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勇往邁進

コネリーとクラウスの知らせを受けたヘリオス君です。

その知らせは急にやってきた。

頭の中に響く声は、確かに私に向けて話しかけてきている。


「助けて、ヘリオス様。お姉ちゃんが、お姉ちゃんが……」

「ヘリオス様、やっぱりあいつらだよ!あいつらが、かんでたよ!」

声から、コネリーとクラウスであることはわかっていた。

周囲を見ても、二人はいない。

これは、直接頭に送られているのか……。

カルツ先輩とメレナ先輩の警告の声は、違った感じで聞こえているから間違いない。


しかし、いったいなぜ?


「ヘリオスが魔道具を渡してたからだよ……」

かろうじてそういうとミミルはまた眠りに落ちていた。


そういうことは……。

文句を言いたかったけど、ミミルは眠りについている。

行き場のない気持ちを、ちょうどこちらに向かってくるやつらに向けておく。


そう、あれからのミミルは一日の大半を眠りに使っている。


何があったのかはわからない。

しかし、いつも活発なミミルが、おとなしいのは何か理由があるに違いない。

実際ミミルとのつながりが、このところ希薄に感じる。


何か起きているのだろうか?


気になるが、全く分からない。

ミミルに聞くことができないのだから、なおさらだ。

先日、力の暴走を起こしかけてからのことだっただけに、そのことが原因なのかもしれない。

ただ、それは私の気持ちの問題でもあると思う。


いい機会だ。

ちゃんと一人でできるところを見せてやるよ。

ここまで用意されている。

先輩たちにも、私の問題は指摘された。


これ以上、誰かに頼るわけにもいかない。


こっちもそうだが、向こうにも変化があった。

そう考えるとこっちの変化も何か関係があるように思える。


もう一人のわたしが、変化に備えて用意していた警戒網だろう。

真っ先に私に届いたのは、幸いだ。


「コネリー、クラウス大丈夫、すぐ向かうよ。だから安心して、コネリー。君のお姉さんはきっと助けるから」

そう言って二人を安心させると、会話を終えていた。


まず、こいつらから片付けよう。


私たちの目の前にはゾンビの群れがやって来ていた。

いつ出てきたのかわからないけど、放置もできない。


そいつらはいきなり街道横から現れていた。



「ヘリオス。ちょっと数が多いから減らしておくよ」

カルツ先輩が信仰系魔法で浄化する。

たった1回の魔法で、一気に100体ばかりのゾンビが減っていた。

聖騎士パラディンは基本的に戦士のはずだけど……。


それでもまだゾンビはやって来た。


「何かゾンビ製造装置みたいなのがあるのかもしれないね」

メレナ先輩も浄化魔法を使っていた。

しかも、いつになく棒を使って戦っている。


「ばっちいからね」

ゾンビの頭を吹き飛ばしながら、メレナ先輩は片目を閉じてそう説明してきた。


「先輩方、ちょっと早く帰らないといけませんので、手っ取り早く焼いちゃいます。さがってください」

幸い、ここはただの草原。

思いっきり範囲を広げよう。


見える範囲をすべて効果範囲にして、一気に焼いてしまおう。


「すべてを焼き尽くせ。炎の嵐(フレイムストーム)

