ヘリオス先生2
改稿で、この話が100話記念となりました。
各地を飛び回っているヘリオス君ですが、合間を見て、講義もしています。
時期的にはブロッケンの戦いの時期に当たります。
デルバータウンの受付などを頼む話です。
「ふふ、ユノさんもすっかり聴講生の一人ですね」
そうやって隣に座るルナは、自分は当然だと言いたげみたいね。
「べつに、たまたま時間が空いてただけよ。仕方がないから、また聞きに来てあげたのよ」
自分でも強がりを言ってるとわかってる。
だってしょうがないじゃない。
正直言って、アイツの講義は面白かった。
そして前からだけど、わたしは精霊魔法を使いたいと思っていたのよね。
今はまだ、知覚できないでいるけど、何となくできるような気がする。
この感覚は、初めて古代語魔法を使えた時と似た感じなのよね……。
そう言えば、この学士院に来るきっかけになったのも精霊魔法だと言っていいかもしれない。
古代語魔法もかなり使えるようになって、その成長が伸び悩みを見せていたあの頃。
二系統の魔法を極めようと思った時期があったのよね。
精霊魔法は才能が必要だと言われたけど、私はその言葉が大嫌いだった。
努力をあざ笑うようなその言葉が嫌いだった。
だから、何が何でも習得したかった。
もちろん先生はいない。
だから、自己流でやってみた。
でも、それは無理だとすぐにわかったわ。
先ず見えること。
これがあらゆる書籍の中で一番先に書かれていることだったのよね。
じゃあ、見えるためにはどうしたらいいのか。
それはどんな本にも書かれていなかった。
つまり、見えない私は、本を読む資格すらなかった。
あの時の無力感。
だから、私は古代語魔法を極めるために、学士院にやってきた。
でも、この講義はそれを教えてくれる。
つまり、精霊魔法を使う以前、精霊を知覚する方法を教えてくれるのだ。
再び、私は挑戦する機会が与えられたのだと思う。
それ以外には、まあ、ない……。かも……。
まだ、自分の気持ちがよくわからない。
素直になれない、とは思う。
正直になれない、とも思う。
隣で楽しそうにしているルナが、本当に羨ましかった。
私もそういう風に変われないかしら……。
でも、この子は本当に変わったわ……。
書類上生まれ変わっているけど、本当に生まれ変わったように、明るく、そして前向きに生きている。
そして、アイツに対する好意を全く隠そうとしていない。
それでも妹なんだから、少しは自重すればいいのに……。
始めはそう思っていた。
でも、それはあの時の話で、無理な相談だとわかったわ。
直接的な血のつながりがないのよね。
本当の兄妹ではなく、書類上の兄妹。
そして、それも全く白紙になった。
だから今のこの子は、まったくの白紙の状態としてアイツに接することができる。
だけど、残念よね……。
アイツはやっぱり妹として見ているのよね……。
「ふふっ」
いけない。
思わず笑ってしまったわ。
いきなり私が笑ったので、ルナは何があったのだろうという顔でこっちを見ていた。
まだ授業始まっていない。
アイツも来ていない。
だから、例の拡声状態じゃないはずだけど、思わず周囲を見てしまった。
「なんでもないわ、ただの思い出し笑いよ」
そう言ってごまかそうとしたけど、それが難しい。
この子は妙に勘が鋭いところがある。
たぶん自分に関係すると考えているんだわ……。
相変わらず、疑い深い目で私を見ていた。
「本当に何でもないわよ。それにしても遅いわね。何してるのかしら。寝坊?」
アイツの生活に関することなら、この子はちゃんと答えるはず。
ちょっとずるいけど、この子の疑いをそらすには、そうするしかなかった。
「ヘリオス様、昨日はお戻りじゃなかったんですよね。新しくノイモーント伯爵領になった場所の街づくりと、イエール共和国とアプリル王国の工作とか、他にもいろいろな場所に行っているみたいで……。なかなか家にもお戻りにならなくて……」
ルナは本当に心配そうにしていた。
でも、この子はしたたかだ。
そうやって私に、アイツの状況を教える傍ら、自分の優位さもしっかりとアピールしている。
やっぱり、同じところで生活しているのは不公平だわ。
「それは大変ね。私も何か手伝えればいいのだけど……。でも、兄思いのいい妹を持ってあいつも幸せね」
妹の部分を強調しておこう。
ちょっと意地悪だけど、これくらいは許してもらわないとね。
やっぱり、ルナの笑顔には若干の変化が見えていた。
ほんと面白いわ。
