表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
新たな戦い
61/161

悲しき英雄

デルバー先生の部屋で、密談が始まりました。

「おぬしはもう少しましな演技はできんのかの……」

先生は俺の演技力のなさに呆れ果てているようだ。

自分ではそんなに下手じゃないと思うんだけどな……。

ルナも言ってたけど、そんなにおかしいのだろうか?

語尾に(の)をつけるだけでも、それっぽいんだけどな……。


一回数えてみようか?

それに、特に怪しまれた素振りもない。

これってちゃんとできてる証拠じゃないのか?


「お言葉ですが、先生。まだ誰にも怪しまれてはおりません」

そうだ、結果がそう物語っている。


「それはおぬし、わしがあまり表に出んかったからの。これじゃと、おぬしのイメージがわしになってしまうわい。どうしてくれようかの……」

デルバー先生は真剣に悩んでいた。


まあ、確かにそうだけど、それで損するわけじゃないと思うんだけどな……。

そんなに変なこと言ってないし……。


「デルバー双子説……」

デルバー先生の口からは、またとんでもないことが出てきている。


そんなこと流されたら、その後どうするんだよ?

俺はずっと演技するつもりはないよ?


まあ、本人には本人の美意識というのがあるのだろうけど、俺から言わせてもらうと、人前に出ていなかった先生がわるい。

今回のことは、まあいい薬だと思って反省してほしい。


せめて学士院アカデミーの初日くらい、顔見せようよ。


だんだんお互いに思考がずれていくようなので、強制的に戻すことにした。



「デルバー先生、あのゴーレムは完成したのですか?」

先生の好きなゴーレムの話から、本題に入ろう。

このままでは、本当に双子になってしまう。


けど、そんな考えを持った少し前の自分を気絶させてやりたかった。

正直ゴーレムの話題は禁句だった。


デルバー先生は、水を得た魚のように、そのゴーレムの性能について説明しだした。

基本構想から、能力、運用方法に活用拡大などありとあらゆることを語ってくる。

誰もそんなことを聞いていない。

挙句の果てには、そこまでにかかった制作秘話までも明らかにされていく。


どれだけ話したかったんだか……。


「そのゴーレムが置かれるベルンの状況はどうですか?」

そう言って何度も何度も、話題転換しようとした。


「まあまて、まずこの話が終わらんと先に進めんじゃろ。そもそも……」

そのたびに俺の発言を封じ込める、デルバー先生のゴーレム講義。


どんどん熱を帯びていく。

あれ?

今は何の話してるんだ?

さっきまでは、最高の材質はやはりアトレア山脈の鉱脈とかいってたっけ……。

今は自立思考を模索しているという話になっているようだ。


どんだけとぶんだ?

