魔道具作成
さっそく魔道具を作成するヘリオス。そこに潜む罠とは
「よし、これにしてみよう」
リライノート子爵から譲り受けた魔道具作成の本は、とてもわかりやすかった。
自分でも作れそうに思える。
幸い、資産は増えているので、材料をそろえることも可能だ。
よし、作ろう!
でも、何を作ろうか……。
いろいろ迷うが、やはり、最初に思ったものにしよう。
魔法障壁の指輪。
これしかない。
デルバー学長の魔法障壁の指輪はかなり高性能で、3つの魔法障壁を展開できるものだった。
通常は一つ。
これだけで考えてみても、この本の価値は計り知れない。
魔法障壁の指輪自体は、魔術師にとってはあまり重宝しないものだ。
しかし、魔術師以外にはありがたいものだろう。
私はリライノート子爵の言葉を思い出していた。
なにせ、使用者の魔法攻撃にもよるが、最大75%遮断できるものだ。
自分以外の大切な人のために、きっと役に立つだろう。
もう一度、必要なものをおぼえる。
準備しないといけない。
込める術者の魔法。
これは私が担当できる。
魔法を封じるための魔法石。
通常入手困難な魔法石は、幸いデルバー学長が大量に持っている。
しかも私はそれをも譲り受けていた。
安定させるための呪文刻印。
刻印方法もこの本に書かれている。
そして素材となる指輪……。
そう言えば、私の持ち物の中に、そのようなものは存在しなかった。
指輪がない。
他の材料があるだけに、盲点だった。
一番簡単に手にはいる物を、私はもっていなかった。
ある意味、それが一番大事だともいえていた。
魔法障壁の指輪なだけに……。
確かハンナの店にあったはずだ。
足しげく通ったおかげで、ハンナの店に何があるかはわかっていた。
そうなると、居てもたってもいられなかった。
私はハンナの店に向かっていた。
*
「ヘリオス様、またどなたかにプレゼントですか?」
アネットはそう言って意味ありげな笑みを浮かべていた。
「いやいや、アネットまたって……。今は魔道具を作ろうと思ってね。指輪を探してる。なにかシンプルなのはないかな?初めて作るので、失敗しても気落ちしない程度のものでお願いするよ」
アネットの言う意味が分からない。
私が誰にプレゼントするんだ?
「そうですか……ヘリオス様のそういう姿を見たかったんですけどね」
アネットはとても残念そうだった。
単なるアネットの妄想か。
しかし、それは誘導じゃないのか?
アネットいたずらも、ますます磨きがかかっているようだった。
「あはは」
とりあえず笑ってごまかそう。
今は、あまり深く考えても仕方がない。
初めての魔道具作成に集中したかった。
「そうですね……」
しばらくいろいろ迷ったアネットは、笑顔で私の前に戻ってきた。
「これなんてどうですか?」
二つの指輪を私に見せていた。
銀の指輪で、何の装飾も施されていないものだった。
割と幅がないので、呪文刻印はしにくそうだった。
でも、実際にほるわけではない。
要は集中の問題だ。
私はできると確信していた。
何より、自分の指に当ててみて、目立たない大きさであることが気に入った。
「じゃあ、これにするよ。いくらかな?」
一刻も早く帰って、この指輪を完成したかった。
「一つ銀貨30枚で」
アネットはそう言って、挑戦的なまなざしを向けてきた。
「たかいよ、20枚」
このやり取りはしないといけなかった……。
アネットが覚えた新たな商売。これをする約束をしている。
仕方なく、その誘いに乗っていた。
「28枚」
「22枚」
「25枚」
「よし、それでいこう」
合計50枚を支払い、指輪を手にした時、アネットは笑顔で勝利宣言をした。
「今日は私の勝ちです。元の値段は銀貨20枚です」
アネットは値札を元に戻しながら勝ち誇る。
これはしてやられた。
なまじ金貨を大量に手に入れたばっかりに、感覚が衰えたようだった。
物の価値自体は、正確に予想できたのに……。
「やるね、今日のところは素直に私の負けを認めるよ。でも、次は油断しないよ」
負けたことが悔しいとは思わない。
ただ、自分の間違いをそのままにもしておけなかった。
そんな気分で、アネットに再戦を申し込んでいた。
「いつでもどうぞ!」
アネットは余裕の笑みを浮かべている。
それは勝利したものがもつ余韻だろう。
惜しみない賞賛をおくろう。
合計銀貨10枚
これを私からしっかりと引きだしたのだから。
一つ年下だが、大人顔負けのしたたかさだ。
まだあどけない表情が抜けていない子供だけど……。
子供と言えば、気になることがあった。
今日は一度も見ていない。
毎日繰り返されたものがないと、なんだか落ち着かないものだと思った。
店を出る前にアネットに尋ねてみた。
「ねえ、アネット。このあたりで、コネリーくらいの少年がうろうろしているのを見なかったかい?」
アネットは店番をしていることが多い。
そして、アネットは定期的に店の外に出て、呼び込みもしていた。
だから、通りにその少年がいたら気が付くだろう。
「ええ、よく見かけますよ?あの子、スラムの子ですね。ただ、なにか、そう、誰かを探しているような感じです。でも、そう言えば、今日は見てませんね……」
アネットは疑問のまなざしを向けてきた。
「まあ、ちょっとした知り合いみたいなものだよ」
あいまいに答えていた。
あいまいにしか答えられない。
私は、直接知っているわけではなかった。
しかし、数日見ていないというのは、ちょっと気にかかった。
早く魔道具を作成したいという気分も、その気持ちには勝てなかった。
