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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
アカデミー入学
26/161

パーティ結成

アカデミー生活の始まりは、いろいろな決まり事から始まります。これからちょっとずつ物語が進行していく予定です。よろしくお願いします。

その日は朝から慌ただしかった。

「ヘリオスや、わすれもんはないかの?」

デルバー学長は、朝から私の部屋に来ており、あれこれといらぬ世話を焼いてきた。

自分もいろいろすることがあるだろう……。


「デルバー学長。大丈夫ですよ」

あれこれくち出すデルバー学長に、その言葉を繰り返す。

正直、少しそっとしておいてほしかった。


「それよりも、学長こそ大丈夫なのですか?」

あらかた自分の用意を整えた後に、そう聞いてみた。

さっきから口は出しているが、体は動いていない。

手伝ってもらう必要はなかった。

ただ、私に口を出しても、自分がするべきことはあるだろうに……。



「ん?わしかの……。わしは何もせんのでな……」

どこか寂しそうな顔だった。


しまった……。


こういう雰囲気を出してくるときは、決まって話が長い。


自分でまいた種だ。

あきらめて聞く姿勢になる。


用意はこれで終わった。

あとは時間をつぶすだけだった。


「むう、今日は言わんわい!」

私の態度を見て、不機嫌に顔をそむけると、大げさな態度で背を向けて歩き去った。

そして数歩、たったそれだけ歩いたところで立ち止まっていた。


明らかに私が声をかけるのを待っている……。


「……デルバー先生、お待ちください。私が悪かったです。ぜひ、そのわけを教えてください」

必死に取り繕う。

懇願する態度を示す。


背中で聞いていた学長は、いきなり振り返って戻ってきた。


「ん?そうかの?なら、しかたがないのー。ほかならぬヘリオスのためじゃ、ほっほっほ」

その笑顔には、――仕方ないかわいい孫のためじゃ――ということが書いてあるかのようだった。


いろいろとめんどくさい人だ。

一人なら、こんな面倒なことをしなくてもよかった。

それでも、教わる身だ。

失礼のないようにしよう。


そして必死に、感謝の気持ちを告げていた。




「今日はわし、することないんじゃよ。最初は、挨拶するもんじゃが、それはもう魔導具に入れておるでの。お主も知っておるあれじゃ。あれを効果的に演出する魔法を組み合わせてある。楽しみしておけ。そのあと、講義の先生紹介は学年責任者のアプリル先生任せてあるしの、その後は恒例のパーティわけしかないしの」

一つ重要な情報を仕入れたことに気が付いた。


「パーティわけとは、どのようなことなのでしょうか?」

注意深く尋ねてみた。

その他はわかる。

ただ、その一点が気になった。

というか、聞かなければならなかった。


「パーティはパーティじゃ。これから学生生活の単位でもある。これにより、今後の生活が変わるでの、慎重にの」

デルバー学長は重要なことをさらりと言う癖がある。

聞き逃すと重大なミスにつながりかねない。


これまでの生活で、この学長の性格はよくわかっていた。

これは重要なことだ。

そしてあまりしつこいと機嫌が悪くなる。

本当にめんどくさい人だった。

しつこくないように慎重に言葉を選んで尋ねよう。



「それは今後の学生生活において、色々そのパーティ単位で行うと考えてよろしいのでしょうか?」

それが事実ならとんでもないことだ。

私に知り合いはいない。

となると、初対面の人とパーティを組むことになる。



「さっきから、そう言っておろうが……。」

あきれたまなざしで私を見る。



だから言ってないでしょうが!

