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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
夢の世界へ
3/161

ヘリオスという名の少年(改)

改稿して2話目を3話にしました。

「ヘリオス!」

森を抜けたその場所で、少年を見つけた少女は走り出していた。


「……ごめんなさい。ヴィーヌス姉さま」

ヴィーヌスが何を言いたいのか分かっていたのだろう。

自らも駆け出し、頭を下げていた。


「……。わかっているならそうして頂戴。この森は危険な森なの。貴方の年齢では帰ってこられないかもしれない」

ヴィーヌスがヘリオスを抱きしめる。


「ごめんなさい、守ってあげられなくて……」

抱きしめるその腕に力がこもっていた。


「いいえ、お姉さま。こうして心配していただけるだけで、私は満足です……」

ヘリオスはこの姉をとても大事に思っている。

姉もそう見える。


しかし、ヘリオスの顔は心の底から安らいではいないようだった。

ヘリオスの表情は安心と恐怖が同居しているように見えた。



不意に、それまで鮮明だった視界がかすんできた。

どんどんと、ヘリオスたちが遠ざかる。

闇の中をかいくぐり、俺の意識は何かに引かれていく……。

目覚めるんだ……。俺はそう思っていた。



***


目が覚めると、見慣れた天井がそこにあった。

まだ起きるには早い時間だ。

あの後どうなったのか、続きが気になって仕方がない。


しかし、あの姉弟には何か秘密がある。

ヘリオスを怯えさせるなにかがあるに違いない。

それが何かはわからないが、ヘリオスがヴィーヌスを警戒していないのはわかっている。なぜかはわからないが、それは自信を持って言えることだった。


そう言えば、あの後は屋敷で……。

再び襲ってきた睡魔に耐えられるはずもなく、再び俺の意識は夢の世界へと導かれていった。



***



仲良く手をつないで歩く二人の前に、農夫がやってくるのが見えた。

ふと、気になってヘリオスの方を意識すると、やはり下を向いて歩いていた。


ヘリオスは、人に顔を向けたがらない。

はっきりとした気持ちはわからないが、自信がないからだと思っていた。

それはヴィーヌスも同じなようで、優しくも厳しい言葉がヘリオスにとんでいた。


「ちゃんと前を向きなさい。かわいいその顔を沈ませてはいけません」

そう言ってヴィーヌスはヘリオスの頭に手を伸ばしていた。

優しくなでるように、ヘリオスの頭をたたいていた。

うっとりとした表情で、ヘリオスとその髪を眺めていた。


「ヴィーヌス姉さま、あまりその……」

ヘリオスはヴィーヌスの手から遠ざかるように、体を動かし、恥ずかしそうにうつむいた。

知らなければ、少女に見紛うその姿は、その仕草で一層それを際立たせる。

しかし、その態度ゆえにヴィーヌスにため息をつかせていた。


そして、改めて宣言するかのように、ヴィーヌスはヘリオスに告げていた。


「ヘリオス。私はあなたのその銀色の髪が好き。たとえお父様が何と言っても、私はその髪を誇っていいと思います。お義母かあ様とは少し違う、そう、あなたのその白銀の髪は、私にとって羨ましくもあるのです」


ヘリオスは少し恥ずかしそうな気配を漂わせながらも、自らの意見を口にする。


「この髪を嫌いではありません。ただ、私はお母さまの子ではありますが、お父様の子ではないのかもしれません。もし、ヴィーヌス姉さまのように金色の髪だったら、ウラヌス兄様のようにしっかりとした体だったら、このように思うこともなかったのかもしれませんが……」

話している途中から、ヘリオスの顔に陰りが見えた。


立ち止まった二人の間に、沈黙が居座ろうとしたその時、無遠慮ともいえる声がその席を奪い去った。


「ヴィーヌス様、今日は坊ちゃんとお散歩ですか?」

道を開けて、待っている農夫が、そう尋ねてきた。

待っている間も、こちらの様子をうかがっているようだった。


「ええ、おじさま。少し遠くに出かけてしまいました」

ヴィーヌスの笑顔は、貴族にふさわしく、とても気品に満ち溢れていた。


「もうじき暗くなります。お気をつけてお帰りください。ヴィーヌス様に何かあったらと思うと、わしら生きた心地がしません」

農夫も笑みを浮かべていた。


「はい、ありがとうございます」

やはり、ヘリオスはすぐそばを会釈のみして通り過ぎる。

ヴィーヌスの肩が少し落ちていた。


しばらく二人は、無言で歩く。


「それで、今日はどうしたの?またウラヌス兄さまから?」

周りに誰もいないことを確かめて、ヴィーヌスがそうささやいていた。

言葉に気を付けているのか、周りから見ると独り言を言っているように見えた。


「しかし、そのわりには稽古の傷跡がないよね?服も汚れているだけだし」

ヘリオスを覗き見て小首をかしげる。

ヘリオスも自らの様子を訝しんでいるようだった。


「ウラヌス兄さまには稽古をつけていただいていましたが、今日はいつもよりも手加減してくださったのではないでしょうか?私にはわかりませんが……」

泉のことは一言も出さずに、ヘリオスはあいまいに答えていた。


「……」

ヴィーヌスは何かを唱えると、ヘリオスの体が一瞬だけひかった。


「本当にけがはないようね。回復の魔法を唱えたけど、それらしい感じもなかったわ。むしろ、すでに治っているような感じがするわ。ねえ、ヘリオス。回復の魔法を誰かにかけられましたか?」

不思議に思う少女の目の前に、自分たちの屋敷が見えてきた。

ヴィーヌスはため息をつくと、それ以上は追及しないようにしたようだった。


「回復の魔法はとてもすばらしいですね、どんなに怪我をしても治してしまう。そして、また怪我をしても、治してしまう」

ヘリオスの表情には、言葉とは異なり、怯えの色が混じっていた。


「ヘリオスもお義母かあさまから古代語魔法を学んでいるじゃない。今の年齢からはすばらしいことよ?それにいろいろ学んでいるのでしょ?」

何故かヴィーヌスは、ヘリオスの変化には気づいていなかった。



「そうなのですが、まだ発動にはいたってなくて……。お母さまもあきれているのではないかと思います。わたしはお母さまに失望されているのかもしれません」

ヘリオスの顔が、ますます暗く沈んでいく。


「いつか……。きっと大丈夫よ」

ヴィーヌスはそう言って優しくヘリオスを抱きしめた。

その腕に抱かれた少年は、体を固くしながらも、少し安堵の表情を浮かべていた。


「さあ、帰りましょう。みんな待っているから」

「あっ……。はい、お姉さま」


そう言って姉は先に屋敷に向かって歩き出していた。

引いてくれていた優しい手をうしなった少年は、その場に立ち尽くしていた。


なかなか歩き出さない少年を、風が優しく追い抜いていく。


後押しされるように歩き出した少年を、風が優しく包んでいた。

それはまるで風が少年を守っているようだった。



3つの話に分けました。

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