以前のわたしなら、そんなことは無かったはずだ。
なぜか、言葉にできないが、私の中で帰ってはいけないという思いが渦巻いていた。
「やはりそうなのか……」
以前から街に出たときに尾行されている感じ。
自分の視界を広域展開させたときにその少年を見かけていた。
その姿は何かをしようという感じではなく、話しかけようというものでもなく、ただ、監視しているだけのようだった。
何か思うところがあるのかもしれないと思い、放置していた。
私の用事は主にこの店にあったので、その少年はここで待っていることが多かった。
しかし、ある時は、学士院の島の前までついてきていた。
私が島に渡るときには帰っている。
時には、島の手前からついてくることもあった。
そんな何するわけでもない関係がつづいていたが、今日に限って一度も姿を見ていない。
「ただいまー。あっヘリオス様。いらっしゃいです」
配達から帰って来たようなコネリーは、私に挨拶してきた。
「お姉ちゃん、あの子、警備隊に連れて行かれてたけど、なにかあった?」
コネリーはそこで見た光景をアネットに報告していた。
アネットの視線を感じるより前に、私は声に出していた。
「ちょっといってみるよ」
警備隊に連れて行かれたと言っていた。
アネットはスラムの子供だと言っていた。
それを考えると、確かめないわけにはいかなかった。
「お姉ちゃん。僕何か変なこと言ったの?」
コネリーの不安そうな声を背中で聞きながら、私は店を出ていた。
***
警備隊本部は騒然としていた。
そう何度も来たわけではないので、いつもの感じはわからない。
と言うか、二度目だ。
最初は呼び出されたが、今度は自分からきている。
そう何度も来ることは無いと思っていた場所だが、改めて考えると、自分から来るところではないはずだ。
騒然とした雰囲気は、行きかう人々の表情を見れば、明らかだった。
誰も私に声をかけない。
皆、自分のことで大変なのだろう。
さて、どうするか……。
この状況で少年の行方を聞くのは困難に思えてきた。
まさにその時、背後からいきなり声をかけられた。
「ヘリオス様、どうしたんです」
警備隊員はにこやかに笑っていた。
警備隊員から声をかけられた。
私の名前を知っている?
勘違いじゃないようだ。
私を見て、そう尋ねているのは明らかだった。
どうしたものかと思っていると、向こうがかってに勘違いをしてくれた。
「ああ、あの時とは雰囲気がちがいますか、わたしです。あの時あなたから事情を聴いたデントです」
そう言ってその男は頭をかいていた。
「ヘリオス、君が警備隊につかまった時の話だよ」
ミミルの声が頭の中に響いてきた。
あの騒ぎの時か……。
あの後、呼び出しを受けた時の隊員とは違っていた。
でも、この人と関係したのは事実なのだろう。
向こうもそう言っているし、何よりミミルがそう言っている。
「ああ、あの時はご迷惑をおかけしました」
とりあえず相手に合わせてみよう。
どちらにせよ、誰かとは話さなければ、その場所にたどり着くこともできやしない。
「ところで、どうしたんです?今ちょうど少女誘拐に関する重要情報があがってきて、出動する部隊がいるから物々しいでしょ」
そう言ってデントさんは周囲を見渡し、この状況を説明してくれた。
「ここに私の知り合いが連れてこられたと聞いたので、何をしたのか確認しに来たんです」
自分の目的を告げていた。
少女誘拐。
最近王都で騒がしいと言うあれか……。
ハンナの顔が目に浮かぶ。
そんな忙しい時なら、改めて出直した方がいいか……。
どうせ私の知らない子だ。
スラムの子と言うのなら、何かしたかもしれない。
私がそこまで気にすることは無いのかもしれない。
私が、もう帰ろうと思った時、突如ミミルが伝えてきた。
「その子の事、ヘリオスは知ってるよ。まあ、ヘリオスじゃないけど。ヘリオスだよ」
ミミルの説明はややこしい。
でも、そう言うしかないのか……。
「何でもっと前に言ってくれないの?」
不満そうに、ミミルに送ってみた。
知り合いならば、話しは別だ。
私は、もう以前の私じゃない。
「えー。だって聞かれなかったしー。ミミル悪くないもん」
そう言って頭の上に移動しながら、ミミルは抗議の声をおくってきた。
私のかけた記憶は、ミミルが補ってくれるが、私が思うようにはいかないようだった。
ミミルはミミルの判断で、私に教えてくれる。
私が望むことを何でも知れるということではなかった。
「そうですか……。ちょっと待ってくださいね」
少年の特徴を話すと、なるほどという顔になり、受付の方に歩いて行った。
なにやら、係の人と話しているようだった。
しばらくしてから、デントさんは私の前に戻ってきていた。
「確かにつれてこられてましたね。けど、彼が何かしたわけではなく、以前からあのあたりで不審な行動をしていたので、通報された感じです」
そう言って、デントさんは仕方ないという表情を見せた。
それはスラムに生きる人間について回るものだった。
「なにもしていないのに、つかまるんですか?それでいま彼はどこに?」
なんとなく、その理不尽に少し憤りを感じていた。
ときおり出る感情。
自分でもわからない感情。
私には理解できなかった。
得体のしれない少年が、うろうろしていたら近所の人もやはり不安に思うのは当然だ。
近所の人はわるくない。
私だってそう思うだろう。
危険なことをするかもしれない。
スラムの人間は、王都の住人だが、そういう風にみられている。
じゃあ、さっきの感じは何なのだろうか?