心の中だけで、文句を言っていた。


「最初の講堂で、パーティ編成して、そのまま講義に入るでの。わしはなーんもせんのじゃよ。つまらんのー」

それだけ言って、今度こそ私を残して出て行った。


引き留めてよかった。

知っているのと知らないのでは、全然違った。


学生生活を左右しかねないパーティわけ。

それが私の平穏を脅かすかもしれないのだ。


何とかしないと……。

私にとって、最初の試練に思えていた。



***


講堂に入ると、多くの貴族がそこにいた。

何人かはすでにグループで集まっており、バラバラに座っているものもいた。

講堂は後ろに行くほど高い位置になっており、前の人の座高が高くても、見えにくいということはなかった。


どこか空いているところ……。


一番後ろの端に誰もいない場所があったので、そこに座ることにした。

その場所に近づいて、初めて気づいた。

目の前の列にはフードを目深にかぶった人がいた。


ここに上るまで、気付かなかった。

違う場所を探そうか……。


しかし、すでに人であふれていた。

やむを得ない。

そのままそこに座ることにした。


しばらくすると、壇上に光の爆発が起こっていた。

どこから来たのか、雲のようなものがあたりに立ち込めている。

全員が、その一点にくぎ付けになっていた。

そこには、長い豊かなひげを蓄えた、老魔導師がいた。

強力な魔法の力が周囲に向けて、広がっていた。


「ようこそ、王立学士院アカデミーへ。私は、学長のデルバー・ノヴェン。これから諸君は、本学士院アカデミーの生徒となる。この学士院アカデミーは伝統と格式あるアウグスト王国にあって、数多くの優秀な人材を輩出してきた由緒正しい学び舎である。本日、諸君はその一員たるべく、この地に来ている。この晴れやかな日に諸君と会えたことは、私にとって誇るべき日となるだろう。そして多くの仲間をここで育み、これからの王国に恵みとさらなる発展をもたらす人材足らんことを願い、入学のあいさつとする」

いつもと感じの違うデルバー学長がそこにいた。

厳かな雰囲気と知的で躍動的なまなざしは、見る人を引き付ける。

いつもの自分の好きなことを、好きなだけしているわがまま爺さんは、そこにはいなかった。


「なるほど、記録映像の立体描写に幻影魔法を組み合わせてるんだ……」

思わず声に出てしまった。


かすかだが、前のフードの人が動いた。

うるさかったのかもしれない……。

これからは静かにしていよう……。


それにしても、さすが最新鋭の魔法装置だ。

知らなければ、たぶん疑わない。

もはや見慣れたその装置だったが、それは、学長が映し出されているその足元に置かれていた。

デルバー学長のお気に入りの一品。


その装置で自分の記録映像を入れて遊んだのはつい最近だった。

あそこにいると、本当にいろんなことが発見できる。

学長の秘密基地に住んで本当によかった。

ここ数日、魔道具や魔法で、時がたつのを忘れるようだった。


そして、それ以上に幻影魔法の効果的な使い方だ。

一つ一つでは効果が弱いものでも、組み合わせることで、より効果的にできるんだ。

光をうまく使っている。

視点を一番効果的な場所に誘導してある。


本当にデルバー学長から無駄な部分を取り除いてほしかった。



いつの間にか、学年責任者のアプリル先生の話も終わり、あのパーティわけの時間になっていた。


「これから、この学士院アカデミーでの生活の基本となるパーティ結成を行うこととする。基本的には3人一組になってもらう。希望者はその場で結成し、誰も組むものがいなければ、私の方で決めさせてもらう。なお、この編成は6か月間固定とする。諸君、くれぐれも忘れないように!」


アプリル先生はパーティ結成を呼び掛けたあとは黙って見守る様だった。

あちこちで3人パーティが結成されようとしていた中、やはり私は取り残されていた。


知り合いなんていないし……。

あれ、あの人たちは同期か……。

投げやりな気分で、周囲を見ていた。


周りを見回すと先日ハンナの店で因縁つけた3人組はパーティ結成していた。

見ていて気分が悪くなったので、そこは見ないようにした。


そのほかにも結成している組が3組ほどあり、ある程度すんなりと決まっているようだった。


ひょっとして誰もいない?

ぼんやり眺めすぎていた?


声がかかるのを期待していた。


ぽつぽつと誰もいなかった者同士で結成しているのを見たからだが、この場所までは誰も上がってこなかった。


後ろの、しかも端の方で座ったのは失敗だったかもしれない。

目の前のフードを目深にかぶった、いかにも怪しい人も動いていなかった。


「早く決めるんだ。この後の説明ができない」

アプリル先生は結成促進させるべく、脅迫めいた言葉をかけてきた。


それに伴い、躊躇していた人たちも移動して結成していた。

そしてあたりは三人組のパーティが仲良く並んで座っている光景が出来上がっていた。


しまった……。

自分の行動力のなさをいまさらながら後悔していた。

自分から進んで行けるわけでもなく、かといって声かけやすい場所にも移らなかった。

目の前のフードの人も同じだ。

あれでは声もかけづらい。

そして私と同じように、行動もしなかった。


今更後悔しても遅かった。

出る前にあれほど考えたのに……。

結局ダメだった。


そして誰一人として、私に声をかける人はいなかった。


「それでは、決定だな。そこの2人。もう少しまとまっておいてくれ、そんなに離れていると、バラバラに見える。あと、本日体調不良で欠席しているものが一人いるからそこに入れるかな」

