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夢の世界の中で僕は  作者: あきのななぐさ
夢の世界へ
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ヘリオス兄になる。

月野君の独り言です

それからの夢はいつもの通りテレビのモニターを通してみることが多かった。

あれから何度か奇妙な事は起こってはいるものの、あの時のような事は起きなかった。


現実世界に、まったく影響はなかった。


夢の中に入っている感じもするが、それでも普通に目覚めていた。

あの出来事は、なんだったのか?


それすらわからないまま、この夢物語を見つづけていた。


ふとした時に、夢の世界の中に俺はいた。

その時は、しっかりヘリオスを演じ続けていた。


見ているだけのときと、引き込まれるときがある。

この違いが生じる理由が、いまだによくわからなかった。



自分が演じていないときはただ眺めているだけ。

しかし、演じているときは見ていた時のヘリオスの記憶や気持ちまでも分かってしまう。


そうしたことは夢だからなんでもあり。

そういう風にとらえることで、俺は違和感なく、ヘリオスになっていた。


月日は廻り、小さかったヘリオスも10歳になっていた。

幼さはまだ残っているものの、身長も伸びて、大人びた感じが出てきていた。

しかし相変わらずの美少女ぶりに、俺はおもわず笑っていた。


昨日見た夢ではどうやら、父の弟の娘が引きとられたらしい。

弟夫婦がなくなって、身寄りがないため、三女として育てることになったようだ。


しかし相変わらずヘリオスは、人見知りがつづいていた。

挨拶もそこそこで、相変わらずの生活だった。


母親からはなぜか以前よりかなり厳しく鍛えられていたが、それでもヘリオスはなんとかそれについていっているようだった。


その甲斐あってか、かなり魔法はしっかりつかえているようでよかったと思う。


俺はヘリオスが、いまだにうまく使えないふりをしているように思えて仕方がなかった。

俺が演じているときは、できることが、ヘリオスだけではできないこともあった。


メルクーアは、そのあたりを柔軟に対応していた。


俺の時とヘリオスの時では、魔法の難易度が変わり始めていた。

そして、俺が演じた後は、かなり厳しく指導されていた。


自分が調子に乗ってしまったために、まさか苦労をかけているとは思えないが……。


「まっ、何せ夢だし」

ご都合主義全開で俺は思考を切り替える。

それでも、あまり派手なことはしないでおこう。

あまり真剣には考えていなかった。


俺は思考を切り替えて、増えた家族に思いを馳せる。

一つ年下の新たな家族。

自分にはなかった年下の家族。

改めてその存在について考えてみると、柄にもなく俺はわくわくしていた。


「名前は確か、ルナといったか。妹ってあんな感じなのか……」

連れてこられたルナは、驚くほどしっかりと挨拶をしていた。

その目には強い意志がやどり、ヘリオスはどちらかというとその雰囲気に気圧されているようだった。


「ルナは必死なんだろうよ……。ヘリオス君も少しは見習ったほうがいいな」

俺はルナの気持ちがよくわかった。


新しい環境で、自分の居場所を求めている。

ルナは自分という存在をしっかり出していた。


それは俺とは全く逆の対応だった。

しかしそれゆえに、ルナの気持ちが手に取るようにわかっていた。



俺は父の暴力で母親を早くに亡くした。

その父親も蒸発したため、両方の親戚で、たらいまわしに面倒を見てもらっていた。

そのため転校はあたりまえで、自分を守るため、親戚の目を、周りの目を気にすることが多かった。


親戚はどこも俺を持て余していた。

俺は家に帰るのは寝るときだけと決めていた。

そこの家族の団欒を邪魔しないように、ひっそりと生活していた。


そんな俺の態度もまた、親戚に気味悪がられる原因にもなっていたのだが、そのときの俺にはどうしようもなかった。


あるとき田舎の町で、俺はある神父さんに出会った。

それは偶然の出会いだった。

そしてそこからは、教会が唯一の安らぎとなっていた。


どの町にも教会があり、そのたびに俺はそこに居場所を求めていた。

そう、俺はルナと違い、自分の存在を希薄にする方法で、親戚との距離をたもっていた。


「正直邪魔者だったしな。余分にお金もかかるし」

俺は早くからアルバイトをし、学費を稼ぐことをしていた。

早く独り立ちをしなければならない。俺はそう考えていた。


しかし、子どもがアルバイトすることは通常できない。

困った俺を助けてくれたのは、ある田舎町の教会にいた神父さんだった。


その神父さんは俺の事情を理解し、知り合いに掛け合ってくれていた。

その時の言葉は未だに覚えている。


「求めよ、さらば与えられん」

威厳のある声だった。


「でも必要な良いものだけですよ」

そう言って、神父さんは笑っていた。


暇を見つけ、教会に出入りしていた俺を、親戚たちは何も言わなかった。

教会の奉仕活動みたいに思っていたのか、神父さんが何か言ってくれていたのかはわからないが、俺にとって、教会は大事な場所になっていた。


転校を繰り返す俺は、そのたびに教会を捜していた。

不思議とどの教会でも俺を受け入れ、理解してくれていた。

その中でいろいろなことを学んでいったが、ままならない現実に、どうしてよいかわからない時期もあった。


あるとき、なぜ自分はこんなに苦労をするのか神父さんに尋ねたことがあった。

「それが必要なことだからですよ」

そう言って神父さんは微笑んでいた。


「あなたの道を主にゆだねよ。主に信頼せよ。主が成し遂げてくださる」

そう言って頭をなでる神父さんは、自分を暖かく見守ってくれていると感じていた。


誰かを温かく見守る。

こんな風になりたいと、子供心に思ったものだった。


正直、その意味はよくわからなかったが、とにかく今の状況は自分にとって必要なこと、そしてそれをそのまま信じてやっていくしかない。

そのための手段は本当に必要ならば望めばかなえられている。


今までの自分がたどった道がそうだったことに気が付いた俺は、いつしか気持ちが軽くなっていた。


「ああ、そういうことなのか」

それは、俺が初めて理解した瞬間だった。


あの時のことを考えると、ヘリオスにいろいろと言ってやりたかった。

しかし、不思議とヘリオスとは会話できない。


夢なんだから、できるだろうと思ってみても、やはりだめだった。


手紙か何かを置いておこう。


そう思ってみたのは、ヘリオスが日記をつけているのを見た時だった。

そこに書けば何か伝わるか。それか日記をしまっているところに手紙を入れるか……。


いろいろと試してみたが、日記は封印されていて、見ることも書くこともかなわかった。

手紙を置いてみたけど、それが伝わった気配はない。


「夢なのに!」

変なところで現実のようなところがあった。



数日がたち、最初はヘリオスに興味を持っていたルナも、次第に周囲の噂や自身との距離感からあまり近づかなくなっていったようだった。


「ヴィーヌスとは仲良くなっているようだし、まあヘリオス君には期待しないでおくか」

今回の夢も楽しく見ることができ、俺は勝手な感想をつけていた。


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