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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
夢の世界へ
21/161

月野帰還

月野は現実世界に戻ってきた。しかし、そこは病院だった。焦る月野。どうしようもない現実・・・。


よろしくお願いします。

見知らぬ天井だ……。


目を開けるとそこは見たことのない天井だった。

白い天井。

何もない天井。


どこだろう?


体を起こそうとしたが、うまく力が入らない。


なんだ……?


徐々に、自分の体が分かるようになってきた。


左手に違和感がある。

視線を左に向けると、そこには点滴があった。


病院か?

なぜ?


これまで入院したことはない。

それどころか、病院にかかったこともほとんどなかった。

だから、自分が病院のベッドで寝ていることは想像できなかった。


なんだ……?

再びやってくる疑問。

俺は月野かヘリオスか?


病院ということは元の世界に戻っている。

俺は元の体に戻っているということだ。


まだ、ヘリオスの体の感覚が残っていた。

その感覚が、俺の体となじまないのか。

そう理解することにした。


順番に動かして行こう。

左手は点滴がつながっているから、まず右手だ……。


そうして右手を意識する。

顔の前まで持ってくることができた。

心なしか手の張りがなくなっている気がする。


次は右足と左足……。

大丈夫そうだった。


布団の中で見えないが、足はちゃんと動くようだ。


左手は……。

うごくな……。

あまり動かさない方がいいだろう。


首を動かし、胴体を起こそうとするが、それはできないようだった。


それにしても、やけに重い……。


自分の体の重みってこんなもんだったか?

その時部屋に誰かが入ってくる気配がした。


「ああ……、ああ……」


うまくしゃべれない!?

驚愕の事実。


部屋に入ってきたのは看護師だった。

彼女は俺の意識があることを確認してきた。


「月野さん、わかりますか?」

うまくしゃべれない俺に向かって、そう尋ねてきた。

仕方がないので、首を縦に振る。


「……。先生を呼びますので、待っててくださいね」

そういうと、再び部屋を出ていった。


「ああ、ああ、いい、うう、ええ、おお……」

何とか発音ができてきた。

こうも自分の体でないような感覚は久しぶりだった。


あれはヘリオスの体に初めて入った時だったか……。

しかし、あの時は声を出せていた。

力で抑えつけられていただけで、それがなくなると動かすことができた。

しかし、今は動かすこともままならない。


しばらくして、主治医らしき人物がやってきて、俺の目に光を当てたり、手を取っていろいろ指示していた。

その指示にしっかりとしたがって、最後に医師はこういってきた。


「あなたはだれかわかりますか?」

なんなんだそれは……。

それは俺も聞きたかったが、少なくとも俺は俺だ。

月野太陽と呼ばれる男だ。

思うように話せないが、自分の存在は告げなくてはいけない。


「つ……き……の……た……いよ……う」

必死に自分の名前を言った。


この世界において、俺という人物を示す名前。

その瞬間、俺は体がなじむ感覚をえていた。



目の前の医者は、驚いた表情で俺を見ていた。


「今は、何年何月かわかりますか?」

それは全く分からなかった。


それどころかここがどこかもわからない。

頭を振ってわからない意思表示をする。


「ここはどこかわかりますか?」

医者の質問はどこかあいまいだ。

病室と答えるべきなのだろうか?

さっきよりは、うまく考えられるようになってきた。


「びょう……いん……どこか……の」

若干話しやすくもなってきた。

話せるということが、これほどうれしいとは思わなかった。


医師はかなり驚いたようで、俺に状況を説明してきた。


どうやら俺は2日くらい部屋で倒れていたらしい。

なかなか連絡が取れない俺を、同僚が訪ねてきて来たようだった。

大家立ち合いで鍵を開けたところを発見し、救急搬送されたようだ。

極度の脱水で脳波も微弱だったが、不思議と臓器は大丈夫だったという。

筋力はかなり落ち込んでいるから、体は思うように動かないということだ。

血液データの数値的には問題ないようだった。

それから丸1日間昏睡がつづき、今に至るとのことだった。


俺はかなり動揺していた。


計算が合わない……。

これまでの入れ替わりの感じからすると、向こうで過ごす日数と現実の時間は1日が1時間以内だった。

だから例えば、1か月向こうで過ごしたとしても、こちらでは30時間以内のはずだった。


今回24時間もたたずに帰ってきたはずだ。


それが72時間以上……?

