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反乱(ジュアン王国)

ジュアン王国に動きがありました。

女王就任後、なりを潜めていた勢力でしたが、ユリウスの摂政就任に対して反対活動を展開し始めています。

密かに女王解放を呼びかけ、各地の勢力を味方にしようとしております。


副都はもともと王弟が治めていましたが、国王と共にあの時に殺されていました。後を継いだのはユノよりも1歳年下のポンペイウス・ルビコンでした。

「叛徒どもの状況はどうなっている」

厳しい口調……。

ユリウス兄さまも必死なのね。


アプリル王国とメルツ王国の争いは、アプリル王国の勝利で幕を閉じていた。

アプリル王国は、英雄を失ったとはいえ、騎士団は健在らしい。

ただ、国民は国外に避難したから、国力は落ちている。


ジュアン王国にとっては、明確な侵略者が隣にいないという点ではよかった。

でも、これで外の動きにも注意をしなければならない。

ここで内乱が起きれば、アプリル王国がそうならないとも限らないのだから……。


玉座に座らされている私は、そうやっていろんな報告を聞いて考える。

私の右斜め前には、摂政としてユリウス兄さまが立っている。


私はただのお飾りでしかない……。


何も話さないし、何も示さない。

全ての報告に対する指示は、お兄さまがされている。


摂政となった兄さまが、すべてを執り行う。

そのことは、事情を知らないものにとっても特別におかしなことではない。


時折、兄さまが私を見る。

私は黙って頷く。


それが私に対して与えられた命令のひとつ。

物言わぬ人形が示す、同意の証。

ただそれだけで、国として機能している。


思考の沼に陥りそうな私を、騎士の報告がこの世界に呼び戻していた。


「直接は何も動いておりません。ルビコン殿下自身は、何も宣言されておりません。ただ、不穏な輩たちは、副都カスケードを中心として勢力拡大しつつあります。ラパンの領主クルス・スホノルム様もポンペイウス・ルビコン公爵殿下に対して公式に支持を表明したようです。これを受けて、港湾都市クロンの領主カトゥルス・カトもルビコン公爵殿下に味方すると宣言したようです。なお、港湾都市エトワールはこちらを支持しておりますが、港湾都市クレは早々に中立宣言しております」

目の前の騎士は現状報告をしているつもりでしょう。

でも、それは最初の動きでそう予想されているのよね。


けど、これで王国の北半分が従弟のポンペイウスの勢力圏になったことが公になっている。

しかし、あと一つ北部には大きな街が残っている。


コリーヌはあれから、どうしたのかしら。

あそこの領主はコッス・ティア伯爵。

気骨のある人物ということぐらいしか知らないけど、あそこはアウグスト王国との国境の街。

だから、それなりの軍事力を持っている。

気になると言えば、アプリル王国との国境の街スリーズもそうね。


でも、不可侵条約を先に結んでいるのが、ある意味災いよね。

アウグスト王国に内乱の介入をさせないということは、援軍も頼めないということ。

コリーヌは、これで孤立しているのと同じなのよね……。


大まかな地図と状況を頭の中で整理する。

まだ、大きくは動いてないけど、状況的に好ましいものではない。


「それで、コリーヌとスリーズはどうなのだ?」

ルキウス司祭が騎士に尋ねていた。


この人は有能な人に違いない。

私の欲しい情報は、この人が催促してくれるから与えられているようなものだわ。

でも、この人ははっきり言って何考えているのかわからない人だ。


甘い汁を吸いたいと公言してはばからないのに、そういうそぶりは全くみせない。

むしろ、本当にこの人にとって利益があるのか疑わしい行動をとることもある。

ただ一つ言えることは、お兄さまに王になってほしいということかしらね。


ルキウス司祭のことを考えようとする私を、騎士の言葉がさえぎっていた。


「兵力は十分だそうです。ただ、今は、食料備蓄が心もとないと思われます。長期間、包囲されれば、耐えられないようです」

騎士はそう報告していた。


「早急に物質転送マテリヤルトランスファーで送るんだ」

お兄さまは、両都市にくぎ付けにしている間に、副都を攻略するつもりだろう。

そのためには、可能な限り、両都市が粘ってくれなければならない。


「それが、得体のしれない妨害がはられており、両都市に魔法的な輸送ができません」

騎士の報告は、ルキウス司祭に軽い衝撃を与えていたようだった。


「なんと、まだ明らかな軍事行動があるわけでもないのにか?」


まだ、軍勢で街を囲んでいるわけでもない。

囲まれていれば、囲んでいる人たちが魔力障壁を展開して輸送妨害できるけど、そうでない場合は非常に困難だ。

魔道具を設置したとしても、都市の側から、探知の魔法で見つけて破壊されるはず。

そうすれば、効果を発揮しない。


本当に、見つけられないの?

