帰還
魔獣討伐後ヘリオス君は屋敷に戻ってきます。
一足先に小屋に戻り、寝ていたアレンを起こすことなく、俺は寝床にはいる。
そのそばにはシルフィード、ベリンダ、ミヤが俺を守るようについていた。
アレンは寝ていたことに愕然とし、俺が寝ていること見て安堵したようだった。
しかし、なかなか起きない俺をみてしずかにせせら笑っていたようだ。
自身の報告書には惰眠をむさぼっていたと記載していたらしい。
俺の寝ていた時のことは、シルフィードたちが教えてくれていた。
アレンはやはり、父親に俺の行動を報告する役目を持っていたようだった。
昼ぐらいになって、バーン、シエル、そして謎のエルフがマンティコアの大群を駆除したことが報告され、村が歓喜に包まれていた。
そして、討伐隊全員でマンティコアの死体などを回収していった。
ヘリオスにやられたものは、精霊魔法であったので師匠の業績になっていた。
その結果、師匠は畏怖の目で見られえるようになっている。
そして、これだけのマンティコアを仕留めた、バーンたちは高く評価されていた。
人々は新たな英雄の誕生に湧き立っていた。
「しばらく私は、この二人と共にいるよ」
師匠は最後にそう告げて別れた。
どうやらベルンで活動するらしい。
それにあの二人が手伝うということのようだった。
騒動が解決したので、俺は自分の屋敷に帰ることになっていた。
シエルも最初ついていくとさわいでいたが、師匠に拘束されてベルンに帰って行った。
シエルと言えども、師匠には刃向かえないようだった。
俺は仲間と呼べる人たちの中で、自分だけが一人屋敷への道を歩いていることに少しもの悲しさがあった。
しかしそんな気配を察したのか、3つの光がヘリオスの体について歩いてくれていた。
そしてなぜかハムスターはヘリオスの頭の上でふんぞり返っていた。
「また来よう。こんな旅もいいな」
もっと自由にこの世界を楽しみたい。
ヘリオスには申し訳ないが、俺の小さな望みだった。
「それにしても、まだ、こどもなんだな……」
小さい時に感じた閉塞感をまた味わうことになるとは思いもしなかった。
しかし、今の自分は孤独感は感じていなかった。
「そう、僕は一人じゃないんだ」
早く自由になって、あちこちこの世界をみんなと廻りたい。
それが俺の願いだった。
屋敷に帰った俺を迎えてくれたのは、ヴィーヌスとルナだけだった。
「お帰りなさい、ヘリオス。少し大人になったかしら?」
ヴィーヌスは優しい笑みで俺を迎えていた。
「お帰りなさい、お兄様」
ルナは少し照れたようにして出迎えてくれていた。
「ただいま帰りました、姉さま、ルナ。これはお二人へのお土産です」
そうして二人にお土産として渡したのは、シエルに散々連れまわされたときに、しっかりと購入していたものだった。
「まあ、ありがとう。ヘリオスもこんなことができるようになったのですね」
ヴィーヌスが微笑みながらそう言ってきたので、俺は負けじと言い返した。
「お姉さま、僕ももう10歳です。レディに対する礼儀はわきまえております」
そう言って大仰に挨拶する。
その仕草は師匠を見習ったものだが、なかなかに様になっていたようだ。
「まあ、では小さなナイト様に、わたしをエスコートしてもらいましょうか」
ヴィーヌスはそのやり取りを心から楽しんでいるようだった。
そしてすっと手を出した。
「仰せのままに」
そう言って俺は片膝をつき、その手に口づけをした。
「では、ルナ様」
俺はそのまま片膝をつき、ルナを仰ぎ見る。
「……」
ルナは気恥ずかしそうにして、その手を差し出す。
俺は優しくその手の甲に口づけをした。
「ルナにはまだはやいようね」
そう言って笑うヴィーヌスは、本当に楽しそうだった。
俺はこの二人は大事な人と再認識した。
ヘリオスを待ってくれている。
この家で数少ない、ヘリオスの居場所を作ってくれる人たち。
この旅から帰って、俺はそのことを改めて思ったのだった。
そうして旅の話を聞くべく、ヴィーヌスは俺を部屋に誘っていた。
3人は仲良く屋敷の中を進んでいく。
両手に花とはこのことだな。
俺はつかの間の、ゆったりとした時間を楽しんでいた。
*
「ヘリオス!まっていたぞ、最近相手をしていないからな。体がなまってるだろう!おれが鍛えてやろう」
そう言って、ウラヌスは木剣を投げてきた。
反射的につかんだが、その非礼に対して堂々と言い放つ。
静かな怒りをその言葉にのせる。
ヘリオスでは絶対にしないことだが、今の時間をつぶされるわけにはいかなかった。
「申し訳ございません、ウラヌス兄様。僕は今旅から戻ったばかりで、とても兄様のお相手が務まるとも思えません。明日、ご教授いただけますようお願いします」
受け取った木剣をその場におき、俺の雰囲気に気圧されたウラヌスは、捨て台詞を吐いて立ち去った。
いつまでつづける気かね、ウラヌスよ。
正直、俺でなくても、今のヘリオスはかなりの障壁展開できる。
訓練程度の木剣ではウラヌスがいくら剣を繰り出しても、ヘリオスのその身に当てることはできない。
それが分かっていてもちょっかいをかけてくるウラヌスを正直かわいそうに思っていた。
「ヘリオス、やはりあなたこの旅でいろいろ変わりましたね」
ヴィーヌスが目を丸くしてそう言ってきた。
「お姉さま、男子3日会わずば、すなわち括目してみよ。です」
俺はこの世界にないことわざを使ってヴィーヌスをけむに巻いていた。
ルナの興味深そうな視線をうけて、俺は少しやりすぎたのかもしれないと思っていた。
月野君はまだおうちに帰りません。