精霊たち3
使い魔契約を果たしたミミルの浮かれぶりをご覧ください。
「なーんかすごいことになってるんだわ。ミミル的にちょーすごーい!!」
さっきからこんな調子でミミルは浮かれていた。
そこら中を飛び回り、ヘリオスが起きてしまうのではないかというぐらいにその小さな体で大きく飛び回っていた。
「で、どうしたのミミル」
私はもう半分くらい呆れ果てていた。
さっきからこの調子が続いている。
使い魔契約のあと、興奮するのも分かるが、ただはしゃぎまわっているだけにも思えていた。
だって、あのミミルだし……。
「それがね、それがね、すっごいのよ。ミミル感動しちゃった!」
ミミルはそれでも興奮がついづいている。
しかし、意味が分からない。
私達三人はどうしたものかとお互いの顔をみていた。
「ミミルね、ヘリオスと使い魔契約をしたんだわ」
そう言って、空中で大きく体を見せる。
それはもう知っている。
その先を知りたいのだ。
「それで?」
声を低くして、先を促してみた。
「それでね、ヘリオスとの魂のつながりを感じたのよ。そしたら、あのヘリオスの魂ともつながったのよ。わかる?わかる?わかる?」
ミミルはシルフィード、私、ミヤの順番に、顔の前で分かったかどうかしつこく確認していた。
「それって……つまり……」
シルフィードが声を震わしていた……。
その顔、その声は期待に満ち溢れていた。
「そう、呼べるんだわ。あ・た・し!」
そう言って鼻が伸びたかのように錯覚してしまうほど、鼻高々にミミルは宣言していた。
「ほんとに!?」
「ほんと!?」
「ほんとうなの!?」
私達は同時に声を上げていた。
私は驚きを隠しきれなかった。
「ちょっとミミちゃん、それどうゆうこと?」
シルフィードはミミルに詰め寄っていた。
「よんで」
ミヤはミミルに強制していた。
「なに、どういうこと?」
何がどう起こったのだろう。
ミミルはヘリオスと使い魔契約をしたはずだ。
しかし、あのヘリオスとつながったと言っている。
しかも、呼べるとまで宣言していた。
この学士院にきて、ほんの少しだけだが、あのヘリオスに会えた。
あの時は、パーティ戦まえで、いろいろすることが多くて、ゆっくり話もできなかった。
特に、私とシルフィードは情報収集に明け暮れた。
ミヤはヘリオスと共に、幻覚魔法のタイミングを調整していた。
正直ミヤがうらやましかったが、それ以上にミミルはヘリオスにべったりだった。
そんなミミルが今度は自分だけ話せると宣言している。
そして、何故そういう事になったかのか気になった。
私達に囲まれたミミルは、完全に逃げ場所を失っていた。
ミミルは半ば圧倒されて目を白黒させていた。
そして、事情を説明するために、近くの机に腰かける。
私達はその周りを取り囲んでいた。
順番に、ミミルは自分の身に起こったことを説明していった。
「でね、契約した瞬間にあのヘリオス君の感覚が、今のヘリオス君の中にあったわけよ。つい懐かしくなって、そっちにいったのよ。まあ、仕方無いじゃない?そしたらさー。あのヘリオス君の魂と結びついちゃってさ。あせったわ……。でも、どうゆうわけかこっちのヘリオス君の魂ともつながっているわけさ……。まあミミル的には結果オーライって感じなわけよ」
何とも大雑把なミミルであった。
「え?結局どういうこと?」
シルフィードはよくわからなかったようだった。
「はやくよぶ」
ミヤにとって、説明はどうでもいいみたいだった。
「失敗したけど、結果オーライって、あんた……。本当に失敗してたら、女王様に何て言うの……」
頭が痛い……。
お母さま……。
もう、言葉は出なかった。
でも、あのヘリオスとつながったことだけは褒めてあげよう。
言葉にしないけどね。
ミミルは自分の立場が今非常に危ういことを認識したようだった。
本当に今更だが……。
ミミルとしてはかなりいいことをしたつもりなのだろうが、それは結果論だ。
それを暴露したのだから、仕方がないね。
きっちり説教しましょう。
私がそう思った時には、ミミルは飛び立っていた。
話題を変えようと思ったのだろう。
空中で、ミミルは高らかに宣言していた。
「では、今からヘリオスに呼びかけてみますね!」
そう宣言してミミルは意識を、あのヘリオスに向けて飛ばしていた。
「え?うん、うん、いや。特にないよ?うん……。じゃあわかった。しょうがないね、ミミル的には許せないけど、特別に許してあげるね。ん?えへへ。あっ、うん伝えとくね」
そう言ってミミルはホクホク顔で私達の前に降りてきた。
「なになに?どうしたの。今?なに?」
シルフィードは何やらうらやましい展開になったのではないかと感じて、その理由をききたかった。
「独り占めはよくない」
ミヤはミミルの行動を明らかに非難していた。
「うそ、コンタクトとれたの?」
本当に信じられなかった。
どういう事なのだろう?
