表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
アカデミー入学
32/161

探索

探索に同行したヘリオスはここでもメレナに修行をつけられていました。探索地は一行の予想に反して・・・

「メレナ先輩もうこのあたりで勘弁してもらえませんか?」

私はメレナ先輩に降参を申し出ていた。


汗でぬれた髪が顔にまとわりつく。

その不快感に、もう一度髪を束ねなおした。

短く切ればよかったのだが、なんだか切ってはいけない気がしていた。



「ヘリオス。かわいいね。ボクそんな顔を見るともっとしごきたくなるよ」

そう言ってメレナ先輩は、まだまだという感じで私をはげましていた。


「ちょっと休憩をください……」

それだけ言って、その場に倒れこんだ。


汗が染みこんだ服に土がついていたが、そのひんやりとした感覚が今は心地よかった。


目を閉じ、息を整える。

不意にメレナ先輩の気配を感じた。

なんだろう?

目を開けると、そこにはメレナ先輩がいた。

私を上から見下ろしている。

なんだろう?


瞬間、その殺気を感じた。

全力で体を横転させて、その攻撃を回避した。


さっきまで寝転んでいたところに、木が刺さっていた。

満足そうな笑みを浮かべる先輩に、私は混乱していた。


「先輩?」

メレナ先輩は木の先を私の方に向けていた。

刺さった木の先には、芋虫のようなものがうごいていた。


「あー私。不用意に地面に寝ちゃだめだね。ボクがいなかったら刺されてたよ?」

あれは図鑑で見たことがある。

たしか、神経毒を持っている幼虫だ。


「先輩ありがとうございました」

助かった。

魔法が使える先輩がいるとはいえ、気が付いてもらえなかったら、大ごとだ。

もし、一人でいたらそのまま死んでいたかもしれない。

神経毒は、特に厄介だ。

薬を飲むこともできない。



「まあ、まだそれだけ動けるんだから大丈夫だね。よし!さっさといこう!」

メレナ先輩はそういうと、立ち上がった私の背中をたたいていた。


「カルツが料理しているとこまでもうすぐだよ。頑張れ!」

そういうメレナ先輩は楽しそうだった。


「メレナ先輩のもうすぐは、あてになりません。半日でももうすぐって言うでしょ……」

この先輩の訓練時における時間感覚は当てにならない。


「細かいことはいいの。ほら。いくよー!」

そう言ってメレナ先輩は私の尻を蹴とばした。


「痛いですって、先輩。先輩は軽くしているつもりでも、こっちはかなり痛いんですよ?」

本当に痛いんだ。

いくら身体強化しても、それ以上の攻撃力のあるけりは痛い。


「無意識化でも防御だよ」

そう言って、もう一度蹴る体勢に入ったのを見て、素早く逃げた。


「あはは、そう。その意気だよ!」

楽しそうに追いかけるメレナ先輩だった。

追いつかれると、また蹴られた。


その繰り返しが延々と行われて、私の精神と肉体はボロボロになっていった。


そして本当に半日近く走り通しで、私はカルツ先輩に出会えた。


「カルツ先輩……」

そういうのがやっとだった。

カルツ先輩は笑顔でお疲れ様といっていた。


本当にかわいそうにという目で見られた。


「先輩、他人事ですよね……」

その問いには、微笑みだけが返されていた。


「何二人で気持ち悪いことしてるんだい?ボクもまぜてくれるかな?」

メレナ先輩はそう言いながら、意地悪そうな笑顔で近づいてきた。


「いえ、先輩。きょうはありがとうございました。また明日お手柔らかにお願いします」

そう言って自らの休憩スペースを準備して、横になった。




「ところで今回はどちらに何をしに行くのですか?」

少しの休憩ののち。

私は今回の目的について聞いていた。

いつも私には目的も場所も告げられてはいなかった。

そしていつもわざわざ遠回りして目的地に向かっていた。


「今回はね、アトレア山地の近くにある森に、打ち捨てられた神殿があるらしくてね、その調査だよ。なんでも、妖魔が住み着いているらしくて、教会が人を派遣できないみたいなんだ。冒険者を雇ってみたけど、誰も集まらなかったようだよ。まあ、教会の依頼は安いからね」