アプリル先生は、私とその前に座っていたフードの生徒をパーティとして見ていたようだ。


ひょっとしてみんなそう思っていたのか……。


何となく理解してしまった。

そして決まった以上は行動しなければならない。

フードの人は動こうとしない。

仕方がない、後悔した分は少し活かさないといけない……。


私はフードの人の横に移動した。


「では、しばらく時間を与えるので、初めてのものはそれぞれ自己紹介からしておくように。そのあと、パーティ単位で全員に紹介するように」

それだけ言って、教壇のすぐ横にある椅子に腰かけて、何やら書き記していた。


いたるところで、挨拶が行われている。

知り合い同士のところは雑談したり、他のパーティのことを興味深そうに観察したりしていた。


あらためて、フードの人を見た。

やはり、自分からは何もしなさそうだった。


この人と6か月間一緒なんだ……。

ため息をつきそうになるのをこらえて、私は自己紹介をすることにした。

何にせよ、決まった以上従わなくては、学生生活に支障が出るだろう。

これ以上後悔を重ねたくはなかった。


本当に、一人でいるのが楽でいい……。



「はじめまして、わたしはヘリオス=フォン=モーントと申します。不思議なご縁ですが、これからよろしくお願いします。わたしのことは、ヘリオスとお呼びください」

あらためて、フードの人に向かって挨拶をするため、少しだけ近寄った。

近くに来て初めて気づいた、その香り。

ほのかに鼻腔をくすぐるそれは、品がよく、心地よい香りだった。


「はじめまして。わたしはユノ=マリア=ウル=ジュアンですわ。わたくしもユノで結構ですわ」

初めてフードを取っていた。

私を正面に見つめて、その人物はそう名乗った。


ウル=ジュアン。


それは、ジュアン王国にあって、王位継承権をもつ人物のみが名乗れるものだった。


「えっと、ジュアン王国のかたでしたか?」

王立学士院アカデミーでは、交換留学生として他国の学生も受け入れている。

毎年というわけではないのだが、数年に1回はどこかの国から留学生が来ているらしい。

今年はジュアン王国からの留学生のようだが、王位継承権を持つものがくるのはとても珍しいことだと思う。



「ええ、何か不都合はありましたか?あれば、これを解散してもよろしくてよ」

どこか、挑むような感じだ。

不思議と懐かしい顔を思い出していた。


疎遠になってしまった、ルナ。

彼女が来た時に見せた顔が頭をよぎっていた。


と言うよりも、私の中ではもはやその顔しか思い浮かばない。

でも、何故だろう、その顔に妙な感覚を覚えていた。

ちらっと見えたような、ルナの笑顔。

それが何を意味しているのか分からないが、何となく私がすべきことが見えた気がした。


「いえ、不都合などありませんよ。むしろ、これからお互いによい関係でいられたらと思います。ここは学生同士がお互いに学びあう場です。わたしもあなたから何か学ぶことがあると思います。そしてあなたに何かできればよいと思います。パーティとして共に頑張りましょう」

