表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
皆が笑顔でいられる世界のために
158/161

精霊たち10

もう間もなくラストです。これまでありがとうございました。

「では、確かに渡したぞ、ミミル。その者は今眠りについておる。魂の抜けた状態にある、深い眠りだ。一人はすべてを背負い旅立った。そしてもう一人はそのものを探しに旅立った。我から言えるのはその程度だ。詳しく聞きたければ、真理の魔術師にでも聞くがよいだろう。あのものにも見えない物は、我が話しておいた。この精霊王が復活するかどうか、すべてはお主らにかかっておる。ただ信じ、祈るがよかろう。あの者はお主たちとの絆を切りたくて切ったわけではない」

龍王の子はそれだけ言って忽然と姿を消しておった。


「どうしよう」

困った顔のミミルが、精霊たちを順番に見ておる。

ミヤの背に背負われたヘリオスを見たところで、その表情はますます沈んでいくようじゃった。


「とりあえず、ホタルのとこに運ぶで。後のことは、それからや」

ノルンがいつになく真剣にヘリオスを眺めておった。


「ミヤ。本当に運ぶの? 飛ばしてもええんやで?」

今にも泣きそうなミヤの肩に手を置くノルン。

その顔は自分がそうしたいのをおしこめておるようじゃ。


「運ぶの!」

しかし、ミヤの決意は固かった。


「わかった。ウチらも手伝うから。みんなで行こう」

ノルンの提案に、精霊たちは頷いておった。



***



ミヤちゃんはヘリオス君を運びきり、皆でホタルちゃんの木の根元に横たえた。

片時も離れようとしないミヤちゃん。

その気持ちは痛いほどよくわかる。

私もそうだから……。


不吉なことを考えちゃうほど、ヘリオス君は深い眠りについている。

たけど、規則正しく動く胸元が、生きていることを証明してくれている。


本当に、きれいな顔で、穏やかな寝顔よね……。


私はずっとこの顔を眺めてた。

他の誰よりも、この顔を私は知っている。


朝起きてすぐの寝起きの顔がちょっとかわいい。


ずっと私だけが見ていた顔。

いつかおはようと言ってくれる。

そんな日を夢見て、ずっと過ごしてきた。


そして、その夢はかなった。


『おはよう、シルフィード。今日もいい風だね』

そう言って優しく微笑んでくれる日が、夢のように幸せだった。


そうよ、私は知っている。

ヘリオス君は夢を現実にしてくれる。


だから、心配ない。

きっとヘリオス君は帰って来てくれる。

私はヘリオス君を信じている。



***



全ての精霊の顔が、心配ながらもその帰還を信じておる。

ヘリオスが帰ってくる。

その瞬間を、今か今かと待ち望んでおった。


やがて、一日が過ぎていった。

次の日も、精霊たちは待ち続けておった。

次の日も、その次の日も、精霊たちは待ち続けておった。


「あかん。これ以上はウチも限界や。そもそも状態保存は、生きとる人間にかけるもんやあらへんで! いくらこの場所にもその魔法が働いとるからちゅうても、魂のないもんには働きにくいやろ!」

ノルンが文句を言っておった。

明らかに、あ奴に対して言っておる。

しかし、その視線はミヤに対して向けておった。


「ねえ、デルバー先生にお願いしよう。やっぱり、これは私達だけでは無理だよ」

シルフィードが決意を告げておった。

ようやくわしの出番じゃの。


「そうね。頼むのと、あきらめるのは違うからね」

ベリンダはその意見に賛成しておった。

えらいぞ、ベリンダ。

その通りじゃ。

何でも自分たちでしたいのは分かる気もするが、できないことは任せる勇気も必要じゃ。


「ヘリオスが帰ってくるなら、この際何でもいい」

ミヤがようやく、賛同しおった。

本当に強情な者じゃて……。


なら、わしもそろそろ行こうかの。

ミミルもそろそろ限界になるじゃろうからの。


「あんた……。まあ、ええわ。それじゃ、呼んでくるわ。ていうか、もう来とるし……」

あっけにとられた表情を見せるノルン。

まあ、全部見ておるのじゃから、当然じゃの。


「ほっほっほ。まあの。ほれ、ヘリオスの指輪は便利じゃろ?」

ヘリオスの奴が空間に細工しようとも、あ奴の指輪にはわしを呼び込める仕掛けがあるんじゃ。

同じことを、アポロンにもしておったようじゃが、わしには真理の眼がある分だけ正確なんじゃぞ。


「そもそも、お主たちの協力が得られんでは、出てきても仕方がないからの。直接わしが、探すことはできんのじゃよ……。わし一人で出来ることと言えば、ヘリオスの肉体が朽ちぬようにする事ぐらいかの」