ときおり出てくる感情。
それは、私がもう一人のわたしの影響を受けているという事かもしれなかった。
「彼と会うことはできますか?たぶん、彼がそうした行動をとったのは私のせいかもしれません」
デントさんに少年との面会を求めていた。
「たぶんそう言われると思ってました。ここにサインしてください」
デントさんは笑顔で私に面会希望書をわたしていた。
私の行動を予測した?
それは、私のことをある程度知っているということだ。
私の知らないところで、私を知っているというのは、やはり慣れない。
正直気味が悪い。不安に思う。
私が知らない人が、私でない私を知っていた場合、私はどう見られているのだろう……。
そう考えると、少年に会うことがためらわれた。
恐らく、少年は私のことを知っている。
だから、私を見ていた。
でも、私は少年を知らない。
少年は、私の何を見るのだろう……。
面会希望の相手はすでにクラウスとデントさんが記入しており、私は自分の名前を書けばよかった。
クラウスというのか……。
受け取ってから、自分の名前を書くのに、ずいぶん時間がかかったように感じる。
迷っても仕方がなかった。
私は、少年に会うために、ここに来た。
私は以前のわたしじゃない。
「何から何までありがとうございます」
頭を下げ、覚悟を決めた。
「いえいえ、このあいだは実にありがたかったですから。実はあの後、あの区画を整理しようとしていた商人の方も芋づる式に検挙できましたので。私もこうして出世したわけですし」
そう言ってデントさんは自らの階級章を持ち上げていた。
そう言えば、ここにもいた。
考えても仕方がない。
もう一人のわたしは、私にはできないことをたぶんしている。
でも、わたしも以前のわたしじゃないんだ。
そう思うと、不思議と力が湧いてくるようだった。
「おめでとうございます」
その昇進を祝福しておいた。
笑顔のデントさんの案内で、その場所に向かっていた。
「記憶がないと、不便だねー」
ミミルの同情するような声に、全く同感だと思っていた。
人はある程度記憶に基づいて行動するらしい。
勇気ある行動をしてほめられた経験があれば、同じような場面ではその行動をとることが多くなる。
正確にいえば、本来持っている資質に経験という記憶がまじりあって、その人の行動に結びつくようだ。
そして、私には一部それが欠如している。
そして、無い記憶が関係しているのは、たぶん私にはできそうにないことだらけだった。
だから、私も努力した。
私ができたのなら、私だってできるはず。
無い記憶に戸惑っていた時のわたしじゃない。
無い記憶に怯えていた子供のわたしじゃない。
負けられない思いが、そこにあった。
そして、最近になって感じる、わたしを突き動かす気持ち。
これが記憶によるものなのか、そうでないのかはわからない。
けれど、その感覚には素直に従うようにしていた。
どこからくるにせよ、決断するのは私しかいない。
この件にしても、スラムの子供に注意を払うこと、その心配をすることは、私の中のわたしに影響を受けている。
私が知らない以上、それは明らかだ。
けれど、いかに影響を受けようが、行動するのは私なんだ。
選択権は私にある。
ただ、今のところ、私の中のわたしの影響は私にとって好ましいことが多いと言うだけだ。
歩きながら、考える。
もう一人のわたしも同じように感じているのだろうか?
しかし、もう一人のわたしは、私の気持ちすら知っていたら?
私の記憶すら持っていたら?
その可能性は否定できなかった。
今のところ、私の中のわたしが行動したと思われることは、すべて私にとって都合がいいことばかりだった。
やった覚えのないことに対する賞賛。
何もしていない。
その時のわたしではできないと感じることを、私自身がしているということを賞賛という形で受け入れなければならない事。
それが、それが示唆することは、そういう事だ。
なにか、意図的に隠されているような気がする……。
ミミルなら知っているのだろうか?
