精霊たち2
王都に来る前の話です。なかなか話せないヘリオス君の周りで、精霊たちは今日もヘリオス君を見守ってます。
「ヘリオス君、ヘリオス君……ヘリオスくん……」
(シルフィードは呼びかける)
「答えて、ヘリオス……」
(ミヤは訴える)
「ヘリオス……」
(ベリンダは願う)
「やっぱりまだ無理みたいね……」
(ベリンダはここ2年ずっと呼びかけても答えてくれない相手にさみしさを感じていた)
「でもね、なんだか前よりも、ヘリオス君かわったんだよ?」
(シルフィードはそれでもあきらめきれない感じで訴える)
「そう、まえよりも感じる」
(ミヤは同意した)
「そうね。それは……。私もそう思う」
(ベリンダは自分だけではないと思い、現実と希望を重ね合わせる)
「そう、あきらめちゃだめだよ。希望を捨てたらだめだよ」
(シルフィードはみんなを励ます。シルフィードは今のヘリオス君もいいけど、やっぱり自分たちと話してくれるヘリオス君が好きだった。だから、精一杯願う)
「あきらめない」
(ミヤは自分を変えてくれたヘリオスが好きだった。このヘリオスは好きじゃない。でも、このヘリオスの中に自分の好きなヘリオスが来るのだから、このヘリオスを守る、そう決めていた)
「……」
(ベリンダは器としてのヘリオスと、魂としてのヘリオスのどちらも守るという精霊女王の願いをかなえたかった。どっちがとかではなく、どっちも精霊女王には必要だから。でもベリンダは?ときかれるとやはり自分のことを必要としてくれるヘリオスがよかった)
「呼びかけよう」
「うったえる」
「願う」
(それぞれがそれぞれのやり方で、自分たちのヘリオスの帰りを待っていた)
(その場所こそが、自分たちのあるべき場所だと知っていたから)
(そうして三人は、いつ来るとは知れないヘリオスを、それぞれの方法で待つのだった)
(…………)
(…………)
*
「ちょっと!ミミル的に納得いかないんですけどー」
ハムスターが仁王立ちしていた。
「だってミミル、出番ないじゃん!声だけじゃん!ずっと出番って言ったじゃん!」
うろうろと、二足歩行している。
いかにも不機嫌そうだった。
「というか、ミミルもうハムスターになっている時間長いから、いいかげん自分がハムスターなんじゃないかと思っちゃったよ!」
「ミミル、ふとった……」
(ミヤは冷たく言い放つ)
「うっ、なんかヘリオスの部屋に来るメイドが最近変わって、ミミルにいろいろくれるから……つい……」
(ミミルは食いしん坊になっているようだった)
「だからそのナレーションみたいなの、やめようよね!ベリンダ!」
(ミミルはベリンダに文句を言う)
「もう!ミヤまで……!」
ミミルがベリンダに変わってナレーションをするミヤに抗議していた。
「うーん、ひまだなー。こんなお芝居しても仕方ないねー。ヘリオス君早く来ないかなー」
シルフィードはさっきまでのお芝居をやめたとばかりに伸びをしている。
「ちょっとシルフィード。あなたね、自分が言い出したのに、なにさいしょにぬけてるの?」
ベリンダの文句は、シルフィードへの不満をあらわにしていた。
「だってナレーション役のミミルが文句言うんだもん。それにベリンダがいつの間にかナレーションしているし」
シルフィードは口をとがらせている。
「だってしょうがないじゃない、アドリブよ。やり始めた以上、ちゃんとしないと!」
ベリンダはお芝居が途中で止まったことに不満だったようだ。
「ベリンダ、まじめ」
ミヤの声は若干あきれた感じだった。
「でもさ、お芝居じゃないけど、このヘリオス君の中に、ヘリオス君が増えてる気がする」
シルフィードはよくわからない説明をしていたが、みんなそれに同意していた。
「魂の同化」
ミヤが核心のような発言をしていた。
「そうね、さっきの芝居ではないけど、いいかげん温泉も飽きたしね。またヘリオスと旅に出たいわね。」
一瞬驚いた顔をしたベリンダだったが、すぐに元に戻っていた。
そして、自分の希望を話しているようだ。
「ミミルはもう、ハムスターいやー!」
ミミルは心底嫌がっていた。
「でもミミルだけ、おいしいものもらってる……」
ミヤが仕方ないとばかりに首を振る。
「うー」
ミミルは、それはそれで気に入っているようだ。
「でも、ミミルはヘリオスが学士院に行ったら、使い魔契約できるでしょ?そしたら話し放題ですよ?」
ベリンダがうらやましそうにミミルに告げていた。
「お!そうだったー!」
ミミルは元気を取り戻している。
「でもそれはハムスターとして」
ミヤが一気に突き落とした。
「は!……」
ミミルは今ハムスターの姿を見つめなおし、真剣に何かを考えているようだった。
ごめんよ。みんな……。
望んでもいけない現実を前に、俺はそういうしかなかった。
そして今も俺は、ただその映像を見続けることしかできなかった。
***
ヘリオス君が寝静まった時にだけ、こうして首飾りからでて話をする。
日中は儀式場なので、私たちは出られない。
首飾りの中にいても、外の様子は良くわかる。
ヘリオス君も一生懸命だ。
でも、風の精霊である私にとって、その生活はつらい。
それでも、あのヘリオス君との約束。
それは守りたい。
精霊女王様とも約束したけど……。
今もなお続いている三人のやり取り、それを何となく離れてみる。
それぞれの個性ある精霊と妖精。
普通、こうして集まってること……。無いわね。
精霊契約をしていても、こんな風にはならないと思う。
きっかけはどうであれ、ここには、私たちの意志で居続けている。
夜の間の自由時間。
今のわたしにとって、それが唯一の安らぎ。
もちろん私たち精霊は、そのままの姿では人の目にはみえない。
今ヘリオス君が目を覚ましたとしても、ハムスターだけが何かしているように見えるだろう。
その姿で、喜んだり、落ち込んだりしている姿を見ると、はた目には喜劇に見えるに違いない。
そんなことを考えながら、もう一度ヘリオス君を見つめる。
このヘリオス君もずいぶんたくましくなったもんだね
幼い時のヘリオス君を、誰よりも長く見続けてきた。
だからこそわかるんだ。
私はそう確信する。
でも……。
さっきのお芝居でも言ってたけど、本当に増えているわ……。
あのヘリオス君の気配。
入れ替わる状態が長いとその分だけヘリオス君の中に残るのだろうか?