あのヘリオスはいったい誰なのだろう?
母上は知っているようだが、私は知らない。
魂を分かつ存在とは聞いているが、眠っているヘリオスの横で、もう一人のヘリオスと話したミミルがそこにいる。
訳が分からなかった。
私が考えている間に、ミミルが説明しだしていた。
私は考えるのをやめて、それを聞くことにした。
「んとね。来てほしいって言ったら、何か重大なことが起きているのかって聞かれたんで、そうじゃないよって答えたのさ。そしたら、今忙しいから、また今度にしてくれだって……。それでね、ミミルの声が聞けて安心したんだって。えへへへ。で、シルフィードとミヤとベリンダによろしくだって。みんな元気かとっても心配だって言ってたよ」
そういってミミルは久しぶりにヘリオスと話した感覚に、とても幸福な感じだった。
その顔はうっとりして余韻に浸っている。
そのミミルを、私たちはどす黒い感情を持って詰め寄っていた。
「ミ・ミ・ルー」
私達に取り囲まれて、ミヤの手につかまったミミルは身動きとれずにいた。
「なになに!?」
ミミルは焦っていた。
ミヤにつかまれている手を振りほどこうと懸命だった。
しかし、それも無駄だった。
シルフィードにより、足も抑えられていた。
許せない。
気のすむまで、でこピンしてあげた。
「なんなのよさー」
ミミルはやっぱりミミルだった。
***
俺は営業の途中、車の中で信号が変わるのを待っていた。
あれから発作も起きていないので、車を乗ってもよいことになっていたのだ。
それは、俺が活動範囲を増やしたことがきっかけだった。
どんな小さなことでも、俺はまじめに、誠実に仕事をしていた。
その姿勢は多くの信頼を勝ち取っていた。
そうしているうちに、車でないと回りきれない範囲を担当するようになっていた。
そして、ある程度めどが立つと、それをそのエリアに近い後輩に譲って後を任すようになっていた。
欲がないと言われた。
いつ何か起きるかわからない状態の俺に、そんな余裕はなかった。
最初は俺自身の為にしただけだった。
しかし、そうすることによって、後輩はそだっていった。
ためしに、違うエリアですると、ひどく感謝された。
上司からもその仕事ぶりは評価されていた。
「自分だけがいいのではなく、自分の周囲もよくなることで結果的に自分もよくなる」
俺はそう学んでいた。
だから、ますますそうしていった。
それだけのことだった。
「近江商人の知恵だな」
何となくつぶやいていた。
あれからいろんなことを学んでいた
自分一人ではできないことがたくさんあった。しかし、それは周りに頼ることで、できることに変わっていった。
俺の中で、今までの俺から変わった瞬間だった。
こんな俺でも変われたんだ。
ヘリオス。
お前も絶対に変われる。
俺はそう信じていた。
あれからはほんの少しの時間だけ向こうに行くこともできた。
ヘリオスの精神が不安定なときが多かった。
言ってからいきなりヘリオスが抱えている不安に押しつぶされそうになったものだ。
「パーティ戦の時は、本当に参っていたな」
あの時の教訓は忘れない。
向こうに行くことができたので、俺は怒りの精霊と対話した。
あまりヘリオスの感情に刺激されないように、俺は他の精神の精霊たちとも話し合った。
