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第2次ブロッケン平野攻防戦

アポロンは山の上に作られたダムから平野を見下ろしています。

そこは、遠見の魔法と集音の魔法で作られた特別席でした。

今、まさに両軍がにらみ合おうとする中、俺は山上のダムにいた。

待ち構えるローランたちに、怒涛のごとくせまるベルセルク。

土煙を上げて迫るその姿を、ローランたちはどう見ているのだろうか。

その姿を見ることはできないが、魔導機甲部隊があげる土煙のすごさは、ローランの所かでも見えるだろう。


あれだけの被害を出したにもかかわらず、ベルセルクはまだ魔導機甲部隊を展開している。

しかも、前よりも多いように思える。


一体どれだけもっているのやら……。

メルツ王国もそうだが、貸与しているイングラム帝国がそれ以上もっていることは明らかだ。

それを考えると、その脅威は計り知れない。


「それにしても、多いな……」

そう言えば、今回は両軍の情報を聞いていなかった。

ローランの方は何となくわかる。

しかし、メルツ王国の方はさっぱりだ。

ベルセルクが出てきている事だけは聞いてたけど、その軍容までは聞かされていない。


「ダプネ、両軍の情報って何か聞いてる?」

ひょっとすると、オヤジから何か聞いているかもしれない。

俺を補佐すると明言しているダプネは、いろいろなことをオヤジたちに聞きまわっているらしかった。


「マスター。それに関しては何も聞いてません。今調べてみます。しばしお待ちを」

それでも、ダプネはやはり優秀だった。


しかし、オヤジからの事前情報は無しか……。


たったそれだけのことだが、少し不安がよぎってくる。

オヤジはこれまで、何かしらダプネに入れ知恵をしていた。

今回はそれがない。

いつもあると思っていることがないとわかると、こんなに不安に思うものなのか……。



「マスター。おおよそですがわかりました。報告してもよろしいですか?」

俺はどことなく上の空だったのだろう。

ダプネはわざわざ、そう確認してきた。


「ああ、頼む」

ダプネの方を向いて、返事する。

相変わらず無表情だが、何となく俺を心配してくれているような気がした。

今から俺がこんな調子でどうする。

昨日オヤジと約束したじゃないか。


目を瞑り、呼吸を整える。

そして改めて、両軍を見渡してみた。


そんな俺の状態を見計らったように、ダプネの魔法が展開されはじめた。

ダプネの遠見の魔法で、複数個所が同時に映し出されていく。

俺は風の精霊たちを召喚し、その魔法に集音の魔法を重ねていく。

これで、特別観客席が出来上がった。


「メルツ王国ですが、魔導機甲部隊約四百。騎士三千ほど。兵士は一万五千くらいといったところです。対するローランですが、ローランと十二名。義勇兵は少し増えて七百くらいです。ローラン軍は魔導機甲部隊を除いて、義勇兵一人で二十五名倒せれば、互角の数になります」