途中を聞いていないと、とてもついていけない。


幸いなことに、一方的に話しているから聞いているふりをしているだけでもよかった。

適当に相槌を打っておけば機嫌がいい。


でも、機嫌よくなるとこの先生はますます饒舌になっていく。


ゴーレムの話は、それはそれで楽しいのだけど、ゆっくり時間のある時にしてもらいたい。

今は、精霊たちの話をやや強引に打ち切ってまでこっちの打ち合わせをしに来たのに……。


これでは何のためにそうしたのかわからなくなってしまう。

何とか、このデルバー講義からぬけでないと……。



しかし、学生は俺一人。

教室は学長室。

これでは逃げ場がなかった。


外部からの干渉は、デルバー先生が入室を許可しない限り期待できない。


内部から……。

シルフィードは、少しへそを曲げているから無理だ。

ミヤとベリンダはそもそもデルバー先生の前では戦力にならない。

ノルンは、面倒はごめんだという態度。


ミミルは……。

こういう場面では期待できない。

頭の上ですでに眠っている。


さて、どうしたものか……。


あっ、それはさっき聞いた気がする。


ループしだしている……。


もう何度目かわからないほど、話題転換に失敗し、その意欲がだんだんなくなっていく感じがしてきた。



俺の心が折れかけたまさにその時、それは訪れていた。

偶然、のどが渇いたデルバー先生が紅茶を飲んだ瞬間、先生の注意が紅茶に向けられていた。


「それでベルンの状況なんですが!」

身を乗り出して、話しをそこに持っていく。

もはやなりふり構っていられなかった。


「おお、そうじゃった。ついつい話し込んでしもうたの。おぬしも早く言わんかい」

デルバー先生は見事に俺に責任をなすりつけていた。


「……すみません」

疲れた……。

すっかりそのゴーレムの性能、次世代型の設計思想、材質に詳しくなった俺は、この知識を絶対に活用してやろうと心に誓っていた。



「まあ予想通りの展開になったの」

ようやく、デルバー先生は状況を説明しだした。

ここまで来るのに、どれほどの時間を費やしたことか……。

なんだか、泣きたくなってきた。

ただ、デルバー先生の説明は、相変わらず要点を絞ってくれるからわかりやすい。


現在、住民の二割が移動を完了したとのことだった。

ベルンからトラバキは徒歩で四日の行程だったので、すんなりと移動できたようだった。移動の護衛にはバーンたちが当たっていたが、幸い邪魔は入らなかった。


この先発隊はバーンを信頼する人々からなりたっていた。

人口約三万人の都市にして約六千人の移動を成功させたバーンは、十分な名声を持っていると言っていいだろう。


「しかし、街の富豪や有力者はまだそこにおる。資産がある分、すぐには移動できんのじゃ」

デルバー先生はそう見ていた。

それはもっともな意見だけど、そこはマルスの影響があると見てもいいんじゃないだろうか。

最終的にどうなるかはわからないけど、決断を先延ばしにした場合の代償は大きい。

警告をして、それを信じられないから動かない。

警告を信じているけど、動けない。


結局信じきれなかったという事で、同じ結末を迎えるだろう。


どこまで救えるか……。

実際に説得していないから、そこまではわからない。



「では、トラバキの方はどうですか」

その受け入れ先の方も確認しておかねばならない。

最大で自都市よりも人口の多い都市の住人が移動してくるのだ、受け入れ体制の整備は必須だった。


「そこもバーンがしっかりと整えよったわ」

バーンはデルバー商店の販売経路を利用した情報網でトラバキ側の空き店舗、住居を徹底的に調べ上げていた。

そして、そこの割り当てなどを行い、移動前にどこに移動するかも知らせていた。


しかし、それでも収容できなかったので、一部は新区画地域を利用したようだ。


トラバキはいま共和国との交易でにぎわっていたので、この時期に新区画に入れた人たちは、商人として幸運があるかもしれない。


「できれば全員連れ出せればよかったですが、それも難しいでしょうね」

踏み絵である以上、ある程度の犠牲はやむを得ない。

しかし、判断の遅れで危険な目にあう人は、できるだけ少なくしたかった。


「バーンにしても同じかの。あいつの方が直接話している分、その負担は大きかろう。それを考えておいてやれ」

確かにそうだ。

俺は、目の前の数字にとらわれすぎていた。


六千人を避難させたバーンは、その人たちと話をしてきた。

自分の説得が悪かったから判断に迷ったと思うかもしれない。

判断を過たず、かつ踏み絵として行わなければならない行為は、どれだけバーンに負担を強いていることか。


「肝に銘じます」

それだけしか言えなかった。



利害関係、信頼関係など、そう言ったもので関係性を表現するが、結局のところ、人と人の話し合いでしか物事は進展しない。

そして、常に矢面で対応する苦労は、誰よりも認識しているはずだった。


まだまだ自分には足りないものがたくさんある。

そして、幸いにもそれに気づかせてくれる人たちがいる。

不足していることを、補ってくれる人がいる。


自分の境遇にありがたさを感じる。

しかし、今はやらねばならないことが多い。

反省したものは、その後の行動で取り戻す。



「王都召喚に応じたものの、マルスの動向はどうなっていますか?」

出発したとの報告はまだ入っていない。

でも、あのマルスだ。

油断はできない。


「軍勢での出発は確認されておらん。ただ、あ奴自身は転移で王都まで来れるからの、単独で見張っているのと、複数の地点から王都までの道を監視させておる」

その結果、どの地点からも観測されていないようだった。


マルスはまだ領内にいる。

デルバー先生の意見もそうだった。


「見えないのですか?」

デルバー先生が見ておけば済むことなんじゃないのか?


「奴は見えん。見えんのじゃ」

なぜか悲しそうな先生の顔。

マルスとデルバー先生。

この二人の間に、何があるのだろうか?



「それでは、地下の方はどうなっていますか?」

嫌な予感がする。

マルスの計画では、ベルンを守護する目的でそこに入る以上、ベルン自体が攻撃される必要がある。

今度の王都召喚は軍を出す名目になるはず。

ただ、あまりその数が多くてはいけない。

ある程度の数の精鋭を出してくるだろう。

それは、いわば主役。

当然敵役が必要となる。


つまり、ベルンを攻める者。

うってつけなのは、妖魔だろう。魔獣では被害が出る。

適当な数の妖魔がマルスの軍よりも先にどこかに現れるはず。


マルスの軍は、たまたま王都に向かう途中で、ベルンを守護し、そこに駐留する。

実質支配がそこで完了するのだろう。


後は単身マルスが王都に来ることで、問題は片付けようとするのかもしれない。

ベルンに守備隊をおくるために、聖騎士パラディンを派遣した後に……。


その後はいろいろな手があるが、ベルンの占領さえ阻止できれば、マルスの行動を阻止できる。


まずは、その最初の計画を頓挫させる必要がある。


どこからくる?