「ミミルじゃないからねー」
ミミルの思念が伝わってきた。
頭から胸ポケットへと移動するミミル。
言いたいことがあったが、デントさんの足が止まった。
どうやら目的の場所についたようだった。
「ここです。あまり長居はできませんよ。あと、一応立会人が必要ですから、今回もわたしが付き添います」
そう言ってデントさんは自分も一緒にいることを説明していた。
「お心遣い感謝いたします」
デントさんの気遣いに感謝していた。
おそらく、スラムの子はその環境上警備隊員とは関係性がよくはないと思われる。
そうした中で私と話すのは、クラウスも嫌な思いをするかもしれない。
デントさんがある程度気を聞かせてくれるかどうかはわからないが、全くすべてを警戒するよりはましだろう。
「いえいえ、あの時のお礼みたいなものです」
またもそう言ってデントさんは私に笑顔を浮かべていた。
いったいこの人に何をしたんだろう。
記憶がないのは本当に不便だ……。
*
「…………」
最初、私を見たクラウスは驚くほど喜んだ顔になっていた。
しかし、すぐにうつむくと、そのまま黙りこんでいた。
デントさんがクラウスに私が来た理由を説明している。
何か話すようも促していたが、クラウスはやはり黙っていた。
「ねえ、クラウス。どうして君は私を見守ってくれていたんだい」
クラウスにそう尋ねていた。
クラウスは顔をあげると、驚いたような表情を見せていた。
なぜ、そのことを知っているのか?
そう言いたいことが分かった。
「君が私を守ってくれているのはわかっていたよ。君の好意を邪魔しちゃ悪いと思って何も言わなかったけど、こうして君がこの場所にいるのは、そうした私の態度のせいなのかもしれないと思ってね」
クラウスに優しく語りかけた。
私はこの子を知らない。
でも、この子は私を知っている。
それをいまさらどうすることもできない。
じゃあ、知っていくしかない。
知らないことは、知っていくしかない。
魔法と同じだ。
だから、私はそう行動する。負けるわけにはいかなかった。
私の顔をじっと見て、クラウスは決心したようで、少しずつ話し始めていた。
「おいら聞いたんだ。やつらの仲間がまた女の子を誘拐するって話を。姉ちゃん……じゃない、兄ちゃんは女の子に間違えられると思って……」
やはり、この子はこの子なりに私を心配しての行動だった。
少女誘拐の話を聞き、私に害が及ばないように気を配ってくれていた。
「おいらみたいなのが、兄ちゃんのそばにいると兄ちゃんに迷惑がかかるから……」
自分のことを差し置いて、私のことを心配した?
自分といると、私に迷惑がかかる?
たしかに、そうかもしれない。
これでも貴族。
スラムの子と歩いていたら、周りは変に思うかもしれなかった。
それを、この子は心配した……。
こんな小さな子の暖かい、けなげな姿に心を打たれていた。
「ありがとう……」
それしかいうことができなかった。
私と一緒にいることができていれば、この子はこんなところにいる必要がないのだ。
私のことを大切に思ってくれている人を、こんな所にいさせていいはずがなかった。
この子の拘留を何とかできないか、デントさんに相談した。
「事情はわかりましたので、難しくはないと思います。ただ、周りからの通報がまたあると、再犯となりますので……。あと、少年なので、身元を引き受けてもらう人がいりますね」
デントさんは理由が理由なだけに、その問題点を何とかしないといけないという口調だった。
そして身元引受人。
これは警備隊としては必要なことだった。
「それなら、身元は私が引き受けます。そうすれば、今回のようなことがおこる可能性はありません」
クラウスは状況が呑み込めないようで、呆然としていた。
「まあ、あなたらしいですね。わかりました。では書類を用意させます」
そう言ってデントさんは扉の前で待機している隊員に話していた。
私らしいか……。
でも、それでも、私が決断した。
この瞬間は、私が自分の意志で決めている。
「クラウス。君が私の周りにいてはいけないということはない。今度からは堂々と私を見かけたら声をかけておくれ。周りから何を言われても、君が私の友人であることは変わりないからね」
クラウスに握手を求める。
私は君を知らない。
でも、これから知ることはできる。
私と君との関係は、これからなんだ。
「兄ちゃん。おいら……おいら……」
クラウスは泣きながら、握手してきた。
そうだ、私たちはこれから知り合っていこう。
何となく、デントさんは暖かく見守ってくれているように感じた。
「ところでクラウス。君が聞いたという誘拐に関しての話しなんだが……」
デントさんはやはりその件を尋ねてきた。
「スラムのはずれに小屋があるんだ。その近くの岩のくぼみにおいらの宝物が隠してあるんだ……。その日は遅くなったから、よく見えなかったんだ。それで、その小屋の下にあるおいらの秘密基地に隠すことにして入ったんだけど、その時に小屋に入ってくる気配がしたんだ」
とりあえず、宝物の件は置いとくことにした。
それよりも、デントさんの問いにクラウスが素直に答えている。
私の知識では、警備隊員とスラムの住人は仲が良くなかったと思うが……。
ちらりとデントさんを見たが、彼も頷いていたので、話をさえぎらないようにした。
クラウスはスラムに生きる手段として盗賊の技術を持っている。
そう確信した。
そして、気配を読むこともできるようだった。
「そして中で話があって、伯爵がどうの、少女の質がどうのっていう話が聞こえてきたんだけど、その中で貴族の娘が必要というのが聞こえてきたんだ」
クラウスはそれで私を警護していたのかと思ったが、そこまで漠然とした情報では動けないような気がしていた。
「それでおいら真っ先に、ねえ……兄ちゃんのことが心配になったけど、あの学士院の生徒に手を出すとは思えなかったんだよね」
クラウスの判断は納得のいくものだ。
では、どうして?
