躊躇逡巡
幕間的なお話です。
あるところに、国を憂う若者がおりました。
その若者は、未来を憂うあまり、ある選択をしようとしています。
「この国はもう終わりだ。国王はすでに国政に興味なく、民は貧しくなる一方、貴族どもは自分たちの財を増やすことしか頭にない。将軍の牙は折れ、文官どもは欲にまみれた。平和な時代が民衆を怠惰な存在にしてしまった……」
整った顔が怒りに歪んでいる。
それでも、その男からは品位を感じる。
整った顔に、しっかりとした体つき。
憤りを見せるその男は、見るからに美丈夫だった。
「だからあなたが立ち上がるのでしょう? あなたの信じる未来を見せてください」
そう言って美丈夫を静かに見つめる男がいた。
年を重ねたその男の顔には、油断のならない雰囲気があった。
「しかし、私は迷ってもいるんだ。私がここで蜂起するということは、一方で家族といえる者を殺すということになる。私はそんな不義理を容認できる人間なのだろうか……」
美丈夫は、自分の気持ちが揺れていることを吐露していた。
「あなたのその優しさは、賞賛に値します。しかし、優しいだけでは何も生み出しませんよ。時には厳しさも必要です。優しいだけの政治は怠惰です。人の上に立つということは、自分の甘さ、弱さを捨てることでもあります」
年齢を重ねた男の言葉は、美丈夫の心を揺り動かしているようだった。
「自分の力を民衆のために使わないことはもはや罪です。お伝えしたように、民衆は貧困にあえいでおります。ここに避難民が押し寄せた場合どうなります? 現国王はそれを容認されました。もはや無能を通り越して楽天家としか言いようがありません。自分の家族が明日食べるものを気にしているときに、隣の家族のために食料を渡すようなものです」
年齢を重ねた男は、静かにそして恭しく美丈夫にささやいていた。
「明日のために……。明日のために……か」
美丈夫はその言葉の意味を考えるかのように繰り返しつぶやいていた。
「案外、アウグストはそれを狙っているのかもしれませんよ? あの姫もあの国に染まったのかもしれません」
年齢を重ねた男は、目を細めながらささやいていた。
「あの子はそんな子じゃない。ただ、この国のことは知らないだけだ」
美丈夫は、それをすぐに否定していた。
「そうでしたね。ああ、あの姫はあなたの妹ですよね。あなたから説明してあげてはどうですか? この国にそんな力はないことを……」
年齢を重ねた男は、もう一度諭すようにささやいていた。
美丈夫は、何も言わずにうつむいていた。
腕組みをしながら、思案している。
「なんにせよ、これはこの国の危機でもあります。あなた以外にそれを救う手だてを知りません。お友達ともよく相談されたらいいです。私はあなたの味方です。あなたの望むものを手配しましょう」
年齢を重ねた男は、頭を下げていた。
「たのむ。もう少し考えさせてくれ……」
美丈夫は苦しそうにうつむいたまま、そう告げていた。
「はい。私は一度国に帰ります。何かございましたら、またご連絡ください。私はあなたにこの国の未来を救っていただきたいのです。私の商いのためにも」
年齢を重ねた男は、自らの目的を隠さずに告げていた。
「うむ」
短く答える美丈夫は、なおも思案を続けている。
「では、失礼します」
年齢を重ねた男は、顔をあげない美丈夫に向けて挨拶すると、部屋をあとにしていった。
部屋の扉をしめるとき、もう一度中の様子を盗み見た男は、小さなため息を漏らしていた。
いつまでも腕を組んだままの美丈夫は、身動きもせずにそのまま考え込んでいた。
何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。しかし、その決断はその意味が大きければ大きいほど、ためらうものです。
美丈夫はこれからどういう結論をだすのでしょうか?