「じゃあ、ユノにも手伝ってもらおうかな」
そう思った時に、いきなり聞こえたアイツの声。
思わず周囲を見回し、講壇の前に立つアイツを見つけた。
この距離は……。
私は自分の声が拡声されていた事実に、思わず口をふさいでいた。
ルナは、また教材で顔を隠している。
さっきの笑顔の変化は、これか……。
まったくもう、まったくもう、まったくもう……。
今度座る位置を変えてもらおうかしらね。
そうすれば、ルナと話していても、アイツが入ってくるのが見える。
「みんなにも手伝ってもらいたいことがあります。お礼として、この講義の単位を差し上げますので、よろしくお願いします」
アイツはそう前置きしていた。
ここにいる子たちは、たぶん単位なんていらないわよ。
ただ、役に立つことができるという一点で協力するにちがいないわ。
「まったく、何かと思えば……」
隣を見ると、このことを知っていたかのように、笑顔で返された。
仕方がない。
同じ屋根の下で暮らしているのだから。
そのことは認めましょう。
でも、それならあの娘、テリアだっているのだから油断しないようにね。
最前列で座っているあの子たち。アリス、テリア、ナタリアはアイツの講義を真剣に聞いている三人だ。
うわさでは、あの子たちには特別講義をしているらしい。
あの子たちは精霊魔法が使えるのだから、当然と言えば当然だけど……。
今も、三人だけに何やら配っている。
私もしてもらおうかと思うけど、なかなか言い出せないのよね……。
なんだか、以前に増して忙しそうだし……。
そのまま講義の前に、アイツの頼みごとの話になっていた。
たしかに、アイツの頼み事は簡単だった。
まもなく、アプリル王国の避難民が、新ノイモーント伯爵領にやってくるので、その世帯管理帳の登録作成と、住居振り分けのようだった。
信じられないことに、その人たちは一万人以上いるらしい。
あの惨劇以降、無人の領地にいきなり一万人の街ができる。
しかも、元領主ノイン伯爵は領地経営に無頓着で、大半は手つかずの平地みたい。
そんな場所に……。
そもそも、耕作してない土地で、食料とかどうするのよ……。
しかし、それは杞憂だとわかった。
アイツはすでに、イエール共和国で食料、物資の搬入ルートを作成し、隊商まで手配していた。
でも、通商ルートはできたとしても、そこから何を出していくかよね。
ノイモーント伯爵領で産業を興すにしても、一からでは大変だわ……。
あのあたりで採れる物、その加工品……。
「これは、私の出番かしらね」
思わず声に出てしまった。
教室中がざわめきに包まれている。
「そう? じゃあ、ユノにお願いするね」
言い終わった後、慌てたようにアイツは口元を抑えていた。
あれ?
どうしよう……。
つい自分の考えに浸ってしまって、アイツの話を聞いてなかった……。
教室がざわついているし、今更聞いてなかったと言える雰囲気じゃないわよね……。
隣で笑うルナに聞くのもなんだか癪だわ……。
「ヘリオス先生。具体的に教えてください」
これは賭けよ。
立ち上がりながら片手を伸ばす。
聞いていなかったとは今更言えないけど、このいい方なら何とかなるわ。
「ユノ。さっきの続きはこれから説明するから、おとなしく座っていてね」
アイツは笑顔で説明しだしている。
しまった……。
そういう事か……。
アイツは私と話していたことにしてくれてたんだ……。
無言で席に着いた私は、机に突っ伏した。
またやってしまった……。
素直になれない私……。
自己嫌悪の波が押し寄せてきた。
「まあ、僕が知っている限り、ユノが適任なので、前向きになってくれて助かります。ユノにお願いしたいことは後で説明しますが、そのほかにも手伝ってほしいことはたくさんあるので、皆さんもよろしくお願いします」
こうやってまた、私の失敗をなかったことにしてくれるのが、実にアイツらしかった。
「そういうことだから、今度からはちゃんとまじめに講義に集中してね」
また、アイツは私にだけささやいてきた。
「わかったわよ」
私は机に突っ伏したまま、そうつぶやいた。
顔がルナの方を向いているので、見るとはなしに、ルナを見ていた。
なんだかルナは複雑な表情をして、左手で頬杖をついている。
時折口元に手をやり、また頬杖をついていた。
なんだかおかしい……。
普段見せないそんな態度もそうだけど、それ以外に何かがおかしかった。
その違和感を探るべく、ルナを注意深く観察する。
指輪がない……。
あの指輪がルナの指にはめられていなかった。
どういうこと?
