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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
夢の世界へ
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魔術研究

屋敷に戻ったヘリオス君は、魔法に関して考察します。

「母上は今日もまだ、お戻りにならないのですか……」

俺が屋敷に戻って2日がたっていたが、メルクーアは依然として戻ってなかった。

所在を聞いたが、そのメイドは知らなかった。


「儀式場に入るけど、いいよね?」

一応メイドに声をかける。


メルクーアの不在時でも、これまで儀式場は使用していたが、メイドがいる時に入るのは初めてだった。


とがめられないか……?

許可があるのを知っているのだろうか……。


俺の心配をよそに、メルクーアからしっかりと申しつけられているようだった。

さすがだな。

俺は、ヘリオスのことをしっかり考えてくれるメルクーアに感謝していた。




「魔法の鍛錬を怠ることはできない。誰にも邪魔はさせない」

聞こえるように、そう独り言を言って、儀式場へと向かった。

やはり、俺のあとを小さな影がついていた。



「これでよし」

部屋の扉に封をし、その魔道具の力を解放する。

持ち込んだ魔導書をそばに置く。

何もないところだけに、準備だけは必要だった。


この儀式場はメルクーアが特別な力場を形成して、魔法の研究をしている場所だ。

それには、ある魔道具を使用する。

その魔道具により特別な空間を作り出していた。


そこはこの部屋であって、この部屋でない場所だった。


ヘリオスはこの場所で魔法の特訓をすることが多かった。

俺も、そうだった。


実際に周囲に影響しない場所なので、なにをしても都合がよかった。

魔法の監視下でも解除できる。


ここは思う存分魔法が使える部屋だ。


しかし、そういう場所でも、問題点はそれなりにあった。

それは本来問題にならないものだったが、俺にとっては大きな問題だった。


精霊がその存在力を消費していく場所。


この場所で精霊が存在するには、術者の魔力マナを大量に消費していた。

そして存在し続ける限り、術者から魔力マナを消費し続ける。

精霊を関与させない仕組みなのだろう。


そして契約していない精霊は、自らの存在力を消費することになってしまう。


今までは、ここで俺が特訓すると、シルフィードが文句を言っていたものだ。


しかし、今は対策がある。

この首飾りは本当に便利だと思う。

これをしていると、こうした場所でも皆との会話が可能になっていた。


何よりも、そばにいると感じることができていた。


最初ほとんど会話に参加していなかったミヤも、最近では会話に参加している。

困った発言も多いが、それはそれで楽しかった。


そして、こうした存在力を低下してしまう場所でも、首飾りの中にいれば安全だった。


本当に、いつも一緒にいることが可能だった。




「ん。まあ、こういうもんかな……。やはり見てもらった方が、確認という意味で安心できるな……。でも、これでいいだろう。あとは、発動コントロールだな」

俺は今新たな魔法をおぼえていた。


空間系魔法と転移系魔法。

ヘリオスにとって重要になるこの系統。


なかなか苦労していたようだが、これでヘリオスも可能だろう。

一旦ついた魔法のイメージのようなもの。

ヘリオスのものを俺のものに書き換えた。


たぶん、空間というものがよくわかっていないのだろう。

具象化の際によく失敗していた。

転移系もそうだ。

ヘリオスは経験が足りないのだ。


それはこれから補っていけばいいが、俺がそれを補えば、ヘリオスにも可能だろう。

魔法は便利なものだが、やはり使いこなすには、それなりの経験を踏まないといけないのだと思う。



あらためて魔法について、十分考えてみる。


魔法はなんにせよ、その効果は絶大だ。

そして、周囲への影響も同時に出てしまう。


範囲拡大は比較的簡単にできるが、範囲縮小は細やかな魔力マナコントロールにかかっていた。


「範囲縮小して、なおかつ膨大なエネルギーをそのまま空間ごと転移することに利用できれば、それこそ被害を最小限に抑えることが可能だと思うんだけどね」

俺は、同意を求めていた。


「ヘリオス君はまじめだねー」

シルフィードは感心したように同意する。


「ヘリオス、おこられたから」

ミヤは厳しいとこをついてきた。

だんだん、つっこみがうまくなってきた。


そう、戦乙女ヴァルキリーヘリヤについて、師匠からかなり怒られた。


あの攻撃で、森にかなりの被害が出ていた。

あそこが開けた場所だから、まだ最小限の被害で済んでいた。


「私たちが言ってはいけませんが、あれは仕方がないとも思います。ヘリヤが加減というものをわきまえないからいけないんです」

ベリンダは精霊であるヘリヤを名指しで非難した。


「まあ、ヘリヤはヘリオスの資質にほれ込んだのさ。つい有頂天になったんだと、ミミル的には思うけどねー。なにせ、あのヘリヤを呼ぶ人も珍しいだろうしね。久しぶりでうれしかったんじゃない?とミミルは自慢げに解説したりしてみる」

