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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
アカデミー入学
31/161

二つの結末

すべてが片付いた後、ヘリオスは目を覚まします。そこでとったヘリオスの行動とは?

意識を取り戻した私は、はじめここがどこなのかわからなかった。

その場所にいることが考えになかったからだが、その場所の特異性から、そこ以外に考えられなかった。


「学長室か……」

周囲を見ると、すぐ近くにミミルが妖精の姿で寝ていた。


部屋の中心に魔力マナが満ち、何者かが瞬間移動テレポートしてきた。


「おお、ヘリオス。起きとったかの」

デルバー学長は何事もなかったかのように声をかけてきた。


「先生。私はいったい……」

絶望の魔法(デスペア)により意識を失って以降の記憶がなかった。

それにかなり体力・魔力マナを消耗していた。

体が重たく、少し違和感があった。


「ヘリオスや、おぬしはこれから二つの噂に飲まれるじゃろう。一つはお主を蔑むもの。一つはお主を被害者だというもの。その二つは共にあることから発しておる。真実は、お主は被害者ということじゃ。わしはわかっておる。しかし、噂というものはその人が信じたいものを信じるという性質をもっておる。だから、お主にとって、これから味方となるものは、被害者という噂を信じる。おぬしの敵となるものはお主を蔑んでくる。そういう線引きをあの男はやってのけたわ。だから、それに甘えるがよい。そして己で考えていけばよい」

そういって学長は自らの椅子に腰かけた。


「その子、ミミルはの……。お主のために、お主の中のお主を呼び出したため、そこまで衰弱しておる。じゃが、お主の中の力でじきに回復する。心配せんでもよいぞ。そうすればまたハムスターにもどれるからの。それまでは部屋でやすませてやれ。あと、ここからは瞬間移動テレポートを使って帰るのじゃぞ」

それだけ言うとデルバー学長は何やら記載を始めていた。


「おお、そうじゃ、ヘリオス。帰る前に、ここにサインしておけ」

デルバー学長はそういって、今書き出した書類の下の方に署名欄を作っていた。

そこには学長の名前が書いてあった。

その下に私の名前を書くように指示してきた。


「これは?」

何の書面かわからない。

しかし、デルバー学長は笑顔だった。

学長が必要ならば問題ないと思い、サインをした。


「お主を守るためのものじゃ。心配いらん」

そういって学長はサインしたものを受け取ると、また、書き続けていた。


「ありがとうございました。失礼します」

それ以上は話すことが無いようなので、学長室を後にすることにした。


学長室からは指示通り、瞬間移動テレポートした。

行き先は指定されていない。

とりあえずはミミルを休ませよう。


どうやら私は又、僕に助けられたらしい。

そして、そのことは学長も知っているようだ。

何が何だかわからないが、私がわかっていることを整理してみようとしていた。


スラム街で魔法か、あれは警備隊だろうな。

いったいなぜかわからない。

しかし、自分が標的になったということは、はめられたということだとわかった。


「まさか。シンサタが?」

そういえば、様子がおかしかった。


なぜ彼は、ハンナの店の前では、あれほど距離を取ったのか。

なぜ彼はスラム街で自分ひとりにしたのか。

なぜ、あの男たちは自分を男だとわかったのか。


突き詰めて考えると、誰かにはめられたとしか思えなかった。

しかし、シンサタにはめられたとは思いたくはなかった。


「あれほど親しくしていたのに……」

ミミルを自分のベッドで休ませると、情報を仕入れに学士院アカデミーに向かっていた。



学士院アカデミーにはいってからの視線はどれも冷徹なものだった。

私の歩く先々で、人々が噂をしていた。


「やあ、ヘリオス。災難だったね。しかし、天はちゃんと僕たちの味方さ。悪者は成敗された。君も友人を選ぶべきだよ。そう、この僕が君の一番の友である僕がこれからはまもってあげるよ」