妖魔が来るとすると、自然と選択肢が限られていく。


やっぱり地下しかないだろうな。

オーブ領でのミミズのことを話したとたん、デルバー先生は焦っていた。


「ケーブワームか。盲点じゃったわ」

デルバー先生は至急観測地点に連絡を取っていた。

そして計画を指示するためか、部屋を出て行った。

直接話した方が早いと思ったのだろう。


すぐに戻ってくる気もしなかったので、この時間にリライノートにもらったものを確かめておくことにした。


「この封印の箱がなんなのかだな」

鑑定すると、封印の種類は比較的簡単なものだったが、失敗すると中身がなくなる仕組みだった。

たぶん、デルバー先生ならあけることができるだろう。

貰った時期を考えると、たぶんすぐには使わないものだ。

封印されているということは、使ってほしくないとも取れる。


封印の箱は後でデルバー先生に見てもらおう。

こっちの袋にはなにが……。

そうしてあけた袋には、記録用魔道具と、一通の手紙そして古い鍵が入っていた。


なんだろう、なぜかこれは重要なものが入っている気がする……。

一瞬躊躇したのち、記録用魔道具を発動させていた。


「ヴィーヌス……」

映し出されたものは、どこか悲しげなヴィーヌスだった。

そうか、これはヴィーヌスからのものだったか……。


「ヘリオス。あなたがこれを見ているころには、私はもうこの世界にはいないでしょう」

そう言ってヴィーヌスはしばらくうつむいていた。


「あなたにこの話を聞かせるのは少し酷なのかもしれませんが、私がお母さまの手記からしったことをあなたに伝えます。しかし、私がすべての話を聞かせるよりも、実際にお母さまの手記を読んだ方が良いでしょう。わたしは私の言いたいことだけを言います」

手記?

袋にはそれらしいものは入っていない。

そんな俺の疑問を見透かしたのか、ヴィーヌスはそのありかを話し出した。


「後は自分で見てくださいね。その手記は私の部屋にあります。手紙に場所は記してあるので、確認してください。鍵はそこに入れておきました。その手記を入れている箱には、守りの魔法を込めています。合言葉は小さい時から教えているので覚えてますね?」

そう言ってヴィーヌスは悲しそうな顔になる。

たぶん、あの言葉。

再び傷つかないように、ヴィーヌスが教えてくれた言葉だ。


俺の思考はお構いなしに、ヴィーヌスは話しだしている。

当たり前だが、まずは聞くしかなかった。

リライノートが特殊なだけだ。


「お母さまは、お父様に殺されました」

ヴィーヌスは衝撃的な話をしていた。

いや、その事実はすでに知っているからいい。


公表されているものではすべて病死になっている。

しかし、マルスに殺されたということを自らの口で話している。

当然死んだ人が手記をかけるわけがない。

だから、手記で知ったとするならば、アデリシア自身が予測していたことになる。

なにがあった?


確かに、手記自体を見なければならない。


「いえ、正確には今のお父様といった方がいいですね。あなたは魔獣侵攻の話はしっていますね? あの戦いで初めてお父様は魔剣クランフェアファルを使ったと聞いています。その魔剣の影響で、お父様は常に最愛の人を殺す衝動に駆られていたようです。その衝動は寝ていてもおきるので、お父様は当時、自身を鎖で縛って寝ていたようです」

いったん目を伏せ何かを考えているようだった。

少しの間、無言の時が過ぎていた。

やがて顔を上げ、続きを話し始めたヴィーヌスの声は、若干震えていた。


「お父様はその時にはすでにお母様を愛していたと思っています。しかし、お父様はその剣でお母さまを殺すことを恐れて、お母さまと距離を取っていたと聞いています。そしてお父様が三十四歳まで結婚なさらなかったのは、その剣の存在があったからのようでした」

愛するゆえに、傷つけることを恐れるか……。

語られることのない歴史がそこにあった。


しかし、そんな危険な魔剣を、何故処理しなかったのだろう。

デルバー先生という最高の魔術師がいるのだ。

その方法はなかったのだろうか?


「あなたは、お父様がなぜ剣を捨てなかったのか不思議に思っていることと思います」

まるで心を読んだかのように話し始めている。

まあ、当然それは思うことだしな……。

深くは考えないでおこう。


「しかし、お父様は捨てることができなかったのです。英雄だから……」

意味が分からん。

なぜ英雄だから、魔剣を捨てられないのか……。


「魔剣クランフェアファル。その魔剣は精霊の力を弱め、龍の力さえも弱めます。そして、魔法効果のほとんどを無効化する最強の剣です。しかも所有者に疲れをもたらさない効果を持っています」

何だそれ?