ミミルはこの場所では妖精の姿になっていた。


メルクーアがいないからということもあるが、久しぶりの妖精の姿だ。

まだ、本調子ではなさそうだったが、楽しそうに飛び回っていた。


「そういえば、ミミルはなんともないの?この場所」

妖精は影響を受けないのだろうか?

それともミミルは特別だからか?


ゆっくりと俺の前にやってくると、すかさず頭の上に座り込んでいた。


「んーミミルは妖精だしねー半分この世界に存在しているからかな?」

ミミルはそう言って、またあたりを飛び回ろうとしていた。


「ミミちゃんずるーい!」

「ミミル卑怯者」

「ミミル、ヘリオスの邪魔しちゃだめよ」


散々な言われようだった。

両手をつく感覚が伝わってきた。

頭の上で落ち込んでいるようだった。


落ち込んだミミルをそっと撫でようとしたとき、ミミルが髪の毛を引っ張ってきた。


「いたいって、ミミル」

少し元気になったのかもしれない。

それともから元気か?


今は、飛び回る気配はなかった。


「んーヘリオス君。ミミちゃんに甘々」

シルフィードがちょっと文句を言ってきた。

口をとがらせたその姿が、目に浮かぶようだった。


その姿を想像し、思わず笑みこぼしてしまった。

やはりこの子はかわいらしい。

強烈にそう思ってしまった。


「もう……」

文句なのか?

どちらにせよ、シルフィードに俺の感情が伝わったようだった。

この首飾りは、精霊契約に匹敵するつながりをもたらすのかもしれない。


そのとき、いきなりミヤが飛び出してきた。

元気いっぱい飛び出したのはいいが、すぐ力をうしない両手をついていた。

頑張って耐えている。


「やっぱりダメ……」

すがるような笑顔を見せて、首飾りの中に戻って行った。


何しに来たのかわからないが、首飾りの中にいれば大丈夫だろう。


「ミヤ、温泉につかってゆっくりしといてね」

感情をこめて、優しく声をかけておいた。


とたん、2人もでてきて、同じことを繰り返してきた。


「……。シルフィード、ベリンダ……。ゆっくり温泉でやすんでね……」

そう言うしかなかった。


なにをやってんだろ?

この場合、疑問を口にしない方がいいと、俺はすでに学習していた。


頭の上で、平和そうなミミルの寝息が聞こえてきた。



「いずれにせよ、範囲縮小が課題だな」

仕切り直しというばかりに、声に出して宣言する。


そしてこれはヘリオス君のためでもある。

この体での魔力マナコントロールの仕方は、そのまま体が覚えている。

古代語魔法の知識や、研究はそのままヘリオスの中に蓄積されている。

一方通行でしかない関係が、これに関しては双方向だ。

ヘリオスが土台を築き、俺が仕上げることが可能だった。


なぜか魔力マナの量は違いがあるようだったが……。


そもそも、魔力マナというものを、俺がはっきり理解していないのかもしれない。


わからないことだらけだが、わかっていることで対応していくしかほかない。

魔力マナコントロールがうまくいけば、少ない魔力マナでも効果的な運用は可能だ。


しいて言えば単なる火球の魔法(ファイアボール)も空間転移で、魔物の口の中に入れて爆発させることも可能になる。

気道を介して呼吸している生物なら、最小限の威力で無力化できるだろう。

周りにも影響が出ない。

心臓に高電圧をかけるのも有効な手段だ。


この空間と転移の魔法を用いることで、ヘリオスの魔法は見た目の派手さはなくなるが、その殺傷能力は急激に上がると言える。


「ただ、空間と転移の魔法自体が、結構な魔力マナを消費するのがジレンマだな……」

まだまだ課題はありそうだ。

俺ができるだけではだめなんだ。


あくまでこれは、ヘリオスの体。

なぜかはわからないが、俺は憑依しているにすぎない。


ヘリオスができることが大事だった。


しかし、火球の魔法(ファイアボール)でもうまく制御すれば効果的だろう。

接近戦で直接口に叩き込むとか……?


