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ナルセス・ベリサリウス議長(イエール共和国)

改稿で入れ替えました。

先にイエール共和国の話が続きます。

「主人、おや、これはラモス議員。ここはあなたのお店でしたか……。それは話が早い。こちらにヘリオス様がいらっしゃると聞きましたので、ぜひお会いしたいのですが?」

これは、化かしあいだ。

わしは精一杯下手に出た。


「おや、それは、それは。しかし、残念ですな。ついさっきまでわしと話しておったのですが、今はもういらっしゃいませんよ?」

よくもまあ、ぬけぬけと言いよる。


ラモスとヘリオスの関係は調べがついている。

今日この店に入っているのも知っている。

しかも、ここから出ていないのも知っているんだ。


ラモスとて、このわしのことを知らないはずがない。

このわしが、なにも調査をしないで来るはずがない。

それでも奴はしらを切った。


わしの化かしあいを堂々と受ける気だ。

なかなか度胸がある。

この国で、こうもあからさまにわしにたてつく議員がいるとはな。


おもしろい。

思わず笑みがこぼれる。

しかし、後ろの者達はちがったようだ。

背中に感じる、剣呑な雰囲気を手で制しておく。

どこまでやれるか見てみたいのだ。


「それは、残念なことをしました。こちらにはまた来られるとか話されていましたか?」

ラモスの奴は平然としている。

今もなお、後ろで殺気立っているのがわしでもわかる。

ラモスにとっては、見たくなくても見えるはずだ。

それでも動じずに、このわしに笑顔を向けている。


やはりどこかで奴はこの光景を見ているに違いない。


「ええ、共和国のことを知りたいので、ここにも何回かきはると言っとりました」

なお、笑顔を絶やさぬラモス。

こいつもこいつで、なかなかやりよる。


それにしても奴め、そうきたか。

どうやら、こちらを焦らすつもりのようだ。

わしの行動など、お見通しということか。


わしは試されているのか?

