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ヘリオス先生3

妖精女王と話した後、しばらく、自宅に滞在していたヘリオスは、魔道具を作成したり、各国の動向を整理していました。

そして、今デルバー先生と今後の打ち合わせにやってきました。

「やはりそうするのかの。正直わしはあまり気のりせんのだがの」

デルバー先生は表情を曇らせていた。

言葉通り、気乗りしていないのだろう。


「それでも必要なことです。この戦いに巻き込まれる人のことを思えば、僕がどう思われても構いませんよ。あの国は、世論を動かさないといけませんから」

まあ、あまり気持ちのいいものじゃないけど、仕方がない。

まず先に、議長の政治生命を断たないことには始まらない。

それに、そこに関連しているものをつなげて裁くのは、あくまであの国の人たちだ。


「おぬしはそう言うが、おぬしの周りが悲しむのでな。最近、特にルナが心配しておるぞ。あの娘、精霊魔術師としてかなりの実力を持ってきておるようじゃから、いろいろ見えるものが増えているのかもしれん」

デルバー先生は微妙な顔つきだった。

それは、ルナが一般的な精霊ではなく、特殊な精霊とかかわりを持っていることを言っているのだろう。


「ええ、つい先日も僕が夢を見る場所にまでやってきたので、つい怒ってしまいました」

あれはびっくりした。

まさか、あの子があんな行動をとるなんて思ってもみなかった。

デルバー先生は何が起きたのか興味を示している。


詳しくは、できることなら話したくはない。

そういう雰囲気を醸し出したつもりだけど、デルバー先生には通じないだろうな……。


本当に、知るという一点において、このじいさんは厄介な性分になる。


「あの子は僕がどこかに行ってしまうと思っているようです。だから、僕をつなぎとめようと必死になっています」

とりあえず、そう思っているのだろう。

でも、ルナがああいう行動をとるには、何か他に理由があるか……。

改めて考えてみると、行動が唐突すぎる。

新作魔道具作成と情報整理で、しばらく部屋にいたからよくわかる。


「それは、ユノとかそういう問題ではあるまい? まさかとは思うが、何か見たのかの?」

ほんの一瞬、デルバー先生の左目が光った気がした。



「時の掲示ですか? まさか……。でも、そうかもしれませんね。あの子は精霊の中でも、ちょっと特殊な精霊と接触をもっていますから……。実力的にもこんな短期間で、よくもまああれだけ伸びたものです。もとから素養があったのかもしれませんが、すでにテリアよりもはるか高みにいるようです。ひょっとするとシエルさんと同等かもしれませんね」

客観的にみて、ルナの成長速度は異常だった。

ずっと俺の近くにいたからかもしれない。

それとも、ミミルの指輪が作用しているのだろうか……。


「なんと!? この短期間に上位精霊とな?」

デルバー先生の顔には、信じられないと書いてある。

まあ、普通に考えるとそうだけどね……。


「まあ、僕と一緒にいる時間が一番長い人間ですから、上位精霊とも会っていますし、その調和もおそらく。それと、あの指輪も後押ししているのかもしれませんが……」

一応考えられることは伝えておこう。


けど、それ以外は考えにくい。

それはそうとして、時の掲示か……。

あの子が何を見たかだが、その行動を考えると……。

やっぱり、それしかないだろうな……。



「どうしたのかの?」

覗き込むように、俺を見ている。

感がいいというのか、何と言おうか……。


「いえ、あの子が時の掲示を得たと仮定して、その後の行動を考えてました。あれは、これから僕の身に起こることを阻止しようとする行動だった。それを踏まえて考えると、僕の身に起こる未来を予想しました」

たぶんそれ以外には考えられない。


「なんと、それでおぬしはそこに至ったのか?」

デルバー先生の眼が怪しい光を見せていた。

いくら真実の眼と雖も、これから起こる未来は分からない。

しかし、すでに起きたことの真実は見抜くことができる。

たぶんその目は、俺の言葉を真実だと見ているはずだ。


「ええ、たぶん僕は死にます」

正確には、この世界からの消滅だろう。


いや、この世界からはじかれるか、飛び出すのかのどちらかだろう。

だから、ルナは俺をつなぎとめようとした。

はじかれるのなら、父親と言う存在でと考えたのかもしれない。

飛び出すのなら、より濃いつながりを作ろうとしたのかもしれない。

いずれにせよ、この世界に生きる人との明確なつながりが、ヘリオスとしての俺の存在を強固にすることは間違いない。

精霊王ではなく、ヘリオスの存在を選んだのは、とっさに俺はそういう対応をするという事か……。


時の掲示は、それを見せた人間に選択権を与える。

未来はそれによる変化を許容している。

しかし、推測とはいえ、啓示を与えられていない俺が、それを知ったらどうなる?


