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精霊たち7

精霊たちは今回の出来事について話し合っていました。

「あかん、もうウチしんどい。おふろはいりたいー」

ノルンちゃんは体を投げ出して、身動き一つしなくなっちゃった。

頑張ったもんね。


「ベリちゃんはどうだったの?」

もう、ノルンちゃんは応えてくれそうにないよね。

でも、その気持ちは分からないでもないかな。

なんだか昔のヘリオス君に通じるのかも……。


「うーん。ちょっと不安かも……」

ベリちゃんは少し表情を曇らせている。

ベリちゃんは心配性だからなぁ……。


「まあ、ウチもきらいじゃないよ。ただ、背伸びしたいというか、なんというか」

ノルンちゃんでも迷うんだ……。

なんだか新鮮な気分。


「駄々っ子」

気持ちいいくらいあっさりと、ミヤちゃんは切り捨ててる。

ミヤちゃんってば、ヘリオス君以外にはほんと厳しい……。


「そう、それやわ。そんな感じ。どうしたらいいか、わからんようになってね」

疲れた顔のノルンちゃんは、ミヤちゃんの意見に頷いていた。

でも、そう言われると、そうかもしれないなぁ。


「それで、怪我の具合はどうなの? 怪我というのかわからないけど」

なんて言っていいか分かんないけど、怪我でいいよね、たぶん。


「あれはびっくりしたわ。回復魔法を受け付けたゴーレムなんて初めて見たわ」

ノルンちゃんもそっちに驚いたのね……。

でも、私も驚いたわ。


「そうよね。ヘリオスの回復魔法もすごかったけど、それで手足が復活したのにはおどろいたね」

ベリちゃんは両方に驚いていた。


「しょうがない。ヘリオスは最高」

ミヤちゃん、それはわかってるよ。

本当に、それしか頭にないよね。

でも、マルスとの戦いのあと、ヘリオス君は一段と強くなってる気がする。

なんだろう、ますます精霊王の存在に近づいているような……。

でも、それって人間のヘリオス君がいなくなっちゃうことなのかな?

魔法の使い方だって……。


「そういえば、あの時って、ヘリオス君いったいどのくらい魔法使ってたのかな?」

回復魔法もそうだけど、ヘリオス君は魔法をいくつも使ってたよね。

でも、呪文を紡いだ様子もなかったし、よくわかんない間に、魔法ができてたのよね……。

いったいどうなって……。


そんな時、かすかな揺れを感じて、私の思考は中断された。

なんか、今揺れたよね?

そう思ってみんなを見ても、それぞれ考えているみたい。

この空間は地面につながってるものじゃないし、気のせいなのかな……。


「たくさん」

うっとりとした表情で、ミヤちゃんはどこかを見ている。

でも、その気持ちはわかるかも。


「まあ、実際に効果が見えへんもん合わせたら、たくさんでええんとちゃう? まあ、手の一振りで解呪してたから、本人もしらんのちゃう?」

あくびをしながら、ノルンちゃんが答えてくれた。


「それってどういうこと?」

突然、ミミちゃんが会話に参加してきた。


あれ?


「どういうって、今のヘリオスは呼吸するのと同じくらい、意識せんと魔法を発動しているってこと。前は攻勢防壁を無意識下で常時発動してたんが、今は足を動かせば加速アクセルなり、飛翔フライなりが自然とおきるって感じちゃう? ミミルも飛びたくてその羽動かしているわけじゃ……って、なんでおるん? あんた」

説明していたノルンちゃんも、ようやく気付いたみたい。

その顔は、自分が見たものを信じられないみたいね。

まあ、私もそうなのだけど……。

でも、どうやってここに入ってきたんだろ?