これは向こうでの1日がだいたい3,4時間になっていることになる。


もしかして、入れ替わるたびに時間間隔が縮まるのか?

そんな感覚は今までなかった。


どれだけ長居しても、平日は寝て起きてくる8時間以内。


以前寝過ごした16時間。

あれを教訓に考えたはずだ。

あのときでも、不思議と体は維持されていた。


週末に行けた時はもう少し長くいたが、それでも計算通りだった。


だから、今回は連休を取った。

だから、旅に出ることもできた。


それがくるってきた?

予想できないことに、飛び込むことはできない。

それは恐ろしいことだった。


だめだ、これ以上は向こうには行けない……。

残念だが、仕方がなかった。





入院中、回復するまでには時間がかかったので、おのずとヘリオスのことを考えていた。

俺の意志を反映したのか、それから見るのはやはりテレビのモニターのようなものだった。



中途半端な状態でヘリオスと入れ替わったため、ヘリオスは訳も分からず長男のクロノスから一族の面汚しであることを言われていた。


屋敷内ではヘリオスがルナを強引に森まで連れ出して監禁しようとしたが、恐ろしくなり、自分で救助するという芝居をしたという噂が立っていた。


その結果、ますますヘリオスは自分の殻に閉じこもる。

ルナとはお互いに会わない生活を送っていた。


ただ、それでもヘリオスは魔法の修行だけは欠かさなかった。

毎日朝早くから夜遅くまで儀式場にこもっていた。

ただひたすらに魔法の修行に打ち込んでいた。


驚くことに、ヘリオスは俺が開発した魔法も使いこなすことができていた。

魔力マナ量もほぼ一般成人に匹敵するものになっていた。

メルクーアはヘリオスのために、新しい魔導書をいくつも手に入れてきていた。


「うらやましい……」

思わずそう言ってしまった。


新しい魔導書には空間把握・空間創造のことも書かれていたようだ。

ついにヘリオスは瞬間移動テレポートを習得していた。

ついで、物質転送マテリアルトランスファー専用空間セルフスペースといったものまで開発できていた。


「まるでヘリオス運送だな……」

ヘリオスが魔導師として着実に成長していることがうれしかった。

ただ、ルナのことを思うと、中途半端にしてしまった自分を呪っていた。


「ちゃんと責任取らないとな……」

しかし、俺は恐ろしかった。

向こうに行ったのがいいが、こっちに帰えることができなくなったら?

その時、ヘリオスはどうなる?

俺はどうなる?

答えの見えない問題に、俺は考えることを放棄していた。



ヘリオスはその後も魔導研究を続けていた。

最近は召喚魔法、付与魔法にも手を付けていた。

「あれ……あいつすごくない!?」

ヘリオスの天才的な才能の開花に、思わすそう言わずにはいられなかった。



ただ、やっぱり精霊の存在は認識できていないようで、あの子たちのことが気にかかる。


ヘリオスは儀式場にほとんど一日中こもっている。

当然彼女たちは首飾りからは出てくることができなかった。


ミミルはハムスターでしかいられなかったが、それなりに生活はしているみたいだった。


退院するころには、俺の意識は向こうに向いていた。

しかし、今回のことがあって、安易に行こうという気にはならなかった。


「で、先生。私の病名ってついたんですか?」

主治医に確認する。

薬もしっかり飲んで、療養し、体力も回復した。

退院許可が下りたころ、俺は会社に提出する診断書の依頼をするときに、そう切り出していた。

今まで聞いてもはぐらかされていた。


「月野さんの場合、ナルコレプシーに似ているが、症状的には否定的ですね。脳波異常はあるので、しいて言えばてんかんとして扱うのがいいでしょう。ただ、はっきりは言い切れない、まれなケースです」

はっきりしないというのが医者の正直な気持ちのようだった。

それはそうだろう。

俺も向こうの世界に行ってますとは言ってない。


夢として表現している。

実際に行っていると言っても信じてはくれないことが分かっている。

夢でしょ?