この人はなれない異国の地にあって、精一杯の虚勢を張っているのだ。

何故かわからないが、そう思えた。


でなければ、結成のさいにも、学長の挨拶の時にもひっそりと端の方に座っているはずがなかった。

私も似たような感じだ。

ただ、私はすでに逃げ場所を持っている。

だから、私の心にはいくらか余裕がある。


この人にはそれがない。

基本的に、私たちは似た者同士なのかもしれなかった。


「まあ、もう一人の方はまだですけど、三人いい関係でいたいものです」

そう言って、笑顔をおくる。

仕方がないから結成したが、それでもその中だけは良好にしたい。

ルナとうまく向き合えなかったことが、こんなにも私の中で引きずっているとは思わなかった。



「まあ、あなたがそうおっしゃるなら、わたくしに依存はありませんわ」

そう言って彼女も笑顔で答えていた。


「すてきな笑顔だな……」

思わず口から飛び出た己の言葉に、私はびっくりしていた。

それはユノも同じだったようで、少し狼狽している感じだった。


「あなたも、そうじゃない」

照れたような笑み。


このやり取りはやはりあるのかと思う。

半ば定型と化した挨拶をすることにした。


「私はこれでも男ですので……」

やや困りながら、ユノにそう伝えた。


「えー!!」

大声で叫んだユノを、教室の全員が見つめていた。

しまったという顔で小さくなるユノ。

それであたりは元の状態になっていた。


これが本当のユノだろう。

彼女は王族としていろいろ大変なのだろう、虚勢を張るし、自分を演じたりもする。

しかし、中身は12歳の少女なんだ。


「本当なの?」

ユノはまだ信じられないという風に話しかけてきた。

このやり取りに関しては、やや面倒になりつつあった。

初対面の人で私を男としてみた人間はいなかった。

しかし、こうして同年代の男を見ると、それも仕方がないと思うようになっていた。



ユノが何か言おうとしたときに、アプリル先生が全員に注目するように話し始めた。


「それでは、全員お互いの自己紹介は終わったな。では、いよいよ全員の前でお互いにパーティメンバーを紹介してみろ」

自己紹介ではない。

他人を紹介するなんて!


それにどのような意図があるのかはわからないが、周囲は騒然としてきた。


彼女についてどこまで紹介できるのだろう。

それよりも気になることがある。

人には話してほしくないことだってある。それは理解できている。


一応確かめておかなければならない。


「えっと、王位継承権のことまで話していいのですか?」

遠慮がちに聞いてみた。

それ以外の情報がない以上、紹介していいのかわからない。


「ええ、わたしは第三王女になりますので、継承権は第10位です。有って無いようなものです。それよりも、あなたは英雄マルスの息子で間違いありませんか?」

ユノは自分のことを正確に話すように言っている。

私もそうであることを肯定していた。


「ただし、剣はつかえませんが……」

以前の私にとっては、身を切られるような事実だった。

しかし、私には魔法がある。

いや、魔法しかない。


魔法だけが私の支えだった。



***



自分のことを他人が紹介する。

この面白さにヘリオスが少し興味を持ったように思えたころ、ヘリオスのことをよく思わない集団を俺は見ていた。

以前ヘリオスに煮え湯を飲まされたことを恨みに思っているのだろう。

ここぞとばかりに報復しようとしているのが明らかだった。


「……です。よろしくお願いします」


ヘリオスたち以外のパーティの紹介が終わり、いよいよヘリオスたちの番になっていた。


自分たちの座っていた最上段に近い席から、ゆっくりと階段を下りていき、二人して壇上に立っていた。


この講義室は半円状になっており、ちょうど中心点に教壇があった。

教壇からみると、すべての視線を受けている状態になり、思わずヘリオスはつばを飲み込み、下を向いていた。


当然だ。

ヘリオスはこんなことしたことがない。

むしろ周囲の視線をさけるように生きてきた。

こんな視線にさらされているような場所で、何かできるとは思えなかった。


その様子を見たユノは、少しため息をついていた。

そして、自分から紹介していった。

ヘリオスは相変わらず下を向いている。

しかし、そこには以前にはない目の輝きがあった。


「わたくしの隣に立つのは、かの英雄マルスの息子にして、ヘリオス=フォン=モーントです。わたくしは最初、彼を女とみておりました。しかし、それは間違いだったようです。みなさま、かれはこのように可憐な姿をしております。しかし、底知れない何かを感じさせてくれる人です。これから、わたくしは彼の秘密を一つ一つ確かめていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします」