そう言ってカルツ先輩は、自分は教会にも所属しているから断れなかったということを暗に教えていた。

そしてその場所の大まかに地面に書いていた。


「えっと、場所的には王都からいうとベルンの方角ですね?なんでいったんゾンマーク領に入ってから向かったんですか?」


私は目的地からいうと90度は方向が違う。

そんなところにわざわざ行ってから、調査に向かう理由がわからなかった。

ベルンに向かってから南下した方がはるかに時間を短縮できたはずだった。


「ヘリオスは知らないのかもしれないけど、最近王都とベルンの間には何かと物騒なんだよ。物価もそのせいで高くなってるの知らないかい?」

カルツ先輩はそう言って私に理由を説明した。


しかし、それならばなおさらそちらを通るべきではないのだろうか?

そういう疑問が私の頭をよぎった。


「ボクたちは警備隊じゃないよ、ヘリオス。世の中縄張りがあって、それを犯すとさ、正しくても、いらない反感を買っちゃうんだよ。それに、これはヘリオスの訓練でもあるから、安易な道はボクが許さないよ」


なるほど、それが理由なんだ。


カルツ先輩が私から目をそむけたことから、最大の理由が分かった。

しかし、それ以外のことでも世の中知らなければいけないことが多い。

私はまだまだ世間を知らなかった。


「なるほど、一つ勉強になりました」

カルツ先輩が先行した理由がよくわかった。


そして、私達は無事に問題の森に到着していた。


たどり着くまでに大きく精神と体力を減らしていたが、そこについて、さらに疲労感が大きくなった。


「ここですか?目的地」

私は思わず小声でそう言っていた。


「そうみたいだね。ほら、あそこにいる下級妖魔。あれが見張りかな?」

そう言ってカルツ先輩は視線で私に説明していた。


そこは打ち捨てられた神殿にふさわしく、うっそうとした木々に覆われていた。

ところどころ立つ神殿の様式の柱が、もともとの姿をかろうじてとどめているにすぎなかった。


屋根もないのに、下級妖魔が住み着くのは不思議だったが、その疑問は新たな妖魔の出現で明らかになった。


「地下神殿か。これは厄介な」

カルツ先輩はそうつぶやいていた。


建物として神殿が残っていた場合は、その内部は外観の構造物に依存する。

しかし、地下神殿となると、その規模は計り知れなかった。

当然、妖魔が住み着いている以上、その奇襲もありえた。

そのまま行けば、危険になる。

下級妖魔がどれほどいるかもわからないのに、そこに攻め入るのは愚か者のすることだ。

ここは、私が見るのが一番だろう。

あの魔法は、中級だから使っても問題ない。


「わたしが様子を見てきましょうか?」

カルツ先輩が考え込んでいる姿を見て、自らその役目を買って出た。


「ヘリオス、君、つかえるのかい?」

カルツ先輩は少し驚いたものの、なぜか納得していた。


「こういうものは得意ですので」

私は笑顔で答えていた。


目視観測ビュー・オブザべイション

そう短くつぶやいて、私は視点を飛ばしていた。


「入り口に2体、その奥に2体。その中央に下に伸びる階段がありますね。地上部分にはこれだけです。下に移動します」

私はさらに下方に視点を移動していた。


そこはたいまつで照らされた階段だった。

急こう配の石段を、およそ50段下った先で、突如空間が広がっていた。

そこから見える空間には、大きな地下神殿があり、その保存状態は極めてよかった。


私はさらにその先につづく階段を下りきったところで視界を360度回転した。

すると階段のすぐ横に隠れるようにして見張りが立っていた。

それは、階段を下りてくるものがいると横から攻撃できる位置だった。


「階段おりきったところ、右の壁側に隠し部屋のようなものがあります。そこに見張りが1体います。その位置から側面奇襲が可能です」

奇襲攻撃を警告した。


さらに前方に視点を飛ばす。


神殿の前には大きな魔法の柱がたっており、そこに光源があった。

その光源であたりを照らしているようだった。

なんだか心地良い光に思えたが、今はそれどころではなかった。


「神殿前は広場になっており、その中央には柱のような構造物。その上には光源があります。それにより周囲はかなり明るい状況です。神殿の前には歩哨のような妖魔がおよそ6体います」