私たちの視線は、ミミちゃんに集中した。


「ほんもの?」

ミヤちゃんが思わず聞いてる。

そうよね。

でも、どう見てもミミちゃんだし……。


「うん、ミミルだよー!」

そう言ってわがもの顔で飛び回るミミちゃんは、ミミちゃん以外にはありえない。


「え? だってあんた今は妖精やろ? ここって精霊の概念世界やで? 半精霊ともいうべき妖精が、その身に負担なく入れないやん」

珍しく、ノルンちゃんが一般的なことしか言ってないよ。

しかも、身を乗り出しているし。

よっぽど気になるんだね。


「うん、そうだよー。だからヘリオスにお願いしたの。ミミルも連れてって欲しいってね」

まるでこの空間を楽しむかのように、ミミちゃんは自由に飛び回っていた。

でも、私はその言葉を聞き逃さなかった。


「え? ちょっとまって、連れて行ってほしいってことは、ヘリオス君もくるの?」

どうしよう、心の準備ができてないよ。

こんなところで、ヘリオス君に会うなんて想像してないし……。


「うん。くるよ。しかも。チョーサプライズだよ」

ミミちゃん……。

それを言ったらサプライズでもなんでもないし……。

私達の呆れ顔を、全く見ていないミミちゃんは、たいそうご満悦だった。


「ミミル。それを言ってしまっては、もはやサプライズでもなんでもないよ」

残念そうな声。

でも、その優しさは伝わってくる。

それと同時に、この場にありえないようなつむじ風がおきていた。

でも、一瞬にしてそれは過ぎ去り、その場所にはヘリオス君がたっていた。


「ヘリオス!」

ミヤちゃんがうれしそうに飛び込んでいく。

ちょっとでおくれちゃったな……。


「やあ、みんな。ここ揺れなかったかい? 無理やりつないだから大丈夫だったかな?」

ヘリオス君は心配そうな顔してたけど、私達は別のことに驚いてるのをわかったみたいよね。


「いや、そんなんはなかったけど、どうしたん……」

ノルンちゃんが真っ先に尋ねてる。


「ああ、あれから僕はいろいろ飛び回ってたけど、基本的に暇になったからね。だから、いろいろ有効に時間を使わせてもらったよ。禁書なんかも見たから、色々できることが増えたよ。これもそう。まあ、これはさすがに苦労したけどね」

ヘリオス君は感慨深そうに、周囲を眺めている。


「ここはいわゆる概念世界なんだ。実際には君たち精霊の世界じゃない。無理やりつくった僕の精神世界みたいなものだね。だから、ここでは何でもできると思うよ。たとえば、こんなものを作ってみたしね」

そう言ってヘリオス君は目の前に扉を出現させると、その扉を開けて中を見せていた。


「温泉!」

ノルンちゃんの嬉しそうな叫びが響き渡る。


「そう。あの首飾りの仕組みを解明してね。僕なりにアレンジしたよ。ちなみにここ以外にも温泉は用意したよ。あと、サウナも用意したからね」

得意顔のヘリオス君は温泉とサウナについて説明しだしてる。

でも、ノルンちゃんは半分も聞いてないみたい……。


「なあ、もうウチ我慢しきれんのやけど……」

そんなに温泉に入りたかったのかな……。

でも、まあ……。

わたしもそうかも!


