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果たし状(ジュアン王国)

ジュアン王国に戻ります。

「ユリウス様。やはりこのままでは軍は動かせませんな」

ルキウス司祭は目の前の報告書をよみながら感想を告げていた。

あくまで事実だけを告げている。


「あいつらの失敗がこうも足を引っ張るとはな」

摂政ユリウスは忌々しそうに床を蹴っていた。


「済んだことは仕方ありますまい。それよりも、今はどうするかですが、エトワールの港を使って、他国より調達するにしても。使える人間がいなさすぎます」

ルキウス司祭は淡々としたものだった。


「それも済んだことだ。やむをえまい」

皮肉に聞こえたのだろう。

摂政ユリウスは忌々しそうに、その言葉を吐き捨てていた。


「まあ、そうですな」

簡単に受け流しているルキウス司祭も、他に何か手がないものかと思案しているようだった。


「いずれにせよ、奴の方からは仕掛けては来ないだろう。ここにきて物資に余裕があるのは、戦乱のないアウグスト王国とイエール共和国だな。アウグスト王国との道が閉ざされている以上、忌々しいが、イエール共和国に打診するしかあるまいよ。足元みられるだろうが、背に腹は代えられないと言うしな……」

歩きながら、交渉する人物を考えているのだろう。

さっきからせわしないことだった。


「それについては、お任せください」

いつのまにか現れていたブスタが、自ら名乗りを上げていた。


「ようやく本性をだしたな、ブスタ。お前で何とかなるのか?」

皮肉めいた口調で、ブスタに話しかけている。


「必ずやご満足いただけるとか思います。すでに出発していると聞いています」

ブスタは特に気にせずに、自分の仕事を報告していた。


「ふっ。ならばお前の飼い主にせいぜい感謝しておこう。ああ、お前たちは金で解決だったな。安心しろ、お前たちへの謝礼は必ずジュアンの王家が責任を持つだろう」

どこか見下したような笑顔だったが、その顔はブスタを見ていなかった。


「ははっ」

一向に気にしない様子のブスタは、その場でかしこまっている。


それは、ほんの一瞬の出来事だった。

風を切り裂くような一筋の矢が、摂政ユリウスの左肩に突き刺さる勢いで迫っていた。

それを難なく受け止めるユリウス。


遅れてブスタは距離をとっていた。


その左手には、黄金の矢が握られており、その矢の先端には手紙のような物がつけられていた。


「矢文とはな……」

表情を変えることなく、矢に刺さった手紙をとり、無造作に矢を捨てている。

おもむろに手紙を開き、中を確認していた。


驚きの表情。

真剣なまなざし。

そして、楽しそうに声を上げて摂政ユリウスが笑っていた。


「これは愉快なことだ。ルキウス。私は少し出かける用事が出来た。後のことはお前とブスタでやっておいてくれ。どのみち、しばらくは待ちだ。その間の余興となるだろう」

ルキウス司祭に手紙を投げて、玉座の間からでていくユリウス。

その顔は、本当に楽しそうだった。


受け取ったルキウス司祭は、真剣にその手紙を読んでいた。


「一体、何ですか……?」

ルキウス司祭に近づきながら、その顔を覗き込むように尋ねるブスタ。

状況が呑み込めずに、少し戸惑いを隠しきれないようだった。


「余興ですな。我々はなすべきことをやっておきましょう。ところで、イエールの荷は本当にエトワールに来るのでしょうな?」

ルキウス司祭は手紙をしまいながら、ブスタに確認していた。


「ルキウス様も人が悪い。出港したとの報告をうけていますよ。もう間もなく、吉報がもたらされるでしょうな」

ブスタは簡単に告げていた。


「では、ナルセス議長によろしくお伝えください。私は、荷物さえ受け取れれば、それ以上は何も申し上げません。荷物さえ届けば」

ルキウス司祭はブスタをまっすぐに見ながら、そう告げていた。


「……」

無言のブスタは恭しく一礼すると、その場から立ち去っていた。


「余興ですか……。しかし、これこそが真の演目ではないのですか?」

ルキウス司祭は再び手紙を出して、もう一度文面をみていた。


「決闘とは過激ですな、女王陛下」

ルキウスの小さな呟きを聞く者は、この玉座の間にはいなかった。


摂政ユリウスを呼び出したのは、アポロンの矢でした。

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