ダプネは冷酷な数字をあげていた。


騎士ならともかく、義勇兵にそんな芸当は不可能だ。

ただ、それをわかって報告するダプネは、単に数字の上の計算だと感じさせないように伝えたかったのだろう。


二十五倍。

言われるとそうかと思うのは、ローランのことを考慮に入れているからかもしれない。

ただ、一般人に近い義勇兵が二十五人倒すことを考えると、現実的に不可能だとわかってくる。

しかもそれでやっと同数だ。


普通、戦意喪失するはずだ。

しかし、英雄ローランの軍は戦意を失ってないようだった。

義勇兵の顔は、皆やる気に満ちていた。

たぶん、英雄の力を信じているのだろう。


「まあ、確かに、ある意味ローランは無敵に近いんだけどね……」

何となく、そう口にしていた。

どこかで少し、俺はそう願っているのかもしれない。


ローランは魔剣ソウルプロフィティアの影響で、体が鋼のようになっている。

ローランを通常の方法で傷つけることは不可能だ。


ローランを傷つけられる方法。

そのひとつは魔法だ。

しかし、こと戦場に関して言えば、魔法はあまり有効な手段ではない。


それは、大規模な戦闘において、特に魔法は脅威だったからだ。

人の歴史において、脅威には必ず対策が取られる。

そして、戦争はその効率を最もあげるものだった。


魔法の開発と発展には、そうした戦争という触媒が働いていた。

つまり、新しい魔法の開発は、同時に対抗手段も開発されていく。

その繰り返しだった。

近年の戦場では、まず相手の広範囲攻撃魔法を封じることから開始される。

すなわち、魔力マナ拡散だ。

今の人類が起こす戦争において、魔法が決定的でなくなった発明魔法。


魔力分散マナ・ディプレッション


この魔法が開発されたことにより、戦争において、魔法は切り札ではなくなっていた。

この魔法は、魔法発動を著しく制限するものだ。

力の強い古代語魔術師がその魔法を使うことにより、それよりも実力が劣る古代語魔術師は魔力マナを集めることが困難になる。

例えて言うならば、実力の低い古代語魔術師にとって魔力マナを集める行為は、砂漠の砂の上にばらまかれた塩を、回収するようなものだ。


ただし、困難になるだけで、できないわけではない。

ただ、そのためには、通常よりも集中しなければならない。

命のやり取りをしている中で、それだけ集中して魔法を発動できるのは、ほんの一握りの術者だけだろう。

結果的に、この呪文発動者よりも実力の劣る古代語魔術師は、古代語魔法を発動できないことを意味していた。

しかも、この魔法は、かなり広範囲に、かなりの時間効果が続いていくものだった。


国同士の戦いにおいて、宮廷魔術師の実力の高さが、戦場での有利不利を決定するようになっていた。

実力のある宮廷魔術師の存在が、潜在的な防衛力や抑止力となっていることは言うまでもない。

そして精霊魔法にしても、信仰系魔法にしても、魔力マナを扱う段階で影響を受けるので、全く関係のないことではなかった。


アウグスト王国にあっては、宮廷魔術師のコメット師がその役を担う。

ただ、仮にコメット師がそれを発動しても、デルバー先生は魔法発動が可能だろう。

これは、一方的に魔法行使が可能になることを意味している。

そこがアウグスト王国の強みでもあった。


しかし、この魔法も欠点があり、超長距離の範囲外からの魔法には対応できないことだ。

ただし、そういった魔法は習得も、制御も難しく、かなりの実力を要求される魔法になる。

当然、実力のある古代語魔術師しかできない。

それを最も得意としたのが、メルクーアさんだった。


ただ、やはりそれも対策されていく運命にある。

近年、儀式魔法の開発により、個人の優劣を数で補うことが、ある程度可能になったとのことだった。


しかし、実証はされていない。

実証するには、抜きんでた古代語魔術師を相手にする必要がある。

だから、検証されていない。

どの古代語魔術師も、デルバー先生に喧嘩を売ろうとは思っていないからだろう。


このようにアウグスト王国は古代語魔術師で他の国をはるかに凌駕していたために、ながらく平和な時代を過ごしていたと言えた。

多少の小競り合いはあったとしても、全面戦争に突入することはなかった。


アウグスト王国のような特殊な例はともかく、通常、魔法は戦争の手段として決定的とは言えなくなっていた。


すなわち、魔法がどれだけ進化しても、戦いの主役はやはり騎士であり、戦士であった。

だから、ローランは無敵だと言える。


しかし、ベルセルクもまた、強靭な肉体と精神を持つと言われている。


戦士同士の激突。

戦争において、当然のように、これが勝敗を決するものになっていく。


しかし、そうした現実を打ち破ってきたのが、今のイングラム帝国だ。

魔導機甲部隊は、ごく少ない魔法制御で活動可能なため、いかにデルバー先生があの魔法を唱えたとしても、活動可能だと考えられる。

個人の武力で言えば。ローランに分があり、総合的にはベルセルクが優位だった。


誰が見てもそうだろう、それほどあの魔導機甲部隊は脅威だった。


だから、おれも介入する決意をした。

オヤジもそのために準備していた。


少なくとも、戦士同士の戦いにするために、俺はここで待っている。

ダムの淵に腰をおろし、その時を俺は待っている。



「ボス、まだか……」

ヒアキントスは待ちきれないようだった。

さっきから、行ったり来たりして、落ち着きがない。

巨大な水量を支えているだけに、このダムもかなりの幅がある。

しかし、俺が淵に腰かけているので、ヒアキントスは自然とそのあたりをうろついていた。



「ヒアキントス。まつ」

ダプネの声と共に、小気味よい打撃音があたりに響いていた。


「……」

ヒアキントスは頭をさすりながら、沈黙していた。

何も言わないところを見ると、自分が悪いことを理解しているのだろう。


その時、視界の端でベルセルクの軍団が動き始めていた。


「いよいよだな!」

俺も待ちわびていたのがバレバレだった。

今、何処にいるのかも忘れて、立ち上がっていた。

一歩前に踏み出そうとして、ダムの淵から落ちそうになっていた。


「マスター。落ち着いて」

ダプネに腕をつかまれて、我に返っていた。


「すまない……」

急にものすごく、恥ずかしくなってしまった。

ダプネに合わせる顔がなく、もう一度しっかりと腰を落ち着かせて見ることにした。



戦いはメルツ王国の魔導機甲部隊の長距離砲撃から開始されていた。


地雷原に向けて放つその攻撃で、いくつもの地雷が爆発していった。

もともと誘発させるつもりで埋めていたので、メルツ王国にとってその撤去はかなり楽なものとなっていた。


しかし、問題はその爆発規模だ。

ローラン軍は地雷原の奥にひそんでおり、その砲撃でも影響は全くない。

しかし、砲撃と地雷の爆発で、いたるところに地面に大穴が開いていた。

あれでは戦車は進めないだろう。


さて、どうする気だ?

ベルセルク。


「マスター、いつでも出れるように、私たちに飛翔フライ加速アクセルをお願いします」

いきなりダプネに声をかけられ振り返る。

ダプネはいつになく真剣な表情で俺を見ていた。

でも、その表情からは何考えているのか読み取れない。

特に断る理由もないけど、その魔法を使う必要もない。

ダプネもそのことは知っているだろうに……。


「なあ、ダプネ……」

俺も軍団移送コアトランスポート使えるんだけど……。

そう言おうと思ったが、ダプネの表情を見てやめた。

有無を言わさぬ迫力が、そこにあった。

おとなしく言うこと聞いた方が身のためだ。

何となく、そう思っていた。


それぞれにその魔法をかけた終わった時、ローラン軍の中から一人、砲撃の中に飛び出すバカがいた。


「あれ、ローランだよな」

見てわかるが、言葉に出さずにはいられなかった。


「ローランだよ。ボス」

「お子様です。マスター」

それぞれが、それぞれの答えを告げてきた。

遠見の魔法で見るローランは、喜々として砲弾を切りまくっていた。


「うん、馬鹿だけにばかげているな……」

魔銃の比じゃない速度で打ち出されているはずだ。

あんな早いものを切るなんてどうかしている。


「魔剣の予測でしょう。マスター」

ダプネの解説は納得いくものであり、あの魔剣を持つ者の強さをよく表している。


「すさまじいな。けど、時間の問題かな? いくら予測できても疲れるだろう……」

何の意味もないことを予測しているのは俺も同じか……。

誰が考えても明らかなことだ。


そして、味方に被害の出ていない砲撃を、ローランが切る必要なんてない。

撃たせておけばいい話だ。

それも、誰が考えても明らかなことだ。


ローランのしていることは、単に力の誇示だ。

まあ、あえてローランの気持ちになるとしたら、単なるの遊びに過ぎない。

それはローランの顔を見ればわかる。


そんなことしていたら、肝心な時に役に立たないぞ……。



それはベルセルクも考えたのだろう。

俺の不安は的中していた。


ただの野獣じゃないと言う事か……。


魔導機甲部隊が一斉に前進しながら砲撃を続けていた。


距離を縮め、弾着を早めるためだとおもったが、ベルセルクは俺の考えを軽く飛び越えていた。

前進しながら、砲撃のタイミングをずらしてきている。


前進した分、飛距離が伸びる。

それは当然のことだ。

いままでローランを狙っていた砲弾が、はるか後方に着弾していた。

そこにはまだ誰もいなかったが、このまま前進を続けるとローラン軍がいるところに着弾する可能性が出てきた。


しかし、ローランを狙う砲弾もある。

しかもそれは、同時にローランと味方との間にも複数着弾してる。


自分と味方。

ローランが後退しなければ、味方に対して向けられる砲弾には対応できない。

いくら予測できても、味方との距離がある以上、対応することは不可能だ。

そして、自分を狙うものに対応しながら、味方を狙うものに対応すすることなどできないだろう。


どうする?