この子が、あれを外すとは思えない。
その理由を聞こうと思ったけど……。
やめておこう……。
後で聞こう。
同じ過ちは繰り返せない。
もう講義は始まろうとしている。
でも、気になるのよね……。
***
講義が始まった。
アイツの講義内容に毎回驚かされてばかりいる。
これでも、古代語魔法を勉強するときに、私も色々な知識を増やしている。
その私でさえ知らないことを、アイツは話していた。
精霊魔法の入門講義のはずだけど、精霊の事だけを話しているんじゃない。
この世界の伝承、神話に至るものを話している。
ここまで関連付けて書かれた書籍は見たことがない。
少なくとも私の知識がそう告げていた。
そして、私の中で残っていた疑問。
それについて、納得いく答えが見つかっていた。
それは、この世界を構成するうえで欠かせない者たち。
すなわちこの世界を支える四つの存在。
それらは関連があいまいだった。
精霊女王
龍王
神
巨人
神話では、この世界を神が創造したことになっている。
伝承としては、混沌の世界の中から巨人がこの世界を創造したことになっている。
精霊は世界の理を司る存在であるといわれている。
龍族はこの世界の力の流れを司るとなっている。
それぞれが、独自に語られており、その関連や意味、人とのかかわりに関して、言及したものはなかった。
何より、最後の巨人に関してはその存在自体が確認はされていない。
怪物としての巨人はいるが、それはせいぜい人間を大きくしたものだ。世界を支えているというものではない。
精霊女王は存在が確認されている。
精霊女王がいるから、精霊はこの世界に生まれるのだと言われている。
そして英雄と呼ばれるものは、精霊女王もしくは妖精女王の加護を持つとされている。
その眷属と呼んでいいのかわからないけど、精霊はあまねく世界に存在している。
この四つの中で、一番感覚としてとらえやすいわね。
龍王については、その末裔がイングラム帝国の守護龍だ。
この龍がこの世界に魔力を作ったとされており、魔力そのものを龍としている。
だからこの世界の力の流れを司るということだった。
古代語魔法は、そういう意味では龍との交信と言えるのかもしれない。
神については漠然としてつかみどころがなかった。
ただ、その存在を通して、信仰系魔法を使えることから、存在していることは疑いようもなかった。
そして、巨人。
私にとって、もっともよくわからない存在。
アイツはこれらのことをまとめて、この世界を形成する、四つの力として表現されたものだと説明していた。
精霊は存在力
龍王は魔力
神は魂の力、アイツはこれを霊力と名付けていた。
巨人は生命力
この四つの力がもっともバランスよくあるのが人という種属であるとアイツは語っていた。
そして、もっとも貧弱なのも人種であるとも説明していた。
なるほどね……。
そう考えると、色々とわかる気がするわ。
巨人は生命力という概念。
神はまあ魂というものの概念。よくわからないけど、精神生命体みたいのものかしらね。
龍王は魔力そのもの。
精霊は……。
でも、力の概念として説明するには、存在力って少しあやふやよね……。
私が質問するより先に、前の方の生徒が精霊の存在力について説明を求めていた。
後ろ姿だからよくわからない。
でも、見たことない子だわ。
まったく、次から次へと寄ってくるわね……。
でも、そのおかげで大事なことが分かった。
私の認識では、さっきまであの娘は存在しなかった。
でも、その質問をすることで、私はあの娘を認識した。
たぶん、そういう事だわ。
たとえば、教壇にアイツがいる。
これは私がアイツの存在を認識しているからといえる。
視点が私だから、私が知らない人は私の世界には存在しない。
ルナにしてもその他の娘にしても、私の視点でその存在をわたしが認識している。
しかし、私が認識していなければ、その娘は存在できないのか?
それは別の人が認識していればできることだ。
しかし、究極誰からも認識されなければできないのか?