小さな炎の柱が螺旋を描き、どんどん成長してく。

周囲の空気を取り込んで、さらに範囲を拡大していく。

ほんの瞬き程の時間で、巨大な炎の柱へと成長していた。


炎の嵐がゾンビを焼き尽くす。

死者も生者も区別することのない炎は、その力をふんだんに発揮していた。


空気を焦がし、一面を焼け野原に変えて、炎の嵐は消えていた。


あたりは焦げ臭いにおいで充満していた。

あれほどいたゾンビの群れは、もう跡形もなくなっていた。


念のために、警戒しながら、残りがいないか探していく。

そして、何か発生原因となるものがないかを探して歩く。

あれだけの数のゾンビが自然に発生するには、この平原は平和すぎた。

急ぎたかったが、これも放置はできない。

それに、瞬間移動テレポートですぐにたどり着く。


ようやく、焼け跡の中から、壺らしきものを見つけたが、焼け焦げていたため、どんなものかわからなかった。

これで、当面の戦闘は終わったと考えてもいいだろう。


あたりは暗くなりつつある。

この後野営するか、進行するかでカルツ先輩とメレナ先輩は話し合っていた。


「大変申し訳ないですが、少し急用ができましたので、いったん離脱してもいいですか?」

私は恐る恐る確認してみた。


「何事かとおもったら。いいよ。後で合流してね」

カルツ先輩は簡単に承諾していた。


「できるだけ早く済ませておいで」

メレナ先輩もあっけなく理解していた。


まさかの展開に意表を突かれた。


「ほら、早くいくんだろ?」

メレナ先輩が、動かない私を急かしてきた。


「えっと、理由を聞かないのですか?」

やっとの思いでそう尋ねていた。


「ああ、学長に訳は聞くなといわれているからね。まあ、何かの事情があるんだろう。私もメレナも君のことを信頼してるから、それでいい。行ってきなさい」

私の肩を軽くたたきながらそう言っていた。

となりでメレナ先輩も頷いている。


「ありがとうございます」

デルバー学長もそうだが、先輩方には感謝しきれない。


あの円盤を取り出し、場所を特定する。

大丈夫、まだ遠くに入っていない。

王都のすぐ近くの森だ。


ルナのブローチをめがけて魔法を発動させた。


さあ、鮮やかに解決して見せる!


瞬間移動テレポート

いつもと違う感覚、何かに妨害されるような感覚が襲ってきた。

こんなことは初めてだ。


たしかに、私はルナの左横に転移したはずだった。


しかし、いま何もない空間に取り込まれていた。


前後左右上下すべてが白い空間だった。

奥行きも高さも広さも深さも分からないところに、私はたぶん立っていた。

立っているのか、浮いているのかすらわからない。

「ここ……どこ……」

訳の分からない展開に、心細さが表に出てきた。

情けない声を上げているとわかりつつ、それを気にしている余裕は、今のわたしにはなかった。



***



ここは……。

馬車の中だわ……。


周りを見ると少女たちが折り重なって、床に寝かされていた。

その中にアネットもいた。


一緒でよかったわ……。

しかし、ここは……。


目だけで、慎重にあたりを観察する。

こんな時こそ冷静でいなくちゃいけない。


幸い、私は馬車の座席に横たえられていた。

後ろは馬車の壁だろう。

前には女が一人。

目をつぶって寝ているようだった。


手は後ろで縛られていたが、足はそのままだった。

感触から、縄だとわかる。

足の方が自由なのは、歩かされるためか、それとも……。

焦りが緊張を生んだのかもしれない。


「起きたのかい、さすがだね……」

女が声をかけてきた。


「ここはどこです。あなたは何者です。私たちを一体どうする気ですか」

こうなっては仕方がないわ。

私は誇りを失わない。


「この状況でも、その姿勢は崩さない。ますます気に入ったよ。あんな男にやるのは忍びないね。やはり伯爵様の生贄こそふさわしい」

女は舌なめずりしていた。


その顔、その声、背筋に悪寒が走った。


「ほれ、ついたよ、足は縛ってないんだから、自分で歩けるね。歩いていきな。あんたを小屋の中に入れるまでがあたしの仕事でね」

女は顎で小屋を指し示していた。


「……」

すんなりという事なんて聞くものですか。

何とか、脱出する手段を考えないと……。

それには時間が必要だわ。


時間稼ぎのためにも動かない。


「ほれ、抵抗しても意味ないよ。ちなみにお友達は範囲に入ってないから、私がもらっておくから、あんただけだよ、あの小屋に入るのは。さあ、あの中でまっているのは誰だろうね……」

軽蔑の視線を小屋に投げている。

それなら何故こんな事をするのだろう。

疑問がよぎるが、それどころではない。


事態は最悪だ。

私だけがあの小屋に行く。

もし仮に自由になったとしても、アネットたちは囚われたままだ。


どうする……?