英雄ローラン。


そうベルセルクに聞かれているような気がした。


しかし、ローランは後退しなかった。

早まった砲弾を前に、これまで以上に楽しそうな顔で切りまくっていた。


「マスター、まもなくローラン軍に被害が出るでしょう。ローランの行動と砲弾の脅威により、ローラン軍には動揺がみられます」

ダプネの言いたいことはよくわかる。

ローランのおよそ英雄らしからぬ行動。


でも、ダプネ。

あれはお前が言ったように、アイツはお子様なんだ……。


「やっぱりバカだ。でも、余計なこと考えずに戦えるのは、ある意味羨ましい」

それでも楽しそうなローランを、少しだけ羨ましく思っていた。

役目とか役割とかを一切気にしない奔放さ。

俺もそうできれば、今すぐローランの方に加勢に出られたのに……。


「マスター、ローランの方も疲労が見え始めています。英雄らしからぬ行動のまま自滅させるわけにもいきません」

ダプネはさっきからなぜかうずうずしているような気がする。


ただ、俺は誰かがローランを助け出すことを期待していた。

十二人の仲間の誰かが、ローランに教えることもできるはずだ。


でも、それはなさそうだった。

一瞬、悲しそうに見つめるオヤジの顔が頭に浮かび、そして消えていった……。

まあ、大丈夫だ。

俺はそう言い聞かせることにした。


「よし、ヒアキントス、ダプネ。例の盾でローランを一時救出だ。最悪、盾はそのまま放置して撃たせよう。このままローランが自滅するのはやばい」

ダプネとヒアキントスの顔を見て指示する。

これは、細かく言わなくても大丈夫だろう。


その瞬間、そんな俺の考えをあざ笑うかのように、怪しげな気配をまといだした少女がいた。


「ダプネ?」

その雰囲気に、そう尋ねずにはいられなかった。


「マスター。では、行ってきます!」

しかし、ダプネは俺の問いには答えずに、ヒアキントスの襟をつかんでダムの淵に飛び乗った。

訳が分からないといった表情のヒアキントスは、ダプネにされるがままだった。

まるで猫をつまんでいるような姿に、思わず吹き出しそうになる。

しかし、そんな俺の考えを一瞬にして破壊する出来事が目の前で展開された。

いつの間に出来上がっていたのだろう。

そこには巨大な氷の滑り台があった。


手早く勢いつけて、そこにヒアキントスを放り投げるダプネ。

そして自分は勢いよく、ヒアキントスの腹の上に乗っていた。


「ええええー!?」

「いけぇぇー!」

ヒアキントスの悲鳴とダプネの奇声が、見事な調和を見せていた。

ダプネの残した遠見の魔法の一部は、なぜかダプネとヒアキントスに固定してあった。


得意顔のダプネは、まだ状況が分からないヒアキントスをボードにして、滑り台の上を滑っていた。

かなりの距離を滑った後、二人は加速をつけて宙を舞っていた。


「ああ。ジャンプ台ね……」

オヤジの知識が告げてくれる。


ダプネはオヤジに教えてもらったんだろう。

氷の精霊だから、冬のスポーツとかいうあれを。


ダプネはそのままの速度で飛びあがっていたが、飛翔フライ加速アクセルが付いた二人は、すさまじい勢いで戦場に到達しつつあった。


しかし、それでもここからの距離は遠かった。


「いや、だから、軍団移送コアトランスポートなんだけど……」

俺のむなしい独り言は、山の風にかき消された。


しかし、ダプネは俺の予想をはるかに超えていた。

そのまま空中で、器用にヒアキントスの足の方に移動し、足の裏を合わせると、自分の体をかがめて、一気にヒアキントスを押し出していた。

ダプネは、その影響で失速したが、ヒアキントスはさらに加速していった。


「ああ。ロケットね……」

どこまで無駄な知識を与えたのか、オヤジに文句を言いたくなっていた。


さらに得意げなダプネと、対照的なヒアキントスが映し出されている。

しかし、ヒアキントスは順応が早かった。


「おお。俺、空飛んでるよ。フレイさんに自慢しよう」

飛びながら、ポーズを取るヒアキントスだった。


「いいから仕事しろ……」

さっきまでの雰囲気が台無しだ……。


ついにローランの付近まできたヒアキントスは今まさに集中砲火を浴びせられつつあったローランの前面に、あの盾を投げていた。しかも、その端には【注目のタスキ】が結いつけてあった。