たかだか十五歳の若造に……。


まあいい。ここは引き下がろう。


「それは、それは。では、私が来たことをお伝えください。今度、ぜひお会いしたいと」

なかなかやるが、ラモスの奴は傀儡にすぎん。

奴がこの国で何をたくらんでいるのか、直接会って話さねばならん。


そして、この目で見極める必要がある。

わしの邪魔となるのか、利用できる駒なのか。


忌々しいが、少々帝国が力をつけすぎてきた。

このまま放置したのでは、バランスが崩れる。


勝つのはいい。

しかし、勝ちすぎては困るのだ。

世界の安定は、わしの手の中でこそ、その意味を持つ。


帝国の対抗馬としては、ジュアン王国のユリウス・カエサル将軍がいる。

しかし、イングラム帝国皇帝ジークフリード・クラウディウス・アウレリウスに比べると、どうしても見劣りしてしまう。

それと残念なことに、現国王と将軍は血がつながっていない。


第三王女は、将軍の母親が後宮に上がってからの子だ。

いや、上がるきっかけとなった子だ。

だから、将軍はいっさい王家の血は流れていない。


物を知らないジュアン王国の奴らは、その影響で将軍が現職についていると勘違いしている。

馬鹿なことだ。

将軍はその実力でそこにいる。

多少の運もあるだろうが、それも実力のうちだ。

しかし、残念なことに、情にもろい。

それはそれで、使い勝手はいいのだが……。

こういう決断の時には、それは邪魔でしかなかった。

それらが、対抗馬としては物足りなさを感じる原因だ。


一方のイングラムで内紛を起こそうにも、あの皇帝は国内をしっかりまとめている。

いま、帝国外で手を打たなければ取り返しがつかない。


政情の最も安定しているアウグスト王国。

英雄マルスが健在ならば、その役は彼が担うものだったのだが……。

しかし、英雄は倒されてしまった。

少々痛い目を見てもらうつもりでラモスの行動にも目を瞑っていたが、いつの間にか倒されてしまっていた。


信じられんが、わしの誘いを断った報いだな。

所詮はそれだけの男だったとあきらめるしかない。

物事には流れというものがある。


英雄マルスを打倒したカルツ、メレナ、カール、バーン、シエル、そしてヘリオス。

さっそく、この六人を調査して、今のところ分かっているのは残念な結果だけだ。

誰もマルスの代わりにはならない。

彼らは一流ではあったが、最大見積もっても、ユリウス・カエサルと同じ程度だ。


しかし、ヘリオスだけはまだ調査が完了していない。

謎の爆死。

奴を魔法的に見た場合、そのすべての人間が爆死している。

だから、ヘリオスは謎につつまれた人物という評価で保留状態だ。

その奴が、今この国に来ている。

魔法的に見れない以上、直接見るしかない。


うわさでは、賢者となっているヘリオス。

それは、伝説の賢者の再来を意味しているのか。

それならば興味深い。

しかも伝え聞くところによると、賢者ヘリオスは英雄マルスの息子ということだ。

これは期待できそうだった。


だから、わしが直接会うことにした。


しかし、わしが会おうと思った最大の理由はほかにある。

それを確かめなければならない。


それにしても、ヘリオスほど評価しにくい人物は初めてだ。


奴は幼少期までは無能の烙印をおされていた。

奴が化けたのは学士院アカデミーに入った後だ。


デルバーの指導の下、実力をつけたのか?

それとも、英雄の血が覚醒したのか?

それすらわからない。

しかし、ヘリオスはノイン伯爵を単独で葬ったということだ。


そんなことがあるものか。

最初聞いた時はその情報を一笑に付したものだった。

ジル=ツー=ノイン伯爵。

やつは真祖だったはずだ。

本当に真祖を葬ったのであれば、英雄クラスになる。


無能がいきなり英雄?

この世界で、そんなこと起きるはずがなかった。


しかしそれ以外にも、奴には不可解なことが多すぎた。


マルスが生きている時、ヘリオスはこの国にも工作を仕掛けていた。

魔導監視装置の導入。

表向きは、デルバーの奴が指導しているが、工作をしているのは間違いなく奴だ。

だから、ラモスとも知り合いになっている。

その見返りに食糧と塩の取引を持ちかけてきたときには、マルスに対するあてつけの意味もあったが、ありがたかったのも事実だ。


そして今、この国では犯罪が激減している。

それはあの魔導監視装置の存在が大きいといえるだろう。


そして、それが謎のひとつ。

あれは監視カメラだろ。

ロンドンを意識したその設置方法は、解析方法においてロンドンを凌駕している。


向こうの世界にはない、魔法の偉大さだった。


それに奴は、アウグスト王都では改良も加えていると聞く。

王都では、画像解析だけでなく、警察組織に似たものを組織化していた。


最初は、あくまで取り押さえではなく追跡だった。

しかし、今では捕縛権も持っているらしい。


証拠映像を持って追跡されるのは、正直さらされているのも同然だった。

逃げるわけにいかず、抵抗もできないそれは、一種の拘束力をもっていた。


そういう知識をどこから持ってきたのか、不明だった。

異世界人だと思ったが、それでは無能者であるはずがない。


そもそも異世界人であれば、程度の差こそあるにしても、生まれた時から、この世界の人よりもかけ離れた力を持っている。


英雄マルス、皇帝ジークフリード、ユリウス将軍は戦士としての能力に秀でている。

ようやく注目を浴びた、英雄ローランもそうだ。

馬鹿のメルツ王国の国王ベルセルク=ニコラス=ウル=メルツにしても、その単純な力は桁外れだ。

わしをのぞけば、皆戦士だ。

わしだけが特別。

薬師の家に転生し、それにふさわしい能力をもっている。


しかし、ヘリオスにはそれが無かった。

学士院アカデミーに入ったときも、初級の魔法しか使えていなかったらしい。

それでは、異世界人ではないと考えるしかない。

そうなると考えられるのは、デルバーだ。

確かに、あの男はマルスと親しかった。

マルスから知識を得ていた可能性は十分にある。


しかし、不明なのは、今になってそれを出してきたことだ。

確かにあの魔道具はすぐにできるものではないだろう。

王国に設置したのも、組織化したのも最近になってからだった。


そして何故かその手足として、ヘリオスが表に立っている。

知れば知るほど、ヘリオスのことが分からなくなっていく感じだ。



だから何としても、この目で見定めなければならない。



「あ、それとラモス議員。もしよければ、ヘリオス様が来られた時に、教えていただけるとありがたい。すぐに駆けつけますので」

こいつに頭を下げてでも、会わなければならない。


「ええ、他ならない議長の頼みです。私も精一杯努力します」

ラモスの奴は笑っていた。

これを貸しとするつもりだろう。

奴の腹は読めていた。


「ええ、お願いします」

わしは禿た頭をなでながら、つくり笑顔を残して立ち去ることにした。



***



「いいんですか。あんなに下手に出て。足元みられませんか?」


「おれもユスティの意見に賛成です。奴はきっと奥にいたに違いないです。俺が行ってふんじばって来てもよかったんですぜ」


「ニアヌス、君はすぐそういう行動に出る。議長が自重したんだ。私たちが軽挙してどうする。私が言いたいのは、ラモスに圧力をかけた方が早いのではないかということですよ」