こんな時、ヘリオス兄様ならどうするのだろうか……。


我ながら、愚かな疑問だと思った。

ヘリオス兄様なら、そもそもこんな状況を作らないはず。

だからこそ、考えても意味がなかった。


今、ヘリオス兄様はここにいない。

それに、私たちがつかまっている事すら知らないだろう。

仮に、コネリーが探しても、ここを見つけ出すことなんてできない。


そう、私だけでこの状況をなんとなしないといけないんだわ。


具体的な案なんてない。

目の前の女は、私の抵抗できない魔法をかけてくる。

幸いにも、女の仕事は私を小屋に送ることだと言っていた。

ならば、その後、女は関与しないかもしれない。



いずれにせよ、このままでも状況は変わらない。

あの小屋にまず行くことね。


器用に上体を起こして、そのまま馬車を下りた。

ちらりと見ると、女はそのままそこでまた目をつぶっていた。

動かないということは、まだ、アネットたちに何かする気はないのだろう。


まだ、可能性はある。


そう思って小屋に向かって歩きだそうとしても、思うように足が動かない。

恐怖が心を覆い尽くそうとしている。


恐れにとらわれては、この状況を何ともできない。

私は、自分の勇気を振り絞る方法を探した。


お兄様……。

心の中で、助けを求めていた。


やはり、お兄様は私を助けてくれる。

しっかりと私は一歩踏み出していた。



小屋の前まで来ると、いきなり中から扉が開いた。

中から伸びた手で、私は乱暴に引き入れられていた。


その勢いをどうすることもできず、私はそのまま倒れこむ。


顔が痛い。

痛みと恐怖で一瞬体が固まっていた。

でも、お兄様がくれた勇気は、私の中でまだ生きている。

体をひねり、冷静に周囲を観察することができた。



光源として部屋の中央に置かれているのは、ろうそくだ。

揺れる火が、その下劣な顔を浮かび上がらせていた。


「おー失礼しました。フロイライン・ルナ。そのお美しい顔が傷だらけですな。いあ、ご心配には及びませんよ。あなたのその美しい体もすぐに傷だらけになります。ふふふ」

顔だけでなく、下劣な笑みを浮かべたその男は舌なめずりをしている。


「恥を知りなさい。ディーン」

紳士とは程遠い男。

その顔を見るのも嫌だったが、相手をよく見なくては、何もできない。

上体を起こし、何とか座ることまでできた。


この男はこれほどまでに卑劣で極悪で下劣な手段にうったえて私を拘束している。

そしてその他の娘たちまでも。


私の心の中で、憎悪が渦巻いていた。


「いいね、その顔。その顔が不安と恐怖に陥るさまを見てみたいよ」

いきなりディーンは私の顔を蹴ってきた。


とっさに上体をそらそうとしたけど、間に合わない。


頬にあたった足の衝撃で、私は後ろ向きに倒れていた。

顎を引いて、頭だけは何とかまもり、気絶することは無かった。


後ろ手で縛られていては、十分反撃もできない。

身を守ることも十分ではない。


痛みと屈辱で涙があふれてきた。


「おーおー。その顔もいい。そしてその体。ふふふ」

ディーンはますます下劣さを増していた。

ドレスの裾が乱れ、私の足があらわになっていた。

ディーンの下品な視線が私の足に向けられている。


屈辱感でいっぱいになったが、私には、自由になる足があった。


体をひねり、足でディーンのすねを思いっきり蹴とばした。


そのまま壁まで転がり、壁を背に立ち上がる。

立ち上がれさえすれば、護身用の足技がある。


まだ、私はあきらめるわけにはいかない。


「痛いじゃないか……あまり抵抗しないでくれよ」

涙目のディーンは口笛を吹いていた。


誰かを呼ぶの?