「それ、意味あるのか?」

俺の問いに答えてくれる人はいない。


ただ、それが効いたのかどうかはわからないが、突如として現れた巨大盾に魔導機甲部隊は集中砲火を浴びせていた。

その砲弾が届くよりも前に、飛行していたダプネは粘性生物スライムを盾に纏わせていく。

空中に氷を出現させ、それを足場に加速を続けていたのだろう。

飛んでいるというよりも、走っているように思えてきた。


粘性生物スライムの盾と化したその大盾は、魔導機甲部隊の砲撃をすべて受け止めていた。

その間にオルランドはローランを回収し、俺は精霊化した二人を回収するべく瞬間移動テレポートで移動した。


「ボス。おれ、空飛んだよ。見た?」

興奮しているヒアキントスが哀れで、何も言えなかった。


そして珍しく、ダプネも興奮していた。

「やはり、王は偉大。その知恵、知識と美貌。まさしく王の中の王」

うん、そうだね。

でも、最後のは、ちょっと関係ないかな。


「あー二人ともよかったね。じゃあ戻るよ」

俺は盾を回収させてから、瞬時に魔法を発動させる。

やはり俺の魔法を阻害できる術者はいなかった。


ダムの上に戻った俺は、興奮冷めやらぬ二人をしり目に、両軍の動向を見守っていた。


目標をうしなった魔導機甲部隊は、やはりそのまま前進していた。

ローランにとどめを刺しに行くのだろう。

本隊からも騎士たちが突出していた。


「そろそろだな」

俺はタイミングを計っていた。


「ヒアキントス、飛んでるところ申し訳ないが、そろそろここ壊すから用意して」

ダムの上で、両手を水平にして駆け回っているヒアキントスに声をかけた。

よっぽど楽しかったのだろう。

ヒアキントスの気分はずっと空の上に違いない。

お楽しみ中申し訳なかったが、ここを一気に決壊させるには、俺たち三人でやった方が早い。


「ダプネ。君も手伝って」

両手で頬を抑えながら、恍惚の表情のダプネに指示しておく。

こちらもこちらで、邪魔して悪かった。


「オッケー。ボス」

「イエス・マスター」

しかし、二人はやる時はやる子だった。



「いまだ!」

魔導機甲部隊が元の川の半分に差し掛かったところで、俺達はダムを決壊させた。


膨大な量の水が、いままで待機させられていた憂さを晴らすかのように、下を目指して走り出す。

その走りは、邪魔だてすることを許さないものだった。


地面をえぐり、押し流し、水は勢いを増しながら暴れている。

元の川の流れに沿うように駆け抜けていくが、その他の場所にも遠慮なく食らいついていた。

山を削りだし、削りだした土を新しい場所に運んでいく。

山肌は削れ、木々はなぎ倒され、破壊のかぎりをつくして進んでいく。


さながら、怒れる竜のごとく、立ちふさがるものを全て飲み込んでいった。


魔導機甲部隊にとって、それはあっという間の出来事だったに違いない。

そこにいた者たちは、何が起きたかもわからないはずだった。


暴れる竜と化したその水は、干上がった川を横切っていた魔導機甲部隊約四百台を、簡単に飲み込んで、跡形もなく消し去っていた。

一部騎士団も影響を受けたようで、メルツ王国の進軍は目の前の惨劇を理解できないかのごとく、ただ川沿いに立ち尽くしている。


ほんの一歩の距離が、生死を分かつ線と化したようだった。


濁流と化したその川は、いつおさまるとも知れずあばれ続けていた。

渡河をあきらめたメルト王国軍は、いったん引いて、立て直しを図っていた。

撤退じゃない。

おそらく川の静まりを待つのだろう。


それからしばらくして、あれほど猛威を振るっていた川の流れは、嘘のように落ち着きを取り戻していた。

それはすなわち、メルツ王国軍の進軍の狼煙となっていた。


メルツ王国軍は、浮遊する板(フローティングボード)を川にわたし、全軍で川を渡りきっていた。

鉄製の巨大なそれは、おそらく地雷原を進むために用意されていたに違いない。

しかし、それを使うべき魔導機甲部隊は壊滅していた。

もともとの魔導機甲部隊に比べて数が少ないところを見ると、おそらくそれも、その大半を川に飲み込まれたに違いなかった。


そして地雷原は砲撃で見るも無残な姿になっていたため、メルツ王国軍は騎馬の機動力も生かしきれない状態だった。


平原にあって、その機動力をいかんなく発揮する騎兵での作戦が立てられない。

これは歩兵主体のアプリル王国にとっては有利な展開となっていた。

しかし、メルツ王国はそれを差し引いても、大軍であることは変わりなかった。

数にものを言わせて押し寄せてきた。


すでに、ローラン軍も前進している。

より、有利な地形を求めての事だろう。


両軍は元地雷原で衝突した。


ローランと十二人の仲間はやはり強かった。

巧みに陥没した個所を盾とし、罠として利用し、常に敵を正面において戦っていた。


オリヴィエやアヴィナは穴の先頭の兵士や一定の集団に眠りや拘束といったごく初歩的な魔法をつかい、敵を混乱することに専念している。

誰が発動したのかは不明だが、やはり大規模な魔法は難しいようだった。


アヴィリオとアストルフォは穴に落ちた敵や、味方の不意を衝こうとしている者たちの戦闘力をおとしていた。


チュルパンは仲間の意欲向上と回復を。


サンソネットは戦いながら、味方の回復をしていた。


リッチャルデット、ワルター、ベンリンゲリは文字通り、壁として敵の前に立ちふさがっていた。


それぞれがそれぞれの能力を十分に発揮している。

互いの連携で、その実力を高めあっている。

仲間の絆がもつ強さを、垣間見た気がした。


そうした中で、ローランとオルランドは別格の強さを誇っていた。


二人は兵士をほとんど相手にせず、騎士を徹底的に狩る猟師となっていた。


累々たる屍の山を築くローランたちの活躍により、メルツ王国の兵士たちは周章狼狽しているようだった。

こうなると、数の有利は覆ってくる。

機能しない者たちがいるだけの大軍となるのも、時間の問題だった。

戦況はローランたちに大きく傾いたかに思えた。



「ローラン!」

それは何ら魔法の効果がない、ただの大声だった。


しかし、戦場に轟くその声を、両軍の兵士たちは無視することができなかった。

戦いを止めた戦場は、それまでの喧騒がうそのように静まり返っていた。


「ローラン! どこだ!」

戦場の空気を一変したその声は、なおも圧倒的な存在感を解き放っていた。


戦場の中央付近に立つ勇猛な姿を人々は注視している。

巨大なハンマーを軽々と肩にのせた姿は、圧倒的なまでの力強さと獰猛さを兼ね備えていた。

メルツ国王、ベルセルク=ニコラス=ウル=メルツその人だった。


ちょうどいい場所を見つけたのか、巨大ハンマーを自分の目の前に地面におろし、直立不動の態勢でさらに叫んでいた。


「ローラン! どこだ! おれは、ここにいるぞ!」

目当ての人物を探すかのように、覇気に満ちた声を周囲に飛ばしている。

その視線に捕らえたものを、逃す気はないことを彼の眼が物語っていた。



「またせたね」

軽やかな足取りで、ローランはベルセルクの前に現れていた。


「なんだ、英雄というからもっとすごいものを想像していたが、意外に貧相だな」

ローランを一瞥したベルセルクは、そう言って地面につばを吐いていた。


「役に立たない筋肉は、贅肉に等しいからね。剣は力じゃないよ。魂で使うものだ」

ローランは鼻で笑っていた。


「ぬかせ」

ベルセルクは巨大ハンマーを軽々と持ち上げ、ローランの頭に振り下ろしていた。

ローランはそれを軽々としたステップでかわしていた。……かに見えた。


ありえない動きを見せたベルセルクは、かわしたはずのローランにむかって、なおもその巨大な一撃を浴びせようとしていた。


「くっ」

たまらず剣でいなす、ローラン。

その表情が少し驚きを帯びていた。





「どうなっている? ハンマーの追尾か?」

横にいるダプネに尋ねていた。


「イエス・マスター。あの巨大ハンマー、伝説の魔槌グレンデルです。あのハンマーも意志を持つインテリジェンス・ハンマーです。あんなものを使える人間がいたことに驚きです。しかも、その意志は食人です。ローランの剣が魂を喰らうように、あのハンマーは肉を喰らいます」

淡々と説明するダプネ、しかし本当に驚いているようだった。


「じゃあ、なにか、あのハンマーを持っているだけで、実はベルセルクは何もしていない?」

自分で言っておきながら、その結論は信じがたいものだった。


「イエス・マスター。しかし、通常は持つのも大変なはずです。並外れた膂力が必要ですが、持っているだけで肉を、それも狙った肉を求めて追尾していきます」

いつも通りの表情に戻っているダプネ。

驚きは、もてることだけのようだった。


「つまり、筋肉バカと言いたいんだね」

何となく、言いたいことがわかる。

俺もずいぶんダプネの表情を読み取れるようになったものだ。


「イエス・マスター」

ダプネにとっては、それすら全く興味がないと言った感じだった。


「でも、ローランは予測できるんだろ? だったら……」

ヒアキントスは不思議そうに話に加わっていた。


今まで、気持ちはずっと空を飛んでいたヒアキントス。

ようやく着地してくれてうれしいよ。

しかし、それは俺も疑問に思った。


「ぷぷ、おバカなヒアキントス。剣が予測できても、ローランが選ばなければ、わからないに決まってる。ローランはあのハンマーのことを知らない。まさか、ハンマーに狙われてるとは思わないでしょ、ふつう。だから、ローランはあくまでベルセルクの動きの予測を剣に求めてる」

本当にヒアキントスをバカにした時のダプネの顔は楽しそうだ。


しかし、なるほど。

確かにそうだ。


しかし、俺もやっぱりヒアキントス側の人だった……。

疑問を口にしてなくて本当によかったと思う反面、なんだかいたたまれない気分になっていた。


「苦戦しそうだな」

かろうじてそう告げておく。


「イエス・マスター」

ダプネの眼は真剣だった。

しかし、その視線の先は別の映像だった。


「あれは、アプリル正規軍。中央騎士団と近衛騎士団か、ようやくのお出ましか」

このタイミングでの登場に、興が覚める思いがした。


今更来てなんになる。


たしかに、戦力にはなる。

兵士数二万といったところか。

これで数の不利は覆した。

いや、メルツ王国は半分戦意を失っている。

ここで登場したらダメ押しになる分、その効果は大きいだろう。


しかし、ローランが負けたら?


その事実はいきなりアプリル王国を襲うだろう。

いままでの経過が分からない分、蹂躙されたとみていい戦力差だ。

おそらくアプリル王国側の士気はガタ落ちになる。

ひょっとすると、戦線すら維持できないことになるかもしれない。


そう思うと、来ない方がましだと思えた。

しかし、ローランが勝った場合は別だろう。

その士気は最高潮を迎える。

いずれにせよ、この一騎打ちがカギとなるか……。


援軍の意図は置いといたとして、再び勝負を見ることにした。

相変わらずダプネはアプリル王国の正規軍を見ていた。

というよりもデュランダル将軍を真剣に見ていた。


白髪好みなのだろうか?

