。


そうと知らずに演じるのは、まさに道化。

議長は十分、その役割を演じとった。


「わたしは若輩者にて、議長のような方に何一つ提示することはできない浅学菲才の身。このようにお待ちいただいて申し訳ありません」

ただただ、かしこまるヘリオスさん。

さすがや……。

護衛の両騎士は、その様子をさも当然という雰囲気で見とる。


「まあ、この辺でいいのではないですか? ラモス議員、奥の部屋でお話ししてもよろしいかな?」

満足そうな議長は、わしにそう告げていた。


わしも決められた通りに、二人を案内する役目を演じとく。

まあ、わしが演じれんのは、せいぜいこのくらいやな。


それからしばらく、二人は何やら話しこんどった。

時折起こる議長の笑い声。


頃合いを見て、紅茶のおかわりをもっていったけど、議長は終始笑顔やった。

ヘリオスさんはその愛らしい笑みで、議長を魅了しているみたいや。




「それではヘリオス様、教えをいただきありがとうございました。またお会いできることを楽しみにしております」

議長はそう言うと、護衛二人を伴って帰っていく。


正直ほっとしたわ。

あれでも議長は裏がありすぎる人物や。

さっきの帝国への物資は、議長の息のかかった商会のものや。

つまりは、議長はこの動乱に、積極的に関与しているということや。


ヘリオスさんはそれを知って、議長を誘い、そして見定めたに違いない。


「どうでしたか?」

いつまでも見送っとるヘリオスさんに、議長の感想を聞いてみた。

心なしか、その顔は少しやつれとる。

よっぽど疲れたんやろうか……。


「まあ、想定内だったけど、違う意味では疲れたね」

肩をまわしてコリをほぐすしぐさをするヘリオスさん。

そんな姿、はじめてみたわ……。


「何かあったんですか?」

気になるわ。

つい、そう尋ねてみた。


そしてわしは見てしまった。

たぶん、一生忘れられへんやろう、その顔を。


心底、うんざりした顔で、ヘリオスさんはわしを見てきた。


「疲れたのは、議長の性癖だよ。彼、男が好きみたいだよ……」

あいた口がふさがらん……。

そう言えば、議長は独身やったわ……。


それから七日間。

毎日通ってくる議長に、ヘリオスさんは丁寧に対応してはった。

街に買い物に行ったり、食事に行ったりと積極的に議長との交流を深めとった。

そしてわしは指示通り、その様子を余すところなく、記録魔道具に残しとく。

日に日に、やつれていくヘリオスさんの顔は、正直、記録したくなかったけどな……。


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