そういう疑問が頭の中にうずまく。
ベリちゃんなら何か知っているかもしれない。
ミミちゃんなら全部知っているかもしれない。
でも、二人が何も言わないのは、今はまだそういう時ではないということだ。
私の使命はこのヘリオス君を守ること。
それが、あのヘリオス君との約束。
そして、いつかまた、あのヘリオス君に会うんだ。
期待を込めて、ヘリオス君を見つめる。
その首には、あの首飾りがしっかりとおさまっている……。
何となく、不思議に思ったので聞いてみよう。
何か知っているかもしれない。
「ねぇ、もうすぐ学士院にむかって旅立つんだよね?」
改めて3人に聞いてみた。
「そうですよ?何をいまさら……。」
ベリちゃんの声は、あきれた感じだった。
私が忘れたと思ってるのかな?
そんなバカじゃないもん。
「じゃあ、あの儀式場とはさよならだよね?」
期待を込めてそう尋ねる。
私が聞きたいのはそれなんだよ?
「そうね……」
ベリちゃんの表情は、一瞬不安そうに曇った。
「そうね、たぶん。そうだと思う」
しかし、次の瞬間には、自らの考えを口に出すのをやめたように、頭を横に振っていた。
「学士院に同じのがなければ」
ミヤちゃんは、そのまま考えたことを話していた。
ありそう……。
誰も言葉には出さないが、その意見で一致しているようだった。
みんな同じ顔だった。
「もう、あの温泉はあきたのー」
代わりに、声を大にしていう。
「そりゃさー。存在力が大きくなって、前よりも力強くなったともうよ?でも、あきたのー」
そう、何故だか私の力は増していた。
精霊としてこの世界にある一定以上の力を行使するのに必要な物。
術者の魔力。
精霊契約をしていない以上、私一人でこの世界に大きな力は出せない。
けど、上位精霊のように、存在力が大きいものは、それもできる。
そして、私も今までよりも大きな力が出せることに気づいている。
それは、私の存在力が上がっているということだと思う。
「そういえばミヤも」
「確かに、わたしも」
ミヤちゃんもベリちゃんも存在力が上がり、力の行使がしやすくなったようだ。
「ちょっとまって、ミミル的にそれは聞いていないんですけど!」
さっきまで、続けていた一人芝居をやめて、ミミちゃんは私に詰め寄った。
「んー温泉効果?ほら、血行促進とか?」
よくわかんないのに、説明求められても困るよ。
そういうの、得意じゃないの知ってるよね?
私の困った顔を見て、ミミちゃんはあきらめたようだった。
「じゃあさ、将来ヘリオスが返ってきたときのために、せいぜい温泉につかって、力高めときなよー。ミミル的にそれおすすめだよ!」
ミミちゃんの顔は小悪魔の様だった。
さっきまで言われ続けていたお返しなのかもしれないわね。
でも、ミミちゃんのいう事が正しいのかも。
「えー。でもしかたないかー。でも、ヘリオス君のためだしね」
大げさにそう言って首飾りの中に入っていく。
たぶん、ミミちゃんの期待通りじゃないかもね。
「温泉美人」
ミヤちゃんもそう言って入ってくる。
「まあ、戦力的にもいいですね、ミミルもそのお腹どうにかした方がいいよ」
ベリちゃんもひどいこと言うなー。
でも仕方がないよね。ミミちゃん。
「もー!」
後に残されたミミちゃんは、一生懸命小屋の中でホイールを回して走っていた。
月野君が待ち遠しい精霊たちです。
そんな精霊たちを、月野君は見ています。