そんな感じを受けないが、何を考えているかは相変わらずわからない。

相変わらず、険しい表情で見つめているのはわかる。

何が気になるんだろう……。


「わからないことを考えても仕方がないか……」

呟きと共に、思考をあきらめ、勝負の行方を見守ることにした。



***



「どうしたローラン。お前はそんなもんか?」

ベルセルクの剛腕からハンマーが水平にふるったかと思うと、そのままバックステップでかわしたローランを追尾して突きにかわっていた。

それも体をひねりながらかわしたローランに、今度はベルセルクの蹴りが襲い掛かる。


「ほらほら、どうした。ハンマーに意識を合わせたら、俺の注意がおろそかになるぞ」

ベルセルクはローランがハンマーの動きを予測しだしたところに、自分の動きを重ねてきた。


「思ったよりも考えてるな、あいつ」

俺は少しベルセルクを見直していた。


「そのでたらめな動きに、よく体がもつね」

ローランは涼しげに答えている。


「意外にローランも演技派だな……。いや、本当に余裕なのか?」

本職の戦士でない俺にはよくわからないが、戦うもの雰囲気から考えると、二人とも実力的には互角と思えた。


互いに死力を尽くしたような戦いは、一騎打ちの名にふさわしく、壮絶なものだった。

力の限りハンマーと肉体を駆使して襲い掛かるベルセルク。

その攻撃をかわしたり、受け流したりしつつ、反撃をいれるローラン。

お互いの命を削りあうかのような煌めきがそこにはあった。

気合の声と剣戟の音が、さながら命の鼓動を生み出している。


もはや戦場の喧騒は許されるものではなく、そこにいる全ての人が息をひそめて、両雄の戦いを見守っていた。

いつ果てることもない戦い。

そう感じていたが、やがてそれは終わる気配を見せつつあった。



「しかし、ローランの強化にも意外な弱点があったんだな……」

相性の問題かもしれないが、ローランは打撃にはダメージを受けていた。

いくら表面を硬化したところで、内部に伝わる打撃のダメージは緩和されてないようだった。

いや、普通ならこれほどの効果はないに違いない。

ベルセルクの攻撃だからという事か……。


ただ、それは強化次第では何とかなることを意味している。

予測で当てるのも難しいが、当たると意外にもろかった。


「痛みに耐性がないのか……。精神的なもろさだな」

ベルセルクの一撃が効いたのだろう。


偶然かもしれないが、ローランの頭をハンマーがわずかにとらえていた。

かすっただけのような印象を受ける。

俺が見た感じは、何のダメージも受けていないはずだ。

しかし、それ以降のローランの動きは、極端に悪くなっていた。


ベルセルクの攻撃に対し、余分な回避が多くなっている。

大きな回避は攻撃の手数を減らしていく。

その分、ベルセルクはますます攻撃を増していた。


ハンマーとベルセルクの二段攻撃。

この二面攻勢ともいえる攻撃の前に、ローランは防戦一方になっていた。

誰が見ても明らかに、両者の力の差ははっきりとしていた。

もはや勝負は時間の問題だった。



「もう少し、痛みに強かったら、あるいは……」

俺だけじゃない、おそらくそれを見た誰もがそう思っただろう。

敵味方を無視したとして、それまでのローランとベルセルクの戦いは、これこそが一騎打ちだと言える華々しさがあった。

しかし、今のローランにはそれが感じられない。


魔剣の力が、ローランから傷を負う痛みを失わせていた。

魔剣を手にした時から、ローランは傷を負う痛みと恐怖から解放されていたのだろう。


しかし、恐怖と痛みを伴わない成長は、こんなにも脆いものだったのか……。


人は痛みがあるから、その痛みを繰り返さないようにする。

それが、失敗から学ぶという言葉に表れている。


しかし、そもそも痛みを覚えなくなったら……。


「むなしいな……」

残念な気分が、つい言葉に出てしまっていた。


しかしそれは、俺とはまた違った意味で、戦っているベルセルクが一番感じているかもしれなかった。

楽しそうに戦っていた顔は、いつしか怒りに満ちていた。


その時、ベルセルクの足払いを受けて、地面に倒れたローラン。

その真上からハンマーが迫っていた。


「ここまでか……」

思わずそう考えて、目を背けてしまった。

ローランを助けたいと思う気持ちはある。

しかし、これは正々堂々とした一騎打ちだ。

ここに俺が入っていくことはできない。


この中に飛び込める資格があるのは、彼と共に戦場にいる者たちだけだ。

しかし、彼らはまた、ローランを救いには出ていかなかった。

ローランが劣勢になってから、これまで何度もそのチャンスはあったはずだ。

共に戦場に立っているのであれば、恥知らずとののしられようが、そうすることもできたはずだ。


でも、それは俺の勝手な言い分なのかもしれない。

俺は自分自身に行かない理由をつけているのだけなのかもしれない。

ローランとその仲間の生きざまを見届ける。

ただ、オヤジに言われたとおりに見続けることが、俺の役割。

しかし、その最後は何となく見ていられなかった。


「ボス、そうでもないぞ」

ヒアキントスはその瞬間を見逃していなかったようだ。

その言葉に、もう一度視線を向ける。


振り下ろされたベルセルクのハンマーを、オルランドとベンリンゲリの二人で受け止めていた。


ローランはチュルパンの治療を受け、リナルドとオリヴィエはオルランドたちを強化支援していた。


「おいおい。選手交代なら、ちゃんとタッチしないと。まあいい。ちょうどこいつも腹が減っていたところだ。そろそろ食事にしようか」

ほんの少し、愉悦の表情を見せるベルセルク。

しかし、次の瞬間にはベルセルクの凶暴な瞳がオルランドとベンリンゲリの二人をとらえていた。


「まずは、お前だ」

ベルセルクはハンマーから手を離し、ベンリンゲリをタックルで組み倒していた。

そして信じられないことに、その頭を素手で砕いていた。


あっという間の出来事だった。


オルランドはそのハンマーの重みを支えきれず、体勢を大きく崩しながらも、襲い掛かるハンマーを器用に避けていた。


「そら、次」

そう言って今度はオルランドに迫るベルセルクに、二つの動きが重なった。


サンソネットは蹴りでベルセルクの腹部に一撃を。

アストルフォは首筋に一撃をいれていた。


どちらも必殺の一撃だった。

二人とも自分の手ごたえに自信があるようだったが、瞬く間に驚愕の表情へと変わっていた。


「ぬるいわ」

ベルセルクは自分の首筋の剣をあてているアストルフォをつかむと、そのまま腹部にけりを当てたサンソネットめがけて投げおろしていた。


すさまじい勢いでぶつかったアストルフォは、サンソネットと共に地面にめり込むようにしてつぶされていた。


「お次は、おまえらか?」

ローランの前に立ちふさがったリッチャルデットとワルターをみて、ベルセルクは舌なめずりをしていた。

ほんの一瞬、二人は硬直していた。


「残念でした。今度はデザートだ」


ベルセルクは魔法で支援しているオリヴィエ、リナルド、アヴィナを狙って素早く動いていた。