さらに神殿に向かって視点をとばす。


結構な距離を飛ばしていたが、私はまだ平気だった。


神殿内部は薄暗くなっていた。

さすがにここまでは光源からの光も届いてはいなかった。

代わり小さな魔法の光がともっている。

永続化の魔法により、その魔道具は光を失ってはいなかった。


その内側には内柱がたっており、その上にはすべて彫像が並んでいた。


その彫像すべてに魔力マナが感じられる。


その奥には祭壇になっていたが、そこは破壊されて、略式の玉座になっていた。

そこにはひときわ大きな妖魔がいた。

トロールだ。図鑑で見たよりも汚らしかった。


その周囲には同じような妖魔がいたが、それは少し小さめだった。


「神殿内部には10体ほどのトロールと思われるものがいます。そのうちの一体はひときわ体が大きい。他の1.5倍はあるように感じます。ある程度武装してますが、その武器は貧相です。神殿の内柱上部には魔力マナを感じる彫像が10体います。この神殿の奥にも部屋があるようですが、扉が閉まっているので、入れません」


そういうと魔法を解除した。

急きょ戻った視界は、少し違和感があるが、すぐに元に戻った。


目の前ではカルツ先輩とメレナ先輩が唖然とした表情で私を見ていた。


「ヘリオス、君はどこまで視点を飛ばせるんだい?かなり長く使っていたが大丈夫なのかい?」

カルツ先輩は私の状態を心配していた。


なるほど、私は納得していた。

通常範囲拡大などすると余分に魔力マナを消費する。

まして、視界を飛ばす魔法は難易度こそ高くはないが、割と多くの魔力マナを必要とすることで有名だった。


「大丈夫です。これくらいなら問題ないです。さあ、さっさと済ませましょう!」

理由を聞かれても困るので、話題を変えることにした。

手っ取り早く、私は目の前の入り口にいる敵を無力化することにした。


麻痺の空気(パラライズエア)

軽く魔法を唱えると、簡単に無力化した妖魔に向かって歩き出す。


「うんうん、べんりだねー」

メレナ先輩は手を頭の後ろで組んで、上機嫌だった。


完全にマヒしている妖魔にとどめを刺して、草むらに打ち捨てた。


「よし。いこう!確か階段下りたとこにいるのだよね。よろしくね、ヘリオス」

そう言ってメレナ先輩は歩き出していた。

その歩きは足音を全く立てないものだった。

何を頼まれたのかわからなかったが、カルツ先輩が来たことにより、それが分かった。


「さすがにカルツ先輩は難しいですよね」

カルツ先輩の装備を見ていた。

カルツ先輩は聖騎士パラディンなので、全身鎧だ。


そのため、どうしても石段では足音がする。

これでは侵入していますと教えるようなものだった。


「すみません、先輩。しばらくの間黙ってもらいますね」

そうして私はカルツ先輩に魔法をかけた。


静寂の空気(サイレンスエア)


カルツ先輩は自分の周囲から音が消えたことにあわてていた。

一流の戦士は、その五感をすべて使って戦うと聞いている。

いきなり聴覚が異常になれば、混乱するだろう。


そして声が出せないことにも気が付いたようだった。


心配そうな顔のカルツ先輩に私が親指を立てて大丈夫であることを示す。


カルツ先輩は小さく肩を上げて、やれやれという表情で私に頷いていた。


メレナ先輩、私、カルツ先輩の順に石段を降りる。

まったく音を立てずに降りていけた。


石段を下りきったまさにその時、メレナ先輩が素早い動きでその伏兵の息の根を止めていた。


驚くべき早業だった。


完全におりきって、中央の広場付近まで来たときに、私はまた歩哨に対して魔法を行使した。

麻痺の空気(パラライズエア)

効果は確実に表れて、6体は麻痺していた。

ここまでは順調に進んでいたが、問題はここからだった。


中の10体のトロールに、神殿の彫像。

あれはガーゴイルだとおもわれる。

これらはこの二人にとってはあまり相手にはしたくない相手かもしれないな。

魔法の出番だ。

今回は魔法が使えてうれしい。

やってやる!