私を見つけると一直線にかけてきたカール。

彼は、一輪のバラの花を私に向けてそう言ってきた。


この変な友人の気遣いに、またも救われた気分だった。


「カール、私は混乱していて、よくわからないんだ、教えてくれるかい……」

そういってカールの知っていることを聞こうとした。


「なんと!ああ、そうか。うん、わかった。やはりそれほどまでの衝撃を……。おのれシンサタ、わが友ヘリオスへのこの仕打ち。わが剣にて成敗してくれよう!」


カールは私の肩を両手でつかむと、顔を思いっきり近づけて泣いきながらそう言ってきた。


正直何を言っているのかわからない。

そんな顔をしていたのだろう。

「みなまで言うな!」

と言って、駆け出していった。


「あの……。説明を……」

あとに残された私は、たち尽くすしかなかった。


「ちょっとヘリオス。全く心配させないで」

そういって早足で近づいてきたユノは有無を言わさずに私の手を引いて自分たちの部屋に向かっていた。

途中カルツ先輩とメレナ先輩にあったが、挨拶そこそこでつれていかれたので、二人もついてきていた。


「で、大丈夫なわけ?」

ユノは部屋につくと、私を座らせていた。

律儀にちゃんと先輩方に紅茶を入れ、自らは私に向き合うように座っている。


「うん、ただ、私も少し混乱してまして、状況の整理をしたいと思って……」

カールから少し情報は得た。

やはりシンサタが私をはめていた。

しかし、その動機が分からなかった。

全く見当がつかなかった。

前日までは楽しく魔法談義できていたのに……。


「これは、あれかな」

意味ありげにカルツ先輩がメレナ先輩に向かって言っていた。

「そうね。たぶん」

メレナ先輩もそれに同意していた。


私もユノも何のことかさっぱりわからないので、二人して両先輩をみていた。


「あはは、ボクそのかおきにいったよ」

きっと間抜けな顔をしていたに違いない。たぶんユノもそうなのだろう。

メレナ先輩は私たちを交互に指差していた。


「先輩。笑ってないで教えてください」

早く知りたくて抗議した。

それはユノも同感だったようだ。

ただ、ユノはうつむいている。


「君たち、パーティだよね。パーティの評価って、個人評価にもなるのを知ってるかい?」

カルツ先輩は評価方式に関して言っていた。

それは私も知っていたし、ユノももちろん知っている。

そういう顔で見ていたのだろう、笑いながらカルツ先輩は話を続けてきた。


「例えば勘違いした男がいたとする。自分はできるのに、ほかのパーティメンバーがだらしないから、順位が下になっていると。そして自分よりも上にいるパーティに自分よりも劣る存在がいたと考えた場合どうなるかな?まして、そのパーティには見目麗しい方がいたとする。どちらもあいつにはふさわしくない。自分こそがその場所にいるべきだ。そう考えたやつがいたとしたらどうかな?」


カルツ先輩は見てきたようなことを言ってのけた。

確かにそれは納得のいく答えだった。


「実際今までにもいろいろあるんだよ。ボクもいいよられてこまってねー。カルツもだけどね」

メレナ先輩はお手上げという態度をしていた。


「実際に能力のない勘違いがすることが多いんだけど、今回はちょっと大規模だね、ここまでのものは初めて聞くよ」

カルツ先輩は今回の規模は自分の知る限りでは初めてだという。

これまでは、学内で収まっていたようだ。


「何者かの関与があるということですの?」

ユノが不安そうに聞いていた。


「そうとは言わないけど、そうじゃないとも言えないな」

カルツ先輩は私の顔を見て真剣にそう告げてきた。


「いずれにせよ、用心したほうがいいい。君は多分一番狙われている。ユノ君もカール君も名声を得ているから陥れにくい。そういう意味で君はうってつけな存在だよ。このパーティにいる限りはね……」

カルツ先輩は、最後はユノに向かって話していた。


「……」

ユノはその言葉をうけて何やら考えているようだった。

メレナ先輩は何も言わずに、私を見つめていた。


「……わかりました。ユノ、私はこのパーティから降りるよ。ごめんね、自分勝手なことを言って、君といろいろ学びあいたかったけど、君に決断させるくらいなら、私は私で決断するよ。たぶん、そのほうが君たちにとってもいいような気がする」

そうユノに告げていた。


ユノは迷っているようだった。

「私にはわからないわ……。正直に私はあなた以外にパーティを組みたいとは思わない。カールもそうだと思う。けど、それがあなたを傷つけることになる。そうなると……」

最後は涙声になって言葉にならなかった。


静かに、カルツ先輩が話し始めた。

「今回はおそらくあれだけの物的証拠があるので、ヘリオスは名誉を保てるだろう。しかし、次もそうなるとは限らない。そうなった場合ヘリオスの立場は微妙になる」


いつになく真剣に、メレナ先輩はその後をつないでいた。

「最悪、この学士院アカデミーから追放も考えられる。そうなった場合、わがままでヘリオスをパーティに入れていることがいいことかな?


