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それぞれの思惑(ジュアン王国)

ユノを強奪された摂政ユリウスは怒りのため、周囲に当たり散らしていました。

「なんだ、あれは!」

摂政ユリウスは荒れていた。


「お静まり下さい、ユリウス様。まさかあのタイミングでポンペイウスかとも思いましたが、あちらも、あっけにとられておりました。参謀と思われる者も同様です」

ルキウス司祭は静かにそう告げていた。


「だったら誰の差し金だ、いってみろ!」

しかし、一層怒りをあらわにする摂政ユリウスに対して、ルキウス司祭はゆっくりと頭を横に振っていた。


「そこまではわかりません。しかし、この事態、当初の予定通りに進めてまいります。多少強引ではありますが、そうしなければ何も解決しないどころか、下手すると、継承権で向こうが有利になります」

ルキウス司祭は女王ユノ不在が長引けば、王位継承権で次の来ているポンペイウスの方が有利なることを告げている。


「しかし、ユリウス様がご結婚されていれば、話は変わります。見つかるまでに代理ということで引き延ばせますので。そして、その間に画策もできます」

ルキウス司祭は静かに頭を下げていた。


「替え玉がみつかったのか?」

摂政ユリウスは機嫌を直したようだった。


「ただ少々教育が必要で、それなりに時間がかかります」

ルキウス司祭は自信を持っていた。


「ならば、急いで宣言だ。その娘、多少粗野でも止むを得まい。子をなしたら病死でよかろう」

摂政ユリウスは冷淡に告げていた。


「ユリウス様の御心のままに」

ルキウス司祭は答えなかった。


「ユノが見つかるかどうかが先だしな。とりあえず、切り札の周囲はきれいにしておけ」

摂政ユリウスの声は一層冷ややかだった。


「……仰せのままに」

ルキウス司祭はやや疲れた表情を無理やり引き締めて答えていた。



翌日。

ユノ女王の帰還の報が王都に告げられていた。

国民の前に姿を現さないのは、心労で臥せっているためと公表されていた。


そして、その数日後、王都に各地の動向が報告されていた。


まず、副都カスカードの領主ポンペイウス・ルビコン公爵が、摂政ユリウス・カエサルを国家転覆の犯罪者として処断するための兵をあげたという知らせがあった。


そして同時に二つの報告があった。

ラパンの領主クルス・スホノルム、港湾都市クロンの領主カトゥルス・カトがポンペイウス公爵に同調し、それぞれコリーヌとスリーズに向けて進軍したとの報告だった。


これを受けて、摂政ユリウスは正式にポンペイウス・ルビコン公爵を反逆者として指名し、軍を発動することを明言していた。


しかし、不思議なことに王都からの討伐軍はでず、副都からも動きはなかった。

ただ、コリーヌとスリーズの両都市は包囲されようとしていた。



***



自力で封印を解き放った私は、誇らしげに助けに来たことを告げるアポロンの頭を押さえつけて、アイツの言う正座の形で座らせていた。


これで、この顔の、この姿のこの姿勢を見るのは二回目になるわね……。

アイツは自分でそうした分、申し訳なさそうだったけど、この子は無理やりそうさせた分、何が何だかわからないような感じだった。


「で、君はこの状態をどうまとめるつもりなのかな……?」

いらだちを隠しきれず、目の前のアポロンを問い詰める。


「どうって言われても……」

アポロンはそのあとの言葉がつながらないようだった。


「教えてあげましょうか?」

目を細めて、上からにらみつけていた。

そして、精一杯、アポロンのものまねを試みた。


「俺、考えてなかったよ」

恥ずかしさが、こみ上げてくる。

でも、この怒りには太刀打ちできない。


そしてその怒りに、追い打ちをかけるバカがいた。


「似てねー。ねー。ボス」

陽気にわらうヒアキントスの頭を押さえつけて、アポロンの隣に正座させた。


「あれ?」

動けなくなったヒアキントスは、混乱しているようだった。


「ぷぷ、おバカなヒアキントス。精霊呪縛の効果です」

気楽に笑うダプネをにらみつける。


「そうだ、用事を思い出しました。とても大切な用事でした。こうしてはいられません」

そそくさとこの場から消えるダプネ。

知っていると思うけど、これでアイツには伝わるだろう。


「どう? 何か間違っているかしら?」

もう一度聞いてみた。


「……間違っていません」

アポロンはそう言ってうなだれていた。


「で、君は何をしたか、わかってるのよね?」

今さ何を言っても始まらない。

すでに違う動きを見せているに違いない。

それでも、一言言っておきたかった。


「ユノを助けに来た」

アポロンは私の眼を見て、真剣に答えていた。


そりゃそうよね。

でも、そんなことを真剣に言えるくらい、この子はまっすぐに目の前のことを見ている。

遠くを見渡すアイツとは違う。

ただ、目の前のことに一生懸命になるのがこの子なのよね……。


それでも、時と場合による。


「で、助けられたはずの私は、かなり困ってるんだけど、どう助けてくれるのかしら。せっかく用意された、アイツの台本が台無しなんですけど?」

厭味ったらしくいってみた。


「ユノ、君もオヤジの作戦を知ってるのか?」

アポロンは驚きを隠そうともしなかった。

確かに私はアイツから具体的なことは聞いていない。

でも、そんなことも考えれないと思っているのかしら?