「いやいや、ありえないな……」

自分で考えて自分で否定する。

笑うしかない。

ただ、ヘリオスならやりそうだった。


「前科あるしな……すごいよ、ほんと」

あの時見たその姿は、勇敢とも無謀とも取れた。

その気持ちは、俺に伝わっている。

ただただ、必死だった。


それが真相だ。

なりふり構わず、自分のできることを、できるだけ必死にやり遂げた。

その姿は、賞賛としてとらえるべきだろう。


しかし、もう二度とあのようなまねはさせない。

必死にならなくても、対応できるようにしなくてはいけない。


「だから今、頑張ってるんだ!」

自分にそう言い聞かせて、持ってきた空間と転移の術式に関して文献を再びあさる。

もっともっと知識を得たい。


国立魔導図書館だったか、確か王立の学士院アカデミーにあるという場所

メルクーアの蔵書はかなりになるが、ヘリオスと俺は、そのほとんどを読み終えていた。


そこに行けば、何かしらのものが手に入るかもしれない。

そういう期待感が俺を包む。


たしか入学は12歳。もう一度メルクーアに相談してみるか……。

以前そういう話になった時に、メルクーアははぐらかした記憶がある。

あの時、ヘリオスは食い下がらなかったが、期待はしていた。

メルクーアにしても、行くことには問題がない。

というよりも、メルクーア自身も行かせたいようだ。

しかし、それには何か問題があるようだ。

笑顔に下に隠れた心配が見えていた。


ただ、その情報だけは教えてくれていた。


王立なので、貴族の子弟しか入学はできない。

そして成績優秀者には卒業と同時に男爵位が授与される。

だから、貴族でも三男以降が通う場合が多いと聞いている。


正直、貴族の位はどうでもいい。

ヘリオスも気にしていない。


しかし、そのアカデミーの中でも魔術部門に興味があった。

何よりも、その図書館。


この力の意味、自分の存在、ヘリオスとの関係。

こういったことの答えが、ある程度納得のいく答えが、そこにあるかもしれない。

そう思うと、ますます興味がわいてきた。


そして、屋敷を離れるという期待感。


「でも、あと2年は無理だしな……」

年齢制限があるから、今すぐには入れない。


ただ、俺とヘリオスで、この気持ちは違っていた。

ヘリオスがこの屋敷から出たいと思うのは、ヴィーヌスの婚礼が近いからだろう。


そういえば、リライノート=オーブ男爵はアカデミー主席だった。

ヴィーヌスと結婚してから子爵位を継ぐようなことが噂されていた。


一度だけあったが、感じのいい好青年だった。


イケメンだったし。お似合いだった。

なぜか少しさびしい気がしたのは、ヘリオスの感情が呼び起されたからかもしれない。


「でも、いずれはそれぞれ独り立ちするんだよ、ヘリオス君」

俺の奥底にいるであろう、ヘリオスに向けてつぶやく。


「わたしたちがいます」

ベリンダが代表してそう宣言していた。


「ミミルもねー」

いつの間にか起きていたミミルも、頭の上で付け足している。


そう言ってくれる彼女たちに、俺は精一杯の感謝を贈る。


「そうだね。ありがとう」


頭の上のミミルの頭を、見えないながらもなでながら、温泉につかってゆっくりとしている彼女たちにむかって感謝していた。


独り立ちか……。

ヘリオスがいなくなったところで、この屋敷は普段通りなのだろう。


ふと、ルナことが気にかかった。

ヴィーヌスがいなくなったときには、彼女はこの家でよりどころを失うかもしれない。

ヘリオスがあんな感じだから期待はできない……。

まあ、彼女なら何とかなるかもしれない。


いざとなると、メルクーアにアカデミー入学をお願いしてみるのもいいだろう。


自分と1歳しか違わないから、1年我慢してもらえば……。


この問題はいずれにせよ、ルナ次第だ。

今の自分があれこれ考えても仕方がない。

ペンディングだ。



「よし、じゃあ再開するか!」

声に出すと、気持ちの入り方がやはり違う。


あらためて、対象物を目の前に置く。


魔力マナをコントロールする。

座標固定、空間展開、封入、移動、展開を順番にしていく。

それで、その対象物を移動させることに成功した。


