EX STAGE39:未来への道標
「ふむ……どうやら、フィリは俺の召喚に成功したようだね」
翔琉はぐぐっと、腕を伸ばしたり屈伸をした。
「いやぁ、それにしても久方ぶりのシャバの空気は最高だぜ」
まるで何年も牢獄に入れられていたかのような台詞だな……おい。
「さてさて……ジンライたち。 よくぞ、フィリを探してくれたね。 ありがとう。 それから、フィリとウラヌスくんも。 よくぞ、生き延びててくれた。 これで、邪悪たちの裏をかくことが出来るよ」
翔琉は、少し悪い顔をしていた。
あれは、なにか企んでるときの翔琉の顔だ。
邪悪たち……なにされるんだろう。
「にしても、翔琉ちゃん……なんで、この場所だったの?このノース文明の遺跡だなんて」
「あー、リュウ。 それは簡単だよ。 きっと俺が居なくなったら邪悪たちは、君たち以外の生物に成り代わり、君たちをじわじわ追い詰めると思ったからね。 安息の地……として、ノース文明の遺跡ほど安全な場所は今のこの世界では無いだろう。 それほどまでに、ノース文明の魔術と言うものは強力でね」
と翔琉は雄弁のように語る。
「まあ、安心して。 ここは、邪悪たちの一味……例え今、憤怒と呼ばれているディルでさえ侵入できないところだから」
「そう……そこなのよ。 なぜディルは……邪悪たち側にいるのかしら?」
「あー、それは簡単だよ。 あれはディルであり、ディルじゃないものだから……だよ」
全く意味がわからなかった。
全員が頭の上にクエッションマークを浮かべてしまうほどに、意味が理解できなかった。
「翔琉お兄ちゃん……説明、はしょり過ぎて分からないよ」
「あーごめんごめん。 えっと、もう少し具体的かつ簡潔的に述べるとするならば、あのディルは悪の因子【憤怒】に肉体を共有させられている。言うならばそれは、乗っ取られたに近いことだろうね」
「「また、あいつ肉体奪われたのかよ」」
全員が声を揃えていった。
かつて、ディルは幾度か肉体を奪われている。
それも、ラスボス級のやつらばかりに。
もう少し対策しとけよな。
「悪の因子【憤怒】の力は、怒れる者の感情を喰らい、我が物とする魔法能力を持っている。 ディルはどうやら、憤怒と対峙したときに、なにかを言われたのかして怒らされて、その肉体を奪われたと推察される……。 しかし、憤怒は誤算だったろうね。 ディルはそうすることで、憤怒を自分に封じ込めたのだから」
「封じ込めた?」
「憤怒が肉体を奪うには、相手を怒らせる必要がある……だが、裏を返せばそれは自ら相手の身体に入り込まなければならないほどに貧弱であると言うことだ。 故に、内部に侵入した憤怒は恐らくディルの魂にガチガチに固定されていて、次の肉体に移動することができない。 その証拠に、みんなディルと対峙したとき、怒ったけど肉体を奪われたり感情を喰われたりしなかったでしょ?」
「「確かに……」」
そう言われてみれば、そうだ。
おいらたちは、憤怒として現れたディルを見て少なからず怒りを覚えた。
翔琉を痛め付けるディルを見て、少なくともヨルヤ=ノクターンはそうとうに怒り狂ったはずなのに、今こうして無事で在り続ける。
「さてさて、では本題。 なぜ、フィリに俺を召喚させたのか……そして、邪悪たちを倒すための策を君たちに授けるとしようかな」
「授けるって、翔琉は戦わないのか?」
「あははは♪無理無理(ヾノ・▽・`)」
流暢に顔文字使いやがって……さらっと翔琉は自分は戦闘には参加しないと言ったのだ。
「おっと。 みんな目が怖いぞ。 別段戦闘に参加しないと言う訳じゃないけど……まあ、見せた方が早いのか」