しかし、それはメレナ先輩の一言で、見事に粉砕された。


「さあ、ここからはボクらの出番だね」

メレナ先輩はカルツ先輩と役割を決めていた。


「まず、ボクはガーゴイルを粉砕するね、トロールはカルツに任せる。あいつら臭いから」

メレナ先輩はカルツ先輩に指示している。



「わかったよ」

声が出るようになったカルツ先輩はそう短く言って剣を抜いていた。

その剣からは強い魔力マナを感じることができる。


「これは属性剣でね。私の思う属性を付与できる。今回は炎にするよ」

そう言ってカルツ先輩は剣に何事かを囁く。

とたん、剣から炎が吹き上がった。


「さあ、ここからは解体ショーだよ」

メレナ先輩は残虐な笑みを浮かべていた。

そのこぶしにはすでに魔力マナが満ちていた。


メレナ先輩を先頭に神殿内部に突入する。


神殿内部では完全に奇襲を受けた感じだった。

トロールたちは、状況が分からずにバラバラに応戦してきた。

遅れて、柱からはガーゴイルが飛び出してきた。



「すごい……」

思わずそうつぶやいていた。


カルツ先輩はトロールの攻撃をかわし際に、胴を両断している。

そして、両断されたその体は、剣から湧き上がる炎によって焼かれていた。

剣もそうだが、人よりも大きな体を持つトロールを一撃で両断することは、普通ではできない。

そして、その剣の威力はすさまじいものだった。

カルツ先輩の通った後には、両断された火だるまが転がっていた。


メレナ先輩は柱を器用に使って空中戦を展開していた。

その一撃でほぼすべてのガーゴイルが粉砕されていた。

粉砕したガーゴイルを足場にして、次のガーゴイルに攻撃をしていた。

全く降りることなく、すべてのガーゴイルが撃墜されていた。


それぞれ10体の敵をあっという間に倒して、祭壇の方まで歩み寄っていた。


そこにはあの大きなトロールがいた。


「侵入者コロス」

トロールは短くそう言うと、二人に攻撃していた。



「なんだかあっけないな……」

なんだか警戒して視線を飛ばしたのがばからしくなってきていた。

それほど目の前の二人は圧倒的だった。

いや、一人か……。

メレナ先輩はヤジを飛ばしているだけだった。


やはりこのトロールも数度の打ち合いの後、2つの火だるまと化してころがっていた。


「うん、焼いたら匂いも消えるね!」

メレナ先輩は上機嫌だった。

よほど殴るのが嫌なんだ……。


「お二人とも、お疲れ様でした。改めてお二人を尊敬しました」

素直にすごいと思った。

やはり、その姿には憧れがある。

私にはできないことだった……。



尊敬のまなざしにカルツ先輩は一歩引き、メレナ先輩は有頂天だった。


「よし、私、扉を開けるよ」

メレナ先輩はそう言って、奥の扉を開けるために近づいて行った。


「……。あぶないよ……」

誰かが私の頭に語りかけてきた。

緊迫感のない物言い。

それが逆に私の警戒心を働かせた。


慌ててメレナ先輩に警告する。


「メレナ先輩ちょっとまって!こっちに急いで!」

私の緊張した声に反応したメレナ先輩は、思いっきり後ろに飛び去った。


その時、轟音がこの空間を揺さぶっていた。

あたりを埃が舞い、視界がかなり悪くなっていた。


清浄なる空気(クリーンエア)

短く唱えると、瞬時に周囲の埃がなくなる。


そして、その原因を私達は見ていた。

さっきまでメレナ先輩のいたところには、巨大な鉄球が落下していた。


特定の位置に近づくと、罠として作動する仕組みのようだ。

警告を与えてくれた存在をさがすが、それらしいものは見当たらない。

ミミルがポケットから出てきて周囲をかいでいたが、すぐにポケットに戻って行った。


「ミミルどうしたの?」

思念をミミルに送って尋ねてみた。


もしかしたら、さっきの声に関係していることか?