堂々とした挨拶だった。

そして、ヘリオスの今の状態をさりげなくフォローしてくれる気遣いが感じられた。


ヘリオスもそこは感じているようだった。

ユノに感謝の笑顔をおくっている。

ゆっくりと、その場で深呼吸を繰り返してる。

その瞳には、決意の光があった。


そうだ、ヘリオス。

お前はもっと自信を持っていい。

お前には、それだけの力がある。

ここに来たのが、その証拠だ。

あと一歩、前に踏み出すんだ。


思わず、拳に力がこもる。

祈りではなく、ただ、ヘリオスを信じていた。


俺の想いが通じたのかわからない。

しかし、ヘリオスはさらに数回深呼吸をすると、一歩前に出た。

そして、堂々と話し始めた。



「ご紹介が遅れて申し訳ございません。本来でしたら私が先にご紹介しなければならないことを謝罪します」

そう言ってヘリオスは深々と頭を下げた。


周囲がどよめく。

その瞬間を狙ってか、ヘリオスは一気にユノを紹介していった。


「なぜなら、皆さんは私の隣に立つ麗しい方を早く知りたいと思っていたと思います。この方はかのジュアン王国王位継承権第10位の姫君です。お名前をユノ=マリア=ウル=ジュアン様です。生まれは違えども、心同じくして、この学士院アカデミーで学ぼうという志を持たれた方です。言ってみるならば同志です。わたしは、この方と日々研鑽していきたいと考えております。どうぞ皆様よろしくお願いします」


