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大欲非道(イエール共和国)

ナルセス議長は第2次ブロッケン平野の戦いの報告を聞いています。


「ガローナ、これはどういうことだ?」

アプリル王国とメルツ王国、その戦いの報告書が目の前にある。

戦いの結果は満足のいくものだ。

アプリル王国はローランたちを失っているが、兵力は健在。

メルツ王国もベルセルクが死んで、帝国が併合している。

帝国は勝ったが、勝ちすぎはしなかった。


ほぼ、わしの望む世界が出来上がっていた。

これでまた、世界はわしの手の中で踊ることになる。


しかし、報告書の中には気がかりなことが書いてある。

非常に奇妙な表現。


「この、魔導機甲部隊を押し流した濁流とはなんだ?」

報告では、直前までハルツ川は、干上がっていたはずだ。

なぜ干上がっていたのかも気になるが、濁流とは一体どんなものなのだ?


「四百台近いと聞いていたぞ、それが全滅するような流れとは、いったいなんだ?」

ガローナに説明を求めても、返ってこないのはわかっていた。

しかし、わしは聞かねばならなかった。

結果はわしが描いた通りのものだ。

しかし、過程が違う。

わしの予定では、デュランダル将軍の一閃で、魔道機甲部隊が壊滅する予定だった。

そうでなければ、デュランダル将軍が危険視されない。


隠居していたとはいえ、あの将軍は色々考えることができる将軍だ。

先代の国王の件もある。

今、あの剣の所有者も代替わりをさせなければならない。

幸い、デュランダル将軍の孫は、御しやすい。

知らず知らずのうちに、わしの影響下に置かれている。


駒がいろいろ気づく必要はないのだ。

ただ、わしの言うことを聞けば、それでいい。



「申し訳ございません……。ただいま調査中ですので……」

ガローナはいつになく、落ち着きをなくしていた。


「おい、まさか、他にも妙な報告があるのか?」

その態度、いかにも言いにくそうにしている態度が怪しかった。


「…………」

ほっておけば、そのまま消えてなくなるのではないかという程、ガローナはかしこまっていた。


「ガローナ、報告を聞いたわしが不機嫌になると思うだろうが、大事なことを聞かない方がもっと不機嫌になるぞ」

情報は重要な生き物だ。

新鮮なうちにさばく必要がある。


「はい、アプリル王国の借款について……」

顔を伏して、わしを見ようとしない。

こういう時は決まってよくない報告だ。


「借款の件か、あれはあの鉱山の採掘権と引き換えにしたはずだ」

何を当たり前のことを聞く。

ブロッケン平野を流れるハルツ川、その上流に広がるアトレア山脈。

その端、そこはこの周辺の国でも有数の鉄鉱脈があった。

そこの生産量をわざと落とした報告をさせて、アプリル王国には廃坑に近い認識を与えている。

さらに、調査結果で未発掘の鉱脈も見つかっている。

だから、あの国には大量に融資し、それを未発掘の鉱脈を含む形で採掘権に変えてきた。


メルツにも鉄鉱脈はあるが、鉱山開発においてアプリル王国には遠く及ばない。

多くの技術者がいるアプリル王国側を開発する方が早い。

今、魔導機甲部隊を大量に作っている帝国は鉄不足に陥り、鉄鉱石の価格が跳ね上がっている。

少なくとも、そこに輸出するだけで、ぼろもうけだ。

わしの試算では、アプリル王国にはいくら融資してもおつりが出る。


それに、メルツ王国の借款は気に食わん奴らに売り払ってある。

メルツが滅んだ今、わし自身の損失はなく、利益のみのはずだ。

ガローナもそんなことは百も承知のはずだ。


「例の濁流、どうやら未発掘の鉄鉱脈の上を流れたようで、かなりの堆積土ができたようです。しかも、地形が変化しているらしく、今は調査もできないようです」

頭を下げたまま、話し続けている。

ガローナは、決してわしを見ようとはしなかった。


「おい、それはどういうことだ。しっかりと説明しろ。なぜ、調査している」

調査は散々しただろう。

どこから掘ればよいのか、全て調査済みのはずだ。

大体、それにどのくらいの時間と金がかかったと思っている。


「アトレア山脈のかなり上の方の氷が滑ってきております。その影響で、地形も変わり、ました。そして、濁流のもたらした大量の堆積土のため、元の鉱脈にたどり着くだけで一年ほどかかる可能性があるとのことです。さらに、鉱脈自体も変わっている可能性もあるとのことです。なぜかごっそり山がなくなった部分もあるようです」

今の状態を説明するだけで、ガローナはさらに小さくなっていた。

おおよそ見当はつく。

しかし、報告を中途半端なもので切り上げ、自分の理解で補完するやり方は、あとあと問題が起きる。

報告は最後まで聞いてから判断することが必要だ。


「だから、はっきり言え」

いらだちを隠せなかった。

調査している以上、以前と違うことはよくわかる。

それが問題じゃない。


「採算があいません」

ガローナの報告は、わしの頭を鈍器で殴るかのようだった。


なんということだ……。

思わず、わしは天を仰ぎ見た。


苦労して、金を投じて、時間をかけて手に入れたのは、採算の合わない鉱山。

利益を生むからこそ、投資した。

本格的に稼働するのも時間の問題だったはず。

戦いの間に出来るだけ回収するために、都市プレーラに追加の人員を移動させ、戦場にならないルートとして、プレーラからノイモーント伯爵領を経由してトラバキへ至る通商路も開発した。