それは自分が認識できる。
それが存在する力という定義だった。
すなわち、存在力はそれを認識した数で大きさが変わるものといえる。
存在する限り最低は一。
だから生まれたての精霊は自分を認識するまで、この世界において存在できないというわけね。
この世界において、上位精霊と呼ばれるものは、その存在を多くのものに認識されているからこそ、上位精霊なんだわ。
逆に言えば、存在力がなくなれば、この世界からの消滅を意味するに違いない。
それは、死ぬとか生きるとかとは全くの別ものなんだわ……。
そう思と怖いわね……。
誰からも忘れられ、自分も分からなくなった瞬間にその存在は消滅する。
*
私がいろいろと考えている間に、講義はすすんでいた。
まったくもう、私を置いていくなんて……。
八つ当たりしてる自覚はあるけど、待ってくれててもいいじゃない……。
どうやら、神に関しての定義は信仰に影響するかもしれないから、割愛されていた。
ただ、魂と呼ばれるものがある。
長らく、古代語魔法と信仰系魔法を同時に使うことができない人が多かったが、この概念で今後は体系化していくかもしれなかった。
なにより、目の前にその体現者がいるしね。
これ以上の証明を用意するのは難しいでしょうね。
そして魔力である龍王の解説。
龍王自体は魔力として、この世界にあふれている。
イングラム帝国にいるという守護龍はその龍王の末裔とされている。
古代語魔法は魔力を操る魔法。
だから、やっぱりその存在は気になるわ。
後でもう少し詳しく調べよう。
そう思っていると、また講義はすすんでいた。
ちょっと考え事している間に、まったくもう……。
「当然、この世界と異なる世界があります。そこには異なる次元が存在し、そこで働く力もまた別物です。一番身近なのは、妖精界、精霊界ですね。ここでは時間というものと場所という概念が、この世界と根本的に異なります。他にもさまざまな世界がありますが、その世界との交信や交流は時として不幸な結果に終わるかもしれません。混乱があるかもしれません」
一瞬にして、重苦しい雰囲気があたりを覆う。
何を言い出すんだろう……。
そう思っていると、となりで息をのむ気配がした。
きっとルナも同じ気持ちなんだわ。
「僕自身はこの世界がどう受け止めるかと、その人がどうあるかだと思ってます。そして、その主導権は常に世界ではなく、その人にあると思ってます。この世界の一部として自分を同化させた人は、この世界に認められるかもしれません。そうでない人はこの世界からはじかれてしまうでしょう」
それまでの雰囲気をがらりと変えて、アイツはまた説明しだした。
あの顔……。
アイツがああいう顔するときって、ろくでもないこと考えてるときなのよね……。
「まあ。説明よりも、体験してもらった方が早いと思う。今から、この教室にカールが来ます。その時の彼の行動次第でこの教室という世界がどう変化するかですね」
なんだか芝居がかった態度で扉に注意を向けさせるアイツ。
一体何の話だろう?
思わず扉を凝視してしまった。
ふと、隣で忍び笑いが聞こえてきた。
おそらく何があるか知っているんだわ。
私が思うよりも前に、アイツが紹介しだしていた。
「紹介しますね。僕の友人にして、初代オーブ長官となった君たちの先輩。カール=フォン=シュミット子爵。聖騎士だ」
アイツがあんな紹介をするとは驚きだった。
扉があき、まさしくカールが現れた。
突如襲ってきた既視感。
なんとなく、これから起きることが想像できた。
「これは、これは。美しいフロイラインたち。僕は、カール=フォン=シュミット。親しみを込めてカールとよんでくれたまえ」
そう言いながら、仰々しく部屋に入ったカールは、壇上にいるアイツに近づいて、いきなりその肩を抱いていた。
「この通り、彼とは友人だ」
そこで、アイツの言うカールスマイルを出していた。
「バカがいる。いや、大バカがいる」
思わず声に出してしまった。
当然、それはカールの耳にも届いていた。
「ふっ、相変わらず辛辣だね。フロイライン・ユノ。君と僕ももちろん友人だよ。でも、僕たちの仲を妬くもんじゃないよ。男同士の友情は尊いものなのさ」
髪をかきあげ、鼻で割らすその仕草に、思わず怒りを覚えてしまう。
しかし、それは私だけではなかった。
「でていけー」
教室のすべての生徒が叫んでいた。
「困ったフロイラインたちだ。ヘリオスと僕の友情に嫉妬するなんて。しかたない。君たちも僕の友達に迎えてあげよう」
そう言ってカールは両手を高らかにあげていた。
「いらんわー」
「でていけー」
「あっちいけー」
「ヘリオス先生から離れてー」
罵声と共に、いつのまにかいろいろなものがカールめがけて投げられていた。
その時、乾いた笑顔のまま様子を見ていたアイツが、何か思いついたような感じになっていた。
時折アイツの方にも飛んでくるものをよけながら、何かを取り出している。
いったいなに?