そう言われるのが目に見えていた。


現代医学でのみ考えた場合、寝ているときにおこるので、突然とかではない分、ナルコレプシーとは違うということだった。


夢のことを考えると、それに近いといえるみたいだったが、いずれにせよ、こういうケースは初めてとのことだった。


自分ではこれ以上は判断できないので、専門医に紹介するといわれたが、説明つかないかもしれないといわれた。


そうなると、それ以上調べるつもりはなかった。

俺は、病名が知りたいのではない。

どう言う状態なのかが知りたいのだ。

そして、どうして突然法則が変化したのかも……。


ただ、何らかの社会支援は得られるのかを聞いてみると、ナルコレプシーの場合はそれが受けられないが、てんかんの場合は等級として社会保障が受けられるとのことだった。そういう意味でてんかんとして診断するとのことだった。


「こういう社会保障の制度って穴だらけだな……。どっちが大変とか比べられるものではないし、認知度の問題でもあるんだろうけど、人はしらないことには無関心だし。結局大きな枠では救いきれないということなのか、でも小さな枠ではなにもかわらない……」


自分ではどうしようもない社会のありかたに対して、矛盾を感じた。


ただ見ている分には何の問題もない。

しかし、それではダメなんだ。

この状況を解決する手段が必要だった。


そして、社会保障の有無は大きく状況を変化させる。

発作が起きたときに自分の場合は周囲に誰もいない。

気づかれない可能性がある。

そういう支援は受けられないか確認したが、それはないようだった。


「だれか知り合いに頼んでください」

無情にもそういうことだった。

ただ、自分にはそれを頼める人はいなかった。


詰んでいた……。


夢の中に行くということは、精神が肉体を放置する結果になる。


しかし、それは向こうに精神が行くから放置されるのか、精神が肉体から離れたから向こうに行くのかはっきりしない。


向こうの世界を見ている時間があるから、何らかのつながりは維持している。


いずれにせよ、向こうに行ったときに、こちらの肉体は放置という事実に変わりはない。


だからこれを何とかしないといけない。

しかし、自分に何かあった時に、誰がそれを確認してくれるというのだ。


「家族?仲間?」

自嘲的にその言葉を口にしていた。


そんなものは月野という人間にはなかった。


家族と呼ぶことができた人たちとは、距離を取って接していた。

だから、家族にはなれなかった。


人とのつながりを避けていた。

だから、仲間と呼べる人はできなかった。


「向こうではつながりを作れたのにな……」

それはヘリオスのつながりであって、自分ではない。

しかし、そのつながりを作ったヘリオスは自分が演じていたものだ。


「シルフィード、ベリンダ、ミヤ、ミミル……」

「バーン、シエル……」

「師匠、メルクーア……」

「ヴィーヌス……」


次々とその顔が浮かんでくる。その笑顔が浮かんできた。

こみ上がる感情を必死に押し殺していた。


「ルナ……」

その顔が浮かんだ時、それは笑顔だけではなく、必死に抗う姿だった。

そして彼女の行動も同時に思い出していた。


「ルナ……強いな……。君は……」

俺はまだ、何もしていない。


やるべきことを放置して、できないという姿はルナには見せたくはなかった。

そしてルナを無責任な状態で放り出し、今の苦労をさせているのは紛れもなく俺だった。


「これはヘリオスの役目じゃない。俺の役目だ」

自然となすべきことが見えてきた。


ヘリオスを演じた自分がやってきたことを、今度は自分自身でする番だった。

俺の中で、さらなる力が湧き上がる。


居場所というのは、与えられるものではない。

自分で作るものだ


俺はそう考える。

俺が動いたからこそできたつながり。

それがそう物語っている。


そして作れないときには、そこで休ませてもらえばいいのだ。


人に居場所を求めるのではない。

人とのつながりを自分の居場所にする。

すぐにできなければ、誰かの居場所にお邪魔すればいいだけだ。