そう、残念ながらわし一人で出来ることは少ないんじゃよ。


わしの言葉に悲しそうにうつむく精霊たち。

ミヤだけは、わしを怖い顔で睨んでおる。


いや、だから協力が必要じゃというたじゃろうが……。

肝心なことを、まったく聞いとらんのじゃろう……。


まあよいわ、話しを先に進めるかの。


「ミミルや。おぬし、使い魔契約は解除されたんじゃな?」

ポケットに入ったままのミミルをつまみだす。

すっかりやつれて、弱っておる……。

普段なら光り輝いておるその羽さえも、色あせてくすんでおるようじゃ……。


「うん……」

元気なく答えるミミルは、まさに見る影もないというやつじゃの……。


「おぬしは妖精なんじゃ。しっかりと食べなくてはいかんぞ? こやつが帰ってきたとき、ダイエット? じゃったか? それをしとったとでもいうつもりかの?」

目の前のミミルに魔法をかける。

こうでもせんと、どうせいうことを聞くまい。


大方、奴をつなぎとめられなかったことを、自分のせいじゃと思っておるんじゃろう。


「エウリュディケじゃったかの? おぬし、ミミルに何か食べさせてやってくれんかの」

嫌がるミミルをエウリュディケに渡しておく。


「多少無理矢理でもよい。少し食べたら、もどるがよいの」

ミミルはそれでも、ヘリオスから離れたがらなかった。


エウリュディケの手の中で、もがき続けるミミル。

どれ、ちゃんと説明せねばなるまいの。


「ミミルよ。よく聞くがよい。龍王が、旅立ったヘリオスをなぜそなたに預けたと思う?」

束縛を何とか解こうとするミミル。

ちっともわしの話を聞こうせん。


まったく、どいつもこいつも……。

あ奴が甘やかすからいかんのじゃ。

帰ったら、そこも説教せねばなるまいの。


仕方がない。

わし好みではないが、強制的に聞かせようかの。

魔法を使い、ミミルに強制的に話を聞かせる。


「使い魔はの、探知の儀式を行えば、契約者とのつながりを復活することができるんじゃ。しかし、それには使い魔の魔力マナを大量に消費する。旅立ったヘリオスは追ってくるヘリオスをおそらく意識したんじゃろ。それを知らせるために、わざわざお主を指名したんじゃ。龍王もそれを察しておる。すでにお主には、龍王からの魔力マナの流路が出来上がっておるわ。まずは、おぬし自身の体力を回復させるんじゃ。それがヘリオスを救うことになるじゃろう」

最初は聞く耳持たなかったミミルも、最後の方にはちゃんと聞いておった。

もっとも、魔法で聞かせているのじゃから、当然なのじゃがな。

それでも、自分で聞くということは、自分の意志が存在するんじゃ。

聞かされるのと、聞くのでは、その後の行動に変化が出るんじゃ。


どれ、もう束縛はいらんじゃろ。


エウリュディケの手の中にいるミミルの体に解除の魔法をかける。


「わかった。やっぱり、ミミルはえらい!」

衰弱した体はまだぎこちないが、気持ちだけ完全復活したミミルじゃった。



エウリュディケとミミルが去った後、もう一つ大事な事を確認せねばならなかった。

ミミルにも確認しておいた方が良いが、どのみち答えは変わらんじゃろう。

ならば、今は体力を回復させる方が良い。


「あとは、おぬしらに問う。おぬしらには選択肢がある。おそらく、すべてを背負った大馬鹿者と追いかけていった馬鹿者は、このままではすんなりと帰ってはこれん。ミミルのつながりで追いかけていった馬鹿者の方だけは見つけることができるが、すべてを背負った大馬鹿者の方はどうしようもない。おそらくじゃが、すべてを背負った方は大馬鹿者じゃから、精霊王という存在もヘリオスという存在もすべて追いかけた馬鹿者の方に渡しておる。この世界としては、追いかけた馬鹿者の方を呼び戻すだけで、すべて丸く収まるんじゃ」