翔琉は自身に神魔法を発動させる。
と、同時に翔琉はある方向を指差す。
おいらたちはそちらを見ると、フィリが酷く疲れ始めているのが見えた。
慌ててウラヌスは、フィリの側に寄り添いタオルや水などを与えるが、一向に彼女は良くはならない。
「俺がこれ以上の力を出しちゃうと、召喚者であるフィリの負担になってしまう……故に、俺は戦闘には参加できないんだよね」
翔琉は神魔法を解く。
すると、フィリの体調も回復し、顔色も良くなった。
「もう……神魔法はもうやめてよ……あー、しんどい……」
「大丈夫か?主」
「ええ、大丈夫よ」
「はい、という訳で俺は戦闘には参加しないよ。 というか、出来ないんだよ」
「フィリに魔力消費零を付加させてもダメなのか?」
「ダメだよ、ジンライ。 今フィリが使っている召喚魔法ってのは通常の召喚魔法とはまた違う結び付きなんだ。 召喚者と召喚された者は、対等の力関係でなくてはならない。 故に過剰に力を発動させると、フィリはどんな魔法効果でさえも利かずに負荷となってしまう。 それは寿命を削るのと同じことなんだよ」
「なら、通常で召喚すればいいんじゃないのか?」
そうおいらは言うが、フィリは首を横に振る。
「それが無理なのよ。 ウラヌスたちは私と対等の力を持ち、尚且つ私に服従してくれてるから通常召喚で呼び出せ、自由に動き回る事が出来るけど、天野翔琉レベルとなると、通常の召喚魔法では呼び出せない……だからこそ、私は召喚魔法の奥義を使って今無理矢理召喚しているの。 分かるかしら? 奥義を使っても、フルパワーの天野翔琉は召喚できないの」
「昔の……中学生の頃の俺ならまだ楽だったろうけど、高校生になって更に知識と経験を身につけ、始まりの神の生まれ変わりと自認し、神外者と成り果てた人間をそう簡単に完全体で喚べないでしょうに」
翔琉はちょっと意地悪そうに述べた。
まあ、確かに……それは一理あるな。
「天野翔琉という神外者を完全体で喚ぶには、それこそ主が命を落としてしまうレベルまで魔力を引き上げなければならない……しかも、召喚できても数分と言うのが限界だろう。 それほどまでに、今の天野翔琉を召喚するには莫大な労力と魔力がかかるのだと、認識してくれ」
ウラヌスはそうおいらたちに言う。
召喚された者であるからか故に、彼は召喚と言うものについてはこの場においてフィリの次に詳しい。
否、長年に渡り、召喚されている者だからこそ知り得た経験からの推察なのだろう。
「さて、ではなぜそんなリスクを負ってまで、フィリにこの場所で召喚して貰ったのかと言うと……」
そういいかけた天野翔琉の手には、フィリが懐にしまっていた瓶があった。
翔琉はその瓶に向かって、聞いたことのないような言語で語りかける。
すると、瓶の黒く濁っていた邪ナモノはどんどん苦しそうに暴れ始め、やがて無色透明の液体へと姿を変えた。
その液体を翔琉はノースクリフにかける。
その瞬間、まばゆい光が石碑から発せられ、石碑に刻まれた文字は一斉に宙に舞い始める。
「な、なにが起こっているの……」
あのファーストでさえ、この現象には理解が出来なかった。
やがて文字は全てに統合され、再び石碑に戻っていく。
そして、その石碑に刻まれていた文字は、おいらたちが先程まで見ていたそれとは異なり、違う文章に変えられていた。
それも、おいらたちが理解できる原文に変化して。
「こ、これは……」
と、おいらたちは驚愕していた。
その石碑に書かれていたのは、邪悪の復活と天野翔琉が肉体を奪われること……そして、これからおいらたちが邪悪たちを倒す予言書だったからだ。