そこで、つながりを作ればいい。


ミヤはそうして精霊たちの中で、自分の場所を作っていた。


ヘリオスは泉に居場所を求めたが、それは壊れてしまった。

もともと、ヘリオスはヴィーヌスの中にそれを見ている。

何らかのトラブルがあったようだが、今でもその気持ちは続いている。

ただ、同時に恐れてもいるようだった。


「シルフィード、ベリンダ、ミヤ、ミミルがいることで、そこにいて楽しかった」

俺はヘリオスを守る彼女たちを想う。


「バーン、シエルのために自分ができることをした」

俺はヘリオスとしての俺を迎えてくれた人の優しさを想う


「師匠、メルクーアは厳しくも優しく指導してくれた」

俺はヘリオスと俺を導いてくれる存在を想う


「ヴィーヌスは安らぎをくれた」

俺はヘリオスの心の支えになっている人を想う


「ルナは俺に立ち上がる強さを示してくれた」

俺はヘリオスではない自分に影響を与えた存在を想った。




「俺たちは一人じゃない」

自然と言葉に力がこもり、発声したその言葉が、俺に力を与えた。


そうして俺は自分がなすべきことが分かってきた。


大家さんに頼む。


俺は会社でもそれほど付き合いにいい方ではなかった。

むしろ悪い方だった。


今回、同僚が見に来てくれたのは、たまたま一緒に回る仕事があったからだ。

そうでなければ放置だったと思われる。


だから、今の状態では大家さんしか手はない。

打算的かもしれないが、大家さんもそうした方がいいはずだ。

そして何よりも大家さんとはある程度交流があった。


まず、毎朝挨拶をしよう。


そして、それがなければ、部屋を確認してもらうようにお願いする。

病気のことを話せばたぶん理解を得られるはずだ。


してくれないと、最悪部屋の中で死なれるわけだし……。


縁起でもないことだが、実際そうなる可能性だってある。

笑うしかなかった。





大家さんは俺の依頼を快く引き受けてくれた。


「ありがとうございます」

俺は涙を流してお礼を言った。


これで、多少の無理はきく。

希望しても必ず行けるわけではないし、希望しても必ず戻れるわけでもない。

絶えず気にしながらは無理だった。


「これで何とかなる……」

一つの問題が解決したことにほっとした気分になっていた。


しかし、それだけでは終われない。

俺はこの世界で生活しているのだ。

ただ、生きているだけではない。


そして、それは俺にとって試練の幕開けだった。


まず、会社に長期欠勤のお詫びをしに行ったが、部長からは露骨に使えない者扱いされた。


次に、課長からは嫌味をさんざん言われ、同僚からは恩着せがましく言われた。


挙句の果てには、これまでなんとか開拓していた得意先はすべて同僚に奪われていた。


俺の前には、仕事という物が無くなっていた。


課長に相談したら、仕事していなかったのだから当然だといわれた。




「こんなのは同僚じゃない……」

そうつぶやいても誰も聞いてはいなかった。

乱雑にかき乱された机を見て、俺は何もしていなかったことに気付いた。


向こうの方で同僚の話が聞こえてきた。

「田中さん、ちょっと手伝ってくださいよ」

「俺忙しいし、月野暇だから手伝ってもらったら?」

「えー。いくら暇になったからって、月野さんしてくれませんよ」

「何と言っても無理は無理。月野の仕事まで俺たち割り振って忙しいんだよ」

すげなく断る同期と、あきらめる後輩。


「そうか……。俺、誰も手伝ったことはなかったか……」

仕事がきつそうな同僚がいても、自分の仕事が終わればお疲れ様といって帰って行った自分がいた。

風邪で寝込んだ後輩がいても、自分に影響があることだけ処理して、あとは後輩の同僚に丸投げした。


「すべては自分が招いたことか……」

仕方がない。

気持ちを切り替えよう。

現実を受け止めて、自分のやるべきことを見据えてただやろう。


「今までは、今までで。これからは、これからだ」

去っていった後輩を追いかける。

俺の対応に、驚いていたが、俺は気にしなかった。


ヘリオスもルナも頑張っているんだ。俺も……。