状況が悪化することしか、考えられなかった。

でも、どちらにしても、最善を尽くすしかないわね。


ゆっくりディーンを観察する。

私も何か攻撃的な呪文が唱えられたらよかったのに……。

残念ながら、生者相手に有効な魔法はもっていなかった。


色々考えているうちに、小屋の扉が開かれる。


私の中で、一番起こって欲しくない出来事が起こってしまった。

アネットが気を失ったまま運ばれてきた。


「あんまり抵抗するなら、お友達の方を先にいただこうか……な!」

その言葉が終わらぬうちに、アネットのドレスが引き裂かれた。


「ちっ」

ディーンは舌打ちし、忌々しげにドレスの切れ端をうち捨てていた。

インナーにより、望む光景が得られなかったディーンは、またしても下劣な視線を私に向けていた。


「まあ、次はないとおもってくださいね」

口調は丁寧だが、卑劣な笑みを浮かべている。


ゆっくりと楽しむように、ディーンは近づいてきている。

本当に卑劣で、下品で、粗野で、野蛮で……。

ありとあらゆる憎悪をディーンに向けて送っていた。


自分が抵抗すれば、アネットはどうなるかわからない。

ここには最低でも男が2人いる。

何とかディーンだけ退けたとしても、無事にアネットを救い出せるかわからない。


この状況をどうにかできる手段は持っていない。

どうしよう……。


ふとディーンの足元に、視線が吸い寄せられた。

ブローチ……。

引き入れられた時に落ちたに違いなかった。


まだ、あきらめるわけにはいかない。

お兄様が私に勇気をくれていた。


最後の最後まで抵抗する。


そう決めていた。

その中でアネットを救う手段があるかもしれない。

二人同時には相手をしなくてもいいはず。

もう一人はアネットを抱えたままだ。


まずはこのディーンだ。


決意を込めてディーンをにらむ。

私の視線に気圧されたのか、ディーンは半歩下がっていた。


「ふふふ、何という女だ。この期に及んで、そんな目をしてくるなんて」

ディーンは明らかに戸惑っていたが、なんとかプライドで持ちこたえていたようだった。


「しかたありませんね……」

ディーンは油断している。

まさか私の方から反撃してくるとは思っていないだろう。


そこにこそ、勝機がある。

右足で思いっきり、ディーンの股間を蹴りあげていた。

痛みで転げまわるディーン。


いい気味だわ。


もう一人の男を警戒する。


「ディーン様?」

アネットを担いだ男が、そのままの状態で無事を聞いていた。

すぐにこちらに来る気配はない。

注意はディーンに向いていた。


男の隙に、回り込むようにして、窓の方に駆け寄る。

そのまま、窓に向けて頭を打ち付けた。


ディーンはまだ、床を転げまわっていた。

情けない男……。


今は軽蔑している暇はない。

頭がかなり痛い。

かなり切っているわね。

でも、ここで負けるわけにはいかない。


頭から血を流しながら、割れたガラス片を器用につかんで、手を拘束していた縄を切った。

自由になったその手に、そのままガラス片をもって威嚇する。


持つ手からも血が流れる。

しかし、私はあきらめない。

必ずアネットたちを助けて、この場を離脱するんだ。


威嚇するように、男たちをにらんでいた。


「ひぃ……」

情けない男は、情けない声しか出さない。

気高さも何もない。

もう一人もひるんでいる。


私の中に、かすかな希望が生まれていた。


しかし、私の希望を打ち消すかのように、火の玉が飛んできた。


それは、私の髪を焦がし、窓に当たり、ガラスをさらにまき散らした挙句、小屋に火をつけていた。


炎を背に私は立っていた。


その援護射撃は馬車からだろう。

入り口の男をかすめていたのだろう、男は頭に火がついて暴れていた。

おそらくあの女が放ったに違いなかった。


「そう、生かして帰す気はないのですね」

小さな希望が、瞬時に打ち壊された。

あの女も、参戦してきた。

これでは、もう手の打ちようがなかった。


お兄様。