魔法をはじき、精霊や龍の力を弱めてしまう。

そんな剣があれば確かに無敵だ。

その上、それは疲れをもたらさない。

生物であれば、疲労という効果は成長のために必要なものた。

しかし、戦闘においては致命的になる。


それがないということは、一人で軍勢と戦い続けられるということを意味する。

それで、たった一人で魔獣の群れを撃退できたのか……。


「そして、その効果の代償は、所有者の命なのです」

頭を横に振って、ため息をつくヴィーヌス。

物憂げな表情は、何について思うのか。


マルスの選択を思うのか。

マルスの運命を思うのか。



「ここからは、あくまでお母様の推測でしかありません。お父様はそのことについては何もおっしゃらなかったようです。つまり、所有者の命を燃やして、それらの効果にする。その命を食らい尽くす呪いがかけられているようです。そしてそれを振るうたびに、魔剣に支配されていく」


魔剣が魂の力を吸い取り行使する。

それは俺の仮説に似ている。


しかし、それだけでは魔剣を放棄できなかったことの説明にはならない。

訝しむ俺に、ヴィーヌスはさらに語りかけてきた。


「当時人々の心は、今よりもっと恐怖と不安でいっぱいでした。魔獣の森も、今ではずいぶんおとなしくなっていますが、当時はそこから湧き出るように、魔獣は出てきていたと聞いています。そのたびに、人々は恐れながら毎日を過ごしていました。そこに突如お父様が現れたといってもよいでしょう」

確かに、当時の森の境界は、今のベルンからそう遠くないところにあったようだ。

今の三つの辺境伯の領地は、そこを切り開いてできている。

ベルンの城壁が立派なのは、その事に由来している。

そして、特にベルンの人たちの心には、魔獣の恐怖が刻みつけられていた。



「お父様は目の前の小さなことから、大きなことまで人々のために働きました。モーント家の三男に生まれ、六歳のころに剣聖の門をたたいたお父様は、当時から無類の強さを持っていました。その力は絶大で、いつしか人々はお父様が一人で何でもできると思い込んでいました。そしてちょうどそのころ、あの土竜の災厄が訪れました。土竜の災厄は知っていますね? あの砂漠化の原因となったものです。その正体は狂った土の上位精霊であったと聞いています」

ヴィーヌスはそこでうつむいていた。


その話は聞いたことがない。

土竜は竜族であって、精霊ではない。

しかし、真相は精霊、しかも上位精霊だったとは……。


何故、土竜として伝えられている?

何故、上位精霊が狂った?


寝ているミミルを起こすのはかわいそうだ。

ノルンなら何か知っているかもしれない。

そう思って聞こうとしたら、すでに俺の目の前で映像を見ていた。


しかも、全ての精霊たちが、俺のそばで映像を見ている。


どれだけ集中してみていたんだ……?


隣でおとなしく座っていたミヤが、俺が気付いたのをしると、嬉しそうに腕を取ってきた。

俺の邪魔をしないでおこうという気持ちか……。


その姿を見ると何故だか安心した。

そして、ノルンをみると首を縦に振っていた。


「土の上位精霊が……? 狂った?」

俺に女王の記憶はほんの一部しかない。

やはり後で、ミミルに話を聞かなければならないな。

でも、今はヴィーヌスの話を先に聞こう。


「お父様は精霊女王に会いに行ったそうです。そこで加護を受けました。それには英雄としてその存在を世の中に示すことが条件でした。精霊女王の加護を受け、お父様は狂った土精霊を一人で倒しています。他の人たちは近づくこともできずに、ただお父様の戦いを見守っていたと聞いています。その戦いの後に見つかったのが、魔剣クランフェアファルと聞いています」

狂った土の上位精霊。

精霊女王と英雄の加護。

残った魔剣クランフェアファル。


やはり、ミミルから話を聞かないといけないな。

ヴィーヌスの話は、アデリシアの手記からきている。

それは、その他の人から聞いた話なのだろう。


ミミルの記憶は、当事者の記憶だ。

情報の重要性が違っている。


俺の思考をよそに、ヴィーヌスは話し続けていた。


「鑑定の結果、その効果よりも危険性からお父様は自分で所持をしていました。しかし、魔法の袋にいれていても、それを装備したことになったようです。それは後からわかったことでした。その後もお父様は魔の森を解放したり、お母さまを救出したりと英雄として活躍しています。その間、一度も魔剣はお父様の魔法の袋からは出ていないそうです。そして、あの魔獣侵攻が始まりました」

やはりそこにたどり着くのか……。


「当時すでに辺境伯として今の領地に住んでいたお父様は最前線で戦っていました。まだ、シュミット辺境伯やエーデルシュタイン辺境伯もまだ来てないときです。兵力不足からお父様の奮闘もむなしく、魔獣の群れはベルンの町まで押し寄せてきたようです。大勢の魔獣の前に、ともに戦っていた家臣や仲間たちはみな傷つき、倒れてしまいました。

そんな時に、お父様の剣も折れたと聞いています。その人たちを背にして、お父様は魔剣クランフェアファルを初めて使わされたのです。そうです。お父様は使ったのでなく、魔剣がお父様に使わせたのです」

いや、なぜそうなる。

剣がおれたことと、魔剣を使わされたことは話としてつながらない。

その間に、何かあったはずだ。


何故、ヴィーヌスは使ったのではなく、使わされたという話をしているんだ?


