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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
皆が笑顔でいられる世界のために
159/161

夢の世界の中で僕は(最終話)

最終話です。

本当に今までありがとうございました。

これまで読んでいただいた方すべてに、感謝したいと思います。

もうこれで何度目だろう。


この世界に漂いながら、俺はそのことを考えていた。

そう、漂っていた。


一体なぜそうなっているのか、わからない。

でも、言葉や概念。

そういうものは理解できていた。


そして、解決のつかない問答を繰り返し、繰り返し続けていた。


私はもう俺にまかせるという感じだった。

僕はそれでも俺との話を楽しんでいた。

そして、俺は焦っていた。


何故だかわからない。

ただ、心配をかけているという気がしていた。


誰に?

誰が?

何故?


いつしか、問答と共に、俺は自問し始めていた。


俺は問う。

何をしたいのか。


俺は答える。

帰りたい。


俺は問う。

どこに帰りたいのか。


俺は答える。

大切な場所に帰りたい。


俺は問う。

大切な場所とは何か。


俺は答える。

あの子たちが待つ場所。


俺は問う。

あの子たちとは何か。


俺は答える。

あの子たち。大切な子たち……。



かすかに聞こえるような気がする。

誰かが誰かを呼んでいるような気がする。

いつもそこで断念する。


その繰り返しだった。


俺はまた質問を投げかけていた。


大切なあの子たちとは何かわかるか?


私は答える。

私にはわからない。ただ、君が大切にしているのだということは理解した。


僕は答える。

僕にもわからない。ただ、最近になって何かが何かを呼んでいるような気がする。


俺は答える。

俺もそう思う。そして、それこそが大切な何かだと考える。


私は問う。

なぜそう言い切れるのか。


俺は答える。

俺の中の何かがそう告げている。


僕は答える。

僕もそう思う。


私は答える。

私も最近はそう感じていた。


その瞬間、俺の左手に何かが触った気がした。

その瞬間、僕の左手に何かが触った気がした。

その瞬間、私の左手に何かが触った気がした。


なんだ?これは?


その時、俺と、僕と、私は一つの感覚を共有した。


それは、頭に浮かぶ映像のようなものだった。


誰かが横たわっている。

木の下で銀髪の少女が横たわっていた。

その周りには、たくさんの少女が取り囲んでいた。


その顔はどれも見覚えがあるような……。

その声は聞こえないが、頭の中に届いてくるような……。

その笑顔を見ることができないが、心の中にしみこんでくるような……。




その時を境にして、俺は俺一人になっていた。

言い知れない不安感が、俺に襲い掛かってきた。


しかし、その映像を見るたびに、俺の心は癒されていた。

そして、焦りを感じていた。


夢の世界の中での出来事のように、ただ眺めることしかできなかった。

何もできない自分がもどかしかった。

そしてそれは、なんだかかつて感じたことがあるように思えた。


そう、俺は焦っていた。


この場所に帰ることを、俺は切望しているのか。

その映像に手を伸ばすように、思わず右手を突き出していた。


その瞬間、俺の右手に何かが絡みついていた。

それは、赤い縄のようなものだった。


右手に絡み付いた赤い縄は、いつしか左手にも絡みついていた。

動けない。もとより漂っているだけの感じだったのだが、この場所にとどまっている感覚だった。


赤い縄が俺をとどめていた。

浮遊する俺を、この場所にとどめていた。


そして、それは左足と右足にまで及んでいた。

俺を縛る赤いもの。


赤い縄。


これが増えるたびに、俺は安心できていた。

いつしか、胴体や首にまで巻き付いている。

体のいろいろな場所に、それは巻き付いて、離れなかった。

縛られていたが、全く苦しくない。

むしろ、より一層安心できていた。


そして、いろいろと考えることができていた。

いろいろな感覚がよみがえっていた。


そして、俺の考えは、希望は、ただ一つだと、強く思えるようになっていた。


俺は、あの場所に帰りたい。

俺は、あの場所に帰りたい。

俺は、あの場所に帰りたい。


ただそれだけを思い続けていた。


俺は、あの場所に帰るんだ!


その想いはいつしか魂の叫びとなり、強い意志を持って周囲に広がっていた。



***



「やっと見つけた。もう、さがしたよ。勝手にいなくなるから、心配するじゃないか!」

いきなり現れた少女に、頭をたたかれた。


それは、まぎれもないあの少女だった。


「なにを言ってるのかわからんが、俺はあの場所に帰りたいんだ。すまないが、俺をあの場所まで連れて行ってくれないか? 見ず知らずの人に頼むことじゃないかもしれないけど、なんだか君は俺の望みをかなえてくれそうな気がするんだ」