私が凝視していると、アイツの手から何かが飛び出て様だった。
正確には、ポンっと乾いた音が教室に響いただけだけど、なんだか飛び出してきたような気がする。
そう、何かいる。
無性にそう感じていた。
だから、そのまま見続けた。
「この文字が見える人は、今すぐ両手を上げて」
アイツの頭の上で、その文字が燦然と輝いていた。
教室では相変わらず、喧騒が続いている。
もっとも後ろの席に座っているからよくわかる。
両手を上げているのは、私とルナだけだった。
精霊?
そう思ったけど、あの三人が反応していない。
一体なんだろう。
不思議な文字を眺めながらそう思う。
それに、一体いつまで両手を上げていればいいのよ。
「ごめん、もういいよ」
いい加減腕が疲れてきたころ、アイツのうれしそうな声が聞こえてきた。
隣のルナも手を下しているから、私とルナにだけ伝えたのね。
それもそうか……。
私たち以外はあげてなかったんだった。
そして、投げるものがなくなったのか、教室は落ち着きを取り戻してた。
「はっはっは。いい運動だったよ。フロイラインたち。また、僕と遊びたくなったら、今度はオーブまで来るといい。きっと君たちをいい仕事が待っているからね」
すべてをよけきったカールは、アイツの肩をたたくと、教室から出て行った。
「あのバカ、何しに来たんだろ」
私はまた声に出していた。
「彼の行動はこの教室という世界では受け入れられなかったようだね。それとユノ、一応カールは僕の講義に協力してくれたんだよ。忙しいのにね」
アイツはそのためにカールをよんでいたのか……。
教室は笑いに包まれていた。
世界に受け入れられるには、世界とその人の努力がいる。
アイツの言いたいことが、何となくわかってきた。
その後も世界の力やその関係についての話が続いていた。
精霊学講座の名にふさわしく、もちろん精霊の話もあった。
その中でも、特に時の精霊の話はおもしろかった。
精霊使いのごく一部、実力のある者しかその存在を知覚できない幻の精霊。
しかも、かなり気まぐれなので、自分を見せないこともするらしかった。
だから、時の精霊を見ることができた者は、本当に選ばれた者を意味するみたい。
そして、その存在を認識した者には、時の掲示という夢を見せるらしい。
その夢は、それを見る者が最も恐れることが多いという話だった。
それは予知夢であり、何も行動しなければ必ずそうなるらしかった。
いわゆる、不幸な未来を予知するということね。
しかし、時の精霊を知覚できる者は、同時にそれを回避する方法も啓示として受けることができるらしかった。
複数示されるその選択肢は、どれを取るかで、その未来が変わるというものだった。
でも、選んだ未来の結果は教えてくれない無責任な精霊。
でも、それもそうね。
不幸な未来を見せてくれる。
精霊は、ただそれだけで、そうならないために行動するのは自分自身。
選択肢があるだけ、親切だわ。
そのほかにも生命の精霊や、不死者の精霊など、一般的には知られていない存在についても説明してくれていた。
一体どれほどの精霊がいるのか、そしてアイツがどれだけ知っているのか不思議だった。
そうこうしているうちに、あっという間に講義終了の時間になっていた。
アイツは終わりを告げると、私とルナだけ残るように話して、全員に退出を指示していた。
珍しく、質問も受け付けていなかった。
全員が退出した後、私たちを手招きしていた。
「おめでとう、ふたりとも」
シルフィードとベリンダが、私とルナに握手を求めて前に出てきた。
私はシルフィード、そしてルナはベリンダとそれぞれ握手を交わす。
一体なんなのかしら……。
「これで君たちは立派な精霊魔術師として歩んでいけるよ」
うれしそうな笑顔でそう告げてきた。
まったく、その笑顔は反則なのよね……。
「え?」
笑顔がどうこう言っている場合じゃなかった。
今なんていったの?