「その後のことは伝記で語られているとおりです。お父様は万を超えたといわれる魔獣の群れをたった一人で殲滅しています。そのひと振りは空間に亀裂を引き起こし、大地を裂いたと伝えられています。そしてお父様は悟ったと聞いています。剣と自分の魂が同化していることに」

悲しそうにヴィーヌスはうつむいていた。


沈黙が記録されている。


結局、魔剣クランフェアファルとマルスの間に何かが起こったと考えるしかない。

何かによって、魂と剣が同化した。

同化したことにより、破棄も破壊もできなくなったということか……。


使わされた……か。


ヴィーヌスの想いはマルスが好きで魔剣を使ったのではないと言いたいのか……。

マルスが魔剣を使わなければならなかった。


マルスが、英雄だから。

英雄として、その魔剣をとったマルス。

未だに英雄像を壊していないのは、英雄として生き続けなければならなかったからか?


精霊女王の英雄の加護は、そんなものなのか?

いや、ちがう。

俺の中の断片的でしかない知識がそう告げている。


それは、役割でしかないはずだ。

英雄という役割。

それは、どのような英雄であるかはそれぞれに任されている。


マルスは、自分の英雄像に縛られたんだ。


長い沈黙を破り、再び顔をあげたヴィーヌスは、ゆっくりと話し始めていた。


「お父様は、その三年後に結婚されますが、その間いろいろと試したようです。しかし、それはかないませんでした。そして精霊女王に知恵をもらいに行ったようです」

俺はその回答を、何となくわかってしまった。


「それには2つの方法がありました。一つの方法は、新たな魔剣の所有者が必要でした。そしてそれを行うのであれば、お父様はその力のすべてを失うようです。

そしてもう一つは剣に最愛のものの命を吸わせること……。そうすれば、お父様の力は失われないというものです」


自らの魂を差し出してその呪いを解く方法と愛する者の魂で解く方法。

その2択。

巨大な力には、巨大な代償が必要だと言う事か……。

いずれにせよ、その魔剣は悲劇しか残さない。


だから、魔剣というわけか……。


「そして女王は無情にもお父様に告げていました。もはや、お父様が英雄でないということは許されない。それが英雄という加護を受けたものの宿命のようでした」

ヴィーヌスは涙を流していた。

しかしその顔は、俺を見続けている。


「世界はお父様一人に過酷な宿命を背負わせました。愛している人を手にかけないといけないことが分かっている剣を使うことが、世界を救うこと。しかし、その中でたった一人お父様だけは救われない。すべてを投げ捨てて、英雄も剣もすてても、世界に滅ぼされる」

また、ヴィーヌスは沈黙を続けている。

まるで、俺に考える時間をくれているようだ。


確かに考える必要がある。

世界を守るために手にした力は、英雄だからか?

いや、そこはマルスの意志だろう。

マルスの中の英雄像が、一人で戦うことを選ばせた。

伝記では、「手出し無用」というマルスの言葉が描かれている。

マルスの英雄像は、一人で何でもできる英雄なんだ。


いや、ちがうか。

マルスの中の英雄。

それは、全てを一人で片づける力を持ったものといえるのだろう。


孤高の英雄。


それがマルスの英雄像だ。

それをマルスが求めた。

だから、仲間はそれを認めた。

だから、世界はそれを認めた……。


もし、マルスが違う選択をしていたならば、マルスの状況は変わっていたかもしれない。


「…………」

考えても仕方がないことを考えてしまった。

マルスの選択はもう決まっている。

そして、マルスはその道を歩んできたんだ。


誰も到達できない高みにいる英雄。


マルスが求めたものは、そういうものだろう。

でも、同時に世界は認識している。


一人ぼっちの英雄。


俺の考えがまとまるのを見計らったように、ヴィーヌスは続きを話し始めた。


「そして、その状況を緩和したのがデルバー先生です。あの方はお父様のために左目と、自らの子孫を代償にして真実の眼と知恵を得ました。そして、魔剣クランフェアファルを封じる鞘を作成したのです」

デルバー先生の左目はそういう理由で失っていたのか……。


真実の眼。

あらゆるものを見通す、真理の眼。

デルバー先生の謎が一つ解けた気がする。


「その状況で、お父様はお母さまの押しに負けて結婚し、私が生まれるまで世間からは遠ざかっていました。さらに、お父様を英雄として担がせないことが、今の王やデルバー先生がとった行動でした。特にデルバー先生は積極的にお父様を世間が忘れ去るように動いていたみたいです。学士院アカデミーの設立も、そうしたものが関係しているようでした」


たしかに、世間が英雄を必要としなければ、その力を捨てても存在することが可能だろう。

でも、マルス自身がそれを認めない限り、それは難しい。

しかし、デルバー先生はやはりマルスのことを考えていた。

なんだか少しうれしい……。



「しかし、私が三歳の時に異変が起こりました。また魔の森が活性化したうわさが流れました。最初は単なるうわさとしてささやかれていましたが、時間が経つごとに、それは真実を語るものとして信じられていったようです」