部屋は沈黙に包まれていた。



「そんなことはゆるされないぞ!友よ!」

そう言って乱暴にドアをあけ放ち、カールは靴を鳴らして入ってきた。



「悪意に立ち向かってこその正義。悪意に向かわずして、君の正義を誰が認める」

カールは私の脱退に反対だった。

何も悪くはない私がパーティからいなくなることが耐えられないようだった。


「ああ。友よ。君に向けられる悪意があるのならば、この僕がこの身で受け止めてみせよう。そうすれば、悪意は大多数の善意で抑え込めるはずだ!」

カールはパーティメンバー全員でこの試練に立ち向かうべきだと主張する。

そうすれば、周囲の善意に支えられるという考えだ。


「ありがとうカール。君の意見を聞けてうれしかったよ。でも私はやっぱり一度ここを抜ける。そして、周りに認められるようになったら、またパーティを組んでくれると嬉しいよ」


私は二つの意見をよく考えてみた。

そのうえで、やはり脱退することを決意した。

実力は隠さなくてはいけない。

しかし、それでも周囲に認められる努力は自分でしないといけなかった。

カールの言い分もわかるが、それではユノに負担が生じてしまう。

私にはそれが耐えられなかった。


「ヘリオス、わたしのことは……」

ユノは声を震わせてそういってきた。


「ユノ、君の考えもわかるけど、いろいろなことを考えると、私は決意したよ。みんなに支えられているのであれば、それにふさわしいとその他の人にも思ってもらわないとね!」

決意を込めて、宣言した。

笑顔で、このパーティに戻るために。


「じゃあ、決まりだね」

カルツ先輩はそういって私の肩をたたく。


「そうだね、まあ決まりだね」

メレナ先輩ももう一つの肩を持ってそう告げてきた。



何のことかわからない。

エーデルバイツの面々は、一様に同じ顔になっていた。


「あはは、ヘリオス。君を保護観察目的で、我々のパーティに入れる。覚悟するんだね」

そういって笑顔でカルツ先輩は告げていた。


「まあ、そういうこと。ボクたちは学士院アカデミーの風紀委員でもあるからね!じゃ、手続きに行こうか」

そういってメレナ先輩は私の肩をつかんでいた。


「わかっているとおもうけど、君たちも気を付けるように。今回は何やら奥が深そうだ」

カルツ先輩は真顔で二人にそういうと、先に部屋を出ていった。


「……。補充しないわよ」

ユノがカールにそう告げていた。


「もちろんだよ、フロイライン・ユノ。この僕がヘリオスをあきらめるとおもうかい?」

どういう意味で言っているのか定かではなかったが、エーデルバイツは当分2人でやる方針で固まった。


やることが決まった以上、二人は優秀だった。

これから訪れるいろいろな手口にヘリオスの場所を守る。これが二人の役割だった。


「またね、ヘリオス。あなたの帰りをまってるわ」

そういってユノは私を笑顔で送り出していた。


メレナ先輩に引きずられるようにして、私は部屋を後にした。



***



「あいつは失敗でした。まさかあんな使えんやつだったとは……」

小柄な男は申し訳なさそうに、大柄な男に頭を下げた。

その表情は、失敗したことが申し訳ないというよりも、不興を買うことを恐れているといた感じだった。


「まあ、過ぎたことは仕方がない。ただ、あそこであ奴が余計なことを口走らなければ、まだまだ次の手が打てたのだが、あれだけ広まってしまっては、しばらくの間手出しはできん」

大柄の男は、それが気に食わないようだった。


その時、扉が開き、別の男がやってきた。


「失礼します。あのあと、やつはパーティから除名されたようです」

小太りな男が、今しがた仕入れてきた情報のうち、先に仕入れたものを伝えた。それはおそらく、朗報のはずだ。


「そうか、やつめ愛想を尽かされたか。いい気味だ。こちらから手出しが出せない分、どうしようもなかったが、これでやつは孤立だな」

そう言って大柄な男はせせら笑った。


「いえ、実はカルツ、メレナ両風紀委員の保護観察下におかれました」


ダン!と机が情けない悲鳴を上げた。


「馬鹿な、聖騎士パラディン修道僧モンクのパーティに編入したということじゃないか!これでは手出しすらできん。くそ、あいつめ運がいい」

そう言って、苦虫をかみつぶしたような表情になった大柄な男は自らの思考をまとめるために、小さくつぶやく。


「どうせしばらくは手が出せないからいいが、その間に何か奴の弱みになるものを調べないとな。そいつをどうにかすることで、やつが慌てふためくさまをみてやる。覚悟しろよ、ヘリオス」

そう言って、小柄な男と、お小太りな男に探るように指示を出した。

「まてよ、確か妹がいたな……。年は1歳しか違わなかったはず。来年入学してくるなら……」

そうして、男は邪悪な考えに浸っていった。



***



……。病院か……。今は?