「ヘリオス様。ありがとうございます。ルナはこれで指輪に頼らずにいられます」
ルナは感激のあまり泣いていた。
「どうゆうこと……?」
あまりの展開に、私ついていくことができなかった。
「ユノ。あの文字は小さな精霊たちを集めたものだよ。それが君には見えていた。そして、今人化していないシルフィードと握手を交わした。これは君が精霊を知覚できている証拠なんだ。だから、君は精霊魔術師の門をたたいたというわけだよ」
アイツの説明より、半歩おくれて私の理解は追いついていた。
「ええ!?」
実際、間の抜けた声を上げていたのは自覚している。
でも、そんなことはどうでもよかった。
喜びが体中を駆けまわっている。
「やったー!」
駆け回っている喜びは、いつしか私の体だけでは収まりきらなかったみたいで、私は思わずアイツに抱きついていた。
よろけながらも、私が倒れないように、そっと腕を回してくるアイツ。
その瞬間、なんだかとっても心地いい感覚にとらわれていた。
ああ、アイツの腕のなかって、こんなにも心地いいんだ……。
私はその感覚の虜になるところだったけど、いろんなところから邪魔されてしまっていた。
「あっ」
我に返った私が見たものは、私を羽交い絞めにしていると思われるルナの感覚と、アイツの前に現れた五人と一羽の精霊と一人の妖精だった。
「あ……。ごめんなさい」
思わず謝ってしまった。
それほど目の前の少女たちと鳥は私を威嚇していた。
「わかればいいです。ユノさんは王女なんですから、少しは自重してくださいね」
ルナが知ったような口をきいてきた。
「あら、子爵令嬢もですわよ」
思わず、挑戦的な視線をおくっていた。
しばらく睨み合った末、ルナと私はお互いに笑いあっていた。
不思議とルナとの間に、通じ合うものができていた。
そう、今はルナといがみ合っている場合じゃなかったわ。
アイツの前にいる彼女たちを越えなければならない。
ルナとお互いに握手して、精霊たちを見つめる。
彼女たちも、挑戦的に私たちを見つめていた。
「よし、お祝いにみんなでどこかに食事に行こう」
一触即発の雰囲気の中、アイツがそう提案してきた。
私達はお互いの顔を見て理解し合っていた。
そして、この場の休戦と新たな戦いに幕を開けることを了解し合う。
「じゃーんけん」
一斉に、そう叫び、戦いの火ぶたが切って落とされようとしたとき、扉が乱暴に開け放たれた。
「ちょっとまつ」
「ちょっとまつのー」
「まってください」
「まつのです」
シエルさんと、テリア、ナタリア、アリスが参戦してきた。
「……フレイ、ミミル。君たちはいいだろ。とりあえず、行こうか」
アイツはそう言ってフレイを左肩に、ミミルを頭の上に乗せて、教室を出て行いった。
「先にいっているから、あとで来てね」
小さく笑顔で私たちにそう告げて、教室の扉を閉めていた。
それが、開始の合図だった。
新たに参戦した幼女をくわえて、私たちの熾烈な争いが幕を開けた。
右側と左側。
いつ終わるともない争いは苛烈を極め、敗者は地面に伏していた。
「いよいよ、この四人ね」
「ええ」
「まけない」
「……」
私を含め、ルナ。シルフィード、ミヤの四人の争いになっていた。
見るからに魂の抜けたシエルさんは放置して、私は自分の勝利を注意深く計画する。
何が何でもつかんで見せるわ。
お互いが、お互いの顔をみて、互いの手を読み合うこの状態。
私も慎重に、これまでの戦いを振り返って予想する。
ルナとシルフィードは、これまでチョキを出すことが多かった。
特に、普段みるシルフィードはよくチョキのポーズをすることが多い。
ミヤは、正直何をだすのか、まったくわからない。
口数も少ないし、表情もあまり変化しない。
でも、右と左だから私とミヤでちょうどいいはず。
だからグー。
私は渾身の一撃をグーにかけた。
「じゃーんけん!」
勝負は一瞬でついていた。
おわった……。
負けたけど、なんだかすっきりした。
まあ、いい。
今日はしかたがない。
私はそう思うことにしていた。
最終的に、勝者はミヤ。
そして、シルフィードの順だった。
アイツが映像を送ってきたのは、まさにその時だった。
さあ、とにかく私が精霊魔術師になったお祝い。
あれ?
私のお祝いじゃないの?
なんだか、釈然としない思いの中、抜け殻のシエルさんをおこす。
ついでに、他の精霊と人をひきつれて、その場所に向かうことにした。
もう、いいかげんみんな気分を切り替えてよね。
扉を開けて、中に入ろうとしたとき、私は見てしまった。
そして全員がそれを目撃していた。
茶色の髪のワンピースの幼女。
最初の一回だけじゃんけんに参加していたあの子が、アイツの膝の上で、アイツに食べさせてもらっていた。
楽しそうな、アイツと幼女。
そしてミミルとフレイもまた、アイツから食べさせてもらっている。
「その手があったか……」
床を叩いて悔しがるシエルさんの声が、やけに耳について離れなかった。
ルナも、ユノも精霊魔法が使えるようになります。本当は主役の2人になる予定の食事会でしたが、ホタルにいいとこを取られた感じです。その後、シエルもその席を狙うようになりました。