「……なんでもないよ。何が起こったのか見たかっただけだよ」

ミミルはどこか寂しそうだった。


しかし、ミミルのことを気にしている場合ではなかった。

音を聞きつけて、神殿の外から多くの下級妖魔がやってきていた。


「少しおおいな……」

いかに下級妖魔とはいえ、その数は50体以上いた。

それらすべてを葬る必要がある。


ボスが倒されたと知ってどういう行動に出るかは明らかだった。

今は統率がとれている。

しかし、それが無くなった途端、こいつらは見境なく暴れていく。

付近の村が被害にあうのは明らかだった。


ここは速やかに無力化した方が得策かな……。


「先輩方、ここから見えるのは全部無力化しますので、外にいるのを頼みます。メレナ先輩。特に階段から逃げるのを抑えてください」

できるだけ範囲を拡大して魔法を唱えた。

幸い、神殿前まで見渡せる。


範囲拡大麻痺の空気エクスパンド・パラライズエア

私の魔法は効果をあらわし、視界にいたすべてを無力化した。

効果発動を確認して、メレナ先輩は一気に加速した。

魔法の光で身を包んでいる。

魔法障壁を発動していた。


さすがだ。

効果範囲に入ってなお、私の魔法に抵抗していた。


メレナ先輩に追いつくように、神殿の外に走って出た。

すでにそこは、メレナ先輩の独壇場だった。


「今回も私の出番はないようだね」

そう言ってカルツ先輩は私の横に並んだ。

全身鎧の先輩は、機動力が劣るはずだが、それでも私と同等に走っていた。

恐るべき身体能力だ。

外にもそれなりの数がいたようだが、すべてメレナ先輩によって倒されていた。

広場の中央で、メレナ先輩は小石を蹴っていた。


「中でしびれてるやつらにとどめをさして来るよ。無抵抗相手に気は進まないけど、しかたない」

なんだか急いだ感じで、カルツ先輩は神殿の中に入っていく。

そんなに効果時間は短くないけど……。


入れ替わりに私のところにやってきたメレナ先輩は、まだ暴れたりないという雰囲気だった。

「手ごたえがないですか?」

遠慮がちにそう聞いてみた。


「まあ、しかたないね。こんなところにボクを満足させるのがいるとも思えないしね」

メレナ先輩は意味ありげに私を見ている。


「なんなら組手でもするかい?」

冗談じゃなかった。


「けっこうです!」

あわてて私も神殿の中に逃げ込む。

もしかすると、カルツ先輩はこのことを予想してたのかもしれないな……。


「ちぇ!」

後ろでそう言うメレナ先輩の顔が、容易に想像できていた。



「これは、罠解除しないと無理ですね。また同じ目に合いそうだ」

頭上を見上げ、そう結論付けた。

そこには同じような鉄球があと5つあった。


「なんなら全部落そうか?」

メレナ先輩が怖いことを言っていた。

まあ、手っ取り早い方法ではある。

しかし、そうなると向こうの扉がふさがれる可能性があった。


罠感知センストラップをつかって注意深く周囲を探ってみた。

以外と近くに、それらしいものがあったので、罠解除リリーストラップで解除した。


もう一度罠感知センストラップで周囲を探り、反応がないことを確認した。


「これで大丈夫でしょう」

いつでも準備万端といったメレナ先輩に、その仕事はいらないことを告げていた。


「うーん、掃除といい解除といい、一家に一台ヘリオスだね!」

メレナ先輩は感心してそう言った。

まさかとは思うが、家の掃除まで入ってないですよね……。


「あはは……」

とりあえず、苦笑いをしてごまかした。


実際ここまで魔法の大盤振る舞いをしても私にはまだまだ余力があった。

これは王都に来る前よりもさらに成長していた。

正確には、先日の騒動の時に大きく成長した感じだった。


メレナ先輩が扉を開けると、そこにはそれなりの財宝が置かれていた。


「ヘリオス、鑑定とかできる?」

メレナ先輩の目は、期待に満ちていた。

出来ないと言ったらどうするんだろう……。

少し迷ったが、正直に話すことにした。


メレナ先輩の場合、知っていてとぼけることがある。

うそをつくと、その後の稽古がきつかった。


できることを告げると飛び上がって喜んでいた。


「よし、じゃあ3人で分けよう。ヘリオス、魔力マナが込められているのを、まず選んで」

それはもっとも簡単だ。

鑑定をかけるまでもなくわかるが、一応魔法道具鑑定アプレイザルマジックアイテムをかけて6つの品を選び出した。


1つは魔法の背負い袋で、中に空間が広がっているもの。

1つは魔法の髪留めで、空中落下速度をコントロールできるもの。

1つは魔法の指輪で、水の中で呼吸できるようになるもの。

1つは魔法の外衣で、温度調整が可能なもの。