目覚めた俺は自分の周囲を探る。

左手には点滴、天井は病室ではなく、どちらかというと外来のような場所。

周囲でがやがや音が聞こえた。

ためしに体を少し動かそうとすると以前よりも力が入る。

しかし感覚が悪い。何か台車のようなものに乗っている感じだった。


そうして自分の状態を確認していると、不意に誰かが近づく気配がした。

その方を見て俺は安心した。


「大家さん。ありがとうございます。わたし、倒れたんですね……」

大家さんに向かって感謝を告げた。


「ああ、月野さん。大丈夫かい?今朝は会わなかったからさ、言われてたように様子見に入ったよ。そしたら、あんたちゃんと布団で寝てたんで、どうしようかと思ったよ。でも一応起こしても起きなかったから、救急車呼んだんだけどね。病院についても起きないから、いろいろ検査してたんだよ。でも不思議と何もないんだって。あんた、どうだい?」

そう言って大家さんはこれまでの経緯を教えてくれていた。


ためしに座るようにした。

多少時間はかかったが、座ることができた。

以前のように急激な肉体の消耗はなく、少しだるいといった感じだった。

そう、インフルエンザの後のような感じだった。


「大丈夫なようです。すみません、ご心配をかけました」

そう言って大家さんに深々とお辞儀をした。


「いや、あんた。よしとくれ。あんたに言われてたけど、あんまり真剣に思ってなかったよ。でも、あんたの様子見てたら、こっちもやっぱりちゃんとしないとって思ったよ。だから、気にしなくていいよ」

大家さんは笑顔で無事を喜んでくれていた。


後でちゃんとお礼はしよう。


そう思って時間を見た。

とっくに出社時間は過ぎていた。

電話をかけようと携帯を探したが、そのまま連れてこられていたため、持ってはいなかった。

「大家さん、会社に連絡したいんですが、小銭を貸していただけませんか?」

寝ていた恰好なので、小銭も何も持っていなかった。


今度から携帯と保険証は首にかけておこう……。

そう思いながら、小銭を受け取り、電話をかけるべく立ち上がって歩こうとした。


「!!月野さん。ダメじゃない」

様子を見に来た看護師に怒られた。

目覚めたことはそういえば言ってなかった。

しかし、会社には知らせておきたい。

会社に連絡するだけだからと看護師に訴えた。


「いいえ、先生の診察が済むまでだめです」

看護師は融通が利かなかった。

しかし、その辺は理解できたので、しぶしぶ了承した。


「あんた。あたしの電話使うかい?」

大家さんは携帯を持っていた。

驚く俺に大家さんは、いまどき当然だという態度で携帯を渡してきた。


「何から何までありがとうございます。大家さん」


「よしとくれ。ほら、早くかけないとここは病院だよ」

大家さんはここで携帯を使っていいのかわからなかったから出さなかったのかと納得した。


そして俺は会社に電話をかけた。

「月野です。課長、今朝どうやら倒れたようで、今病院にいます。今日は出社できそうにないので、申し訳ございませんが休ませていただきたいです。本日は特に打ち合わせはなく、外回りと新規を予定してましたので、申し訳ございませんが、どなたかに机の上にあるメモをみて電話だけでもしていただけると助かります。各得意先の現在の状況など書いてますので。よろしくお願いします」

課長は思いのほか理解を示してくれていた。


「あんた、ちゃんとしてるね。感心だわ」

大家さんは会話を聞いて変に関心をしていた。


「いつ倒れるかわからないですから……。あはは」

そう言って、乾いた笑いをした。

大家さんは俺の顔を見て深く頷いていた。


「うん、あんた。いろいろ不安だろ。あんたの言う通り、私があんたを見ててあげるからね。心配しないでいいよ」

大家さんはそう言って俺の肩をたたいていた。


ああ、これが安心感なんだな……。

人の温かみにふれて、そのありがたさに感動した。


次の日に出社した俺は課長に欠勤の謝罪と、対応してくれた同僚にお礼をいった。

課長からは特に何も言われなかったが、対応してくれた同僚からは簡単だったと話してくれていた。

それは、これまで面倒見た後輩たちが率先して対応してくれたことと、俺のメモが大きく役に立ったとのことだった。

あれで特に何も言わなかったが、課長はその場にいた全員にそのメモを見せて、俺の仕事を見習えとまで言ったらしかった。


「お前も大変だな、そんな病気があったんじゃな。でも、一人でこれだけのことをするのは大変だろう?まさかの時には俺も力になるから、ちょっとは手を抜いたって大丈夫だ。俺もそれなりに仕事してるからな」