言葉には息継ぎが必要なように、考えにも息継ぎがいるもんじゃ。

一息ついて、考えてもらおうかの。


沈黙の中、精霊たちは一斉にわしを見ておった。

わしの話を聞くまでもなく、その答えは出ておるようじゃの……。


でも、言葉に出して確認せねばなるまい。

それが、この世界に対して精霊たちが発する答えなのじゃから。


「どうしたい?」

たった一言だけじゃ。

それですべてわかるじゃろう。


だが、この一言は、重要な意思決定を求めておる。


精霊王の単純な復活と、ヘリオスという存在の不完全な復活は同じ意味を持つんじゃ。

世界はお主らの答えを見ているじゃろう。


「ヘリオス君が探しているなら、それは大事なことだと思う。私はツキノの含めたヘリオス君が好き」

シルフィードの宣言にすべての精霊が同意しておった。

晴れやかに、そして微塵も迷う余地もない。


「ツキノか。あ奴の名はツキノというのか。ヘリオスの中でヘリオスを演じたヘリオス。ツキノがおらなんだら、この世界はとっくになくなっておる。そのすべてを、ヘリオスに託して……。自分は何もかもなくして、どこかの空間に漂っておるんじゃ。全く世話の焼ける大馬鹿者じゃの。わしも、賛成じゃ。なにせ、また説教をしたくなったのでの。お主らの力でそうするがよい」

聞く前からわかっておったが、改めて聞くと気持ちが良いの。

気が付くと、わしも笑っておった。


「デルバー先生、何か方法があるんですか?」

ベリンダが期待を込めたまなざしで見つめてきおった。

鬼気迫るとはこのことを言うのじゃろう。


よくもまあ、一斉にわしの周りに集まってきたもんじゃ……。

ノルンはやはり違うがの。

あらためて見ると、同じ目でわしを見ておる……。


だから、話をちゃんと聞くんじゃ……。

しかし、ベリンダまでとは思わなんだ……。

お主はそうではないと思っておったのじゃがの……。


ノルンだけじゃの……。

ちゃんとわしの話を聞いておったのは……。


「ん? さっきも言ったじゃろ。ないがの」

仕方がない。

もう一度説明するかの。


「じい、死ね」

途端に、ミヤが殺気を放ってきた。

お主、ほんとにわしの話を聞いておらんの……。


「ほっほっほ。わしにはないがの。おぬしたちにはあるぞ?」

もはやあきれてものも言えん。

というよりも、最初から説明せんといかんじゃったのかの……。


こやつらは、ヘリオスに依存して考えるということをおろそかにしすぎじゃの。

それはそれでよいのかもしれんが、こやつらの本当の成長を考えるならば、しっかりとそこを分からせなければなるまい。

これでまた、説教する理由が増えたの。


「おじい。おねがい」

瞬く間に、ミヤが手のひらを反してきた。

その変わり身の早さは、賞賛するしかあるまいの。


「お主は、本当にわかりやすいの。あ奴が気に入っておるのも頷けるの」

わしの言葉の意味をどうとらえたのかわからんが、本当にうれしそうな顔で、全く話を聞く様子がなかったの。

どこか違う世界に行っておるんじゃろう。


まあ良いわ。

もともとしっかり聞かんのじゃから、この際後回しじゃ。


「それで、その方法は?」

ミヤを押しやり、ノルンが先を促した。


「フム。信じることじゃよ。呼びかけ続けるんじゃ。もともと肉体と魂は強い力で結びついておる。こやつの肉体がここにある。この世界にある。それは魂をつなぐものじゃ。あの大馬鹿者はそこにかけておる。あ奴が次元を超えてホイホイこの世界に来れたのも、ここにこの肉体があったからじゃ」

マルスたちは、魂だけでこの世界に来たといえるかの。

だが、あ奴の場合は、魂も肉体も、この世界にあるんじゃ。

そこが大きな違いじゃの。


「あ奴はの、極めてあきらめの悪いやつじゃ。ここに来る前に、龍王から話は聞いた。あの大馬鹿者は、事もあろうか、最後に龍王と約束という契約しておったわ。皇帝に気づかれぬように巧みに言葉を用いておる。あそこまで来ると、もう詐欺師じゃの。皇帝は、唯一生き残る手段があったんじゃよ。それを隠しに隠して、ついにこの世界から連れ出しよった」

