EX STAGE8:希望の光
人体を蝕むウイルス。
始まりの神を殺した、狂気の生物兵器。
俺はそのウイルス……【邪悪の因子】を体内で時間魔法と光の魔法で現在、予防的に封じ込めている。
幸いにも、発病に至る前の状態で留めているが、早く抗ウイルス剤を作らなければ。
でも、目の前にいる面白そうな実験材料の実験も止めたくない。
せっかく久々に楽しいのに……こんな形で終わらせるのは嫌だ。
「ノクヤ……実験を再開する」
そう言って俺は再び、嫉妬に対して魔法を行使しようとした。
だが、それはノクヤ……ヨルヤによって止められてしまった。
彼は必死になって、俺の身体を小さい腕で拘束する。
「やめろ、翔琉‼これ以上は無茶しちゃダメだ‼」
「離せ、ノクヤ‼」
「翔琉頼む‼」
俺はヨルヤを無理矢理引き剥がして、再び実験を開始しようとした。
けど、ヨルヤによって空間魔法を解除されてしまったのだ。
「おや、出口が……。それでは、翔琉殿……生きていれば、また会いましょう。それでは……」
そう言って嫉妬は、暴食を連れて彼方へと消えたのだった。
「ヨルヤ……なんで……なんでだよ」
俺は何故か知らないけど、怒りをヨルヤにぶつけた。
彼の胸ぐらを掴み、彼を睨み付ける。
けど、それは間違いだった。
ヨルヤは逆に俺の胸ぐらを掴み、そして勢い良く俺を殴った。
たまらず、俺は後ろに倒れてしまう。
子供姿とはいえ、悪魔にして神様。
手加減してくれなければ、生身の俺なんか消し飛んでいただろう。
それほどに、落ち着いて彼は殴ったのだ。
そして、彼は俺に馬乗りになって首もとを押さえつけた。
「翔琉……落ち着け……」
そう言われてようやく俺は、我に帰った。
「……あれ?ヨルヤ?」
頭では理解しているけど、発せられた言葉はまるで忘れていると言わんばかりの返答だった。
だけど、俺は……俺の心は自分に言った。
「愚か者め」と。
「ヨルヤ……ごめん……ごめんなさい……」
次に発せられた言葉は、謝罪だった。
そして、俺は悔しくなって泣いた。
ヨルヤに邪魔されたからではなく、俺は自分が情けなく……それでも、見捨てずに止めた友達に対しての反省の言葉だった。
ヨルヤも理解したようなのか、力任せに押さえつけていた力を緩み、馬乗りをやめて俺に手を差し伸べた。
「翔琉、ほら立てよ」
「う、うん……」
彼の手をとり、立ち上がった俺は、改めて自分の頬を叩いた。
何故こんなことをしたのか分からないけど、なんとなく心が自分に対して命じた命令のように思えた。
しっかりしろ……と、俺の中に眠る始まりの神がそう言っているのかもしれないな。
「さて、翔琉……落ち着いたか?」
ヨルヤは顔を覗き込むように見る。
俺はにこりと笑って頷き、「大丈夫」と言う。
さて、問題が山積みな状態だな。
成り代わり現象、悪の因子、エンド、邪悪……そしてウイルス【邪悪の因子】。
エンドに、邪悪……とは、何者なのかをまずは知らなくては。
「なあ、ノクヤ。教えてくれよ。悪の因子と、エンドと邪悪って何者なのかを……」
「……致し方ないな。あいつらがまさか目覚めているとは予想していなかった。そして、翔琉がファーストと同じ病に感染してしまうこと……そして、それがやつらが作ったものだったということ。それらを踏まえて、今一度、説明しなくてはいけない……ファーストが世界を作った始まりの物語について……」
そう言ってヨルヤは語り始めたのだった。
"昔々……俺とファーストが出会い、やがて世界ができる頃の時代。
ファーストはその卓越した超次元の力で世界を創造し始めた。
光と闇……いや、世界には光も闇もあの頃にはなかった。
無、という言葉でしか表現できない不思議な空間。
そこでファーストは、光と闇を使って、世界創造……翔琉の世界で言うビッグバンを発生させた。
その結果として、無は文字通り無くなり、世界は創造し始めた。
ファーストは、自身の分身体を作って、それぞれ担当を決めていた。
セカンド、サード……と彼女の分身体は増えていった。
