EX STAGE45:そして彼女は堕ちていく
"そして、私は憤怒を倒した。
時空間魔法を使って、光属性を浴びせた上で光の空間に閉じ込めた。
再び時間は動き始める……。
「「憤怒!」」
辛うじて意識のある悪の因子たちは、光の空間に閉じ込められた憤怒を見て叫ぶ。
憤怒は光の空間から、這い出ようと檻に閉じ込められた獣のように暴れまわるが、決して光の空間は破れることはなかった。
「これで、おしまいよ……憤怒!!」
私は光の空間に、手をかざす。
その瞬間、光の空間はみるみると圧縮されていく。
「ぐぅぅぅぅ!!」
「時空間魔法:縮小する箱庭」
「がぁぁぁぁ!!」
憤怒は潰れる。
その肉体は、踏まれた蟻のように潰れる。
足、腕、下半身、上半身……そして、最後は頭よ。
「ふ、ふん……流石は、天野翔琉の仲間……」
最後の力を振り絞って、憤怒は抵抗する。
空間に無理矢理干渉して、潰された手足で無理矢理広げようとしている。
が、それは時間の問題だ。
あとは、ゆっくりと待つだけ。
「天野翔琉の仲間……とはよくいったものだ……」
「とはいっても、翔琉は異世界の偽りの繋がりのようなものだったけどね……でも、私にとっては大切な人。 偽りとはいえ、あの世界の私が想った心はちゃんと記憶として受け継いでいる」
「よくもまあ、あんな無能に恋したものだな……時の監視者!!」
ぴくっと、私はその言葉に反応してしまう。
無能?
翔琉が?
「翔琉は無能ではないわよ、木偶の坊。 恐らく、全世界で彼に敵う魔導士は存在しないわ。 全時空全時間軸においてね」
「だが、所詮は無能だ……あの馬鹿は、偽りの世界を形成し、逃げ込んだ愚かなる敗北者だ。 負け犬に恋するゲロ女程、惨めなものはないな……」
「……黙りなさい」
私は空間が圧縮される速度と速度をあげる。
潰された手足でどうにか引き留めている憤怒は次第に圧され始める。
徐々に徐々に……空間は確実に小さくなっていく。
「ふ、ふん……黙らないさ。 無様で憐れな負け犬屑なんか、この世界に必要なんてないのさ……始まりの神の生まれ変わりだかなんだか知らないけど……所詮は雑魚以下の雑魚な男なんだよ、あのグズ男はよぉ」
私はその言葉で怒りが込み上げた。
そして、始めて憤怒に対して怒りを露にした。
「黙りなさい!!憤怒!!お前は、さっさと消え失せろぉ!!」
「ふふっ……あはっ、あはっ、あははははは」
私の言葉に反応し、憤怒は笑う。
そして、不気味な笑みをこちらに見せ言う。
「ありがとう……ディル」
そう言って憤怒は光の空間に潰され消え失せたのだった。
だが、その瞬間……私の肉体になにかが侵入した。
「ぐ……ぐぅぅぅぅぅ」
強烈なまでな痺れを感じ、私はその場に倒れてしまう。
なんだこれは……。
なんなんだこれは……。
(あはっ、あははははは)
心の中に憤怒の声が木霊する。
まさか……まさか!!
(ありがとう、ディル。 そろそろ、前の肉体を捨てようと思っていてね……ちょうど強くてすごい魔導士が目の前に現れてくれてよかったよ……)
「貴様……わ、私に……何をした……」
(うふふ♪ 私は憤怒。 怒りに応じた能力を使うことのできる悪の因子。今回の能力は、私に対して本気で怒りの感情を抱いたものに対して、私の魂を移す能力……いわゆる、身体を乗っ取るって事かしらね♪)
「く、くそぉ……」
「ふぅ~ようやくかよ、憤怒」
「私様を待たせるとは、罪なやつよね……」
倒れている私を囲むように、悪の因子たちは集まっている。
その肉体はすでに修復されており、全員が服や傷さえもなくなっていた。
「お気になさらず、ディル殿。 我々は貴方が憤怒になるその時を心からお待ちして見ているだけです」
「俺ちんなら身も心も犯してから奪うのにな~。 そう、例えば一国の王女が国民を守るために身を差し出すとか、そういうシチュエーションが好きだな~」
「なにその状況。 あり得ないっての」
私が苦しんでる中、悪の因子たちは楽しそうに会話をしていた。
「くそっ……乗っ取られてたまるか……」
私は時空間魔法を発動しようとする……が、魔法が使えなくなっていた。
(無駄無駄~今、私は君の中にいるんだから、魔法を発動させようとしても君の魂自身に少し干渉すれば、ほら使えなくなってるでしょ?)
なんてことだ。
まさか、私が……私が……。
(安心しなよ、ディル……ちゃんと、君の身体は君のように振る舞って動かすからさ……だから、もうおやすみなさい……)
こうして私は憤怒によって肉体を奪われ、長い長い眠りにつくことになったのだ。
その間の記憶は、もちろんある。
だから、私の手で翔琉を消したことも……時空の狭間に悪の因子たちを手引きしたことも……その他にも多くの災厄を引き起こしたことを私は覚えている……。
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