もともと精霊たちは、人の感情にいるだけだ。
ヘリオス自身がそれをコントロールしなくては意味がないのだ。
怒りの精霊はそう言っていた。
確かにそうだ。
でも、ちょっと反応するのを待ってほしいと懇願した。
俺のその願いは、俺の中をじっと見ていたほかの精霊たちの話で、なんとか理解を得ていた。
正直俺はほっとしていた。
あれから特に目立った変化はない。
ヘリオスも一応安定した生活を送っている。
感情の爆発がない分、攻撃衝動も起こらないようだが、それは我慢してもらうしかなかった。
「しかし、ミミルの使い魔にはおどろいたな……」
ヘリオスとの使い魔契約。
いきなり俺はミミルとのつながりを感じていた。
魂の回廊だっけ。
それが結ばれたのを感じた。
本当にミミルらしい。
その後とくにヘリオスともうまくやってるから、使い魔契約自体は問題ないのだろう。
ミミルを介してヘリオスに伝えることもできる。
俺はその新たな関係を、どうしようかと思っていた。
ミミルだしな……。
そこはかとない不安が、俺の中でただよっていた。
そんな時に、いきなりそれは訪れていた。
「ヘリオスー」
なんだか懐かしい声が聞こえた気がした。
「ヘリオスー。ミミルだよー」
突然ミミルと名乗る声が頭の中からこだましていた。
俺は今の自分の状態を確認する。
起きている。
信号は……。まだ赤。
なんだ?
この頭の中に響く声に動揺した。
本当に、ミミルなのか?
だとしたら、何故?何か起こったのか?
「ミミル?何か大変なことが起きたの?」
何となくそう聞かなくてはならない気がして、そう心の中で念じてみた。
やり方はそれでいいとわかっていた。
「ん?そうじゃないよ?会いたくなったんだよー」
起きているときに会話できたことに驚いた。
そして、何かが起こっているのだと思い、焦ってしまった。
まだ信号は赤のまま。
自分の意識は現実にある。
しかし、向こうの世界の中の住人からコンタクトを迫られた。
しかも、自分に会いたがっている。
白昼夢なのか?
そう認識してミミルに声をかけた。
そして自分も会いたいと思っていることに気が付いた。
「今ちょっと忙しいんだよ。何か問題があったらまた呼んでみて。あと、なんだかわからないけど、ミミルの声が聞けて安心したよ。それと、シルフィードとミヤとベリンダにさびしい思いさせてごめんって伝えておいて。みんな元気にしているかとても心配だよ。もちろんミミル、君もだよ」
なんだか電話みたいだなと思いながら、心の声を伝えた。
おりしも信号は青になり、俺は車を走らせた。
「こないだから、ヘリオスは大丈夫そうだけど、これは何か起こる前触れか?」
考えてしまったら、言いようのない不安感に襲われていた。
ヘリオスの身に何か起こる気がしてならなかった。
「こんどこそ、慎重に、そしてあらゆる可能性に対応できるようにしよう」
夢の世界の中だけど、その世界は存在し、俺はそこを見ているんだ。
だから、自分が主体的に行動できるときは、ヘリオスとしてできることはやっていく。
今度は後悔しないようにする。
ミミルとの新しいつながりを感じながら、俺は鼻歌を歌い、車を走らせていた。
ついに月野とのコンタクトに成功したミミル。はたしてこの行動はどうでるのだろうか・・。




