精霊たち
精霊たちの主張でした。
ミミルは怒っていた。
しっかりと自分の腰に両手を当て、ホバリングをしながら怒っていた。
足を少し広げたその格好は、小さな体を最大限に大きく見せていた。
「なんなのあれ!シルフィーちゃん!!」
怒りの矛先を向けられたのは、緑色の長い髪をした少女だった。
人にはない美しさが、その姿に現れていた。
精霊が人化した姿だった。
その姿で、自分よりもはるかに小さな妖精に怒られ、ちょこんと正座をしている。
そして、神妙な顔で、その言葉を聞いていた。
「もう少しでヘリオスってば、いっちゃうとこだったじゃん!」
シルフィーと呼ばれた少女のおこした風について、ミミルは怒っているようだった。
「ごめんなさい…。」
シルフィーと呼ばれた少女は素直にあやまっていた。
「誤ってすむなら、ミミルはいりませんよ!これはもう、ミミル的にお仕置きが必要ですね!」
そう言ってミミルは意地悪そうな表情かおを見せていた。
「ミミル、もうそのへんでいいでしょ?何とかなったんだし…。シルフィードも悪気があったわけではありませんよね?」
そばで聞いていたベリンダは、珍しく人化しながらそう助け舟を出していた。
長く青い髪は、シルフィードの風を受けて、気持ちよさそうにおどっていた。
「当然です!」
シルフィードは当たり前といわんばかりにその言葉を言い放つ。
その迫力にミミルも少し気圧されたようだった。
「わたしはヘリオス君にずっとついていたんだよ。彼のいいとことか、ちゃーんと知ってるんですー!そんなわたしが彼を…こまらす…こと…なん…か…」
徐々に小さくなる声に、ミミルとベリンダは顔をみあわせていた。
「まあ、そうですね。シルフィードも、風の精霊石を壊されても自重したんですし、ミミルもその辺で許してあげてね」
ベリンダの言葉は丁寧だが、これ以上は言わせない迫力があった。
しかも、真顔でミミルに迫っていた。
「うぅ…。まあしかたありませんね!ベリンダに免じてミミル的に許してあげます!」
尊大に構えると、ミミルはシルフィードの頭をなでていた。
「ありがとーミミちゃん」
シルフィードは満面の笑顔でミミルに答える。
「うっ!? ミミちゃんってあたしぃー?」
とんだ反撃をうけたミミルは、対応に困りベリンダの後ろに隠れていた。
「はいはい、今はこれからのことを確認しましょう。ミミルも分かったでしょ?シルフィードの笑顔は反則級よ?」
どっちも困ったものだという様子で、ベリンダは手を打ち鳴らしていた。
そして、自分たちのなすべきことを確認するために、話を前に進めていた。
「まず、ミミルはこれからどうするの?お互いの協力のために、まず確認しておきます。」
ベリンダの口調は、3人の協力が重要だと物語っていた。
そして、自分がそのまとめをしていく意思を示していた。
「あたし?なにもしないよ?」
ミミルは、目を丸くして、意外そうにそう答えていた。
ベリンダは黙ってうつむいていた。
「ベリちゃん?女王様の話、ちゃんと話聞いてたの?」
ミミルは不思議で仕方ないという顔をしていた。
ベリンダの体から、得体のしれないものが立ち上っていた。
「…ミミル?あなたヘリオスについていないといけないんじゃなかったっけ?」
殺意を伴った視線が、容赦なくミミルを貫いていた。
「ひっ…。うそうそ、ベリちゃん。そう怖い顔しないで!ねっ。その顔で凄まれると怖いんだって…。美人が台無しだよー」
ミミルはおどけてそう答えていた。
しかし、ベリンダは許さずに、凄みを増した表情でミミルに迫っていた。
「ミ・ミ・ル…?」
ベリンダは器用にミミルの襟首をつかむと、自分の目の前にミミルを持ってきた。
「はい、使い魔になってそばにいるであります。そのためには、まずはペットとして乗り込みます!」
ミミルは敬礼しながらそう答えた。
「そう?おねがいね…」
ベリンダは疲れた顔で、そう答えた。
そっと漏れたため息は、ミミルの相手は疲れることを物語っていた。
そのやり取りをシルフィードは、他人事のように眺めていた。
しかも、われ関せずと適当に風でミミルを扇いでいた。
「それで、シルフィードはどうするのかな?」
先ほどよりもさらに凄みを増した笑みで、ベリンダは確認していた。
「えへへ。わたしは、ヘリオス君のそばにいるんだー」
緊張感のない声で、シルフィードは自分の行動を伝えていた。
「まあ、それはそうなんだけどね……。あなたが言うとなんだか違う気がするわ……」
ベリンダは肩をすくめてシルフィードに告げていた。
「ひっどーい!」
口をとがらせて、シルフィードは文句を言っていた。
「そう?じゃあ、シルフィード。ヘリオスの体、しっかりまもってね」
ベリンダはそう言って、シルフィードに念を押していた。
「はーい」
しかし、帰ってきたのは、わかっているのか、わかっていないのか、はっきりしない返事だった。
「まあ、あなたのことだから、やることはしっかりするでしょうけどね・・・」
ベリンダの言い方はすこし投げやりな感じになっていた。
「当面は屋敷に近づくのはシルフィードだけで。ミミルと私はここで待つわ。後はお願いね、シルフィード」
ベリンダは、そっとため息をつくと、気を取り直してそう告げていた。
「はーい」
シルフィードはそう言って人化を解き、風となって屋敷のほうへ飛んで行った。
「あとはヘリオスの回復を待つだけね…」
話を聞かずに飛び回っていたミミルの襟首を捕まえて、ベリンダは軽く指で額をはたく。
「はい…」
半分涙目になってミミルはそう答えたのだった。
「ふう…こんなんで大丈夫なのだろうか?お母さま。お聞きしたいです…」
ため息をつきながら、ベリンダはそうつぶやいていた。
少しやつれた感じのその姿は、言いたくても言えない苦情を、ずっと飲み込み続けていることを物語っていた。