オリヴィエとリナルドをめがけたタックルを、二人は寸前でかわしていた。

しかし、最初に目標とされてなかったアヴィナは一瞬逃げ遅れていた。


ベルセルクはそれを逃しはしなかった。

一瞬にして間合いを詰め、その頭を蹴りで吹き飛ばしていた。

返り血で真っ赤に染まるベルセルク。


「ふう、運動したな」

顔についた血を拭こうともしない。

ただ、口元についた血を、舌でなめとりながら歩いている。

悠然と首のコリをほぐすように肩をもみ、両腕を回していた。

さながらそれは、食後の軽い運動だったと言わんばかりの態度だった。


「なんつー化け物だ……」

正直、ベルセルクの実力を見誤っていた。

あれはハンマーがすごいのではなく、それを支えるベルセルクが異常なほどに強いのだ。


「ボス、本当に加勢しないんですね」

ヒアキントスは飛び出そうとするのを必死で抑えている感じだった。

少しだけだが、かかわりを持ち、その内面に触れた人間をここで見ているだけというのがどうも我慢できないようだった。


そのとき、ヒアキントスの頭から、またもや軽快な打撃音が響いていた。


「ヒアキントス。ボスだって辛い。そこをちゃんとわかって言いなさい」

ダプネは冷静に、【はりせん】でヒアキントスの頭をはたいていいた。


「すまんな、ヒアキントス」

ただ、そういうしかなかった。


体勢を立て直したオルランドはオリヴィエ、リナルド、チュルパン、ボルドウィナ、アヴィリオ、リッチャルデット、ワルターの元に駆け寄り、共にベルセルクと対峙していた。

誰の眼にも戸惑いの色が浮かんでいた。


それを見たのだろう。

オルランドは雄叫びをあげていた。

仲間の仇をうつ意志。

仲間を守る意思

オルランドの叫びは、たぶんそういうものだったに違いない。


その声を聞いて、皆の眼に再び勇気が舞い降りていた。

たった一人を除いて……。


それを見ていたベルセルクは、放置していたハンマーを軽々ともち、近くあったベンリンゲリの死体にハンマーを無造作に置いていた。


ほんの一瞬の出来事。

もはや、わが目を疑う事しかできなかった。


ハンマーが一瞬形態変化を起こし、ベンリンゲリの体を包み込んだようにみえた。

しかし、ハンマーは元の形を保っている。

ただ、ベンリンゲリの肉体だけがその場から消えていた。

鎧や装備はそのままだった。


「あれがそうなのか……」

あまりの光景に、思わずうなっていた。


「イエス・マスター」

ダプネも初めて見たであろう光景に、そう言いながらも凝視していた。


「ああ、悪いな、ちょっと食事だ」

ベルセルクはつまらなそうに、ローランの仲間たちを順番にハンマーに喰わせていった。

喰わせる。

そう表現するしかなかった。

ただ、そのたびにベルセルクの体からは異様な雰囲気があふれ出していた。

生命が、本能として食べられる恐怖を感じている。

そんな雰囲気をベルセルクは纏っていた。


「やめろー!」

最初は呆然としていたオルランドも、繰り返される光景に叫びながら切りかかっていく。

しかし、他の仲間たちは呆然とそれを眺めていた。

あのオリヴィエでさえ、そうだった。


殺されるのではない。

喰われる恐怖。

これは、生命の根源から沸き起こってくるものだ。

これに打ち勝ったオルランドこそ、称えるべきか。


なにをやってる、ローラン。


今こそ、お前が仲間を支えるべきだろう。

お前は今まで支えられてきたはずだ。

そのお前が、今前に出なくてどうする。


握りしめた拳は、行き場のないまま、ただ力だけがこもっていく。


「ローラン!」

声に出しても届きはしない。

しかし、このまま終わるのは納得できなかった。


「ふっ、なかなかのものだ。ただ、俺が喰いたいのは、お前じゃない。まだ、やる気が出ないのなら、出させるまでだ! さあ、ローラン!」

オルランドを弾き飛ばすと、ベルセルクは野獣のような笑みでローランを見つめていた。


吹き飛ばされたオルランドは、地雷でできた大穴に落ちたまま、なかなか上がってこなかった。

あの衝撃だ、おそらく気を失っているのだろう。

ローランだから、あれに耐える事が出来ていたんだ。


ローランは、相変わらず覇気のない顔でベルセルクを見ていた。

ただ、剣だけは構えている。


「つまらん! つまらん! つまらんぞ! ローラン!! 久しぶりに俺を楽しませてくれると思ったのが、とんだ見込み違いだ。いや、そうか。そういうことだな!」

ベルセルクの顔が残忍さを増していった。


「ローラン、しっかりするんだ!」

チュルパンがローランの心を奮い立たせる魔法を使ったようだった。


無理やり精神を奮い立たされたローランは、魔剣の力を発揮して、仲間たちの士気を支えていた。

しかし、ボルドウィナを見れば分かる。

小刻みに震える彼女の体は、もはや恐慌寸前だろう。

あれでは魔法もできない。


「さあ、行くか」

ベルセルクはローランをめがけて突進していたが、ローランにはハンマーを投げつけただけで、隣のリッチャルデット、ワルターに迫っていた。


ハンマーを大きく回避したローランは、体勢を崩してしまっていた。

精神を奮起されても、体が反応してないのだろう。


リッチャルデットとワルターの二人も完全に虚を突かれたわけではない。

ただ、二人は恐怖していた。


一旦覚えた恐怖は、その対象と向き合うことにより、ますます大きくなっていく。

今の二人はまさにその状態だろう。

懸命に防戦はしている。

しかし、力の差は歴然だった。


「ローラン! ローラン!」

「無理だ、こんな化け物、俺達じゃ!」

ベルセルクはいつでも殺せる顔で、二人を相手に戦っている。

愉悦ともいえる顔で、致命傷にならない傷を少しずつ与えていた。


いつでも殺せる。

でも、殺さない。

ベルセルクの動きは、他の誰が見ても明らかだった。


二人はそれが一番わかっているのだろう、必死に助けを求めていた。


しかし、ローランは立ち尽くしていた。

剣を構えてはいる。

しかし、一歩も動こうとしなかった。


チュルパンは力なくローランを見つめている。

もはや彼の魔法にも、ローランは反応しなかったのだろう。


「ちっ、腑抜けめ、こいつらではだめか、やはりそれなりの奴でないとだめか? とんだ仲間だな、おい」

ベルセルクはローランを一瞥し、二人を物言わぬ肉塊に変えていた。


圧倒的な力の差に、オリヴィエ、リナルド、チュルパン、ボルドウィナ、アヴィリオの五人も呆然と見守っていた。


二人を食べつくしたベルセルクは、ハンマーを肩に担ぎ、ゆっくりと五人に近づいていく。

もはや、戦士はいない。

ハンマーの一撃で、五人はなすすべもなくつぶされてしまうだろう。


「何している、ローラン!」

ここから叫んでも届かない。

でも、叫ばずにはいられなかった。


後ろで打撃音が聞こえても、それを気にしている余裕はなかった。


一歩ずつ、ベルセルクは血に飢えた野獣のような笑みで五人に近づいていく。

恐怖した五人は、もはや魔法を使う事すらできていなかった。

すぐそばで、ローランは立ち尽くしている。


一歩、また一歩と確実に彼らの死が近づいていく。


