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羽虫の音(イングラム帝国)

イングラム帝国のお話。

旧メルツ王国領の総督、ガラハッドは領内の統治を速やかに進行していました。

「思った以上だ。やはり、ここは資源が埋もれている」

ガラハッドは様々な報告に満足そうに頷いていた。

メルツ王国の玉座の間。

その玉座の下に屈強な騎士が腕組みをしている。

その前で報告書を読み上げる男。

その後ろには、二種類の服装の男女が跪いていた。

イングラム帝国の紋章をつけているものとそうでないもの。

前列にはイングラム帝国の紋章をつけているものが並び、後列にはつけてないものが控えている。


「やはりあの方の見る目は正しい」

ガラハッドの満足そうな顔は、その心情を表しているのだろう。

しかし、玉座の間は緊張感に包まれていた。

ガラハットの前にいる全員が、顔をこわばらせている。


「国内の治安はどうなっている。財政、流通、ともに問題はないか、報告せよ」

ガラハッドは残りの文官に尋ねていた。


「財政の方は国庫にある程度たくわえがございます。イエールの商人どもの借款がなくなることを考えると、財政は十分かと」

財務担当の文官はメルツ王国の借款は踏み倒すつもりだった。


「それで、流通はどうなっている」

ガラハッドは財政と直接関係の深い方を先に聞くようだった。


「一時の混乱を思いますと、今は普段とかわらないと考えます。各地に帝国の兵を派兵していただいたのと、敗残兵をしっかり保護していたただきましたので、治安が大きく乱れなかったことが大きいです。今は以前よりも、人、物、共に活性化しております。特に帝国方面には鉄関連資材の輸送が多くなり、それにつれて市場も活性化しております」

流通担当の文官は、うれしそうにそう報告していた。



「治安の方は以前よりもいいとのことです」

治安担当は先に流通関係の文官に報告されていたので、自身は簡潔に答えたようだった。



「ふむ、それでは問題はないな。イエールの借款はそのようにしろ、わが国には関係のないものだ」

ガラハッドは踏み倒し案を支持していた。


「そのイエールから閣下にお目通りを求める人物がやってきております」

財政担当の文官は静かにそう話していた。

その顔からは疲れた様子が見て取れた。


「その顔、よほどしつこいようだな。仕方がない、通せ」

ガラハッドは文官に指示していた。


文官は自分のことを気遣ってくれたガラハッドに一礼すると、控えの間に連絡を入れ、一人の女を連れてきた。


「お目通りをありがとうございます、総督閣下。わたしはガローナ。イエール共和国の商人です」

現れたのは、ガローナだった。


「その商人が、この時期に私に面会をしつこく申し込んだ理由はなんだ。借款の件ならば、ブロッケン平野にいるベルセルクにでも頼むんだな。ここは今、イングラム帝国領だ」

ガラハッドはガローナを睨みつけている。

しかし、ガローナは平然とその視線を受け流していた。


「それは重々承知しております。我が国でも文句を言いたい人間はございましょうが、時代を見ることができなかった愚か者たちです。わたしはイングラム帝国の未来にこそ、投資したいのです」

恭しく頭を下げるガローナ。

それを見つめるガラハットの眼に光がともる。


「ほう、投資とな。実際には何をしてくれるのだ?」

ガラハッドは、一歩ガローナに歩み寄っていた。

恐らくまだ、ガラハットの間合いの外。

ガローナはそう考えているのだろう。

身動きせずに、その場でゆっくりと話しだした。


「この国の鉄鉱脈はすでに調査済みです。その情報とブロッケン平野の戦いの真相。特に、ローランの最後についてお耳に入れ……」

得意そうに顔をあげる、ガローナ。

しかし、ガローナの言葉は最後まで語られることはなかった。

精一杯自分をアピールしているガローナは、自身に起きたことすら認識できていないのだろう。

その表情は、まだ得意そうにしていた。


ゆっくりとガローナに近づいたガラハッドは、目にもとまらぬ速さで、ガローナの首を刎ねたあと、くるりと踵を返して元の場所に立っていた。

周囲のざわつきに、ガラハッドは大声を出した。


「我が国を利用しようとする羽虫がいたわ! ブンブンうるさいので切り落としたわ!」

死体を片づけさせながら、落ち着かない様子の文官を見回していた。


その様子に、ガラハッドは厳かに宣言した。


「きけ! 甘い汁には虫がよってくる。その虫が我が国に寄生という卵を産み付けるようなら、即刻処断する。それは、お前たちも同じことだ!」

ガラハッドは不正を、腐敗を許さない方針を告げていた。


「この時期に近づいてくるイエールの情報通は、所詮私を利用しようとするものだ。我が国にとって、小うるさいだけだ」

玉座に向かって一礼するガラハット。

文官たちが、その様子をしっかりと見ていた。


「さて、これでも私を籠絡するかな、議長。いや、イエールの死の商人か」

ガラハッドは笑いを押し殺していた。

そして、勢いよく片手で指さし、命令していた。

その指し示すはるか先には、イエール共和国がある。


「イエールの商人どもをつれてこい。こちらからも仕掛けてやろう」

勇ましく、宣言したその声は、戦場にあるかの如く、聞く者の心を奮い立たせていた。


イングラム帝国軍人にとって、特に武人であるガラハッドにとっては、イエール共和国のあり方はもともと好きではありませんでした。

それが自分に降りかかってきたのを自覚した瞬間、決断を下していた。

そして、イエール商人をあつめ、ガラハッドは何かを行うようでした。

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