魔獣の森の再活性。

歴史に綴られている出来事だ。


「人々は十年前の災厄の記憶を、呼び起こしていました。そして、その記憶は英雄を求めました。屋敷の前に人々が訪れ、口々に救いを求めていました。それは私も小さいながら記憶しております。あの必死な形相は忘れることができません」

また悲しそうな表情になるヴィーヌス。

その表情は誰に向いているのだろうか……。


「そして、そのあと事件は起こりました。お母さまは子供たち一人一人を抱きしめた後、それぞれに手紙と贈り物をくださりました。その様子はとても清々しいものでした。私は当時四歳でしたので、はっきりとは記憶しておりませんが、あれほど美しいお母さまは見たことがありません。そして、次の日お母さまが亡くなったことを聞きました」

ヴィーヌスは当時のことを思い出したのだろう。

その瞳からは大粒の涙があふれていた。

しばらく、ヴィーヌスは語ることもできずにいた。

ただ、必死に話そうとしているのがわかる。


出来ることなら泣かせてあげたかった。

でも、それは今の俺にはできないことだ。

ならば、俺ができること。

それは、ヴィーヌスの想いを受け止めることだろう。


次第に落ち着きを取り戻したヴィーヌスは、ゆっくりと話だす。

その瞳を俺は忘れることは無いだろう。


「これは後でプラネートお姉さまにも教えていただいたのですが、あの時、お母さまは私とお姉さまにお母さまの手記を預けたようです。お兄様方には剣を贈ったようです」


これはどんな意味があるのだろうか?

伝記では、アデリシアは聖女として謳われるほどの実力を持っている。

そして、ちょっと残念な性格をしていたが、聡明な人だと思っている。

そのアデリシアが、最後に子供たちに託したのは、なんだったのだろう。

特に、手記は今のヴィーヌスの説明のもとになっているものだ。


アデリシアは何を考えた?


魔剣は魂の力を吸う。

そしてその魂と同化していく。

魔法の袋に入っていても、所持とみなされてしまう……。

最愛のものを殺す魔剣。

魂を吸う魔剣。


最愛の者は一人だけなのか……?

もし、愛情に序列があるのであれば、その一人で、魔剣の呪いはおわるのか?


妻を殺した後、その子供にまで影響しているのであれば……。


「一族を根絶やしにする魔剣。その影響は果てしなく続くのではないか?」

あるだけで影響を持つ魔剣は、所有者のみならず、その周囲にも何らかの影響を及ぼす可能性がある。


ひょっとすると、上位精霊の暴走もそこに関係するのかもしれない。

そう考えると、真実は他家に行く娘に託すことが最も良い手段になる。


しかし、本当にそうなのか?

これまでの情報は、アデリシアが持っていた情報だ。

マルスの情報ではない。


魔剣の由来を聞かないとわからないな……。

まだ秘密があるような気がするが、それはミミルに後で聞くとしよう。


ヴィーヌスまた、話し始めていた。


「私は、この手記を読んだ後、プラネートお姉さまにいろいろと聞きました。お姉さまの手記は、私がもらった物とは少し違っていました。そこには、お母さまがお父様の剣に自らの命をささげる決意が記されていました。お父様は英雄として人々を守るためにいる。だからお母さまはそのための礎になるのだと書かれていました。そして当時八歳だったプラネートお姉さまは、その時のお父様の叫びを聞いたらしいです。それは――」


ヴィーヌスがゆっくりと紡いだマルスの言葉。

それをしっかりと受け止めていた。


愛するものを一人守れなくて、世界を救う意味がどこにある。

愛するものがいない世界を救うことに、何の価値がある。


確かにマルスの想いはわかる。

マルスの慟哭が目に浮かぶ……。


マルスの目的は世界の破滅かもしれない。



「わたしはそのことをあまり覚えておりませんが、何度も何度も繰り返された言葉は、呪詛のようにお姉さまの頭に刻み込まれたと言っていました」

もの悲しそうなヴィーヌス表情は、その言葉を発したマルスとその言葉を受けたプラネートに向けられているのだろう。


しかし、次の瞬間、ヴィーヌスの眼に力がこもっていた。


「わたしも、今、お母さまと同じ気持ちなんだと思います。私はお父様にリライノート様を殺すように仕組まれているようです。ヘリオスとルナのことを聞いて確信しました。わたしには、私の中には、別の私がいます。そして、それがあなたを苦しめていたと思います」

そう言ってヴィーヌスは頭を下げていた。


「ごめんなさいヘリオス。私の愛しい弟。そしてありがとう、ヘリオス。こんな私を受け入れてくれて。私はこれ以上あなたを守れません。でも、必ずあなたのことは見守っています。そして、どうかリライノート様の力になってあげてくださいね」


