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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
夢の世界へ
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見えない絆(改)

2話目と3話目を入れ替えて元の2話を3つに分けました。

「ヘリオス!はやくしろ!」

木剣を構えた大柄の少年が、中庭でイライラしながら立っていた。


その剣は力任せに振るわれたわけではなく、ごく自然に振り下ろされたものだった。

しかし、その力はすさまじく、軽く地面をえぐっていた。

その迫力に気圧されつつも、ヘリオスは自分の木剣を持ちながら前に出た。


「ヘリオス、これは剣の稽古だ。お前のための稽古だ。わかるな?この俺の時間を削ってまで、相手をしてやっている。優しい俺に感謝しろ」

剣先をヘリオスに向けた少年の双眸は、ますます凄みを増していった。


その迫力に少し後ずさりながらも、木剣を構えて、必死に考えを巡らせているようだった。


「もちろんです。ウラヌス兄さま。こんな私のために、いつも申し訳ございません」

返答をする瞬間、構えがおろそかになっていた。


「ボーとするな!目の前に剣を持った人間がいれば隙を見せるな!」

その隙を見逃すはずもなく、おどろくべき速さで、ウラヌスは数度剣をふるっていた。


それはヘリオスの皮一枚を切るほどのぎりぎりの技だった。

もちろんヘリオスは反応できない。

衣服を切られ切り傷ができる。


どれも致命傷ではないが、ヘリオスの心が恐怖で満たされていくのがわかる。


そして最後にヘリオスの右腕に一撃を入れていた。

あまりの痛さにおもわずヘリオスは木剣を落としていた。


「剣を交えているときに、剣を落とすのは命を落とすことだ!その身でしっかりとおぼえておけ!」

ウラヌスの容赦のない一撃は、ヘリオスの体に叩き込まれていた。


はずだった。


しかし、その剣がヘリオスの体にふれる刹那、ヘリオスは後ろへと飛んでいた。

正確には、なにかに引き寄せられたという感じかもしれない。

しかしヘリオスは、やってくるその痛みから逃れるため、自らの意識を手放したようだった。


「けっ、軟弱が!」

思ったよりも手ごたえのなさを感じつつ、自分の攻撃にあっけなく沈んだヘリオスを見下ろし、そう吐き捨てていた。

しばらく様子を見てもヘリオスが起き上がらないのを見ると、周りのメイドに優しく声をかけた。

「すまないが、ヴィーヌスを連れてきてくれないか?ヘリオスが稽古でけがをしたといっておいてくれ」


メイドは一礼して、ゆっくりと移動していった。

それをみてウラヌスは、鍛錬場にむかっていった。これからが彼の稽古のようだった。


***


突然、自分自身を引き寄せる感覚に襲われていた。

以前も経験した感覚。そして、いつもとちがう感覚。


今回もやはりそうだった。


ヘリオスが気を失う。または、極度に追い込まれた状態になった時、自然とヘリオスの気持ちが流れ込んできた。


ただ、すべてではない。

おそらくヘリオスが意識的に閉ざしていることまではわからない。

しかし、この8歳も違うこの兄に、剣でどう対応してよいのか途方に暮れているのはよくわかった。


そしてヘリオスが気を失った分、俺の意識は夢の世界に入り込んでいた。

まるで、そこにいるような感覚。

そう、映画やドラマの撮影に立ち会っているかのようだった。


俺のことは見えないが、俺はすべてを見ることができた。

俺はこのまま見守ることにした。


***


「ヘリオス!?」

メイドから話を聞き、急いでここまでやってきたヴィーヌスは、中庭で打ち捨てられたヘリオスを見て思わず叫んでいた。


「ボロボロじゃない……。こんなになるまで……」

ヘリオスを抱きしめながら、ゆっくりとついてきたメイドに向かって訪ねていた。


「ウラヌス兄様ですね……。どうしてこうなったか、知っていますか?」

メイドは静かに頭を下げて、自分が見たことを正直に答えていた。


「ウラヌス様は、稽古の最中にヘリオス坊ちゃまに油断をしないように教えておられました。しかし、鍛錬の最後に隙を見せた坊ちゃんの右腕に一撃を入れられました。その痛みから坊ちゃんは剣を落としたので、武器を手放す危険性をその身に教えるために、胴に一撃を入れられたところ、坊ちゃんは動けなくなりました。そこでわたしがヴィーヌス様を呼ぶように命じられました」