同志である。

このことは、おそらくジュアンにとって今もっとも必要なことだったのだろう。

ヘリオスはこのことを全員の認識の中に植え込むことに成功していた。


ここはアウグスト王国であり、全員この王国で生まれ育っている。

そして、この王立学士院アカデミーは王国の人材を育てる機関であった。

留学生とはいえ、他国の姫君にその居場所はなかった。


しかし、ヘリオスは同じ学問を志す【同志】という言葉を使い、全員に一体感を感じさせることに成功していた。


ほぼ全員の顔には明らかな納得の色があった。

この場所に、なんとなく一体感が生まれようとしていた。


そう、このことにより、ユノ=マリア=ウル=ジュアンはこの学士院アカデミーで橋頭堡を築けたと言える。


素晴らしい演説。

たどたどしさは残る。

しかし、あのヘリオスが、これほど相手のことを考えることができるなんて……。

あのヘリオスが、これほど堂々と自分の意見を言えるようになるなんて……。

正直、俺は感動してしまった。



「ありがとう……」

ユノは素直にヘリオスの言葉に感謝していた。




「おれはだまされんぞ!」

和やかな空気を断ち切るような声が響きわたった。

一瞬にして、不快感に包まれる。

しかし、その声の主は一向に気にした様子はなく立ち上がっていた。

それに続いて、あとの二人も立ちあがる。


「そういって、全員を言葉巧みにまどわしても、俺は惑わされん。そこの姫君が同じ志と誰が証明できるんだ」


そんなこと証明できるものはいない。

そしてそうでないということも同じく証明できない。

あいつはユノではなく、明らかにヘリオスに対して因縁をつけていた。


「モンターク様の言うとおりだ。」

取り巻きの一人が叫ぶ。

それに合わせてもう一人も叫んでいた。


ヘリオスはその顔をじっと見ていた。

その顔はあの店で、アネットやコネリーに乱暴を働いた男たちを認識している顔だった。


「何とか言ってみろ!」

「何も言えないのか!」

「口だけじゃないか!」

次々と飛んでくる罵声。


「能無しは所詮能無しだ。何も言い返せまい!」

何も言わずにじっと静かにその男たちを見つめるヘリオス。

ヘリオスのことを調べたのかもしれない。


「あの姉弟もおなじだな!口だけだ!」

ついに、アネットたちまで持ち出してきた。


俺は苛立ちを隠しきれなかった。

しかし、俺がどう思おうと、何も影響しない。

やるせなさが、俺の心に満ちていく。


「お前の姉もそうなんだろう!」

ヴィーヌスまで持ち出してきた。

アネットとコネリーに見立てたのかもしれない。


その時、ヘリオスの雰囲気が変わっていた。

その雰囲気は、ただならない気配をあたりに漂わしている。


ヘリオスの顔つきが変わっていた。


その時、シルフィード、ミヤ、ベリンダが一斉に飛び出してきた。

何かを懸命に叫んでいる。

胸のポケットでミミルが何かを訴えている。


今のこの状態では、彼女たちの声が聞こえない。

しかし、何が言いたいのかわかっていた。


なんて、俺は無力なんだ……。

ヘリオスは怒りに取りつかれている。

怒りの精霊がうっすらと起き上がっている。


俺のせいだ……。


感情はだれにでもある。

当然感情の精霊たちもそこにいる。

それらは、己という力で互いを縛りあっている。

怒りの精霊もそうだ。

しかし、それを解き放つ方法だけを、ヘリオスに刻み込んだのかもしれない。

精霊使いでないヘリオスに、怒りの精霊を制御などできない……。


俺のせいだ……。


あの時、巨大マンティコアを前にして、俺は怒りに任せて行動した。

心の奥にその方法だけを残したのかもしれなかった。


アネットたちを守るために見せた雰囲気。

あれは、怒りの精霊を呼び起こす方法を自分で見つけたあかしだ。


あの時は、シルフィードの叫びで何とか戻っていた。

しかし、いったん解き放とうとしたものは、出やすくなっているに違いない。

今は、シルフィードの叫びも聞こえていないようだった。



ユノは最初呆然と見守っていた。

訳が分からないので、当然だろう。

しかし、さすがに黙っていられなくなったのか、変化を見せ始めたヘリオスの前に一歩進んでいた。



「まちたまえ!」

まさにその時、勇壮な声が、響き渡った。

鼓舞するようなその声に、一瞬にしてその場の雰囲気が変わっていた。

それは人を引き付ける力を持つ声だった。


戦場において、勇気を導く声に思えた。


ヘリオスもその声の主をみていた。

その顔は、いつものヘリオスだった。

安心した様子で、精霊たちは戻っていく。


「まちたまえ!その騒動。このカール=フォン=シュミットがあずからせていただこう!」

扉を大きく開け広げ、やや癖のある金髪の美形が、その場でもう一度宣言していた。

そしてなぜかポーズを決めていた。


「幼気な少女たちに因縁をつけるがごときふるまい。同じ貴族として嘆かわしい。男なら、弁論ではなく、己の気概をこめた剣で語ろうではないか!」

その美形はまたも違うポーズをとりながらそう宣言した。


最初あっけにとられていたモンタークたちだったが、この変な乱入者に対してもいろいろと文句を言っていた。


それらを一切聞かないで、ヘリオスに向かって歩いていく。

そして、いきなり片膝をついていた。

いっさい無駄のない、流れるようなしぐさだった。


そして、ヘリオスの手を取ろうとしていた。

瞬時に手を取られまいと、距離をおくヘリオス。


その顔はひきつっていた。

しかし、カールは笑顔でそれに応えていた。


「はっはっ。テレやなお嬢さんだ」

そういって、今度はユノの手を取って口づけをした。

心なしかいやそうな顔をユノはしていたが、そこは慣れた態度を示していた。


始終様子を見ていたアプリル先生は、ヘリオスたちに向かって聞きたくないであろう言葉を聞かせていた。


「ヘリオス君。ユノ君。彼が君たちのパーティメンバーだよ」

もう一歩後退したヘリオス。

混乱が手の取るように明らかだった。


しかし、カールは何を勘違いしたのか、大いに感じ入っていた。

そしておもむろにモンタークたちに対して前髪をかきあげて宣言した。


「このように可憐で奥ゆかしいお嬢さんたちに対して、聞くに堪えない罵声の数々。もはや許し難い。わが剣の名において、その性根をたたきなおす!覚悟せよ!」

貴族同士の正式な決闘ではないが、こうも挑発されて引き下がれないだろう。

モンタークたちも、カール相手に言いたい放題言っていた。


それらを一切聞く様子もないカールだった。

相変わらず、ポーズを決めては、ヘリオスに向かって何かを訴えていた。

そうした態度が、ますますモンタークたちを苛立たせていたようだ。


しばし、騒然となる講堂。

ヘリオスもユノも、事の成り行きに呆然と見守っていた。


そろそろアプリル先生が仲裁をしようと動いた瞬間だった。


突然、壇上で光が爆発した。


その光の爆発の中心に姿を現したのは、あのデルバー先生だった。

とても楽しそうな顔をしている。



「ほっほっほ。若いのはいいのー。ほれ、競い合うのもよろしい。勝負はそうじゃの、パーティ戦でどうじゃの?勝負は七日後。それまで争いは許さんからの。ほっほっほ」


そう言ってデルバー先生は楽しそうに笑っていた。

自責の念を抱きつつも、デルバー先生の笑顔に、いつしか俺は癒されていた。


ひょんなことからパーティ戦をすることになったヘリオスとユノ、そしてカール。それぞれの実力はいかに?そしてヘリオスに攻撃的なモンターク。

ヘリオスの生活に変化が訪れます。

月野君は、深い反省をしながら、今日も見ているだけの生活です。


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