迫る死の担い手は、その目に獰猛な光を宿している。

迫りくる死を前にして、五人は動くことも許されていないようだった。

その目に涙を浮かべている者もいる。

あきらめの表情を浮かべている者もいる。

必死に祈る者もいた。


しかし、もはや誰もローランに助けを求めなかった。



「やめろ……。もうやめてくれ……」

ついに、ベルセルクは、ハンマーをオリヴィエの前に突き出していた。


「やめろ……。これ以上は、もういいだろう……」

ゆっくりとハンマーを持ち上げて、ローランの方を向くベルセルク。


しかし、それでもローランは動かなかった……。


「やめろー!」

もう見ていられなかった。

彼らと過ごした日々が頭によぎる。


瞬間移動テレポートの魔法を唱えようとした瞬間、オヤジの顔が頭をよぎる。

ごめん、オヤジ。

やっぱり、見てるだけはできなかった。

オヤジの目的が果たせないのかもしれない。

でも俺は、少しでも俺のことを仲間だと呼んでくれた人たちを、見捨てることはできない。


俺の魔法が完成する寸前、俺の頭を【はりせん】が襲っていた。

その効果で、俺の魔法は完成することは無かった。


しかし、ベルセルクの前に、再びオルランドの剣が立ちふさがった。

振り下ろされたハンマーに傾斜をつけて軌道をずらし、オリヴィエの横の地面にめり込ませていた。

しかし、めり込んだハンマーをベルセルクは手放していた。

ハンマーは自らの意志でオリヴィエに襲い掛かっていく。

その重量を受けて、一瞬にしてつぶれたオリヴィエの肉体は、その瞬間に跡形もなく姿を消していた。


「くっ!」

オルランドの無念はいかばかりだろう。

己の無力さをかみしめるように、オルランドの顔は歪んでいた。


「ふっ、楽しませてくれるな、ローランもお前みたいに骨があると良かったんだが、残念だ」

ベルセルクは感心したように、オリヴィエの顔を見ていた。

ゆっくりと視線をローランに向けて、面白くなさそうにつばを吐いている。


「いったん引け! ローラン、こいつは想像以上だ。体制を立て直すんだ!」

オルランドの叫びは、後ろの四人に目的を与えていた。


逃げること。

生き延びること


人の生存欲求を刺激するその指示は、動けなかった彼らに、力を与えていた。


しかし、背中を見せて逃げる様は、もはや歴戦の強者ではなかった。

ただ、生への執着が彼らの体を突き動かしていた。


「不快だな。よもやあのような姿を見せられるとは、お前は後回しだ」

ベルセルクはオルランを殴りつける。

文字通り、剣を盾にして防御するオルランド。

剣を拳にめり込ませたベルセルクは、その腕をそのまま無造作に横に振るっていた。


強大な力を受けて、オルランドは大きく弾き飛ばされ、またもや地雷の爆発で生じた穴に突き落とされていた。



追いかけるベルセルクは、一番おそいボルドウィナをつかむと、リナルドとチュルパン、そしてアヴィリオに向けて投げつけていた。

三人はボルドウィナに足を取られ、大きく転倒していた。


そこにベルセルクは飛びかかり、その足でチュルパンとアヴィリオの二人の頭部を砕いていた。

そして、まだかろうじて意識のあるボルドウィナとリナルドの頭を持ちながら、ローランに向かって歩き始めていた。


「さあ、ローラン。どうした? ほら、攻撃してみろ。おれはこの盾と剣しかないぞ。いまなら、お前の剣も届くかもしれんぞ」

二人の頭を握り、ローランに突き出すベルセルク。

その顔には、侮蔑の笑みを浮かんでいる。


二人はまだかろうじて生きている。

小さく漏れる声にならない声は、必死に助けを求めていた。


それでも、ローランは動かなかった。


【はりせん】の鎮静効果が切れてきた俺は、また飛び出そうとしていた。

もはや、ローランはあてにならない。

せめて、あの二人だけでも……。


そう思い、また魔法を発動しかけた時に、またも【はりせん】が俺を襲っていた。

しかし、俺の横をすり抜けて、赤い炎が飛び出していく。


我慢が出来なくなったヒアキントスは、ダプネが俺を【はりせん】で鎮静化している隙をついて飛び出したようだった。

炎の塊となって飛んでいく様は、まるで流星のようだった。

しかし、それはより大きな炎の鳥に飲み込まれていた。


まさに、一瞬の出来事だった。

すぐに炎の鳥は消え去り、やがて再び現れた時には、すぐ俺の目の前だった。

おとなしくしているヒアキントスを離したフレイは、ゆっくりと俺の前に舞い降りていた。


「やあ、アポロン。お邪魔するよ。ちょっと邪魔者を消す用事があったからね」

小鳥サイズとなったフレイは、まるで散歩をしているような気軽さだった。


「お前達の気持ちは分からない訳でもない。しかし、お前達が行っても、もう状況は変わらない。ローランはすでに仲間を救うという意志はない。そして、仲間もまた、ローランを見ていない。仮に命を救えたとしても、お前の守ろうとした世界はなくなっている」

フレイの言葉は、俺達に優しく諭すようだった。


「仮に、ローランが立ち向かう勇気を持っていたら、守るべき意志を示していたら、さっきから必死に自分を制しているお前の仲間が止めていないさ。それは、王の意志でもある。じゃあね」

そう言い残して去るフレイの言葉に、俺は心臓を抉り出された気分だった。


フレイもまた、この場を見ていたのだろう。

改めて、オヤジの言葉を思い出した。

『本当に大事なのは、どうなったかよりも、どうしたのかだ』

ローランとその仲間の行動を、俺が見極める必要があった……。


俺が直接手を出してはいけないとは言われていた。

だが、俺が支援してはいけないとは言われていない。


ローランが、英雄たる意志を示していれば、俺はそれを支援することは許されていたんだ……。

本当は、それを俺が判断しなければならなかった。


「また、助けられたね」

振り向くと、目を真っ赤に染めたダプネは、必死に口をつぐんで【はりせん】を構えている。

後ろからはたかれてばかりだから、まったく気が付かなかった。

そうか……。

ダプネは見逃すことも許されていた。

でも、そうしなかった。

俺は、全てをダプネ一人に背負わせていたんだ……。


何が仲間だ……。

相手のことを思いやれずに、自分のことを思っているだけなんて、仲間でいられるわけがない。

俺は、どれだけ自分のことだけを考えていたのだろう。


「ごめん、ダプネ……。嫌な役を押し付けてしまって……」

表情のあまりわからないダプネだが、今だけは必死に耐えていることが分かった。


「イエス・マスター」

うつむくダプネは、それだけ言うと【はりせん】を静かになおしていた。


飛び出したい気持ちは変わらない。

でも、もうしない。


それに、確かにフレイの言うとおりだ。

もう、あの世界は戻せない。

それは、ローランが選んだことであり、仲間たちもすでにローランを見ていない。


俺がもう一度ローランを見た時、確かにローランは一歩下がっていた。

今まで動かなかったローランが、初めて見せた動きがそれだった。


ローランが恐怖している?

魔剣を持っているローランが?