「でも、中から聞き覚えのある声がして、そいつの話がどうも兄ちゃんのことを言ってる気がしたんだ。このあいだの騒動で取り逃がした銀髪の少女がどうっていってから……」
それでクラウスは私の周りを警戒していたようだった。
聞き覚えのある声と言うのは、あの騒動に関係している。
銀髪の少女……、は私とみても不思議じゃない。
クラウスの判断は、納得いくものだった。
街にいる間は自分が警護すると決めたのだろう。
しかし身分差を気にして、遠くからの監視に徹していたというわけか……。
「クラウス、よく話してくれたね。ありがとう」
あらためて、クラウスにお礼を言う。
気にかけてくれたこと。
話してくれたこと。
デントさんに、少女誘拐の件はどうなっているのかを聞いてみた。
素直に話してくれるかどうかわからないが、この人も同じ話を聞いてたんだ。
何となくだが、教えてくれるような気がした。
「さっきのタレこみと一致しますね。ただ、銀髪の少女というのはヘリオス様のことではないと思います」
そう言うデントさんは、それは確信という表情だった。
「実はアーモンド男爵令嬢、キシリーナ様が誘拐されそうになっていたのですが、その時例の区画騒動で出動していたので、偶然我々が救出したというわけです。キシリーナ様は銀髪の9歳の少女です」
なるほど。
デントさんの感謝は、こうしたことにも付属しているのかもしれなかった。
「なんだ……よかった……」
クラウスは安堵の表情で力を抜いていた。
その表情を見て和やかな気分になる。
「まあ、そういうわけだから安心していいよ。クラウス」
デントさんは笑顔で告げていた。
クラウスも笑顔になる。
そこには、警備隊員とスラムの子と言う関係はなかった。
和やかな雰囲気の中、私も笑顔なのだと気が付いた。
そうしているうちに書類が出来上がってきた。
サインをし、クラウスと共に警備隊本部をでていた。
多くの人が、奇異のまなざしを向ける。
以前のわたしなら、その視線に耐えられなかっただろう。
でも、私は悠然とそれらを受け止めることができていた。
さて、まだまだ大事なことはある。
クラウスをつれて、できるだけ人通りの多い道をえらんで歩いていた。
クラウスは時折下を向く。
その時は、背中をたたいていた。
ああ、ヴィーヌス姉さまもこんな気持ちだったのだろうか?
クラウスを見ながら、私はそう考えていた。
そう考えればやることは簡単だ。
私にはお姉さまがいる。
強引にクラウスの手を取って歩いていた。
なんだか楽しい気分になってきた。
「アネット、コネリー、ハンナさん。紹介するね。私の新しい友人のクラウスです。どうかよろしくお願いします」
そう言ってハンナの店に入った私は中に人がいるにもかかわらず、堂々と宣言していた。
最初、訳が分からないと言った表情のハンナだったが、私の顔をじっと見て、何かを感じたようだった。
「まあ、ヘリオス様。ご丁寧に。私はハンナ。よろしくね。クラウス」
そう言ってハンナはクラウスの頭をなでていた。
「ヘリオス様……。やっぱり変わってますね……」
アネットは意味ありげに笑っていた。
それは、私に対してのものであって、クラウスに対してではなかった。
「よろしくね。私はアネット。私の方が年上だから、あなたのことはクラウスって呼ぶわね。それと私のことはアネットお姉ちゃんと呼びなさい」
アネットは握手を求めながら、早くも姉風を吹かせていた。
「よろしくね。僕はコネリーだよ。僕もクラウスってよんでいいかな?」
コネリーは少し照れながら握手を求めていた。
突然のことにクラウスは戸惑いながらも、ひとりひとり握手をしていた。
そして自分がしっかりと名乗っていなかったことに気が付くと、全員に向けて、挨拶をしていた。
「ここのところ、おいらみたいなのがうろついてごめんなさい。そして、こんなおいらを受け入れてくれてありがとうございます。おいらはクラウスといいます。皆さんよろしくお願いします」
クラウスは実にはっきりと過去の自分の態度、これからの自分の態度を表現していた。
その光景を眺めながら、人とのつながりを心地よく感じていた。
私はこの人たちに何かできるのだろうか、クラウスのように誰かのために行動できるのだろうか。
ハンナさんやアネットやコネリーのように無条件で相手を受け入れることができるのだろうか。
そうした疑問が私の頭の中で、渦巻いていた。
「難しく考えない方がいいよ。とミミルは余計なことを言ってみる」
いつの間にか頭の上に移動したミミルの声が頭の中に聞こえてきた。
「ミミルだけ、私の心の中を見るのはどうかと思うな……」
その不公平感に軽く不満を念じる。