物の移動はこれで可能だ。

ためしに、工程を省いてみる。


間にある空間を見つめる。

この点を固定し、対象物を左から右に動かしたのだ。

この固定を外すとどうなるか……。

対象物を見つめて動かすことにした。


それでも空間移動に成功する。

どうやら、この座標固定は漠然とした中でも可能なようだった。


そのとき、頭の上からミミルがいなくなっているのに気付いた。

少し元気になったのだろう。

しかし、急に飛び立たなくてもいいだろうに……。


向こうで何か騒いでいるけど、気にせず、今は魔法に集中、集中。

繰り返し行ううちに、何とか動きがましになってきた。


「ヘリオスー。自分が動いちゃってるよー。ミミル的に笑っちゃうんだけどー」

そう言って空中でおなかを抱え、足をばたつかせながら笑うミミルをみて、間抜けな自分に気が付いた。


相対的なんだ……。


そう思うと、さっきまでの自分が確かに笑える。

ものを左から右に動かすのに、自分が左に動いていたのだ。

ここが何もないところだから気が付かなかった。


ミミルがいなくなるわけだ……。


観測点が自分しかないからだが、これはこれで違う用途に使える。


「一人でぶつぶつ言っちゃって……ごめんね」

ミミルは笑ってしまったことを後悔していたようだった。

その場所で、元気なくそう告げていた。


しかし、後悔などしてほしくなかった。

ミミルは俺に素晴らしいことを教えてくれていた。


「ミミル。ちょっとそのままうごかないでねー」

そう言って俺はミミルから遠ざかって行く。


何が何やらわからない様子のミミルは、言葉通りじっとしていてくれていた。

空間の端の方まで移動した俺は、そこに目印を立てておいた。

そして、さらに小さくなったミミルを見つめる。


小さすぎる……。

狙いをミミルにしたのは少しまずかったかもしれないが、今はミミルに感謝を伝えることが先だった。

新しい魔法の開発の誕生に。


「!!」

突如目の前に現れた俺に、ミミルは空中でしりもちをついていた。


「あはは、成功!」

うれしくなって、つい大声を出していた。

ミミルをそっと引き上げる。



「ちょっとヘリオス!ミミル的にすっごくびっくりしたんだけどー。どういうことかなー?」

両方の頬を膨らませてそう言うミミルは、まさにハムスターだった。


「ごめんごめん、でも空間移動をものにしたよ。かなり魔力マナ消費が抑えれる魔法だよ。見えてる範囲に限定されるけどね」

そう言って、先ほどの位置にとんだ俺は手をふっていた。

とおもったら、次にはミミルの目の前に飛ぶ。


「こんな風にね」

「……」

ミミルは呆然として、ただうなづいていた。


「んー魔法発動はどうしようかな……そうだな、まあそのままでいいか」

いきなり無詠唱で行ったために、イメージを結びつけるものを用意していなかった。


縮地シュクチ

そう言ってまた移動した。

自分で魔法を開発する。その楽しみを知ってしまった。


「これを応用すると、移動手段として転移できそうだな……。けど、見えない範囲に行くのは実際には怖いな……見えたらいいのか?」

いずれにせよ、今日はこのくらいにしておこう。


ここ以外の場所で、実際に使ってみないことには本当の効果はわからない。

この魔法は従来の空間移動のように、いったん自分を別次元に送らない。

対象と自分との間にある空間を別次元に送って、あとでつなげている。

自分を保護するための魔法がいらない分、魔力マナコントロールも容易だった。

移動手段というよりも、戦闘手段になりそうなものだ。


「いや待てよ……」

さまざまな発想が頭の中に浮かんできた。


今まさに、俺は魔法開発の魅力に取りつかれようとしていた。


「ヘリオス君は研究熱心だねー」

シルフィードのつぶやきが聞こえる。

温泉につかってゆったりしているような声に、その横で同じようにくつろぐベリンダとミヤを想像して、俺はなんだか楽しい気分になっていた。


ひょんなことから自分が移動できるよう魔法を開発していた。研究成果を今後どのように使っていくのかが楽しみです。

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