ヘリオスにも恩が売れたのは儲けものだったがな。

しかし、全て準備したが、鉱山自体がなくなることなど、考えるはずがない。


「くそ! とんだ無駄骨だ」

無意識に、ガローナに向けて報告書を投げつけていた。

この損失、いったいどうすれば賄えるというのだ……。



「議長。あの者どもが面会を求めております」

ユスティが静かに、来客を告げていた。

客というのもおこがましい。もはや没落した者どもだ。


「わしに用はない。時運を見られず、商機を見誤った者どもに用はない」

ガローナの報告を聞いた後なだけに、わしは機嫌が悪かった。


「お前はそうでも、俺たちには用があるんだよ、議長」

「そうだ、議長。俺たちをはめた償いはしてもらわないとな」

アレク・レドモンドとアクダク・ミンの声だった。

相変わらず、無礼な奴らだ。


「お前たちが自分の判断でわしの借款を買ったのだ。それをいまさら。下手な言い掛りは、よそでしてくれ」

圧倒的有利なメルツ王国の借款を八割で売ってやったんだ。

結果はともかく、感謝されても、恨まれる筋合いはない。


「お前は初めから知っていたな! メルツがイングラムに併合されることを!」

アレクが叫んでいた。


「仮にそうだとして、それが何か問題があるのか? お前が知らないことを、わしが知っていた。わしの持っている権利を、前から欲しがっていたお前が買った。この二つは全く違う出来事だ。ちがうか?」

商売人の鉄則。

情報を知らぬものは、金を失う。


どんな商売人であっても知っていることだ。

「仮にそうだとしたら、わしもあきらめる。自分の目と耳が悪かったとな。でも、お前が介入していたのはわかっているんだ」

アクダクが文句をつないでいた。


「仮にそうだとしても、お前たちに言われる筋合いはない。お前たちも似たようなことをしているじゃないか」

いい加減腹が立っていた。

こいつらは、こいつらで今まであくどいことを何度も繰り返している。

自分がそういう目にあったからと言って文句を言っているのだ。


「いずれにせよ、お前たちはもう終わりだよ。メルツという国がなくなった以上、じきに議会はお前らの店を差し押さえる。なにせ、メルツの借款は大金だからな」

イエール共和国として融資しているのだ。

その利益分配者には、当然保証させなければならない

最後に訳の分からない鉄板まで追加したから、かなりの額になっているはずだ。

今、鉄は不足しているのだから。

最終的にいくらになったのかは知らないが、もともとあっただけでも、こいつらの裏資産を集めても足らないはずだ。


さっさと二人を追い返し、アプリルとメルツの件をもう一度考えなければな……。


こういう時、護衛の二人は有能だった。

わしが何も言わなくても、しっかりわしが話すことは無いことが分かって追い出し始めた。


「おぼえていろ!」

扉の向こうで、いかにもやられ役のセリフが聞こえていた。


アプリル側の情報はガローナから聞いてわかる。

しかし、メルツ側はどうなったのだ?

肝心のトティラからの報告が、あれからいっこうに届いていない。


「ところで、トティラの報告はまだか? あの国に皇帝は残らないだろう。おそらく総督を置いて統治するはずだ。おそらく騎士団長あたりだろうが、その身辺を探ってほしいのだが……」

途端、ガローナの顔色が変わった。


「おい、まさか……。ベルセルクか?」

わしはそのことを一番恐れていた。


アイツは見境がない。

アイツの気まぐれで、メルツ王国はどれほどの人材を失ったことか……。

トティラはうまく躱していると話していたが……。


「申し訳ございません」

ガローナはさらに小さくなった。


そういうことか……。


「大損だ」

人的にも、金的にもひどいありさまだ。


「こうなったら、何が何でもジュアンで稼がねば。帝国は勝った。しかし勝ちすぎはしなかった。とりあえずはこれでよかろう」


五百台の魔導機甲部隊の損失でアウグスト王国に喧嘩を売るまい。

しばらくは力を蓄えるだろう。


その隙に、ジュアン王国に力をつけさせる。

今度はアプリルとジュアンと帝国だ。

そうやって争いを起こせば、必ず金になる。


この世界でも、元の世界でも同じだ。

武力でも魔法でもない。

金が一番力を持つ。

その金の流れを操れるのは、わしだけだ。



「よし、ユリウス将軍への融資を増大させろ。あの国の仕上げを急げ。ガローナ。お前はトティラに代わり、メルツに行け。総督を丸裸にしろ」

ガローナは静かに頷いて退出していった。


何としても、わしの手に金を引き寄せなければ……。

アプリルの鉱山はかなりの損失だ。


「あとはジュアンだ。なんとしても……」

思わず考えを口にしている。

考えれば、考えるほど、腹立たしい。


こういう時には……。

わしは黙って目を閉じた。


思わぬ報告に、自分の計画が崩れたことを議長は知りました。

このままでは損失が大きいと判断した議長は、ジュアン王国からさらに搾取する方法をとりました。

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