ごめんなさい。

ルナはどうやらここまでのようです。

ルナのせいでたくさんたくさん、たくさんご迷惑をおかけしました。

愛しています。お兄様


決して声にできない想い。

この場なら告げてもいいのかもしれない。

でも、これは私だけの秘密。

お兄様を困らせるわけにはいかないわ。



「アネット。あなたまで道連れにしてごめんなさい」

それだけが心残りだが、もはや私にはどうしようもない。

こんな男の思うようになるのだけは許せない。


最後にもう一度、お兄様とお話がしたかった……。

口いっぱいに広がった血が、私の口からあふれだす。


「ひぃぃぃ。舌を!」

ディーンは混乱し、ろうそくを倒して小屋から飛び出していった。

小屋はまたも火に包まれていく。


頭に火がついた男はアネットを放り出してすでに逃げていた。


ごめんなさい、アネット。

でも、あなたと一緒なら、私もさびしくないわ。

わがままな私を許してね。


そうして、私の意識は深い闇に閉ざされていった。


***


「やれやれ、援護したのに誤解されるなんてね……。まああれじゃあ仕方ないかな……」

そう言って女はルナの口に液体を含ませた。


その液体を飲み込んだ瞬間、ルナの体から傷が消えていた。


「この完全なる霊薬(フルポーション)は高いんだからね」

傷の状態を確認し、女は男たちに撤収を告げていた。


「さあ、予定通りにいくよ。この娘も手に入ったし、あとは伯爵様だよ!」

そう言って女は馬車の中に乗り込んでいた。



***



ここはどこだろう……。

状況を整理するために、私は順に確認していった。


まず、転移した。

目標もブローチにしていたから間違いなかった。


ブローチをとらえた瞬間に、頭の中が真っ白になったことは覚えている

何かに阻害された感じだった。


そして気が付くとここに立っていた。

この何もない真っ白な空間では足を動かすこともためらわれる。

足元も分からない。

立っていると認識しておきたかった。


「どこなんだ……」

望遠テレフォトで見てもその先にはたどり着けなかった。

そもそも進んだのか、どうかさえわからなかった。


試しに電光ライトニングの魔法を打ってみたが、そのまま突き進んで見えなくなっていた。


再度転移しようとしても、情景を想うことができず、魔法を発動することができなかった。


「どうしよう……。こうしてる間にもルナの身に危険が迫っている」

焦る心を何とか落ちつけようと努力する。

でも、いっこうに落ち着かない。


いろいろ試して考えてみた。

しかし、どれも失敗に終わっていた。


「だめだ……。私の力ではここを抜けれない」

なんて私は無力なんだ……。


ここに来るまでは何でもできると考えていた。

数百のゾンビを焼き尽くすことができても、ここから動くことすらできなかった。


「やっぱり私は……」

絶望にとらわれそうになったとき、ミミルの声が聞こえてきた。


「ヘリオス……。あなたの魔道具で位置特定するために作ったものを使えだって」

ミミルはそう言って、また眠りについていた。


「位置特定?魔道具?」

よくわからなかった。


聞きたくても、ミミルはまた眠りについている。

色々考えてみた。


ミミルが言おうとしたこと。

それは、ここから出る手段があるということだ。

しかも、それはもう一人のわたしが教えているんだろう。


何だ……。

必死にあせりを抑え込む。

考えるんだ。

位置特定。

魔道具。


その時、思い当たるものが一つだけあった。

そう思い、専用空間ポケットスペースの中身を確認した。


「アルファがない……」

意識の中でアルファを探す。


あれば情景がなくても、点だけで判断できるようにする目印の魔道具だ。


ただの気まぐれ、遊びで作ったもの。

なんでこんな魔道具の作成方法があるのかわからなかった。


何となく作ってみて、使うことがないから、ただ持っているだけのものだった。


「あ、わかる。わかるよ」

自然と涙があふれ出ていた。