この子の中の私って、囚われのお姫様のままなのかしら?


「直接聞いたわけじゃないわ。ただ、こっちで聞くことをつなげて考えると、そう見えてくることがあるの。アイツの考えることぐらいお見通しよ」

すべてわかるわけがない。

虚勢を張ってみたけど、どうやらアポロンは信じたみたい……。


「コリーヌとスリーズのことは?」

アポロンは自分の知っていることを聞いているのだろう。

無自覚に、私を試しているということか。


「物資を途中で強奪するんでしょ? その場所も方法も特定されていた」

結果を知っているから、その方法くらいは誰でも考える。

後からいう事など、誰でもできる事なんだけどね……。

ただ、おそらくこの子は私の目と耳がふさがれていると思っている。

封印を破った時に、助けに来たことを改めて伝えてきたことを考えると、そう考えているに違いない。


「すげー。あってるよ」

アポロンは驚いていた。

違う意味で、正直私も驚いた。

この子の中の私を、少し成長させないといけない。


「あなたが知っているのはそれだけ?」

どこまでを理解しているのか、逆に質問してみることにした。


たぶんこの子は、私が囚われているままということに、逆上して飛び出してきている。

そうなると、話しも途中で投げ出してきたに違いない。

この子の認識が、何処で止まっているのかが問題になってくるわね。


「ああ、ジュアン王国の状態は知っている。ユノが捕らえられたところまでは、ちゃんと聞いていたさ。首飾りのことも、信じられなかったけど、なんとか聞いた。ただ、その後飛び出してきた。あまりに腹が立ったんで」

頭が痛い……。

思わず自分の頭に手を当ててしまう。

ジュアン王国の状態を知っていて、あんな真似をしたんだ……。

軽挙と言えばそうよね。


でもちょっとまって……。

首飾りのことは聞いたって言ったわよね……。

そこを飲み込んでおいて、腹が立った……?


「そうなの……。で、どうして君はそんなに怒ったのかな?」

ただ、その理由を聞きたかっただけだけど、アポロンは言うのをためらうかのようにうつむいてしまった。


「ヒアキントス。あなたは何か知っている?」

相変わらず、何とか動こうと頑張っているヒアキントスに質問してみる。


「俺も知らないよ。ボスがシエルさんのお腹をさすっているところで怒ったくらいかな?」

そう言いながらも、頑張って動こうとするヒアキントス。

でも、頑張っても無駄なのよね。

君くらいだと、私は動きを制限できるんだよ。


しかし、気になる……。

お腹をさすっていた?


なに?

その描写。


「シエルさんは何か言ってなかった? その時の状況も詳しく、見たままでいいから話してちょうだい」

もう少し聞かなければならない。

私の中で答えが見えかかっている。

その答えを、見てはいけないという声も聞こえる。

でも、私はそれを見ずにはいられなかった。


ヒアキントスの場合、自分が見ていることの重大さに気が付いていないこともある。

できるだけ、詳しく聞かないといけない気がした。


「ボスが、王にくみかかった時に、シエルさんがやってきて、『旦那様になんとか』とかいってボスの腕を凍らせた。その後シエルさんがお腹をさすっているのを見て、ボスは王を殴りつけていた。王はボスに殴られ続けたよ。おれ、どうしたらいいかわかんなくて……」

やはり、ヒアキントスは見たままを話しているほうがいいようね。

そして、気になる点は四つ。


旦那様?

お腹をさする?

殴る?

殴られ続ける?


そこから考えられる答え。


まさかね……。

まさかそんなはず……、ないわよね。


「君、アイツから言葉で聞いたの?」

思わず、アポロンをにらみつけていた。


「いや、オヤジは何も言わなかったよ……。何も言わずに……、俺を見ていた……」

アポロンは自分の両手を見ながら、そうつぶやいていた。

今になって、自分が早合点したかもしれない可能性を考えたのかしら……。


でも、何も言わなかったことが怖いのよ……。


アイツならアポロンが何を勘違いしたかもわかっていたはず。

それでも、それでも何も言わなかったということは、事実として認めた?


