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精霊たち6

全員に反対にあったヘリオスは、どうにかして説得しようとしていた。しかし、説得にはそれぞれを納得させる理由がいる。そのためには反対の理由を知らなければならない。デルバー先生の方はわかるとしても、シエルの方が分からないヘリオスでした。

「ヘリオス……」

「ねえ、ヘリオスってば」

「ねえねえ、ヘリオス。聞いてる? おーい。もしもしー」

ミミルは俺の周りを飛びまわりつつ、呼び続けている。

聞こえているけど、今はちょっと真剣に考えているから、後にしてほしかった。


「ふん。じゃあ、ミミル的にヘリオスを起こしてあげる」

何をするのだろう?

確かに俺は目を瞑って考え事をしている。

寝ていると勘違いしても仕方がないが、起きてることはわかるんじゃないか?

思念を遮断しているとはいえ、眠りの精霊がこの場にはいないだろうに……。

どうやって起こすのか、少し興味が湧いていた。

しかし、そう思ったのもつかの間。

ミミルはやっぱりミミルだった。

いきなり俺の頭に乗り、髪の毛をむしり始めていた。


「痛いよ、ミミル」

さすがに捕まえて、目の前で抗議する。

いつも通り過ぎて、ちょっと損した気分だ。



「だって、さっきから呼んでるのにさ。ヘリオスってば、全然相手してくれないんだもん」

口をとがらせて文句を言いながら、そっぽを向いていた。

なんだかその姿に少し癒された気分になってきた。


「ごめん。ごめん。ちょっと考え事をね。でも、だからと言ってあまり髪の毛を抜かないでよ。この年で禿るのはちょっと遠慮したいんだけど」

頭をさすりながら、ミミルに同意を求め、解放する。

髪の毛がないと、ミミルもうまく座れないぞ?


「いや。ミミルがむしってるんじゃなく、ヘリオスが考え事してるから禿るんだからね。自業自得だよ!」

完全な言いがかりだ。

自分には責任がないとばかりに、そのまま頭の上に移動して、胡坐をかいていた。


「いや。それはひどいね……。で、いったい何の用だったの?」

中断された以上、とりあえずミミルの用件を聞こう。


俺の考えはなかなかまとまらない。

何よりも情報が少なすぎた。

自分の目で見て、感覚を味わいたかったけど、それは周りからなぜか反対されていた。


ジュアン王国の状況とユノの状態について確認しに行く。


冒険者や、偵察兵スカウトの少年を送りだすまでは反対はなかった。

しかし、そこに俺が混じることに全員が反対していた。


「おぬしは状況の分からん所に飛び込んでいいものではないわ」

デルバー先生はいつになく真剣だった。

カルツもメレナもその意見に同意していた。


「囚われのお姫様は危険」

シエルと人化した精霊たちも、その意見に賛同していた。

その中にはなぜかルナまで混じっていた。


「ここはこの僕に任せたまえ」

カールはその理由を告げずにそう宣言していた。


一体みんなどうしたというのだろう。

頭にまた鈍い痛みを感じて、急速に意識をもどす。

放置したミミルが、また髪の毛を抜きにかかっているようだった。


「ごめんミミル」

また、自らの思考にとらわれていたことを謝罪する。

しかし、ミミルは相変わらず、髪の毛を微妙な力で引き抜こうとしていた。


「ミミル……? どうしたの?」

反応のなさに、ちょっと心配になってきた。


「ヘリオス君。ミミちゃんはねー。何の用だったか、わからなくなったみたいだよー」

突然シルフィードが現れて、ミミルの顔を覗き込んでいた。


「そんなことないもん。ヘリオスのせいだもん」

ミミルは俺の注意を引くことに夢中になっている間に、何の用かわからなくなっていたようだった。


「ところで、昨日からずいぶん悩んでいるようだけど、どうしたのかな?」

頭の上で唸っているミミルをよそに、今度はシルフィードが問いかけてきた。


「ああ、最近の状況を考えるとね。アプリル王国にもジュアン王国にも、そしてイエール共和国にも何らかのことが起こっているんじゃないかと思ってさ。それを探る手段がないものかと考えてたんだよ。それに、やっぱりユノのことは気にかかるしさ」

