陰謀(イエール共和国)
改稿で入れ替えてます
「それで、奴は立ち上がりそうか?」
男は机の書類に目を向けながら、独り言のようにつぶやいていた。
暗い部屋の中で、男の前の机の明かりだけがこの部屋で世界を作っていた。
「難しいでしょうな」
どこからともなく、声がした。
その声は、机に向かう人物にそう告げていた。
「いま、あの国で実権を握っておかねば、後手に回りすぎる。アプリルが持ちこたえている間に、力あるものがとってかわらねば……。わかるな」
男は書類から目を離さずに、そうつぶやいていた。
「血のつながりがあれば、何とでもなるが……。妹を担がせるにも、今は国外で無理だ。ただ、奴の名声は皇太子よりも上だ。やるなら、今しかない。クーデターを起こさせて、政権を握らせろ。今までのようなぬるい手ではなく、邪魔者は排除しろ。いつものように、それは気取られるなよ」
男は手を止めて、少し考えていた。
「皇太子をたきつけろ、副官に罪をきせる。そうすれば、奴は自己制御できないだろう。こっちはうまくいっているから、あとはジュアンだけだ」
そう言って男は、ほくそ笑んでいた。
「仰せのままに」
その声は、遠ざかるように掻き消えていた。
「予定通り」
自らの禿た頭を撫でつつ、男はその言葉に酔いしれているようだった。