もうずいぶん前に居なくなった人。

それ以外に感じる全く別の人。


初めて会ったはずなのに、なぜか懐かしい気持ちになっていた。


だから、ついそう頼んでいた。

手足を縛られ、身動きは取れないけど、俺は頭を下げたつもりになっていた。


少女は俺の縄を見て、おもむろにそれに触れていた。


「これは……シルフィードの気持ちか。これはミヤ、これはベリンダ、これはノルン。これはフレイに、これはホタル。これはエウリュディケか……。おおダプネも。そして、これはミミルだね……」

少女の口から零れ落ちるその言葉は、どれも懐かしい、そして愛おしい響きをもって俺の中にしみこんでいく。


そしてその名前の示す姿を映像の姿と重ね合わせる事が出来ていた。


「わかる……。わかるよ……。シルフィード。ミヤ。ベリンダ。ノルン。フレイ。ホタル。エウリュディケ。ダプネ。そして、ああ、ミミル。わかるよ。君たちのことがわかる。何ということだ。大切な、大切な君たちを、俺は忘れていた。思い出せなかった」

後悔と自責の念。そういったことも分かるようになってきた。


「さあ、帰ろう。みんな僕たちを待っている。それにこれ以上は、僕だけが聞いているのもなんだか釈然としないからね」

少女が、いや。少年が苦笑しながら、手を差し伸べてきた。


その手を握った瞬間に、俺は(僕は)一つの存在に戻っていた。


「バカバカ! ツキノのバカ! バカ!」

一つになった瞬間、ミミルの罵声が聞こえてきた。


その声は、語彙がきわめて少ないが、心配と安心が同居しているものだった。

俺を認識した途端、ずっと同じ言葉を繰り返していたのだろう。


「まあ、そりゃ釈然としないわな」

妙に納得できる気分だった。


「ごめん、ミミル。でも、やっぱりミミルは俺の期待に応えてくれる。これでミミルに助けられるのは二度目だな」

ミミルからは何も言ってこない。

でも、何となくわかる。

どういう顔をしているか目に浮かんでくるようだ。


「ありがとうミミル。こうしてミミルが導いてくれるから、俺は帰ることができる」

ミミルとのつながりは、この空間から抜け出すのには必須だった。


「わかれば、よろしい」

ずいぶんと無理してはしゃいだのが手に取るようだった。


「ずいぶん待たせてしまった。早く帰ろう」

帰ろうとして目標を考えた瞬間、目の前が真っ暗になった気分だった。


しまった……。

探すのに必死で、僕は戻り方をしっかり確保してなかったんだ……。


さっきの赤い縄は融合した時に消えていた。

映像も消えている。

たぶん、安心したんだろう。


しかしどうするか……。


次元移動ディメンジョンムーブを繰り返す。

それにしても、何か目印になるものがいる……。


ここは時間と空間が入り乱れている。

下手に飛んで、別の時間軸で流れてしまっては、元の空間に戻れないかもしれない。


空間目標は、あの時にベルンに埋めたものがある。

そしてミミルとのつながりで二点固定できるので大丈夫だ。


しかし問題は、時間の固定だ。

ミミルのつながりは幅が多すぎる。


何かないか……。

目標となる時間軸……。


その時、不意に俺を呼ぶ声が聞こえていた。


「なき……ごえ……? 泣き声。赤子の鳴き声」

それは、大きな、大きな大合唱のような泣き声だった。


俺の魂の波動に近い、その鳴き声は、確かに俺を呼んでいた。


「ああ、わかるよ。子供たち。君たちが生まれた時間を頼りに、ミミルとの繋がりで飛べばいいんだね」

俺はそこを目標にしていた。


俺の子供たちが赤子でいる時間軸。

それを目標に俺の魔法は完成した。


次元移動ディメンジョンムーブ



***



この波動……。

ようやくのお出ましか……。

我をここまで待たせるとは不遜な者よ。

まあ、それも帰ってきたことで許してやろう。

契約は果たされた。


世界もこの場を見ている。

いや、世界はあらゆるものを見ているが、今はこの場を見ているだろう。


見届けよう。

そして、歓迎しよう。

精霊王の帰還を、龍王として……。



薄暗い世界の中、まばゆい光があたりを照らしだしていた。


そして、この場に、この世界に、久しくなかったその存在が、ひときわ大きなものとなって舞い降りてきた。


その光は、大木に横たわる少年に吸い込まれると、ひときわ大きな輝きを解き放っていた。


その光は、見るものを優しさに包むものだった。

やがて光は収束していき、その中で少年が体を起こす。


少年の周囲には、それまで周りにいた赤子が浮かんでいた。

それを見て、にっこりとほほ笑んでいる。


おそらく、この場に集まっている誰もが待ちに待った瞬間に違いない。

おもむろに立ち上がり、周囲のすべての者達を見回していた。


「ただいま、みんな。ずいぶん心配かけてごめん」

誰もが動けずに見守る中、ただ真剣に頭を下げつづけていた。


そしてゆっくり顔をあげると、優しい笑みで周囲を見ていた。


「そして、ありがとう」

それは、見るものを安心させるもの。

それは、見るものを優しく包み込むもの。

そんな笑顔がそこにはあった。


暗い、不安な気分をかき消すように、温かな光が差し込んでいた。



***



「シルフィード、ベリンダ、ミヤ、ノルン、フレイ、ホタル、エウリュディケ、ダプネそしてミミル。ずっと祈ってくれてありがとう。君たちの祈りが、僕を時間と空間のはざまから救い出してくれたよ」