ファーストは、分身体に役割を任せ、彼女自身はあるものを育てることで忙しかった。
それは、世界創造時に、世界を作った代償として誕生した世界を終らせる存在【エンド】。
彼は赤子の状態で無から産み落とされた。
そして、ファーストは彼を見て早々に自分が育てると言った。
そして、ファーストの元ですくすくとエンドは育っていく。
世界がある程度成長した頃……エンドもすっかり青年レベルまでその身体を成長させた。
当時はファーストにベッタリで、いつでもどこでも青年姿で甘えてデレていた。
ファーストも、ビックリするくらいの笑顔で一緒にじゃれていたのを覚えているよ。
だけど、そんな日々は終わりを告げた。
世界を創造した時にできた副産物は、エンドだけじゃなかった。
最近になって分かったんだが、世界創造には代償があるんだ。
それは創造者の心に宿る強力な力の対になる存在を産み出してしまうというもの。
ファーストの場合は、心に「善」と「始まりを司る者」としての力を宿していたから、始まりを司る者の対として、「終わりを司る者」エンド……そして、善の反対……邪「悪」が生まれてしまったんだ。
邪悪はファーストに見つかる前に即座に隠れ、力を蓄えていた。
そして、その時……世界が創造して、生命体が生まれ、世界に心などの概念が出来たときに活動を開始した。
それは、世界の人々に「悪」を植え付けると言う事だった。
始まりの神が産み出したこの世界は本来「善」しか存在しなかった。だけど、「悪」の介入により「善と悪」が存在する今の世界が出来上がった。
でも、ファーストはそれでもいいと思った。
自分の反対側がいるのは別に悪いことではない。
むしろ、自分がないものを補える世界なら素晴らしいとさえ、彼女は思っていた。
だが、それは邪悪によって、エンドを悪に染め上げられてしまうまでは……。
それは唐突だった。
突如、邪悪はファーストとエンドの前に現れて、エンドを拐っていった。
ファーストはすぐ追いかけて捕らえるが、時すでに遅し。
その時には、エンドと邪悪は融合していたんだ。
それも、どちらかが死ねば互いに死ぬ程までの融合を……。
心優しかったエンドには、悪が芽生えた。
それは、エンドの力……世界を終らせる力を発動させてしまうほどになってな。
ファーストは、作った世界……そして、生きとし生きる者たちを守るため彼らと戦った。
邪悪は、7体の自身の分身……【悪の因子】を生み出し対抗した。
けど、ファーストの次元の異なるレベルでの力と、自身たちの反対側の力を持つファーストを倒しきることが出来ずに、彼らは封印された。
封印した理由としては、邪悪を殺せばエンドも死んでしまうからだろう。
そして俺はのちにファーストと結婚して、二人の神をもうけた。
それが、レネンとアマギ。
そして、二人で神の力の化身体を作って、二人の友人にした。
それが、アマデウスだ。
俺たちは世界を見守り、時には干渉して、うまく世界をまわしていった。
だが、それは突然終わりを告げた。
俺が冥界を作って、悪魔たちを指導している時……。
ファーストは病に倒れた。
俺は急いで、ファーストの処置を行った。
だが、超次元レベルの力を持つファーストでさえも、抗えない病に対抗するすべは見つからなかった。
とりあえず、ファーストを時を遅らせる結晶体の中に封じ込めて、長い間彼女を救うべく研究した。
だが、それも叶わず……彼女は死んだ。
死んだ彼女の魂は、永らく転生できなかった。
それも、今から思えば邪悪たちの仕業だったのかもしれない。
そして、ようやく彼女は転生できた。
それが、翔琉……お前だ。
やつらが、翔琉を狙う理由……それは、お前が世界で唯一やつらが嫌う「反対側の存在」だからだ。
つまりは、やつらを倒すことのできる唯一の存在。
だから、やつらがお前を殺そうとした。
なぜなら、お前が始まりの神ファーストの生まれ変わりだと分かったからな……
世界で唯一邪悪たちを滅ぼせる女の生まれ変わり……それが、天野翔琉の存在なのだ"