「ヘリオスってば、乙女の心を見たいだなんて、デリカシーにかけるんじゃないかな、ミミル的にはげんなりだよ」
やれやれという雰囲気とともに、ミミルの気持ちが伝わってきた。
そして、しっかり頭にかみついていた。
「痛いってミミル……」
思わず声に出していた。
はた目にはハムスターとじゃれあう姿だった。
お客たちを含めて、みんなに見られていた事に、急に恥ずかしくなっていた。
「あの……。私はこれで失礼しますね……」
一刻も早く帰りたかった。
指輪の作成もそうだが、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
とたんあたりから笑いがあふれる。
「やっぱりヘリオス様がいるとおもしろいわ」
ハンナは特に大笑いしていた。
店の客もアネットも、コネリーも、クラウスも笑顔だった。
「ああ、この瞬間、私は何かしたという感じがするよ。ミミル」
いろんな人の笑顔がそこにあり、自分もまた、笑顔でいられる。
そんな雰囲気がここにはあった。
そう思いながら、照れた笑みを浮かべていた。
頭の上ではハムスターが大の字になってねころんでいる。
とても満足な気持ちが、私の中に流れていた。
***
さっそく、魔道具作りに取り掛かる。
この気持ちを指輪にこめようと思っていた。
本には魔法を込める際に不確定要素として気持ちを込めるということが書いてあった。
最初、それを見たときに成功するように祈ることだと思っていた。
しかし今は、わかる。
そこに込めるのは――その人が笑顔になれるように――という気持ちにした。
魔道具を使う人のことを考えることが重要なんだ。
魔法は障壁に限定されているので、上位保護結界、上位魔術防御結界、そして対邪悪結界を選んだ。
それぞれに対応する魔法を今持てる自分の最大限の力で魔法石に封じていった。
合計6個の魔法を封じた魔法石を作成した後、大きな疲労に襲われた。
思った以上に魔力を必要としていた。
それもそうか……。
あらためて考えると、どれだけこめるかで、その価値が決まるんだ。
中途半端にはできなかった。
しかしまだ完成はしていない。
もう一度気を引き締めなおす。
「これに魔導刻印をして指輪と一体化させるのか……。魔法陣はこれを使うのか」
魔法陣を用いて、その一体化作業を行っていた時、ミミルが声をかけてきた。
「ねーヘリオス。最後にミミルもそれに何か入れてみたいんだけど……。最後の安定化の前におねがい……」
ミミルが何を言っているのかわからなかった。
妖精の力かなにかだったら、安定化してからでも大丈夫のはずだった。
しかし、ミミルは安定化の前にといってきた。
「ミミル、最初の一つはそのまま作るから、もう一つの方でいいいかい?」
初めてのものなので、いったんは本の通りにしてみたかった。
「んーいいよ。でも、これを渡す相手には気を付けてね。ヘリオスが大切にしている人の中でも、特別な人じゃないとだめだからね。ミミルはここ重要だよとことさらに強調してみたりする」
ミミルはいつになく真剣な声だった。
「わかったよ。気を付ける。見た目で分かるといいけどね……」
自分で言っててなんだが、それは問題ない。
装備品に限らず、魔道具は作成時に名前を入れる。
だから、袋から取り出す際にその名前を思えば間違えることは無い。
そう言えば、大事なことを考えてなかった。
「名前を考えてなかった……」
いまさら中断できないことに少し動揺した。
「一番目の指輪でいいじゃん」
ミミルが声に出していた。
「それもそうだね、まあ最初という意味でちょうどいいね」
一番目の指輪と名付けて、すべての工程を終えた。
魔法陣で輝く指輪は、その強い魔力を内包していた。
「まあ、初めてというわけで、これは感動だね」
満足できるものに仕上がった。
初めてにしては上出来だと思う。
誰かに見てもらえばよかった。
少し残念な気分になったが、失敗した時のことを考えると、人前ではまだまだ作れない。
でも、これは見てもらいたい気分になっていた。
あらためて見ると、我ながら見た目も最高だった。
銀の指輪はそこに魔法石がついた物に変わっていた。
緑と青と白の魔法石が指輪の中に埋め込まれている。
指輪の内側には魔法文字が刻印され、ほのかな光を放っていた。
「よし、今度も頑張ろう」
気をよくして、次に取り掛かる。
まず名前を考えよう。
「ミミルの指輪!」
私が考える前にミミルが指輪の名前を決めていた。
あっけにとられる私の前で、妖精の姿をしたミミルが作業を今や遅しと待っていた。
「さあ、はやく」
いつになく真剣な顔で、作業をせがんでいた。
「ミミル、どうしたんだい。いや、わかりました」
ミミルからにらまれた……。
一体どうしたんだろう?