ちょっとまって、ちょっとまって……。


考えがぐるぐる回っている。

時期はどうなっている?

シエルさんの勘違い?

いや、それならば何か言うはず。

言わなかったのは確定じゃないから?

言う必要がないから?


あれ?

一体どうなってるの?

アイツ何も言わなかったことが、私にとっての不安以外の何者でもない。


今すぐ帰って問い詰める?


いや、いや、それはありえない。

そもそもどこにいるのかわからない。


あくまで予測だけど……。

アイツはこの国に潜伏しているはず。


あー、もう!

色々練り直さないといけないのに……。


私の心は千々に乱れていた。


膝をおり、両手をついている自分に気が付いた。

先ほどまでの勢いをすべて地に落として考え込んでいる。


一体、何をどうしたらいいのよ!

叫びたくても、叫べない。

人形でいた頃の癖がついてしまっている。


「大丈夫か?」

相変わらず正座をしているアポロンが、心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫じゃない!」

それに対しては声を荒げていた。


何をどうすればいいのよ……。


この国のこと、アイツのこと、何から手を付けていいかわからなかった。


「俺の早合点のせいで申し訳ない」

アポロンは自分の責任だと思い込んだようだった。


確かにそう。

しかし、整理がついていないのは私自身の問題だわ。

申し訳なさそうにしているアポロンの顔。

それは、あの時のアイツにそっくりだった。


それを見た途端、私の気分は落ち着いていた。


まずは、この国の状態を改善する。

それが私とアイツの間にある暗黙の了解。


そして、アイツは私に約束した。


私を助けると。


アポロンの言う、助けるは、文字通り救出する意味しかない。

アイツの言う、助けるには、たぶんいろんな意味が含まれているはず。


しかもアイツの場合は、私の状況そのものについて話している可能性がある。

そう思うと、私がここで投げ出すわけにはいかなかった。


「アポロン。君、ユリウス兄さまに勝てると思う?」

私は一応聞いてみた。

この子は強い。

それは確かなこと。

でも、この二人のどちらが強いかとかまで、私にはわからない。


「やってみないとわからないよ。これでも俺は強い方だと思うけど、相手の力量が分からないから、判断できない」

アポロンは、意外とまじめに答えてきた。


でも、それだったら、救出に出てきたこと自体無茶すぎない?

ユリウス兄さまが邪魔しないとわかってたの?

そんなはずはないわよね……。


本当に、頭が痛い……。


でも、ここで指をくわえてみているわけにもいかない。

王都から討伐軍がでたのでは、街の人たちにも犠牲が出る。


私たちは、もっとも犠牲の少ない道を選んでいたはずだ。

アポロンのせいで台無しかもしれないけど、起こってしまった以上、これ以上責める気にもなれなかった。


少なくとも、私の身を心配してくれていた。

少なくとも、私のことを考えて怒ってくれていた。


ここで私が許さなければ、アポロンは次どうしていいか分からなくなるだろう。

私自身も何もかも投げ出すわけにはいかない。


アイツの取る道は知っている。

それだけで、私が歩けることも知っている。


そうすることで、アイツに守られるだけじゃないという証明にもなる。


しかし、この状況。

本当に、どうすればいい?


もっとも犠牲を少なくするには、ユリウス兄さまを倒す以外に道はない。

もともとそういう段取りだ。

しかし、その主役のアイツはここにはいない。


アイツのことだ、他にも同時にやらなければならないこともあるのだろう。

本当の意味で解決するために、手を尽くしているに違いなかった。


だとすると、私がぐずぐずしているわけにはいかない。

少なくとも、予想通りに進めていれば、アイツの方が何とかするだろう。

いかにもアイツ頼みだけど、少なくともアイツはアポロンを行かせた時点で、すでに何かしらの修正をしているはず。

アイツだって、予想できないこともある。

そのたびに、修正をしているんだ。


そう考えると、なんだか自信がわいていた。


「お兄さまと戦います」

立ち上がり、宣言する。

私は私のできることをしていくだけだ。


「じゃあ、俺も」

そう言って立ち上るアポロン。

少し、情けなく立ち上がったのには見なかったことにしよう。

ヒアキントスの呪縛をとき、立ち上がらせる。

いつの間にか帰ってきたダプネも含めて、改めて宣言する。


「じゃあ、いくわよ!」

背中を任せられる三人がいる。

なら、私は前を向いて歩こう。


「ああ、いこう」

アポロンは私に追いついて、私の隣で歩いている。

これはこれで、ここちよい。


「オッケー、ボス」

「イエス、マスター」

それに応じる二人の声もまた、頼もしかった。


アポロンとユノは協力してユリウスと戦うことを決意しました。

その時、ヘリオスはというと・・・。

次回はすこし、イエール共和国の話になります。

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