この空間から脱出できる。

その喜びであふれていた。


瞬間移動テレポート

私の魔法は完成した。




あたりはすっかり日が落ちて、わかりにくかったが、どこかの森の端に立っていた。


足元には、アルファの反応がある。

ここにアルファが埋まっている。

今回もまた、もう一人のわたしに助けられたんだ。

でも、今はそのことを気にしている場合じゃない。


急いでルナのブローチの反応を円盤で確かめてみた。


まだ、そこにあった。


あの空間にとばされて、どのくらいたったかわからなかったが、空の具合からそれほどたってはいないだろう。


「まにあってくれ」

そう思って森の中を駆けて行く。

ルナを助け出さなければ、もう一人のわたしに何を言われるかわからない。

私はさらに加速していった。



少し開けた場所に焼け落ちた小屋があった。

正確には小屋の残骸があった。


火はすでに消えていたが、あたりにはまだ、かすかに焦げた臭いがただよっていた。

慎重に周囲の様子をうかがい、小屋の中を見た。


「だれもいない……」

入り口だった場所に立ちつくす。

部屋の中には人の形跡もない。


そんな私の視界に、ルナのブローチが落ちていた。


守りの魔法の効果で、ブローチ自体は無事だった。

しかし、本来はその持ち主を守るものだ。


ヨロヨロとブローチに近づき、膝から床に崩れ落ちる。

ただ、力なくそのブローチを両手でつかんでいた。


「ルナ……」

私はこのブローチに守りの魔法をつけていた。

そして円盤には、このブローチの位置を特定できるようにしておいた。


だから、これでルナの位置はわかるはずだった。


ブローチを見つめる私は、大きな間違いをしていたことに気が付いた。


ルナの位置がわかるんじゃなく、ルナのつけているブローチの位置がわかるだけだった。


なまじルナがこのブローチを片時も離さずにつけているから、このブローチを探せばいいと思い込んでしまった。



デルバー学長の言葉を思い出していた。


「それと、一つのことにとらわれすぎると、周りが見えなくなる。ゆめゆめ忘れることのないようにの」


学長、私が間違っていました……。


後悔しても遅い。

これだけ準備されていたのに、私は失敗した。


あの時、自分の力だけを過信せずに、周りの意見、もう一人のわたしの気持ちを考えてみるべきだった。


もう一人のわたしの気持ち……。


急いで専用空間ポケットスペースから魔道具を取り出し、腕にはめてみた。


「わかる、わかるよ。ルナ……。ありがとう、私の中の私」

ブローチがなくても、頭の中に浮かんでくるルナの位置。

今もどこかに向かっている。


よかった……。


この原理はわからない。

あらためて、性能を確認する。

あの時は、ただルナと自分の位置がわかるだけだと思っていた。

しかし、頭に入ってくる情報は、今の私の位置、ルナの位置、そしてこの国の地図、そして現在の日付と時刻、そして瞬間移動テレポートのための地点指定だった。


ルナを助けるためだけに作られたのは明らかだ。

「こんなもの、いつの間に……」

考えても仕方がない。

今はルナのことが先決だ。


これは確実にルナをとらえている。

まだ、やり直すことができる。


今度こそ、失敗しない。


しかし、私は日付を確認して驚いた。


「あれから、四日もたっている!」

私の驚きをよそに、ルナの移動は止まっていた。

どうやら目的の場所についたのだろう。



この場所は……。

頭に思うだけで、知りたい情報がやってくる。

おどろくべき機能だ。


ゾンマー領に近いノイン伯爵領、しかも伯爵の館か。


「これは伯爵が関与しているのか……」

より慎重に行動するべきだ。


もう、失敗は許されない。



瞬間移動テレポート

決意を持って飛び立った。


何とか空間を脱出したヘリオスは、反省し行動していきます。

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