訳が分からないが、一つ目と同じように作り始めた。
最後の安定化の段階になって、ミミルに合図を送る。
待っていたかのように、ミミルはそれに両手をかざしていた。
魔法陣が巨大な力に包まれていた。
「ミミルたちの加護をこの指輪に与えん」
ミミル以外にもこの場にいるんだ……。
その存在を感じることができない。
しかし、魔法陣は確かに力を受けて、さっきよりも輝いている。
「ヘリオス。もういいよ。仕上げて」
ミミルの声で我に返った。
まだ、安定化の工程が残っている
今は、余計なことを考えまい。
この力を安定化して指輪としなければならなかった。
私は作業を再開する。
しかし、なかなか思うように安定化しなかった。
指輪に内包される力が強すぎて、最初のような感じではなかった。
「ヘリオス。柔らかく包んで。強引はだめだよ」
ミミルの声が聞こえた。
恥ずかしい……。
たった一回の成功で有頂天になっていた。
魔道具は使う人のことを考えないといけない。
この指輪が、持ち主をしっかり守ることを祈る。
そう指輪に願いながら、指輪のイメージを整えていく。
その時、なぜか私の中でイメージが出来上がった。
そして何となく、その言葉を口にして、指輪に名前を付けていた。
「みんなの願いを指輪に託します。ミミルの指輪」
瞬間、魔法陣がはじけた感覚。
しかし、それも一瞬で、今度は周囲の力をものすごい勢いで指輪が吸い寄せていた。
ほんの一瞬、光の爆発が起こり、私は思わず目を閉じていた。
つかの間の静寂。
恐る恐る目を開けると、そこには一つ目と違う指輪が浮いていた。
それはもはや最初の銀の指輪の形ではなかった。
緑、青、黒、銀の細い束が絡み合って作られている。
3つの魔法石はすべて合わさり、一つのエメラルドグリーンの石になっていた。
その石は神秘的で幻想的な雰囲気を感じさせていた
そして魔法文字の刻印はすべて金色の光で輝いていた。
宙に浮かぶ指輪。
その前に進むと、私の掌に指輪はすっと落ちてきた。
「ミミルの指輪だからね。本当に大切な人だよ」
頭の上まで飛んできたミミルは、そのまま力尽きて寝てしまったようだった。
「これは……すごいものなんてもんじゃないね……」
自分が作ったのだが、自分が作ったものではない。
そんなものに仕上がった。
確かに魔法は自分の最高の魔法を込めている。
しかし、指輪自体には様々な力が込められている。
「精霊の加護か……」
自分の中の自分が精霊と交信できることを知っている。
そしてその力を使えることも知っている。
だから自分はこうしていても精霊に守られているようだった。
この首飾りには今も精霊たちが暮らしている。
そうミミルから教えてもらっていた。
だからこの首飾りは、私の持ち物の中で一番重要なものだと思っていた。
その精霊たちがこの指輪に加護を与えている。
この世に一つしかない貴重なものが出来上がった。
「ミミルの指輪か……だれにあげるかは、もう決まってるんだけどね……」
問題は受け取ってくれるかどうかだが、まあ、それは後回しでもよかった。
まずは、会わないといけない。
全てはそこから始まる。
それにしても面白い。
魔道具作成がこんなに面白いとは思わなかった。
疲れていたが、まだまだいけそうだった。
今度は何を作ろう。
指輪じゃないものも作りたいな。
やっぱり身につけるものがいいか……。
それとも設置型がいいか?
いろいろ迷う。
この本を見てたら、どれもできそうに感じる。
また一通り目を通して、やはり装飾品を選んでいた。
身につけるものがやっぱりいい。
よし、明日からはもっと材料を買い込んで、作ってみよう。
私の魔力が空になるまでとことん作ってみよう。
まずは、材料の買い込みだ。
さあ、忙しくなりそうだ。
早く明日にならないかな……。
***
「ヘリオス。このボクとの稽古をさぼるとはいい度胸だ」
うん、なかなかに根性はある。
鍛錬を投げ出さない根性があると思ったが、このボクを無視する度胸まであるとは思わなかった。
「カルツ、例の準備。あと申請よろしく」
どこにいても、捕まえてやる。
あの秘密基地には入れないが、時折王都に買い出しに出ていることは知っている。
誰も気にしていないと思ったら大間違いだ、ヘリオス。
「メレナ。まあ、言っても無駄だろうけど、その目は獲物を狙っていることがバレバレだよ。ちょっとは自重して……」
カルツの投げやりな言葉に、一層腹が立っていた。
「カルツ、君も甘やかすからダメなんだ。あの子はとことんしごかないとわからないタイプだよ。君は、自分のやることをしっかりしてなよ」
全く早くいくんだよ。
申請が通らないことには、話しにならないんだからね。
「ヘリオス。君って……」
カルツの呆れ顔は見飽きたが、それでもいう事を聞いて、教員塔に向かっていた。
ふふふ。
覚悟はいいか?