その手段は、あきれた方法じゃ。

しかし、同時に感心もするの。


どれ、そろそろ状態保存の魔法をかけるため、ヘリオスの周りに魔法陣を描いておくかの。

ゆっくりと精霊たちの間を抜け、ヘリオスを中心として魔法陣を展開する。

しかし、本当に気分よく寝ておるの。


「あきらめずに、呼びかけ続けるんじゃ。おぬしたちの絆は、誰よりもあの大馬鹿者に届くはずじゃからの」

大馬鹿者が最後に託した願いの糸。

それは、龍王の子シグルズによってこの世界に導かれておる。

後はそれを伝って探し出すだけじゃ。


ミミルの方では馬鹿者を探し出してもらう。

今頃次元のはざまで見失っておるかもしれんの……。

思慮深い性質は、やはり大馬鹿者の魂にこそ、深く結びついておるようじゃな。


「さて、あとはあの二人への、説明じゃが……。なんじゃ、もう聞いちゃおらん」

魔法陣を描き終わり、振り返って精霊たちに向き合おうとした瞬間。

すでに精霊たちはヘリオスの周りを囲んで、一心に祈り続けていた。


「まあ、わししかおるまいの……。あの大馬鹿者め、帰ってきたらまた説教かの」

とてもたくさん説教することが出来てしもたの。

これでは、当分わしの話からは逃れられんぞ。


のう、ヘリオスよ。



***




そして、月日は流れ、さらに九ヶ月が過ぎさったの。


シエルもルナも無事に出産しておる。

わしに連れられて、初めてこの地に訪れた二人は、その姿を見て、涙を流しておった。


「あなた……」

ルナはその場で崩れ落ちそうになるのを必死に耐えておるようじゃった。

両手を口の前で合わし、真剣な目で見つめておる。


ゆっくりと精霊たちの間を抜けて、ヘリオスのそばによるシエル。


「旦那さま。ほら、この子を見て、一緒に決めた名前を付けてます。あなたの息子、リアンを抱いてあげて……。この子はこの年ですでに精霊たちの祝福を受けています。みて、旦那様……」

リアンを抱きながら、ヘリオスの手をとるシエル。

潤む瞳をそのままに、リアンにその手に近づけておった。


ヘリオスの指をしっかりと握ったリアン。

とても気持ちよさそうに、その指を握っておるわい。


「ほら、旦那さま。リアンが待ってます。ねえ、こたえてよ。ヘリオス……」

ヘリオスの指をつかむリアンの手を、自らの手で包み込むシエル。

いつしか、大粒の涙が頬を伝っておった。


そんな中、ルナは四人の娘を順番にヘリオスのそばに寝かせておった。


「この子はエイアよ。この子はテロス。この子はプティ。この子はケイ。四人姉妹なのよ。あなたが名付けたのだからわかるわよね? もう大変なんだから。早く帰って来て面倒を見てあげて。この子たちにも精霊が祝福してくれてるの。だから、あなたから、精霊たちとのことを教えてあげてほしいの」

それぞれの娘たちが、ヘリオスの体に触っておる。


エイアはヘリオスの髪の毛を。

テロスは左手の親指を。

プティはヘリオスの左足を。

ケイはヘリオスの右足を。

リアンはヘリオスの右手の親指を持ったまま、寝かされておる。


その時、五人の子供たちの体を、光が包み込みよった。

色々な光が五人を包んでおる。

この地に集まる精霊たちが、一斉に力を貸しておるようじゃ。


その光はやがて、注ぎ込まれるように、ヘリオスの体へと流れ込んでおった。

わしでさえ、その変化に大きな期待をしたんじゃ。

それはこの場におる人も精霊も妖精も同じじゃろう。


その時、リアンがひときわ大きな声で泣き出しおった。


それにつられたエイアがなき、テロス、プティと続き、最後にケイが泣き出しおった。


五人の泣き声は、やがて調和を持って、一つの大きな泣き声となっておる。


魂を揺さぶるような五人の泣き声は、やがて一つの調べとなっておった。

それはあたかも、ヘリオスを呼んでおるようじゃったの。


次は6/25 0時です。

ルナの子供は四姉妹です。初産ですごいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