1つは魔法の腕輪で、自分の足音を消せるもの。

そして最後は精霊の封印壺だった。ただし中には何も入ってなかった。


「うーん。微妙なものばっかだね。とりあえずカルツは腕輪ね」

メレナ先輩はカルツ先輩に腕輪を投げていた。


その意図を理解したカルツ先輩はさっそく装備を解いて、腕にはめてみた。

確かに足音がしなくなった。


「おお、これは便利だ」

カルツ先輩はかなり気に入っているようだった。


「じゃあボクはこの髪留めをもらうよ。あとは全部ヘリオスにあげる」

メレナ先輩は私にすべて渡していた。


「え?いいんですか?もらっても?」

カルツ先輩とメレナ先輩を交互に見る。

二人とも笑顔で頷いていた。


「ありがとうございます」

魔法の背負い袋はぜひともほしかった。


専用空間セルフスペースを人前で使えない以上、この装備があるとかなり自由度が増す。

今回も食料だけで、私の装備はかなりのものになっていた。


二人はそれを持っていたので、私の食糧まで入れてもらっていた。


私は指輪をはめて、外衣を着て、背負い袋の中に壺を入れてから、袋を背負った。

袋の中をイメージすると、中身がわかるというのは専用空間セルフスペースと同じだった。


「よし、あとは金貨系統だけど、ヘリオスってどのくらい持っているんだい?」

カルツ先輩は私の個人資産を聞いていた。


貴族といえども大半が次男以下であり、自由にできるお金はほとんどない。

カルツ先輩も最初かなり厳しかったが、こうして冒険者のようなことをすると臨時収入があり、今はかなり裕福になったと言っていた。

そんな話をしてたときに、私はほとんどないことを告げていた。

それを覚えてくれていたのだろう。



「わたしですか?私の全財産は金貨5枚です」

私の所持金の少なさに二人は驚いていた。


いくら三男といっても辺境伯の息子の全財産が、金貨五枚はありえないようだった。


「ヘリオス、これを君にやるよ。今回君はかなり貢献しているから、それだけの取り分では不足かもしれないけど、教会に収める部分もあるし、マジックアイテムは内緒だしね」

カルツ先輩は私に金貨100枚の入った袋を差し出した。


「こんなにいいんですか?」

所持金が一気に20倍になった。


「いいんだ、ヘリオス。君は苦労したんだね……。それにこの部屋には金貨2000枚はあるから、そのくらい大丈夫さ」

カルツ先輩は私の肩をたたいていた。


メレナ先輩は黙々と財宝を教会の袋に詰めていた。

ときおり私をかわいそうに見ている。

いえ、そんなにひもじい思いはしてませんから……。


「よし、じゃあかえるか」

カルツ先輩の宣言は、大きくこだましていた。


何か気になる。

しかし、それが何だかわからないので、気にしないようにしていた。

それよりも、お願いしておくことがあった。


「あっ先輩方。あの、お願いがあるんですけど……」

遠慮がちにカルツ先輩とメレナ先輩を交互にみる。


「んーじゃあ組手5回で手を打つよ」

メレナ先輩はにやりとほほ笑んでいた。

まだ、何も言ってないのに……。


「なにかな?」

カルツ先輩は相変わらず、紳士だった。



「今回私が魔法を多用したことに関しては秘密にしておいてほしいのです。これは学長から言われていることですが、私はそれを破っていますので……」

ばれると大ごとになる。

先輩たちなら大丈夫だと思っているが、一応念のためにそれは言っておかなければならなかった。



二人は顔を見合わせると、噴出して笑っていた。

何が起こったのかわからない。

唖然とする私にカルツ先輩は笑いながら、教えてくれた。


「ああ、ごめんよ。それはもう学長から聞いているよ。君が専用空間セルフスペースを使えることも知ってる。ごめんね。だまってて」

笑いをこらえてそう言うカルツ先輩は少し涙目になっていた。


唖然とする私の肩に手が置かれた。

メレナ先輩は片手でお腹を押さえながら、笑っている。


「先輩……」

笑いすぎでしょ……。

というか、知ってたんならさっきの話は無しでいいだろう。

そこまで言葉が出かかった。

しかしそれを遮るかのように、メレナ先輩の両手は私の肩をつかんでいた。


「でも、組手は5回だよ」

そう言うと、もう我慢が出来ないという感じで、おなかを抑えて笑い転げていた。




「あんまりだー!」

あたりには私のやるせない叫びが響いていた。


一気に資産を増やし、アイテムも手に入れたヘリオスは今後セレブ街道をひた走れるのでしょうか?悲しき極貧人生もこれで解消?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