そして、また深々と頭を下げたヴィーヌスは、そのまま動かなかった。

しかし、まだ話すことができることが分かったようで、何かを迷っているようだった。

言いたいが、言っていいのか……。

言うべきなのか、そうでないのか……。

さまざまな葛藤ののち、ヴィーヌスは俺に話しかけていた。



「大人のヘリオス、あなたにこれを頼むのは、姉としてどうかと思うのだけれど、私はあなたにしかできないと思うので、あえて頼みます」


「お願いします。どうかお父様を解放してあげてください」

そこで映像は途切れていた。


こみ上げてくる気持ちを抑えきれない。

自然と涙が頬を伝っていた。


左腕に抱きついていたミヤは、小刻みに震える俺を心配して、覗き込んでいる。

シルフィードが右腕をだきしめてきた。

ベリンダは背中に顔をうずめていた。

ノルンは俺の膝に腰かけて、背中を預けていた。

そして、いつの間にか起きていたミミルは、頭をかんでいた。


それぞれの方法で、俺に自らの存在を主張している。


「そうだね。僕は一人じゃない」

自然とそう口に出していた。


「ごめんよ、ヴィーヌス。僕はあなたの期待に応えられないと思う」

一息はいて、力強く宣言する。


「だって、僕にしかできることじゃない。マルスを解放できるのは、僕たちだ。それにはヴィーヌス、あなたもいる」


俺たちには姉がいた。

たった一人、俺たちを理解していた姉がいた。


その姉に裏切られ、絶望の中、俺たちは精霊女王のもとにたどり着いた。

精霊女王は何かを知っていたのだろう。


俺たちの中に可能性を見つけていた。

そして俺たちにゆだねていた。

そして、俺たちを受け止めてくれた。



俺たちには妖精と精霊たちがいた。

俺たちには師匠がいた。

俺たちには先生がいた。

俺たちには仲間がいた。


そして、俺たちにはいろんなつながりができていた。


それらの中で、俺たちは決して一つの存在ではなかった。

ダメな俺たち、すごい俺たち。

情けない俺たち、頼れる俺たち。

いろいろな俺たちが、それぞれの人の心の中に住んでいる。


だから俺たちを守ってくれる。

頼ってくれる。


そして、その想いに、俺たちは応えようと思う。


「だからね、マルス。あなたは間違っているんだよ。剣を捨てたり、一人で剣を取るのではなく、ともに剣を取る存在を得ることだったんだ。アデリシアはそうなることを望んだはずだ」


誰に言うわけでもなく断言する。


「人々は英雄を求める。けれど、英雄が人々を求めてはいけない理はない。前を突き進む英雄ではなく、ともに歩む英雄を目指すべきだったんだ。だって、英雄は人の心に生まれる存在。どこにいても英雄は英雄だよ」