俺の思考を別の情報が書き換えていた。


「マスター、おそらくですが、今は援軍と思えるものが到着しました。ただ、ご注意を……」

ダプネはややこしい報告をしていた。


援軍なのか援軍でないのかはっきりしてほしい。

しかし、ダプネがそういう以上、そうとしか表現できないのだろう。

現れたデュランダル将軍の動きを注意深く見ておくことにした。


「立て、ローラン。お前はまだやれる。お前は強い子だ。仲間の仇を取って、両親に自慢しろ。この戦いが終われば、わしはお前の望みをかなえる道を見つけてきた。やるんだ、ローラン」

そう言ってデュランダル将軍はローランにネックレスを見せていた。


「!? それは! ちかいの……!」

ネックレスをみたローランの眼に、光が宿っていた。

それは俺が初めて見るローランの眼だった。

希望。

恐らく、ローランはそれを見つけたのかもしれない。


「ベルセルク。もういい……」

ローランの動きは今までにないものだった。


ベルセルク左手を切り落とし、ボルドウィナを解放したローランはその姿をみて、静かにボルドウィナの眼をとざしていた。


「ごめんなさい」

ただそれだけ言うと、ローランは再びベルセルクに襲い掛かっていた。

ベルセルクもローランの状態が変わったことに気が付いたのだろう。

リナルドをローランに投げつけ、ハンマーのところへ戻っていた。


リナルドを受け取ったローランは、何も言わずに、そっとその目を閉ざしていた。

静かにリナルドの亡骸を横たえるローラン。

心なしか、その肩は震えていた。


「突撃!」

その時、デュランダル将軍がアプリル王国軍に突撃の命令を発していた。

デュランダル将軍ただ一人を残し、突撃していく。

ローランドの変化は、この戦場にいる義勇兵とアプリル王国軍に力を与えていた。

ベルセルクの左腕が切られた事実、勢いを持つアプリル王国軍を前にして、メルツ王国軍は壊走状態になっていた。


デュランダル将軍の目の前には、ローランとベルセルク、そして穴から出てきたオルランドを加えた三人だけとなっていた。


「ちっ、老いぼれの激で立ち直るとは」


ベルセルクは左肩に薬をかけて止血していた。

そして右手にハンマーをもつと、ローランにハンマーを向けていた。


「よし、第二ラウンドだ」

ベルセルクは胴から離れたその首で、戦いの合図を告げていた。

そして、自信たっぷりの笑みのまま、地面に転がったその首が、終了の合図となっていた。


ベルセルクには何が起こったのか、わからなかっただろう。

第二ラウンドの鐘と同時に戦闘は終了した。


「ふう」

少し息を吐き出し、立ったままのベルセルクの死体を蹴とばすローラン。

ゆっくりと倒れたその肉体をハンマーが一瞬にして消していた。


それを見つめるローラン。

その瞳は何を見ているのか、全く分からない。

ゆっくりとオルランドが近づき、そっとローランの肩に手を置いていた。


「すまない。俺がふがいないばかりに……」

オルランドは涙を流し、ローランにそう謝罪していた。


「謝るのは僕の方だ。オルランド。君だけでも無事でよかった……」

しかし、ローランの顔には涙がなかった。


何故だろう。

どちらかと言えば、喜んでいるように俺は思えた。

オルランドもその違和感に気づいたようだった。


「ローラン……?」

オルランドの口からは疑念の声が漏れ出ていた。


「ああ、オルランド。僕は帰れるんだ。先生が誓いのネックレスを見せてくれたから、きっと先生は見つけてくれたんだ。僕が元の世界に帰る方法をね」

笑顔のローランは、本当にうれしそうだった。


「ローラン!? おまえ、この場で……」

死者を冒涜するような態度に、さすがのオルランドも戸惑いを隠せないようだった。

信じられないという気持ちが、顔に出ている。


「戸惑いじゃない、それは怒りだ」

俺は、オルランドに代わってその気持ちを代弁していた。


「まあ、いいじゃない。先生、僕やりました。さあ……」

デュランダル将軍の気配を感じたローランは、将軍の方を向きなおり、その言葉を告げていた。

しかし、その言葉は最後まで紡がれることはなかった。


デュランダル将軍は聖剣デュランダルを真横に振るっていた。


聖剣デュランダルの一閃。

その太刀筋に切れぬものなしといわれるその力は、空間を真横に切り裂いていた。


大きく切り裂かれた空間は、そこにあったものすべてを分断し、飲み込んでいく。

それはローランの鋼の体も例外ではなかった。


魔剣ソウルプロフィティアと共に、ローランの体は空間により切り裂かれ、元に戻る力を受けて、その空間に取り込まれていた。


「ローラン。おぬしを元の世界に帰す方法。それはな、おぬしを殺すことだ。魔剣に魂を吸われることのないように魔剣も壊しておこう、安心して空間の彼方へといくがいい。おそらくお主の魂は、本来帰る場所にたどり着くだろう。オルランド様……。いや、オルランド、お主には悪いとは思うが、これも王国のため。真実を知るものがいては困るのだ。特に、お主が生きていれば、この後王国をまた分断することになるやもしれん……」

デュランダル将軍はこの場には誰もいないと思っていたのだろう。


「まさか、ガヌロン……」

そう言い残し、オルランドの姿は消えていた。


「なに!? おぬしなぜ」

デュランダル将軍は驚愕で言葉を失い、消えたオルランドを求め、周囲を探していた。

しかし、転移したものが、そこにいるはずもない。

やがてあきらめたのか、小さくため息をついていた。


「これも、また運命か……」

デュランダル将軍は力なく肩を落としていた。



***



聖剣デュランダル。

その力は一つの空間を切り裂くことしかできなかった。


オヤジの指輪は強制転移の指輪だ。

転移の瞬間には使用者を別の空間がつつんでいる。

聖剣デュランダルはさすがに別空間にいるものを切る能力まではなかった。


「フレイがいたことといい、これはオヤジがここを見てるということだよな」

どこに転移させたのかは知らないが、おそらくこのことが重要なのだろう。

オルランドの最後の言葉とその目は、確かな決意を現しているように見えた。


だが、例えそうであったとしても、このタイミングまで待ったオヤジの胆力が恐ろしかった。


「なあ、ダプネ。オヤジは未来が見えるのか?」

振り返ることなく、ダプネに尋ねる。


「イエス・マスター。王はこの世界そのものです」

聞く相手を間違えた。

けど、その声はいつものダプネだった。


まあ、いい。

俺の仕事はどうやら片付きそうだった。


この先アプリル王国はデュランダル将軍、すなわち王家で再び統一されるだろう。

英雄のいなくなった国で、再び民の中心には王が立つ。

それがアプリル王の描いたシナリオだ。

それが果たしてうまくいくのかわからないが、この国はそう動き出している。


王を失ったメルツ王国軍はすでに壊走していた。

暴君を失った国は、幸せな国になるのだろうか?

あの国のことをよく知らない俺には、その混乱は予想できない。


しかし、これでしばらくゆっくりできるだろう。

なぜだろう、今はオヤジたちに会いたかった。

ノルンに怒られてもいいから、話がしたかった。


そう言えば、温泉に入れるようになったと聞いたよな。

オヤジたちとともにゆっくりと湯船につかる姿を想像して、それがたまらなく大切に感じていた。


「よし、とりあえず戻ろう」

俺はそんな甘い期待を胸に、二人に号令する。


「オッケー、ボス」

「イエス・マスター」

いつも通り快活な二人の返事に、俺は少し救われた気分になっていた。


ローランとベルセルクは共に亡くなり、オルランドはいずこか転移していきました。

こうして第2次ブロッケン平野の戦いは英雄と王の死という結末をむかえました。

これにより、アプリル王国は勝利宣言をおこない、メルツ王国に対して何らかの動きを見せることになると考えます。

しかし、そこにはすでに・・・・。

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