いつもなら飛び込んでくるミヤが飛び込んでこない。


精霊たちは皆、その場で泣き崩れていた。

その存在をかけて祈り続けていたのだろう。

もはや、一歩も動くことはできないようだった。


本当に、ありがとう。

でも、もう少しだけ待ってほしい。


「ルナ。シエル。心配をかけたな。そして無事に子供たちを生んでくれてありがとう。この子たちが、俺をこの時代に導いてくれた」

子供たちの頭をなでていく。

泣きつかれたのか、全員が安らかな寝息を立てている。

驚きの顔で見るルナの顔を見て、自分の口調を戻していないことに気付いた。

本当によく気づく子だ。

これからは気を付けよう。


「リアン。お前は男の子だ。妹たちを守るんだぞ。お前はこの世界の絆だ。そして、この世界の希望になれ」

寝ているリアンを高く掲げて、精霊王の加護を与える。

くすぐったそうに身をよじるリアン。

しかし、すぐに寝息を立て始めていた。


「エイア。新しい命のぬくもりを君に授ける。君の笑顔が世界を幸せにするように」

「テロス。確かな成長を君に授ける。君の行動がこの世界を活動的にするように」

「プティ。豊かな実りを君に授ける。君の育みがこの世界を豊かにするように」

「ケイ。本当の優しさを君に授ける。君の思いやりがこの世界を優しくするように」

四姉妹にも、同じように加護を与えていく。


「デルバー先生。またご迷惑をおかけしました」

色々後で話を聞かなければならないだろう。でも、今はただほほ笑んでくれている。

今はこの場にはいないけど、師匠にも迷惑をかけたのだろう。

あらためて挨拶にいかないとな……。

デルバー先生に向けて、もう一度頭を下げると、満足そうに頷いていた。


他にもたくさんお礼を言う必要がある。


「アイオロスもありがとう」

見えないようにかしこまっていたアイオロスが、深々とお辞儀をしていた。


「この地に集まった精霊たち。君たちにも感謝する」

この農場だけではない。

ジ・ブラルタル要塞の外側にも、多くの精霊たちが集まっていた。


その者たちにも感謝して、この場を中心に、精霊王の力を解放していく。


解放しておきながら自分で驚きを隠せなかった。

以前とは比べ物にならない存在力。その力が、あつまった精霊たちを包んでいく。


そして一番近くにいたあの子たちが、それを最も多く受けているだろう。


「ヘリオス!」

真っ先にミヤが飛び込んできた。


次々にとびかかられて、俺はたまらず後退した。


「順番ですよ」

そんな姿を見たからかもしれない。

涙をぬぐいながら、ルナが他の精霊たちを整列させていた。


子供たちはシエルとアイオロスが、それぞれの乳母車にのせている。

時折こちらを見るシエル。

成長した姿に思わず感動してしまった。


しかし、そういってもいられなかった。

何せ数が多い。

一度に何人にも飛び掛かられるので、こっちの身が持たない気分になっていく。


とびかかられるたびに、よろめく姿は滑稽だろう。

それでもそれを繰り返す様に、いつしか笑いが起こっていた。


こっちは笑い事じゃないんだけど……。

でも、そう言えるのも帰ったからだ。

今は、ひと時の笑に興じよう。


悲しみの顔はその役目を終えたことに安堵し、笑顔がお帰りを告げているんだから。



それからも、色々な精霊がこの地に集まっていた。


王の帰還を、精霊たちが祝福してくれている。

その一人一人と挨拶をする。

俺はこの三日間、この場所から離れられなかった。

やがてその波もおさまったころ、ようやく外の世界を見ることができた。


「うん。立派になった」

つい、満足して頷いてしまう。


目の前には、広大な森と草原が出来上がっている。

そこにあったかつての砂漠は、跡形もなくきえていた。


上りかけている太陽の光。

それを受けた木々が、一日の始まりを歓迎しているように、つややかな緑を見せてくれている。


暗い夜はあけ、太陽の世界が舞い戻っていた。


今という時は、確かな足音を持って、明日へと歩きだしている。


「ここが、こうして生まれ変わった。世界もたぶん大丈夫だ」

確かな自信を持って、そう宣言できる。


いつしか、俺の周りには、みんなが集まっていた。

集まっていた人と精霊と妖精たちの顔を見て、幸せいっぱいの気分になる。

この生まれ変わった景色を、いつまでも共に見ていたい気分だった。


このあと、後日談が続きます。

蛇足です。

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