ヘリオス!
***
「!?」
不意に悪寒に襲われ、周囲を見渡したが、そこには誰もいなかった。
当たり前か、ここは秘密基地であり、私の部屋だ。
他の人間が私に気づかずに入れるはずがなかった。
「どうしたのー」
ミミルは頭から首から背中からおなかから、ハムスターの姿で、私の体のいたるところに這いずり回って遊んでいた。
「いま、なにか狙われているような感じがして……」
さっき感じた悪寒についてミミルに説明していた。
「ははーん」
何か思い当たることがあったのか、ミミルは意地悪そうに私を見ていた。
「あのさーミミル思うわけよ。ヘリオスってば、このところ学士院行ってないじゃん」
そういえば、そうだった。
それよりも熱中していたからだが、言い訳にはならない。
もともと、講義としてはほぼ履修している。
後は消化するだけだった。
だから行く気もなかったわけだが……。
「んで、その学士院でさ、ヘリオスを一番相手してたのって、だれかわかる?その人チョー怒ってるとミミルは思っちゃうんだなー」
頭の上に移動して、ふんぞり返ったミミルを感じる。
その態度に、思い当たる人がいた。
「……メレナ先輩……?」
全身から汗が流れる感じだった。
あれから10日は行っていない。
少なくとも3日に1回は組手をしていたと考えると、3回ほど無視したことになっている。
「あのーミミルさん。私ここに帰ってこれますか」
ミミルに客観的に考えてもらおう。
私の答えは、帰ってこれないになっている。
ほんの少しの望みをかけて、そう尋ねていた。
「しらなーい。まあミミル的には難しいと思うなー。食料とか十分に用意しておいた方がいいと思うなー」
ミミルはこれまで作成したも道具を、蹴とばしていた。
「だよね……」
覚悟を決めなければならなかった。
このままここに閉じこもっていたとしても、そのうちデルバー学長にいって入ってくるのは明らかだ。
私もそんなに長く、ここだけにとどまるわけにはいかない。
覚悟を決めなければならなかった。
とりあえず、食料だ。
魔法の袋があるし、資金もある。
悲しいけど、何の心配もいらなかった。
*
王都に出て、食料を買おうとして、その価格に驚いた。
そして、買い占めようにも、そんなに物がないという事実。
しかし、できるだけ多く買おう。
そう決意したのは一瞬で終わっていた。
余分な出費を気にするまもなく、私は、つかまってしまった。
「あはは、メレナ先輩。ご機嫌麗しく……」
私のその言葉は、メレナ先輩の言葉で遮られた。
「うん、ヘリオス。ボク、とっても機嫌がいいんだ。会えてうれしいな!だから、今すぐ行くからね!」
笑顔の先輩は怖かった。
*
三か月後。
私は王都に戻ってきた。
私の姿は、誰が見ても気の毒に思えるほどだろう。
もはや貴族と言う姿ではない。
折しも、季節は廻りまた新入生を迎えることになっていた。
誰一人留年はなく、私たちは無事に2回生になっていた。
小規模ながら、パーティメンバーは編成されていたが、エーデルバイツは2人でもトップの成績でありつつけていた。
メレナ先輩とカルツ先輩は、風紀委員と学生代表として学士院で最も認知度の高い二人になっていた。
私はその二人に付き従う従者的に思われていた。
しかし、二人をよく知る人たちからは、ねぎらいの言葉を書けてもらっていた。
学士院で報告される報告書には、私が何をしたかは記載されることは無かった。
過酷な修行の成果。
長期、短期を問わず繰り返された学外演習と言う名の鍛錬を兼ねた冒険で、いつの間にか私は一人で戦える魔術師となっていた。
メレナ先輩からの体術を基礎にして、カルツ先輩の実践的な魔獣、妖魔の知識対応方法と間合いの取り方、武器との相性に至るまで、ありとあらゆる実戦経験を通して、私の戦闘技術は単なる魔術師を超えたようだった。
苦しかったが、私は満足していた。
これで、私も一人で戦える。
もう何も恐れるものはない。
私にとって、確かな自信がここにあった。
魔道具作りに熱中するあまり、手痛い罰を食らったヘリオス君は山籠もりという修行で戦闘力を格段に進化させていました。そして、季節は廻り新入生が入ってきます。
次回からは妹のルナがアカデミーにやってきます。物語が大きく動き出す予定です。