探知の魔法すら妨害されているのかしら……。

でも、人手を繰り出せば……。

そんなこと、誰でも考えるわよね。

それでも見つからないんだ……。


よほど巧妙に設置されているのでしょうね……。

そもそも宮廷魔術師を阻害するなど、生半可な実力では無理だわ。


魔力分散マナ・ディプレッションをかけるにしても、発動する王都にかけなければ意味はない。


一体何がどうなっているのだろう。

仕掛けた人物のことは分かっても、その手段が分からない。

はっきり言って、くやしいわね……。


でも、今の状態と状況ではどうすることもできないのよね……。

ただ、やられっぱなしというのは、やっぱりくやしい。

敵はアイツじゃないし、アイツは私のために、この国のためにしてくれている事。

でも、報告として聞いている私は、話せないだけに気持ちのはけ口がないのよね。

報告を聞いても何もできない。

何もしてはいけないのに、報告は聞かされる。

聞くと、考えてしまう……。


ため息すらつけない自分に、より鬱葱とした気分になってきた。


「魔法的に無理なら、人的にやればよかろう。少なくともスリーズはここから近い。問題はコリーヌだが……。仕方がない。妖精の森を通っていけ。旧街道があるだろう」

お兄さまはあの森にある街道を利用しようとしている。


現在、王都からコリーヌに行くには、副都カスカードを通るのが一般的になっている。

しかし以前は違ったらしい。


たしか、カスカードとの間にある山、そこに住む飛竜が退治されるまでは、そこは安全な道ではなかった。

だから昔は、多少困難でも森に街道を作って、それで行き来していた。

でも、それもずいぶん昔のことだ。

私が以前とらわれていた塔も、森の中の道を安全に進むための見張りの塔だったらしい。


「ブルトゥス・アルビヌスとデキムス・ユニウスを呼べ」

お兄さまの決断は早かった。



しばらくして、私の前に二人の騎士がやってきた。

二人は私に跪き、頭をさげている。


「勅命である」

ルキウス司祭が声を張り上げていた。


「ブルトゥス・アルビヌス、そなたにスリーズへの補給任務を言い渡す。速やかに任務を全うされたし」

「デキムス・ユニウス、そなたにコリーヌへの補給任務を言い渡す。速やかに任務を全うされたし」


おおざっぱな内容だが、王の命令とはこういうものらしい。

細かいところはその下のものが考える。

今はお兄様がその役目も担っている。


「勅命謹んでお受けいたします」

王からの直接的な命令は、類稀なる名誉とされている。

それだけこの補給が重要だということを二人に示したかったのだと思う。

ある程度の困難も予想されるので、特にそう思ったに違いなかった。


でも、明らかに人選ミスだわ……。

二人の顔を見てそう思う。

二人とも、重要な任務とは考えていないような顔つきだった。

特にブルトゥスの私に向ける視線は、王に向けるものではない。


いやらしい……。

でも、嫌悪感に包まれても、今はどうすることもできない……。

お兄さまも人を見る目を養った方がいい。

心底そう思ってしまった。


「両名に重ねて申し渡す。この任務は王国の浮沈にかかわるものだ、ゆめゆめそのことを忘れるな」

お兄さまの口調は厳しかった。

やはりお兄さまも、少し危機感を持ったのかしら?


「ユリウス将軍、いえ閣下。見事この役目を果たして見せます。もし、役目を果たせなければ、我ら両名いかなる処罰をも受ける次第です」

ブルトゥスは勇んでそう言い放っている。


「もとより失敗などありえませんが、このデキムスに落ち度あらば、いかようにも処分ください」

デキムスは静かにその自信を表していた。


「よし、いけ。そこまで言うのだ。その言葉忘れるな。朗報を期待する」

お兄さまは二人に厳命していた。


本当に、大丈夫?


二人の表情を見て思う。

私なら任せないな……。

でも、私の意見は必要とはされていない。


私はただ、座っているだけ……。

でも、見ることも、聞くことも、考えることもできる。

だから出来ることを、出来るだけするしかないんだ。



「ルキウス。妖精女王の件はどうなった」

お兄さまはルキウス司祭を見下ろしている。

それは、お兄さまの気持ちを表しているのかしらね……。


でも、もうそんな話になっているんだ……。

私が即位してまだ間もないのに、気の早いこと。


「それが、まことに申しあげにくいのですが……」

お兄さまの視線を受け流すように、頭を下げたまま動かない。

こんなルキウス司祭は珍しいわ……。

しかも、歯切れの悪い言い方だった。


「珍しいな、お前がそんな言い方をするとは」

お兄さまも同じことを思ったみたいね。


「かの女王に使いを出しましたところ、ヘリオス温泉なるものに出かけているので不在とのことでした……」


しばらくの沈黙。

その長さが、全てを物語っている。


体の自由がきいたなら、おそらくお腹が痛くなるまで笑っているに違いないわね。

出来ない分、冷静に二人の様子を見る事が出来た。

これは、これでおかしかった。


アイツは、こんなところに手をまわしていた。


地味な仕事だけど、婚姻に関して一番重要な点を抑えている。

ジュアン王家には、特に国王の婚姻には必ず、妖精女王を結婚の承認者として招聘する習わしがある。

妖精女王不在であれば、王家の人間は婚姻そのものができないことになっている。

本人たちに危害を加えることなく、結婚を妨害する手段としては、最高の物だわ……。


実にアイツらしいやりかたね。


「どこだ、そこは? しらみつぶしに探せ! 探して連れてこい!」

お兄さまはあきれと怒りが同居しているようね。


それはそうだろう。

温泉に行っているからいない。

お兄さまにとっては、小ばかにされているようなものかもしれない。


しかし、お兄様……。

どれだけ探しても、見つからないわよ。


古今東西のあらゆる古文書にすら記されていない場所。


ヘリオス温泉。


私も聞いただけだけど、アイツが作り出した空間ですって……。

そこに匿われているかぎり、だれも手出しはできないでしょうね。


まあ、アイツを倒せば可能だろうけれど……。

そんなこと、出来ると思わないけど……。


この世界で、おそらくもっとも安全な場所。

アイツの腕の中。

その場所を知っている私は、アイツを倒せるなんて想像もできない。


いるとすれば、龍王とか?

自分で言ってておかしく思うけど、なんだか間違っていない気がしていた。


補給はうまくいくのでしょうか?

スリーズはアウグスト王国王都フリューリンクと街道でつながっており、そのままアプリル王国王都リーゲにもつながる重要拠点です。そしてコリーヌはアウグスト王国のヘルブスト公爵領ピルツとつながっています。どちらもアウグスト王国とつながっているのです。

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