二人の関係を最悪な状態にしているのは自分だ。

その二人を放置して、頑張っている二人に顔向けできない。


そうして俺は、新規の顧客をさがすことと、同僚の手伝いをするようになった。

手伝いはあくまで手伝いだ。

しっかり引き継げるように、想定されるリスクと対応についても申し送りをしておく。

些細な情報も、事細かく伝えていた。


そうすると、自然と仕事もまわってきた。

そのまま担当を任されることもあった。


何度か真田先生にお世話になりつつも、仕事は何とかこなしていく。

その間定期的に診断を受けて、再発は認められませんねと主治医から言われていた。

あれから一度も行ってないから当然だ。

しかし、そのことでやはり関連があると確証を得た。

向こうの世界に行くことで、こちらの体に深刻な影響が出るということだ。

あれから様子を見続けているが、一度も行くことはなかった。


そうして俺の周囲は一定の安定を取り戻していった。




月日は廻り、俺の日常は平凡なものに、もどっていた。


「一度会いに行こう。」

なぜかそうしなければならない気がして、有給休暇を取得する。

幼いころに世話になった、あの神父さんに会いたかった。


神父さんは俺のことをおぼえていた。

そして俺の成長を喜び、おもむろにこう告げてきた。


「愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。不義を喜ばず、真実を喜ぶ。すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える」

そう言ってにっこりとほほ笑む神父さん。

その言葉は、なぜか俺の心に力強いものとして根付いていた。



「ヘリオスも、ようやく12歳になったか」

俺が自分の環境を何とか整えたころ、ヘリオスは12歳になっていた。

王立学士院アカデミーに入学することも決まっていた。


ヴィーヌスはオーブ子爵のもとの嫁ぎ、ルナは回復魔法を使えるようになっていた。

その容姿もさることながら、実力も秀でたものになっていた。

ヴィーヌスがいなくなった後のモーント辺境伯領内で――聖女の妹――という呼ばれ方をしていた。


なんとなく、俺はもう一度行く気がしてきた。

というよりも、行きたかった。

望んで行けるわけではない。

しかし、行きたくないと思った途端、全く行かなくなったことから考える。


向こうに行くためには、行こうと思う意思が必要なような気がしていた。



当然、中途半端にならないように仕事の整理にも余念はない。


そして自分の病気のことを同僚や、課長につげておく。

万が一にそういう事態になった時のため、仕事のことを毎日書き記していた。

それは、今の仕事の状況、問題点、解決方法、想定される問題点、その解決策。

そういったことを毎日事細かに記して、備えていた。


同じ失敗はしない。

こちらの世界も、向こうの世界も。

そう固く決心していた。


「とにかく、行くとしても短期間」

まずは、影響がどの程度出るかを知ることだ。


あらためて考えると、季節はちがうが、暦や時間がこちらと同じであることがありがたかった。

向こうで過ごした時間を、こちらの時間経過に換算しやすかった。

期待が大きい分、一抹の不安はぬぐいきれなかった。


「何と言っても国立魔導図書館。ここはぜひとも見ておきたい」

俺の心はすでに、あの世界へと向かっていた。




王国歴212年4月13日

ヘリオス=フォン=モーント12歳

王立アカデミーの門をくぐるべく、王都を訪れていた。



様々な現実問題をうけいれて、何とか生活基盤を整えた月野。そのころヘリオスは12歳になっていた。

次回より、王立アカデミー編に入ります。

いままで読んでいただいてありがとうございます。

第1章完結です。

次のアカデミー編で、ヘリオス君と月野君にある転機が訪れる予定です。

引き続き、読んでいただけるとありがたいです。

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