「そう……。そう見えたのですね」

ヴィーヌスは黙ってメイドを見ていた。

メイドは黙って首を縦に振っていた。






メイドは嘘を言っていない。

間違えなく、彼女は見たままを話している。

しかし、ヴィーヌスは確信しているようだった。


ウラヌスという次兄は剣聖といわれた父親の息子だ。

そしてその弟子たちの中でも群を抜いて強かった。

その攻撃をヘリオスがかわせるわけがないのだ。


ウラヌスはもてあそんでいる。






「ウラヌス兄様、あなたは一体……」

その声は悔しさがにじみ出ていた。


「とりあえず、大丈夫なようね。よかった。ヘリオスも本当に、丈夫になったわ。けど、一応魔法はかけておきましょう」

自らに言い聞かせるようにつぶやくと、ヘリオスに回復の魔法をかけていた。


祈りをささげるようなその姿は、まるで二度とこのヘリオスが傷つかないようにという願いを込めているようだった。



「誰か人を呼んで頂戴。ヘリオスを部屋に運びます」

ヘリオスを抱きしめながら、ヴィーヌスはそうメイドに告げていた。


メイドは静かにうなずくと、使用人の部屋にむかってあるきだした。


「こんな時でも、そうなのね。この家のものは誰もかれも……」

ヴィーヌスの声は、悔しさにあふれていた。






この屋敷の使用人は、ヘリオスのことを他の兄弟と一緒には見ていなかった。

それもそうだろう、父親は同じ食卓に着くことも許していなかった。


彼らの父親は武人だった。

ヘリオスのことは認めていないのだろう。

それは武器を扱えないだけが理由のようではなかったが、少なくともその点に関しては明らかだった。

母親のように魔法が使えればよかったのだろうけれど、今の年齢でヘリオスにいかほどの力がつかえるのか……。






「ヘリオスもお継母≪かあ≫さまの信頼に、こたえられますように……」

天を仰ぎ願うヴィーヌス。


それは俺の願いでもあった。






全く魔法の才能にも恵まれていないように見られているヘリオスだったが、あの母親はヘリオスに全く才能がないとは思っていないように思えた。

でなければ、あれほど厳しく古代語魔法を教えてはないはずだった。


ヘリオスは古代語を理解し、詠唱も契約もすましていた。

5歳という年齢でかなりの契約をすましている。

しかし、いまだ発動には至っていない。


つまり、使えるという域に達していないということだった。

父親にしてみれば、使えなければ同じと考えているのだろう。

しかし、母親はあきらめてはいないようで、必死になって教えていた。


そのせいで、ヘリオスは母親に失望されていると感じていた。

本当に失望しているのであれば、厳しくはならない。


厳しさは期待がある証拠だ。


しかしそれが分かる年齢ではないため、そう思うことは、仕方がないのかもしれなかった。

だから、この家にあって彼は安らぎを得ることができないようだった。






「私には何もできないかいもしれない。でも、わたしがヘリオスを守っていくわ」

ヴィーヌスの瞳と声に力がこもる。






それは、誰に言うわけでもない言葉だった。

しかし、その言葉は、たしかに俺に届いていた。


自分自身が何もできていない無力感に押しつぶされそうになるが、それでも自分ができることを精一杯やっていく。そんな感じだった。


それは俺も同じだ。

この想いを伝えることはできないが、ヴィーヌスとの間に、確かなつながりを感じていた。


やはり歩いてやってくる使用人を見つめ、ヴィーヌスの瞳はさらに力強さを増していた。


しかしそうした彼女の行動を、ずっと監視している目があった。

それは俺にも見えないが、確かな感じがそこにあった。

もちろんそれは、ヴィーヌスには知る由もないことだった。


少しずつですが、手直ししていきます。申し訳ございませんが、よろしくお願いします。

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