シルフィードたちにまで反対されたんだ。

理由を話すには、苦笑いするしかない。


「それってヘリオス君じゃなきゃダメなこと?」

珍しくシルフィードが真剣な表情を浮かべている。


「僕でないといけないことはないよ。ただ、僕でないと対応できない状況かもしれないってだけだよ」

行きたいことが目的でなく、解決方法探さなくてはならない。


「例えば、ユノが避難民受け入れを、アウグスト国王の親書と共に進言した後に幽閉されていた場合、ユノにはある種の嫌疑がかけられたということになる。その疑いをとる手段をとるのか、強行策で連れ帰るのかの選択肢はどういう状況でそうなったかによるからね。そして、進言前に邪魔された場合、これは何らかの工作が働いていると考えられるんだよ」

そこまで言って、ついシルフィードの肩をつかんでいた。

か細い体に緊張が走ったようだが、この気持ちを理解してほしかった。


「その場合は一刻も早く助ける必要があるんだよ。たぶん、デルバー先生の言い方だと、こっちの線が強い。状況を判断してから行動するまでの時間は、短いほどいいんだ」

自分でもびっくりするくらい、強く説明していた。

今こうしている間にも、ユノの身に危険が起きている可能性がある。

シルフィードの肩を持つ手にも自然と力が入っていた。

シルフィードの目を見て話そうとして、自分のしていたいことに気が付いた。


その愛らしい顔に、苦痛の表情があらわれていた。


「あっ、ごめんシルフィード」

俺は自分の考えに固執するあまり、周りが見えていなかったのだとわかった。


「ううん。いいよ。ヘリオス君の気持ちが分かった」

そう言って、シルフィードはにっこりとほほ笑んでくれていた。


「それに、それが目的じゃないってわかったしね。後のことは少し気になるけど、ヘリオス君の気持ちが分かったから私はいいよ」

シルフィードの言葉に同意するかのように、ミヤ、ベリンダ、ノルンがあらわれていた。


「しかたない」

ミヤは俺の耳元でささやいていた。


「ほかに適任がいないのでしたら仕方ありません」

ベリンダは納得していないが、選択肢がないから仕方がないという言い方だった。


「まあ、これも運命かな。でも、どっちかというとそのあとの方が大変かもねー」

ノルンは適当な予言をしていた。


「みんなありがとう。やっぱり話し合いは大事だね。自分だけであれこれ考えているのもらちが明かないし」

少なくとも、精霊たちの賛同が得られたことがうれしかった。


「あとは、シエルとルナか……。君たちどう思う?」

あの二人が強硬に反対した理由がわからない。

同じ側で反対していた精霊たちに聞いた方が早いだろう。


「ルナには、いうこと聞かないと口きかないと言えばいい。シエルには、ただ命令すればいい」

またしてもノルンが適当に言っていた。


「そんな簡単なことで大丈夫なの?」

理由もなにも説明なく、受け入れるのだろうか……。

ノルンからは適当に言ってる感じはない。

むしろ、それが当然といった感じさえする。

しかも、みんな笑顔で同意していた。


「本気?」

思わずそう尋ねずにはいられなかった。

しかし、全員が賛成しているのだから大丈夫なのだろう。

精霊たちのことを信じてやってみようか……。


「わかったー!」

俺の決意に応じるかのように、ミミルが突然叫んでいた。


「ミミル、思い出したの間違い」

素早く突っ込みを入れるミヤ。

最近ますます突込みキャラになりつつあるな。


「うんうん、思い出したよ。ヘリオスがさ、昨日から悩んでいるのって、今はなしてたことだとミミルは知ってたからね。だからミミルもしっかり考えてたんだよね」

頭の上から飛び立ったミミルは、俺の目の前でふんぞり返っていた。


「ありがと、ミミル。それで、僕はどうしたらいいんだい?」

その態度はともかく、考えてくれていたことに感謝する。

そのミミルを邪険に扱った後悔が、今度は真剣に聞こうという気持ちになっていた。


「あのね、あのね。ヘリオスが分裂したらいいんだよ。バーンって。できるよね?」

ミミルは少し気弱に聞いていた。