その時、俺の背後で、何かが落ちる音がした。

振り返ると、杖を落としたデルバー先生がいた。


「何ということじゃ。背負うた子に教わるとは……。わしは……。わしは……」

デルバー先生の涙……。

初めて見た……。



これ以上は無粋。

俺は手記をとりに、リライノート子爵の家に転移することにした。



「ルナ、今日は会議の予定だったけど、また今度にするよ……の」

転移直後、デルバー先生の姿に変わりつつ、その場にいたルナに挨拶する。

訳の分からないと言う顔のルナをおいて、ヴィーヌスの私室に向かっていた。


そして手紙の通り手記を手に入れ、学士院アカデミー前に転移した。


「やあ、カルラ。また、一緒に空を飛ぼう」

強引にカルラにまたがり空を飛ぶ。


加速を重ね掛けされたカルラは、俺にさんざん文句を言っていたが、エーデルシュタイン領につくと、その態度を変えていた。


折しも、エーデルシュタイン邸が妖魔の大群に囲まれているさなかだった。


「じゃまじゃの。まとめて駆除しようかの」

時間が惜しい。

手記を読んでいかねばならない。


リライノートもヴィーヌスも、自分たちを不幸にするマルスの解放を願っている。


思えば、デルバー先生だって、後手に回るだけの人じゃない。

そして、アデリシアも笑顔でマルスに殺されている。


俺の知らないマルスがいる。

たぶん、解放してほしいと言うのは、そのマルスの事だろう。


英雄となるマルス。

その人物を、もっと知らなければならない。


手遅れになる前に。


凍結地獄コキュートス

エーデルシュタイン邸の周囲には、躍動感あふれる氷の彫像が出来上がっていた。


「プラネートやいるかの?」

グリフォンにまたがり上空から声をかける。

そんな怪しい人物だが、この際仕方がない。


「ここです。デルバー先生」

二階の窓を開け放ち、その姿を見せたプラネートは、俺にその位置を教えていた。

心の中でほっとする。

もし、答えてくれなければ、怪しい爺さんになる。

また、デルバー先生に小言を言われてしまうだろう。



「ちょっと頼みごとがあったんじゃが、街の方もすこし掃除してくるでの、紅茶でも入れて待っとってくれんかの」

遠くに見えるエーデルシュタイン領クスノペ。

その城壁に取りつきつつある妖魔集団。

まず、そこも解放しよう。


城壁の妖魔を落雷ではたき落して、その辺の奴らにも落雷をついでに落とす。

それですべて終わっていた。


急いで戻った時にはまだ、二階の窓にプラネートはいた。

紅茶を入れておいてくれと頼んだのに……。


そのまま屋敷を飛越し、その中庭に降り立ったカルラと俺を、守備兵が遠巻きに囲んでいる。


「ほっほっほ。わしはデルバーじゃ、怪しい者じゃない。おまえさんたちの領主の奥方に用があってきたんじゃよ」

俺はカルラの背からふわりと降りる。

遅れて落ちてくるはずの帽子がいつまでたっても来なかった。


「こりゃカルラ、帽子をかむのはやめい」

拾ってくれたカルラには申し訳ないが、デルバー先生のかっこもつけておかないといけないだろう。


今度から飛び降りるのはやめよう。

再びデルバー双子説を出されても困る。

もう一度カルラに謝りつつ、こちらに向かってくる人物を待った。


「デルバー先生、危ないところをありがとうございました」

壮年の紳士がそう挨拶をしてきた。


何となく見覚えがあるけど、自信がない。

というか、ヘリオスになってから一度もあってないと思う。


「……すまんの、年を取って人の顔を忘れるんじゃ……。エーデルシュタイン辺境伯でよかったかの?」

小声でつぶやき、とぼけたふりをする。

全くいろんなことを気づかいするのはしんどいな……。


「そうです」

エーデルシュタイン辺境伯は微妙な顔で笑っていた。


「なるほどなるほど、これはよいの。すまんがおまえさん、プラネートのところに連れて行ってくれんかの、火急の用件じゃ」

これ以上、時間はかけてられないし、ぼろが出るのも困る。

たぶん、この人はデルバー先生のことをよく知っている。

普通は、デルバー先生とは呼ばない。


ひょっとすると、この人もデルバー一門なのかもしれないな……。


「では、こちらに……」

エーデルシュタイン辺境伯は、俺の気迫にまけて、プラネートのいる部屋に案内してくれた。


「ちとすまんが、おぬしには席を外してもらおうかの……」

これ以上は、ダメな気がする。

それだけ告げると、急いで扉を閉めていた。


「さて、プラネートや。お主が持っているアデリシアの手記をわしに託してはくれんかの。ヴィーヌスからおぬしも持っていると聞いておる。そしてわしはそれを託されたのじゃ」

ヴィーヌスの持っていた手記をプラネートに見せる。

聡明なプラネートだ。

その意味は分かるに違いない。


「これは、一生封印しておこうと思っておりましたが、今回のことと関係あるということですね」

今回の事……。

すでに知っているという事か。

託されたと言って驚かないところを見ると納得できるが、それにしても理解が早い。

その後黙って手記を渡すプラネートの瞳には、俺の姿が映っている。


この人も、俺に託すのか……。

手記を受け取る以上、そういう事だ。

アデリシアがなぜ手記を二つに分けたのか。

その意味は、手記に書かれてあった。


二つの手記を手にした俺は、アデリシアの願いを知った。

聞いたことがないはずの声。

その声は、記憶の中から俺に願っている。


精霊女王の記憶の断片なのだろうか?

不思議な気分になっていた。


「ほっほっほ。代わりに、このゴーレムをくれてやる。屋敷に配置するがええ」

石でできたゴーレム三体を出し、プラネートの命令を聞くようにして起動させる。

デルバー先生がいつも作っているものではない形。


俺のオリジナルゴーレム・試作型だ。


「ではの、このあたりの妖魔はついでに消しておくので、辺境伯によろしく言っといてくれんかの」

窓を開け放ち、カルラを呼ぶ。

これを置いた以上、エーデルシュタイン辺境伯に会ってもいいんだけど、また今度挨拶に来る時でいいだろう。


「じゃあ、おたっしゃで」

つい、そう言ってカルラの背に飛び乗った。

一応手記を読みながら、カルラが指示するところに落雷を落とす。


手記を読み終えたころには、シュミット辺境伯の領地の妖魔も大体片付いていた。

仕上げとして、同じように辺境伯の屋敷を囲む妖魔を、氷の彫像に変えておく。


当初の予定よりもせわしく動いているのは、気分が高揚しているせいかもしれないな。


「何となく急がないといけない。そして、たぶんメッセージも届くよね」

カルラにそう告げても、カルラは知らないという返事しかくれなかった。

でも、俺の明確な意思表示は、たぶん伝わるだろう。

そろそろこの姿ともおさらばだ。


「さ、カルラ。いつかは君と、もっと自由に空の旅をしたいものだね」

カルラの首をなでながらそう思う。

カルラはどんどん上昇していく。


「べべべつに、そこまでいうなら、まあ、しかたないわね」

思わず頬が緩むのを止めれない。

そう、いつかみんなで出かけよう。


遠くに見える海を見ながら、その向こうに広がる世界を夢見ていた。


ヴィーヌスの語る英雄マルスの悲しい物語。マルスとの対決を急ぐヘリオスです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