全く想像できなかった。


「そうか……。なんじゃと!?」

俺の口調にだまされてたのだろう、デルバー先生はその意味をとらえきれていなかった。

まあ、精霊王でもある俺が死ぬなんて、さすがの先生でも思わないのだろう。


でもこれで納得できた。

いくつもの疑問があった。

それぞれ、異なる答えと理由を考えていたけど、実は一本の線をもってつながっていた。


「だから、君たちも黙認したんだね?」

次々と、俺の周りに精霊たちが現れてきた。

でも、ミヤだけは出てきていない。


「僕は不思議だったんだ。なぜ君たちがルナの行為を許したのか。なぜ、ミヤがあんなに落ち込んでいるのか。ようやく理解したよ。ノルン。君も知ってるね?」

いつもなら、真っ先に手を振るノルンが、今日はシルフィードの陰に隠れている。

そんなことをしたら、何か隠しているのがバレバレだ。

有無を言わさぬ口調で尋ねてみる。


「何でうちばっかり……まあ、ウチが悪いと言えば、そうかもしれへんよ……。ウチが時の精霊をよんだからな……。でも、ここにいる全員、その事知ってるで。だからルナにも知られたんや」

ノルンはばつが悪そうにしていた。

それにしても、みんな知っているという事か……。


「そうか、それ以外は何か聞いたかい?」

ノルンなら、この意味がわかるだろう。


「それ以外は見えないんだって。不確定要素が多すぎて、あの子にも見えないみたい。だから、この事を回避することもできるかもしれないっていうのが時の精霊の言葉だよ」

ノルンの代わりに、シルフィードが後を続けていた。

でも、これで分かった。

時の精霊の掲示は、俺が知ることも含まれている。

だから、精霊たちは見守ったのか……。



「なるほどね。君たちの様子がおかしかったのにも納得がいったよ。どうも、妖精女王アウロラと会ってから、君たちの態度が変だったからね。特に、ミヤは今も僕に姿を見せてくれないし……」

これで、全て納得できた。

この子たちの気持ちはうれしい。

そして、俺の精神に干渉したのは、おそらくミヤなのだろう。


「僕は、その時の意識がほとんどないけど、あれはミヤの仕業だったんだ。あの子、自己嫌悪してないかい? 大丈夫かな?」

微妙な顔つきの精霊たちの顔を見て、やっぱりそうなのだと理解した。


「ベリンダ、嫌な役目を押し付けて悪いけど、ミヤに君は悪くないから出てきてくれないかと聞いてくれないかな? あの子僕が行っても、たぶん逃げちゃうから……。あと、君たちにも、ずいぶん心配をかけたようだね。ごめんね。理由を教えてくれたら……。いや、違うな……。まあ、ルナの行動はともかくとして、君たちに心配をかけたのは謝るよ」

一人一人を見ながら謝罪する。

そしてもう一度、この子たちとの出会いに感謝した。


「でも、まだ死んでないからね。僕は君たちのもとに帰ってくるために、最後の最後まであきらめないから……。約束するよ」

あがいてやる。

無様でもいい。

無理やりでもいい。

そのために、俺はこの世界にやってきたんだから。



「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい!」

ミヤがいきなりあらわれて、俺の胸に飛び込んできた。


「おかえり、ミヤ」

その小さな体を抱きしめて、ミヤの頭をなでる。


「えへへ。ヘリオス君には、『ただいま』を言ってほしいかも」

シルフィードが涙目で近寄って、顔を覗き込みながら、そう告げてきた。


「そうだね、これから先何が起こるのかわからないけど、君たちの前で、『ただいま』を言いに帰ってくると約束するよ」

泣きじゃくるミヤの頭をなでながら、全員にそう告げていた。


「まあ、ミミルはヘリオスのそばにいるらしいから、ミミルも一緒に『ただいま』を言ってあげるね」

ミミルは頭の上で寝そべりながら、楽しそうに髪の毛をむしっている。


「痛いって、ミミル。ほんとに禿ちゃうからね!」

ミミルに抗議する俺を見て、精霊たちは笑っていた。


「しゃーない。そん時はせいぜいウチが照らしたる!」

ノルンは光を頭に当ててきた。


「いや、いいから……。ていうか、困るし!」

本当に勘弁してほしい。

まだ十代だよ。

禿るのには早すぎる。


精霊たちも、デルバー先生も、一笑いに興じていた。


ミヤもつられて笑っていた。

そこには笑顔があり、その中心に俺がいる。


この輪を守る。

精霊王としてじゃない。

ヘリオスとしてでもない。

それは、この俺の意志だ。


「デルバー先生。それでお願いができてしまいました」

姿勢をただし、真剣な表情でデルバー先生を見る。

その雰囲気に当てられ、思わずデルバー先生も居住まいを正していた。


「ノイモーント伯爵家は、ルナ=フォン=オーブを嫁にもらいます」

唐突な宣言だったが、驚いているのはデルバー先生だけだった。


突然の結婚宣言の真相は?

というか、ヘリオス君、しっかりしよう。

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