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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
夢の世界へ
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月野太陽という男(改)

3話を2話に変更してみました。

「……。またあの夢か……久しぶりだな……」


心地よい目覚めではなかった。

子供のころから幾度となくみている夢。

幼い時の俺とは、見た目が違う。

まるで少女のような少年。

俺と同じように、いつも一人で寂しそうだった。

俺がその子をなぜ少年と認識しているのかはわからないが、そこには確信があった。


「ま、夢だしな……」

細かいことは気にせずに、仕事の用意を始める。


「今日は得意先に納品の打ち合わせか。新規も開発しないといけないし、やらないと……」

今日一日のスケジュールを確認する。

簡単に朝の支度を整えて、会社へと出かけて行く。


それが、俺にとっての日常。

平凡な毎日。

それは幸せでも、不幸でもなかった。



***



「月野君、最近はどう?」

後ろから声をかけられて振り向くと、おっさんがそこにいた。

大柄で、立派なあごひげを蓄えたおっさん。


町で声をかけられたなら、おそらく逃げてしまいたくなる容貌だ。

そんな顔で微笑まれても似合わない。

しかし、俺は愛想よく答えた。


「真田先生、おかげさまで。」

俺が世話になった人だ。


そんなそぶりを見せてはいけない。

それくらいの社交辞令は心得ていた。


「そう?まあ、顔色はいいし、目には力がある。大丈夫なようだね!でも、なんかあったらまたね。話は聞くから!」

真田先生は満足そうに頷いていた。


「はい、その節はお世話になりました。本当にありがとうございます。」

それは感謝してもしきれないもの。

あの時の出会いがなかったならば、今の俺はなかったと思う。


「いろいろ大変だろうけど、いつでも聞くからね!それといい加減に慣れてね……。じゃ!」

露骨に態度にでていたことに驚きながら、笑顔でその場を取り繕った。


これは子供の時からの特技だ。

その場限りの笑顔。

いつからこんな笑顔ができるようになったんだか……。


先生を見送った後、なんとなく昔のことを考えていた。



***


思えば、昔から周囲の顔色ばかり気にしていたと思う。

幼いころの環境がそうさせたのかもしれないが、自分と他人との関係を勘違いしていた。

一人で勝手に距離を作ってしまっていた。


食品会社の研究職として就職したのは、人付き合いが苦手だったこともあるが、それなりに目的をもって仕事をしていた。


砂漠や水の少ない土地でも発育できる穀物、植物。なぜかそれにこだわっていた。


それが、このところの不況のせいで、人員整理という名の配置転換にあった。

そういう研究に、会社はお金を出してはくれなかった。


そして今の営業部にいる。

人とのかかわりが苦手で、営業なんてできない。

当時、そういった思いが態度に出ていたのだと思う。



営業部では課長からいろいろ嫌味やしごきを受けた。

同僚はそんな俺に、なるようにしかならないとしか言わなかった。

自分たちも同じようにしごかれていたが、皆、(月野よりはまし)という雰囲気があった。



遠巻きにして、さらし者にする視線を感じていた。


やり場のない苛立ちや、どうしようもない閉塞感に当時の俺は追い込まれていたのだろう。


それは、いきなりやってきた。


呼吸困難、手足のしびれ、じりじりと迫る焦燥感。


俺は死んでしまうのか?

こんなところで終わるために生まれたのか?

俺の中で強烈な思いが駆け巡っていた。



過呼吸だったらしい。



ビニール袋の中に、自分の吐いた息を吸う。

ただそれだけの繰り返し。

まるで俺の中の気持ちを吐き出して、それをもう一度納めるような感覚だった。


しばらく医務室でやすむことで、落ち着きを取り戻していた。


それでも俺の表情は沈んでいたのだろう。

医務室の先生はカウンセリングを受けてみないかと話してきた。

月1回、その先生が来ていることを、その時初めて知った。


カウンセリングという響きから、気難しそうな人物を想像した。

わざわざ、そんな人と話すことに抵抗があった。


なにより、そんなことをしても、どうしようもないという投げやりな気持ちが強かった。

それでも、医務室の先生は強く俺に勧めてきた。

その押しに流されたのかもしれない。

しぶしぶ、俺はカウンセリングを受けることにした。


真田先生との出会いはまさに僥倖といっていいものだろう。


決して自分の意見は言わない。

真田先生は、ただ俺の話を聞いてくれていた。

それからいろいろな話をしていくうちに、俺の中にある何かが分かった気がしてきた。

実際に、言葉に出して出るものではないけれども、それがあるという確信をもてた。



そして、人とのかかわりに関しても、自分自身で折り合いがつくようになってきた。




「そういえば、夢がまた変になったのはあの時からか……」


自分一人で生活するようになってからは、どちらかというとテレビの画面で見ているような夢だった。

それが、人事異動後からは急に現実のように感じるようになっていた。


特に気持ちが落ち込んだ時は、夢の中に入っているのではないかという錯覚もあった。

ヘリオスの気持ちも、すんなりとわかってしまうほどだった。


夢なのに、すべてが分からないということも、夢だからと納得していた。

しかし、気持ちがわかる時と、そうでない時の区別が、俺とヘリオスの感情に左右されているのではないかと思い始めていた。


「しかし、よく入院しなかったよな……。」

現実感が強ければ強いほど、意識をなくすことがあった。

めまいの一種だと思っていたが、真田先生と出会ったあとも、それは起こっていた。


ただ、怠惰だとか、生活態度を改めた方がいいだとか、いろいろ言われたりもした。

説明するのが億劫で、笑っていた気がする。


けれど、よく事故を起こさなかったと思う。


まあ、それが怖かったから、車の運転はしないようにしていた。




「そういえば、子供のころは特にひどかったような……。」

小さい時は眠ることすら怖かった。

自分はヘリオスで、この世界の夢を見ているのか?

自分は月野太陽で、あの世界の夢を見ているのか?


その時の自分がどう思ったのかは、覚えていない。

しかし、ある時を境にして、どうでもいいと思い始めたのは確かだった。


「まるで胡蝶の夢だな」


幼い月野太陽と、ヘリオスと。

自分には2つの子供時代があるようだった。


記憶の中にある世界は、果たして現実なのか?夢なのか?

それはもはや考えても仕方がないことだった。

今は月野太陽として生活している。

それで十分だった。


「しかし、美少年とはね……。そんな願望があるんだな?」

夢は深層心理の反映とか平衡宇宙の会合とかいろんなSFものを読んできたけれども、まさか俺が美少年になる夢を見るとか笑えた。


「ヘリオスか……。」

どこか懐かしい響きをもって、心の中にこだまするその言葉は、俺のなかで、しっかりとした場所におさまっていた。


「ま、夢だしな……」


思考を現実に切り替える言葉を使って、俺は現実であるこの世界の仕事を始めていた。


また改稿しました。

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