「ちょっとまってね。先にみんなに渡したいものがあるからさ」

今にも駆け出しそうなノルンちゃんの前に立ちふさがるヘリオス君。

温泉を視界からさえぎられて、何とか見ようとするノルンちゃん。

ちょっとおもしろい。


「なに? なに?」

でも、私は渡したいものの方に興味がある。

知らない間にヘリオス君のすぐそばに来ていた。


「じゃあシルフィードにはこれを。ミヤ、ちょっと離れててね」

ヘリオス君はもっているのは、白い鳥描かれているカチューシャ。

腰にしがみついているミヤちゃんを優しく離した後、おもむろに、それを私の髪につけてくれた。

私が見えるように、私の姿を映し出してくれるヘリオス君。


私の長い緑の髪は草原のようになり、その白い鳥は翼を大きくひろげ、自由にその上を飛んでいるかのようだった。


「自由なる風の乙女シルフィード。君の優しい風がいつまでも僕のもとに届きますように」

いきなりヘリオス君は、私を優しく抱きしめてくれた。


「えへへ」

思わずだらしない声を出してしまった。

でも、なんだかとってもいい気分。



「ベリンダ。君にはこれを」

今度はベリちゃんに丸いメガネをかけていた。

割と大きめのメガネは光を照らす水面のように澄んでいる。

ベリちゃん、ますます賢そうになっちゃったね。

でも、ミヤちゃん……。

また、しがみついてるのね……。


「たおやかなる水の乙女ベリンダ。君の澄んだ瞳にいつも僕がいることを願う」

ベリちゃんの頬に口づけをしながら、そうささやいていた。


「もう」

ベリちゃんは対応に困っているようだった。

なんかずるいな。

ミヤちゃんが離れなかったら、私もそれだったのに……。


「ミヤにはこれを。以前のかんざしに似せてみたよ」

ミヤちゃんの黒髪にさしたとたん、それは、夜空にきらめく星の川になっていた。


「ミヤ、君がいつもよりそってくれるように、僕もきみのそばにいるよ」

腰にしがみついているミヤちゃんの頭を、ヘリオス君はなでながら、愛おしそうに見ている。

本当に幸せそうなミヤちゃん。

なんだか、そういうのもいいな……。


「ノルン。今回は本当にお疲れ様。あの子も君には頭が上がらないみたいだよ。これからもよろしくね。これは僕とアポロンからだとおもってね」

ヘリオス君はノルンちゃんの両耳にイヤリングをつけながらほほ笑んでいる。


「ノルンの光が、常に僕たちの前を照らしだすことを祈って」

目を瞑って唇を突き出すノルンちゃんの頭に軽く手をのせ、ヘリオス君はその額に口づけをしていた。

ノルンちゃんは少し不満げな目でヘリオス君を見ている。


「またこんどね」

笑顔のヘリオス君は、もう一度ノルンちゃんの頭に手をのせていた。


「しゃーない。今は温泉にいくわ。それはそうと、そのアポロンはどうなってるん。ウチあんなん知らんよ」

温泉に行くと言いながらも、体を乗り出してヘリオス君に尋ねている。

温泉より、知りたいことの方が勝つんだ……。

やっぱりノルンちゃんはすごいな……。


「回復魔法に反応したことを言ってるのかな?」

ノルンちゃんの言いたいことが分っていても、ヘリオス君は一応、確認しているみたい。


「そう、あの子ゴーレムちゃうん? なんで回復魔法がかかるの?」

色んなことを知っているノルンちゃんでもわかないことって……。

でも、ノルンちゃんは分からないことをわからないままにしないから、いろんなことを知ってるんだね。


「ゴーレムはゴーレムでもあれは特別でね。人の魂を込めることができる、言わば人造生命体ホムンクルスだよ。母さんの部屋にはスペアがあってね。今回は時間がなくて、それを使わせてもらったんだ。母さんが作ったものに核を入れ替えただけだから、少し定着が悪かったけど、今は僕の体の一部から作り直しているから、大丈夫だと思うよ。けど、しっかりと定着させるには時間がかかるから、ここにも連れてこなかった」

よくわからないけど、人間に近いものって感じかな?


「なるほど。それで回復魔法をうけつけたのね。だから、あの子は涙も流せるんだ」

さすがにノルンちゃんは納得したみたい。


「そう、痛みだって感じるし、彼は一人の人間だよ。今回のことで心の痛みも体験した。お願いだから、彼がまた起きた時には受け入れてあげてほしい」

そうなんだ……。

でも、ヘリオス君のお願いを聞かない子たちはここにはいないよ。


「うん。ミミルわかったよー」

ミミちゃんは期待を込めた表情で、両手を前に突き出していた。


「……」

ミヤちゃんがかわいそうな子を見るようにミミちゃんを見つめている。


「ミミルにはその服と温泉セットをプレゼントしたからね。もうないよ?」

ヘリオス君は、次は自分の番と思っていたミミちゃんを頭の上に乗せながら、残念そうにそう告げていた。


「えー。ミミルもなんか言ってほしいー」

ミミちゃんはヘリオスの髪の毛を抜きながら駄々っ子のように騒いでる。

ミミちゃんも欲張りだなぁ……。

でも、ヘリオス君もなんだかんだで、ミミちゃんには甘いからなぁ……。


「ミミル痛いって」

ミミちゃんの行為に文句を言いながらも、やっぱりヘリオス君は何かを考えてるみたい。


「ミミル。君の元気な姿が、いつだって僕を勇気づけてくれる、いつまでもその明るい笑顔をみせてね」

頭の上からミミちゃんを引き離し、自分の顔の前でそう告げている。

ヘリオス君の瞳は、ミミちゃんの小さな体にあふれんばかりの愛情を注いでいるように思えた。


「うん。ミミルえらい!」

ミミちゃんは照れたように、ヘリオス君のもとから飛び立っていた。

その姿を見ながら、改めてヘリオス君は私たちを順番に見ながら頷いていた。


「今日はいないけど、ここにはフレイやホタルも連れてくるから、みんなよろしくね」

それだけ言って、ヘリオス君はこの世界から帰っていった。

ヘリオス君もこの世界に来れる。

それだけで、私はなんだか幸せな気分になっていた。



「あーやっぱり、癖になるわ……」

そう言い残し、ノルンちゃんはさっそく全裸になって温泉へと向かってる。


「ミミルも行くー」

ノルンちゃんのあとを追って飛びながら、服を脱ぎ捨てたミミちゃん。

でも、その瞬間にどこかに消えていた。


訳が分からない。

一体どこに消えたんだろう。

しかも、服も着てないんじゃ……。


「ああ、たぶんヘリオスが贈った服を脱いだから、強制的に排除されたんだと思うよ。ヘリオスは精霊王の部分で来てたからいいけど、ミミルは妖精だからね。たぶん、温泉に入る装備はもらってたと思うけど、ミミルが忘れたってとこじゃないかな」

ノルンちゃんはさっきのやり取りでそこまでわかってたみたい。

たしかに、温泉セットっていってたよね。


ってことは、今頃ミミちゃんは、全裸でヘリオス君の前なんだ……。


そう思ってると、全身を真っ赤に染めたミミちゃんが、頭にタオルを巻いて温泉へと飛び込んでいた。


「あーミミル。おかえり。えらいサービスやな」

気持ちよさそうなノルンちゃんとは対照的に、ミミちゃんは顔まで使ってぶくぶく何かをつぶやいている。


「さ、私たちも、慌てずに入りましょ」

ベリちゃんの冷静な声を聞いてたのか、もうミミちゃんは頭まで温泉につかってた。


念願の温泉を手に入れたノルンはご満悦です。

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