そういって同僚は後輩たちがそれぞれで行った結果をまとめたものを用意してくれていた。


特に変わったことはなかったが、一様にそれぞれで俺のことを心配してくれていたようだった。


「顔合わせても、文句しか言わないあのおやじさんまで……」

俺は目頭が熱くなるのを感じていた。


「よし、今日も頑張ろう」

今日の仕事に取り掛かるべく、準備を始めていた。

自分のやれることをして、自分だけでなく、周りを見て仕事をする。

誰かの助けをすることで、自分が助けられることもある。

誰かを思いやることで、自分も誰かに思いやられる。


「難しく考えることなんて何もない。自分が自分の居場所を作るために、自分のできることをして、その周りにいる人たちのことを考えて行動すれば、そこは自分の居場所として定着する」

思わず俺はそうつぶやいていた。

気付けば右手は固く握りしめている。


恥ずかしい……。


誰も周囲にはいないのが幸いだった。

こんなことは心の中だけでつぶやくものだろう。


ヘリオスも頑張った。俺も役に立てただろうか……。


そう思って、自分のことに取り掛かっていった。



***



俺は再びヘリオスのことを見ていた。


ヘリオスはエーデルバイツから抜けていた。

そして、保護観察という目的でカルツとメレナのパーティに所属するようになったようだった。

実際一回生は、野外活動ができないので、もっぱら学内ですごしていたのだが、ヘリオスの場合パーティ自体が三回生なので、野外活動の方が多かった。

その分学内での視線や、うわさから遠ざけられていたのだが、訓練という名の地獄がヘリオスにはやってきていた。


「あーヘリオスにはきびしいだろうな……」

野外生活の基礎から、食べれる植物、毒草、薬草それらを実地訓練と称して食べさせられていた。

二人とも回復魔法が使えるので、ヘリオスが間違って毒草を採取して食べても、問題なかったのだが、その間ヘリオスは苦しい思いをしていた。


しかし、その甲斐あってか、ヘリオスも書物の知識ではなく、実際のものを見て判断できるようになっていた。


「フィールドワークって大切なんだな……」

カルツたちの指導は体験型で、これまでのヘリオスの書物詰込み型とは一線を画していた。


そのため、最初ヘリオスはとまどっていたが、行動までの速度はやはり体で覚えさせた方が早いようだった。

俺はその様子を見ていろいろ考えていた。

なぜかヘリオスが習得したものを自分があっちの世界に行ったときに使えるのか気になっていたのだが、それはヘリオスの体として習得したからなんだろう。

こっちで習得したことは、向こうで何かできないのだろうか?

そういう疑問がわいていた。


「よし、何かやってみよう。」

そう思い、ヘリオスができないことを俺が習得して、向こうの世界でできるかどうか試すことにしていた。


「そうだな……。やっぱり料理かな」

ヘリオスができなくて、向こうの世界でも実践できること。

そして現実世界で習得可能なものは実際にはかなり限定されていた。

その中で役立ちそうなのは料理しかなかった。

一人暮らしのため、ある程度できるが、その原料や材料など細かいことは全く知らなかったので、一から学習しなければならない。

こちらの食材を持っていくことはできない。

向こうで似たようなものを作らなければならなかった。


幸いうちは食品メーカー。

俺は元研究者。


「ついてるな」

思わず笑みがこぼれる。


いろんなことに前向きになっている俺は以前のような俺ではなかった。

その周りには自然と人の集まりがあって、そこにふつうに溶け込んでいた。

俺は自分自身が変わったことにあまり気づいてはいなかったが、その雰囲気や行動は多くの人に影響を与えていたようだった。

今回のことでそれがよくわかった。


そうして俺は食品についてもっと学び、料理についても、さらに詳しくなっていった。


認め合う者たちが離れ離れになり、一人認められるために努力を開始するヘリオス。そして今までの行いから周囲に認められた月野今後二人はどうなっていくのでしょうか・・・。

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