「すぐそこにいるのにか?」


「君は馬鹿ですか? 相手は魔術師。飛んで逃げたらどうするんです」


わしは二人の護衛騎士の話を聞くとはなしに聞いていた。


二人の意見は、そのままわしの内なる意見だ。

それを聴くことで、客観的に考える。


馬鹿な意見と評されたニアヌス。

しかし、彼の意見は最短ルートで解決するための意見だ。


そして慎重な意見のユスティ。

彼女の意見は無難な解決方法だ。


「二人とも、今日はいい。おそらく奴はあそこにいただろう。しかし、わしという人間がどういう人間かを見ていたに違いない。ここは奴の思惑に乗るとしよう」

踊らされているふりをすればいい。

それで奴の知恵の程度を見定めてやる。

せいぜい、高みの見物をしてるがいい。



***



その知らせがもたらされたのは、それから二日たった時だった。


しかも、その日は重要な会議があった。

幸い、議会調整は終わっていたので、わしがいなくても議案はスムーズに通るはずだ。

議長不在でも、まあいいだろう。


「午後の会議はすべてキャンセルだ。体調悪化でもなんでもいっておけ」

秘書に命令し、ユスティとニアヌスをつれてラモスの店に急いだ。


「いやー。さっきまでは、いはったんですけどね」

奥の部屋に案内したラモスの顔は、悪びれる様子もなかった。


「あ? おまえ、ふざけてるのか?」

案の定、ニアヌスが反応している。


「こっちは午後の会議すべてキャンセルしてきたってのに、そういう態度かよ」

ニアヌスは本気で怒っている。


しかし、ラモスも肝が据わっていた。


「そういうたかて、おらんもんはおらんですわ。わしはただ、きはったから、きはったと告げただけですわ」

のんびりとした口調。

それにいらだちを感じずにはいられなかった。


「待っとくようには伝えなかったのですか」

ユスティが静かに圧力をかけていた。

こっちもこっちで、怒っているようだ。


「あんた、そんな当然のこと聞かんといてくんなはれ。そんなことしたら、人としてあかんのちゃいますか?」

ラモスのいうことは正論だ。

来たことを告げるのに、待ってくれと言わないことがおかしい。


ということは、来ることが分かっていたが、いなくなったということか。

つまり奴にとっては、わしはその程度ということだ。


「若造が! 生意気な!」

その意味を正確に理解したニアヌスの怒りは、頂点に達したようだった。


「礼儀を知らぬと見える」

ユスティもいつになく、その怒りをあらわにしている。


そんな二人の会話を聞いていたわしは、冷静にこの状況を考えていた。


本当に会いたくなかったのか?

それならば、ラモスに報告させなければいい。


そもそも、わざわざこの店に来る必要はない。

魔術師なのだ、好き勝手に見れば済むはずだ。


では、何のために?


「生意気な若造」

「無礼者」

さっきから同じ単語しか二人は言っていない。


怒りの感情にとらわれると、思考が単純化する証しだった。


しかし、わしの中で、何かがそれを告げていた。

無礼な若造、短気な従者、権力者、賢者……。


三顧の礼か!

その故事にちなんだやり方。


そうか、奴は異世界人か。

わしの知らないところで、わしの知っていることは別の方法で転生したということか。


そして三顧の礼の意味するところは、わしの役に立つということを示している。

そして、それが分かるかどうかを試している。


かわいいもんだ。

思わず高笑いしていた。


「議長?」

二人は目を丸くして、このわしを見ていた。


「ああ、すまない。いや、こんな愉快なことはここ何十年もなかったものでね。ラモス。今日のところは出直してくる。ヘリオス様に伝えてくれないか」

洒落た演出に感謝して、それにちなんだことで返そう。


「わが伏龍たらんことを」

こんなに気分のいいことは、本当に久しぶりだ。


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