「うん、分身自体は作れるよ……」

ミミルの問いにはしっかり答えておこう。

分身自体は確かにできるから。


「ほら。ミミルってば頭いいよね!」

ミミルはまた俺の頭の上で立っている。

たぶん、仁王立ちしているのだろう……。


「得意そうだね。でも、ヘリオス君。それって自分で動けるの?」

笑顔のシルフィードは、いきなり核心をついていた。


「ごめん、ミミル。分身は作れるけど、自分の意志は持ってないんだ。あくまで分身でしか……」

ミミルを頭の上から優しく両手の上に移動させ、その顔と姿をじっくりと見ながら説明しようと思った。

まてよ。

そう言えば、ミミルって……。


「へっ、ヘリオス?そんなに真剣に見つめられると、ミミル的に困ってしまうというか、なんというか……」

顔を真っ赤にしながら、両手で俺の視界をふさぐようにしてミミルは焦っていた。


そう言えば、ミミルを生み出した状態でも、精霊女王は存在していたんだ。


「そうか、ミミル。ありがとう。これでみんなに納得してもらえると思う」

ミミルには感謝するしかない。

シエルとルナもこれで大丈夫だ。

あとは、素材だが……。

今は用意する時間がない。

あれを使わせてもらおう……。


「えへん!ミミル超偉い!」

得意満面のミミルは、本当に嬉しそうに飛び回っている。


「たぶん、ミミルちがう」

ミヤのつぶやきは、ミミルには聞こえてないようだ。


「いや、これはやっぱりみんなのおかげだよ。みんなと話していたからわかったと思う。本当にありがとうね」

感謝してもしきれないな。


昨日から考えて、全く答えが見えないかったことが、ほんの少し話しただけで、新しい道が開けていた。


「何か知らんけど、まあ、役に立ったんやったらうれしいわ」

ノルンが照れたように笑っていた。

最近のノルンは、なぜか積極的に協力しようとしてくれていた。

他のみんなも、微笑み返してくれている。


ただ、なぜか歓喜のダンスをおどっている小鳥だけは、見なかったことにした。



***



「じゃあ、少し僕は作業しているね」

ヘリオスはウチらにそう告げると、自分の作業場に入って行った。



「ミヤ。邪魔しちゃダメ」

ベリンダがそっと扉から入ろうとしていたミヤを注意する。


「ああなったらヘリオス君、だれにも止められないよね」

シルフィードが楽しそうにほほ笑んでいた。


「そうやね。実際ああなった時のヘリオスは無敵やと思うわ」

走り出したら止まらへん。

たぶん、ヘリオスはそんな感じやわ。


「ま、それもミミルのおかげかも」

ミミルは相変わらず得意そうやわ。

確かに今回はそうやと思う。

正直、その発想はなかったしな。

しかし、一歩間違えるととんでもないことになるけどな……。

まあ、そんなへまはせんやろな。


「ほら、ミヤ。こっちにきて。ちょっと相談しましょう」

だったらウチらがすることは決まっている。

ミミルを見とったから、きっとあれを作るつもりやわ。


「じゃあ、ウチらもチーム分けしとかんとな」

楽しみやわ。

どっちかちゅうと、生まれる方に興味がある。

ヘリオスの方がウチは楽できてええけど、ちょっとうちの扱い微妙やしな。

ここらで、もう少し役に立つとこ見せとかんとあかん。

けど、ホンマ楽しみやわ。

ちょっと時間かかるやろうけど、それまでには終わるやろ。


「ほな、ジャンケンで分けるで、ええか。あのグーとパーだけの奴」

ヘリオスはいろんな遊びも教えてくれた。

だからウチも、教えたるわ。


生まれてくる分身が素直なことを祈りつつ、ウチはパーで勝負に出る。

勝ち負けや無いけど、やっぱり勝ちたいしな……。


ホンマ、あきれるわ……。

全員がパーを出しとる。


ヘリオスが出てくるまでに、決着つくんやろか……。

ちょっと、心配になってきたわ……。


精霊たちの同意と、その協力により、解決の糸口がみえたことで、ヘリオスはいよいよ行動にうつります。

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