後日談(卒業:ホタルの森)
実は、卒業の160話は元々の話を前半で切ってました。今回お届けするのは、卒業の後半部分です。
「それで、話しと言うのは、何ですか」
一応、用件はそれだけじゃないだろう。
二人を呼ばなかったということは、二人には聞かせたくない何かがあるに違いない。
「そうじゃな……。まあ、分かっておるじゃろう。ガイア砂漠の事じゃ。いや、今ではガイアの森とでも呼ぶべきじゃろうか」
デルバー先生の話はやはりそれだった。
「まあ、僕の中では、あそこはホタルの森なんですけどね」
一応結界は引いてある。
中心部は迷いの森にしたから、普通の人間は入ってこれない。
緑化はまだ砂漠化した土地全てを戻しているわけではない。
今、余計なことをされるわけにはいかない。
ただ、周辺に集落が出来つつあるのは知っている。
「あそこは以前までは空白地だったのじゃ。しかし、あれだけの森が出来た。しかも、実りも多いと聞く。アウグスト王国も領有宣言をしておるが、イングラム帝国も黙ってはおらんのじゃよ」
デルバー先生の顔がやつれたように変化する。
王城でのやり取りは、さぞ大変なことだっただろう。
「それで、僕があそこの領主になればいいのですね、領地替えですか?」
大体見当はつく。
大方ゾンマー家がデルバータウン周辺の領有を主張しているのだろう。
旧オーブ領もフリューリンク家が領有化を騒いでいるようだし、ヘルブス家はジュアン王国、ヴィンター家はイエール共和国に圧力をかけるべきという話かな。
「そうじゃの。だが、お主にとっても悪い話ではあるまい。それに伴い、お主を辺境伯に陞爵となる。ほとんど人のすまぬ土地じゃから、反対はなかったの」
イングラム帝国との紛争地帯になる可能性のある土地に、爵位だけもらっていくようなもの。
恐らくは、そうとらえられているに違いない。
しかし、俺にとっては願ってもないことだった。
「ご配慮、ありがとうございます」
全てはデルバー先生のおかげだ。
人の世の中で、あくまでも人のルールで生きていく。
それに、リアン、エイア、テロス、プティ、ケイといった、五人の子供を育てる場所が必要になる。
リアンはともかく、四人の娘は人間の寿命しかない。
人の世界で生きる必要がある。
いつまでも、デルバー先生の厄介になっているわけにもいかない。
「しかし、それにも条件がある。四人の娘たちの嫁ぎ先は、アウグスト王国で合議の上決めるとのことじゃ…………。すまんの」
デルバー先生の顔が見えないほど、うつむいている。
確かにこれでは、二人を連れてくることはできないだろう。
母親であるルナはもちろんの事、シエルが何というか目に見えている。
「しかし、厄介ですね。まあ、いいですよ。まだ先の話です。それまでに何とかします。それに、なにもアウグスト王国の言いなりになる道理はありませんからね。僕にとっては四人の娘の幸せが大事です」
どうせ、四大貴族の横やりだろう。
娘たちも大きくなれば、巣立っていく。
そうなれば、貴族の身分などどうでもいい。
皆でどこかに旅しても構わない。
魂を分離するやり方を覚えたから、精霊王の部分だけを残して、他の大陸に行くこともできる。
そういえば、隣の大陸でもいろいろ問題が起きているようだしな……。
あとは、ホタルの森を完全に迷宮化してしまえば済む話だ。
「ふむ…………。それはわしも見とうはない。そうならないために、全力を尽くそうかの」
デルバー先生は決意の顔を向けてきた。
あくまで、この人はアウグスト王家に忠実だ。
元々は今よりも古い王族のはずなのに、何が一体この人をこうさせるのだろう。
しかし、それを詮索したところで、何か変わるわけでもない。
「そうですね、いずれにせよ、まだ先の話です。そうならないために出来ることはたくさんあるでしょうから」
これから先も、そういう事はついてくるに違いない。
人として、精霊王として、俺は制約の上で存在することを選んだ。
そして、それは俺一人でできる事でもない。
精霊も、妖精も、人も俺を支えてくれる。
だから、俺はこの道を歩く事が出来ると胸を張って言える。
「もとより安易な道はありませんよ。でも、僕らは大丈夫です」
その道が険しいのなら、協力して進むのみ。
デルバー先生の頷きに、俺は笑顔で応えていた。
月野の魂を分離することに成功したヘリオス君は、肉体をアポロンのように作ることで精霊王とヘリオスという存在に分かれることが可能となりました。ひょっとすると、どこかの物語に出てくるかもしれません。




